連載 | #3 高校生RAP選手権超特集!

T-Pablowインタビュー 川崎の元不良がHIP HOPに救われるまで

T-Pablowインタビュー 川崎の元不良がHIP HOPに救われるまで
T-Pablowインタビュー 川崎の元不良がHIP HOPに救われるまで

T-Pablowさん

神奈川県川崎市で生まれ育ち、10代前半で多くの不良たちを従えるトップに立った少年、T-Pablow。そんな彼が高校生ラッパーの日本一を決めるフリースタイルバトルの甲子園「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」に出場し、記念すべき第1回目の王者の座に。

端正なルックスから放たれる卓越したラップスキルに大きな注目が集まったが、その後第2回、第3回と同選手権を欠場。イベントなどの表舞台での活動もなく、その行方がわからぬまま、約1年もの時が過ぎていった。

しかし2013年9月、彼は再びステージに舞い戻ってきた。K-九からT-Pablowという名前に改め、第4回に出場し、圧倒的なオーラを纏いながら、次々と対戦相手を打ち破り、見事2度目の王者となった。

そして2014年。そんな彼がついに初となる自主制作コンピレーションアルバム『BAD HOP ERA』 を3月25日にリリース。

1年以上もの間HIP HOPと離れ、1人暗闇をもがきながら全国を飛び回った先に一体何が見えたのか。編集部では、HIP HOPに救われたと語る彼の真髄に迫った。HIP HOPを愛する男が、この先シーンにどのような革命を起こしてくれるのか、その可能性を感じ取っていただければ幸いだ。

T-Pablowがはじめて自分から音楽に触れたのはZeebraさん

──HIP HOPは昔から聞いていたんですか?

T-Pablow 川崎の土地柄なのか、元々小学校に入学して間もない頃から、先生たちが運動会の出し物でラップをしているような環境で育ったので、HIP HOP自体は昔から知っていました。同じ中学の先輩に、川崎を拠点に活動するSCARSのメンバーさんがいたりしました。でもちゃんと意識して聞くようになったのは、Zeebraさんがきっかけですね。

HIP HOPというより、僕がはじめて自分から音楽に触れたのがZeebraさんです。小学校5年生くらいの時に近所にできたTSUTAYAに「これが日本人のHIP HOPだ!」みたいな感じでZeebraさんのアルバムが置いてあったんですけど、正直最初は日本人には見えなかったんですよ(笑)。

当時のZeebraさんは髪型がコーンロウスタイルで、一緒にいたおふくろに「この人絶対日本人じゃないよね」って聞いたりして、おふくろに「そんなに気になるなら聞いてみなよ」って言われて、そこでZeebraさんの『The New Beginning』を借りました。

聞いているうちにこれはヤバイって思えて、中学生に入ってからは本格的に聴き込むようになりましたね。

川崎という狭いコミュニティでのしがらみ

──ニューヨークでの経験がきっかけでラップをはじめたとうかがっていますが、なぜニューヨークへ行かれたのでしょうか?

T-Pablow 中学に入って、かなりグレてしまって、僕はチームの頭を張るようになって、地元ではある程度の地位が確立されていました。地元では誰にも文句を言われない、仲間たちと居心地のいい生活を送っていました。

でもそんな中でいろいろなトラブルに巻き込まれるようになってしまって、僕らがやっていることは、地元という狭いコミュニティ、せいぜい半径500mくらいの中で見栄を張り合っているだけなんだって気づくようになって、精神的に悩んでいる時期があったんです。

僕、頼まれると引き受けちゃうところがあって、そういう地元とか先輩とかっていう“しがらみ”が増えて、色んなことをこなしているうちに、友だちとか後輩が精神的にやられてきちゃったんですよね。そういう状態になった時に初めて、「あ、俺らがやってることってキツいことなんだ」ってわかって、少しは自分のこともわかってあげなきゃと思いました。

でも、相変わらず意味のわからない争いは続いていて、僕はその争いの中心にいたので精神的にもかなりおかしくなりつつあった。ちょうどその時期に、アメリカのオハイオ州に住んでるおばさんが声をかけてくれて、1人でニューヨークへ行きました。

ニューヨークで見た“何もない場所から何かを生み出す”世界

T-Pablow そこでは、電車に乗れば誰かがラップしてたりダンスしてたり、外ではそこら辺に落ちてあるダンボールやバケツでドラムを叩いて音をつくってラップして、たくさんの人が集まってみんなで音楽を楽しんでいる世界が広がっていたんです。

僕は母子家庭で育って、生まれた時から家に借金もあって、周りの人が買ってもらえるものが買ってもらえなかった。基本的に与えられるということはなくて、自力で生み出すしかなかった。

だからニューヨークでの何もない場所から何かを生み出すという光景は、自分にも通じる部分もあったし、何よりもそれを楽しんでいることが、面白くてかっこよくて衝撃的でした。

──それからラップをはじめるようになったんですか?

