『ベルセルク』海外ファン制作のアニメに白泉社が注意喚起 専門家「ファン活動越えた二次創作」

『ベルセルク』海外ファン制作のアニメに白泉社が注意喚起 専門家「ファン活動越えた二次創作」
『ベルセルク』海外ファン制作のアニメに白泉社が注意喚起 専門家「ファン活動越えた二次創作」

漫画『ベルセルク』42巻/画像はAmazonより

「ベルセルクのアニメーション製作が以下のXアカウント及びウェブサイトにて告知されていますが、著作権者である三浦建太郎(スタジオ我画)は許諾しておりません。また、使用されている映像も無許可のものです」

白泉社が9月11日、『ベルセルク』の公式Xで、SNS上などで情報が公開されている『ベルセルク』のアニメに対して、無許諾・無許可であることを、日英韓中仏の5つの言語でアナウンスした。

対象となったのは、Studio ECLYPSE(スタジオエクリプス)が制作する『BERSERK: The Black Swordsman』。いわゆるファンによる二次創作アニメだ。

ファン有志による二次創作アニメ自体は一種のファンカルチャーとして国内外問わず存在するが、本作はスタジオ名義で、しかも明確な営利行為も行っている。


以前から、海外を中心に一部のファンの間では話題を呼んでおり、今回の白泉社の発表には「公式じゃなかったのか」「公式からアナウンスがないと思ったらやっぱり……」など、様々な反応が寄せられている。

アニメジャーナリストの数土直志さんは「いわゆる二次創作ではあるものの、今回はファン活動のベースにある非営利なものではなかった。オフィシャルと混同されかねない内容や、公式のビジネスと競合する面も大きかったのではないか」と分析する。

三浦建太郎の傑作ダークファンタジー『ベルセルク』

漫画『ベルセルク』は、三浦建太郎さんによる傑作ダークファンタジー。白泉社のコミック誌『ヤングアニマル』で連載されている。

人智の及ばない存在や怪物に立ち向かう剣士・ガッツの戦いが、重厚な描写と壮大なストーリーで展開。

テレビアニメとして1997年から1998年、2016年から2017年の2回、そして劇場版アニメが3作、過去複数回にわたり制作・公開されてきた。

2021年5月に原作者・三浦建太郎さんが急逝。以降、三浦建太郎さんの盟友で『ホーリーランド』などで知られる漫画家・森恒二さんと、三浦建太郎さんに師事した弟子であるスタジオ我画のスタッフたちという、新たな体制で連載が継続中だ。

『ベルセルク』のファンアニメを制作したStudio ECLYPSEとは?

問題のファンメイドアニメ『BERSERK: The Black Swordsman』を制作するStudio ECLYPSEは、有志によるアニメ制作グループ。

同グループが登録しているクリエイター支援サービス内の記述によると、世界中から集まった100人以上のファンによって運営されているという(作品ごとにスタッフの数は変わる可能性もあるため詳細は不明)。

現在、スタジオの公式Xアカウントのフォロワー数は6.9万人、YouTubeのチャンネル登録者数は21.4万人。SNSは2021年5月〜6月に開設されており、YouTubeの情報では国はアメリカとなっている。

『進撃の巨人』ファンメイド作品のトレーラー

公式サイトを見ると、『ベルセルク』と『進撃の巨人』のファンメイドアニメ『Attack on Titan: Requiem』が制作中であることがわかる。前者は2025年夏、後者は2024年秋の公開を予定している。

加えて、前述したクリエイター支援サービスでは、月額課金制のメンバーシップサービスを展開。金額に応じて、制作の舞台裏やコンセプトアート、Discordコミュニティへの参加といったプランを提供している。

クリエイター支援サービスにおけるStudio ECLYPSEのページ/画像はPatreonより

『BERSERK: The Black Swordsman』“ファンメイド”である点明記も……

ファンメイドアニメ『BERSERK: The Black Swordsman』は、2023年10月にStudio ECLYPSEのXやYouTubeで制作が発表された。

その際公開されたティザー映像には、ファンによる二次創作を示す文言はなかった。ただし、YouTubeの概要欄には、以下の通りファンメイド企画である点が明記されている。

「This is a fan-made project with the utmost respect to the late Kentaro Miura, Studio Gaga and Hakusensha.(故・三浦建太郎氏、スタジオ・ガガ、白泉社に最大限のリスペクトを込めたファンメイド企画)」(YouTubeの概要欄より)

『ベルセルク』ファンメイド作品のティザー映像

その後、2024年5月には3分30秒の新たなトレーラー映像が公開。音楽や音声なども付いており、クオリティの高さからか現在までに400万回以上再生されている。

一方で、映像の冒頭には、「世界中のファンによって原作者への最大限の敬意を込めてつくられたパッションプロジェクトです。このファンアニメーションで使用されているすべてのキャラクターと正史の素材は、三浦建太郎氏、スタジオ我画、白泉社の所有物です。『ベルセルク』の公式リリースをサポートしてください」とのメッセージも表示されていた。

『ベルセルク』ファンメイド作品のトレーラー

Studio ECLYPSEのXアカウントのプロフィール文が変更

現在までに、二次創作アニメ『BERSERK: The Black Swordsman』を制作するStudio ECLYPSEから、白泉社の発表に対する明確な声明は確認できない。

しかし、スタジオのXアカウントのプロフィール文が、白泉社からの発表前後で変更されている。発表前にはなかった「fan」の文字が追加されていることがわかる。

Studio ECLYPSEのXのプロフィール。左が白泉社の発表前、右が発表後/画像は公式Xより

【白泉社の発表前】
Official account of the online animation group - Currently adapting: #AoTnoRequiem & #BERSERK: The Black Swordsman

【白泉社の発表後】
Account of the online fan animation group - Currently adapting: #AoTnoRequiem & The Black Swordsman

専門家「“日本のコンテンツなら許される”という風潮が少なからずある」

アニメジャーナリストとして国内外の事情に詳しい数土直志さんは、「欧米での『ベルセルク』の人気は非常に高く、『攻殻機動隊』や『カウボーイビバップ』に匹敵するレベル」とした上で、今回のファンメイド作品については「ファン活動の領域を越えた内容に問題があった」と指摘する。

「そもそも映像が、オフィシャルと混同されかねない。“二次創作である”という注意書きも、非常にわかりづらい記述のため、一見公式の許諾を受けていると捉えられてしまう懸念が、権利者側にあったのではないでしょうか」

加えて、「今回は“スタジオ”と名のつく集団が、お金を募ったり作品の購入を誘導したりと、明らかに営利目的で活動している」として、「ファン活動の前提にある非営利に該当しない」と説明した。

「もう一つ、今回の映像は原作漫画の物語をアニメ化しようとするものなので、オフィシャルと競合する点も問題です。『ベルセルク』は過去にアニメ化されており、今後もアニメ化されるかもしれない。そうすると、完全に競合してしまう」

最後に数土直志さんは、「海外では、ディズニーやマーベルでは許されないような活動でも、“日本のコンテンツなら許される”という風潮が少なからずある。今回、権利者側が『これは自分たちが望んだものではない』と、世界に対してきちんと発信したことは、正しいアクションだったと思います」とコメントした。



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