T-Pablow ニューヨークの生活で衝撃を受けて、本気で音楽をやっていきたいと思うようになりました。日本に帰ってきてリリックを書くようになって、15歳の時には本格的にマイクを握っていて、中学卒業の進路相談の時には、先生に音楽一本で生きていく、と伝えて高校には進学しませんでした。

「第1回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」での優勝

──中学を卒業されて、16歳の時にK-九として「第1回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」へ出場されて、見事優勝されましたよね。

T-Pablow あの時はまだラップをはじめて3〜4ヶ月くらいでしたね。僕は最初はラップがすごく下手だと言われていたんですけど、高校に行ってなかったので、毎日毎日生活の一部のように常にフリースタイルやラップの練習をしていました。僕自身がなんでも出来上がった状態でしか他人に見せたくない性格というのもあって、相当練習を積みましたね。

──優勝したことの反響などはありましたか?

T-Pablow 実は優勝した翌日の早朝には沖縄に行ってしまってたので、特に反響は何も感じられませんでした。

地元という小さなコミュニティから抜け出したくなった

──それは同選手権第4回の出演時に語られていた、HIP HOPと距離を置いて全国を放浪されていた時期のことですね。なぜ沖縄に行かれたんですか?

T-Pablow さっき言ったように、僕はニューヨークでHIP HOPと出会ってから、本当に音楽一本でやっていく覚悟を決めていました。

だけど、それまでの間に僕は地元でグレてしまって、不真面目に生きてきました。それで第1回目の出場の時には、とても音楽で生きていくことなんてできないような、もう取り返しの付かない段階まできてしまっていたんです。

ストリートにも結局は上には上がいて、でも立場的にみんなが見ていたら、僕は頭だから引けない時がある。引けないところまでいっちゃったら、もしかしたらいつか誰かを殺さなきゃいけない時がくるかもしれない。そういうことを考えるとすごく恐ろしかった、もう終わりだと思いました。

でもそんな状況で、「第1回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」で色んなラッパーとバトルをして優勝したことで、もっと大きな場所で戦いたい、音楽だけで戦いたい、もっと大きな存在になりたいという気持ちが生まれた。だから余計に地元という小さなコミュニティから抜け出したくなって、早朝に沖縄に飛び立ちました。

──しがらみからの脱却や広い世界で音楽で戦っていくために、当時の環境をリセットする必要があったんですね。

T-Pablow だけど正直言うと当時は精神的にものすごくキツかったこともあって、「このままHIP HOPなんて一生やれない」みたいな、諦めの気持ちの方が大きかったですね。

そこにさらに、旅をしている間に同世代のラッパーの活躍を目にして、そのラッパーを心のどこかで批判してしまったり、すごく惨めな気持ちでした。すねちゃったんですよね。いつの間にかHIP HOP自体を恨むようになって、もう一生やるつもりはなかったくらい、本当にHIP HOPとも離れました。

空白の1年半について

──全国を旅している間はどこでどのように過ごされてたんですか?

T-Pablow 沖縄に飛び立ったものの、特に行くあてもなかったので、自分の持ち物を売ったり、友だちに力を借りたりして、なんとかお金をつくりながら、鹿児島、福岡、京都、大阪、千葉とかいろんな場所に行って、これまで自分がしてきたことへの後悔やこれからの不安に押しつぶされそうな日々が続きました。

でもそんな中で、海に潜ったり綺麗な景色を眺めたり、自然と触れ合う時間が長かったことで、そういう悩みが小さくなって、自分がダサく思えてきて、気持ちが楽になりつつありました。だんだんと、さっき言ったような、もっともっと広い世界でラップしたい、音楽で勝負したいという気持ちが膨れ上がってきたんです。

それで旅の最後に、衝撃を受けたあの頃の感覚を取り戻すためにニューヨークへ行きました。もしHIP HOPと出会ってなかったら、きっとこのまま行くあてもないまま放浪し続けて、まともな人生を送れることはなかったと思います。

──徐々にHIP HOPへの欲求のような気持ちを感じていたんですね。

T-Pablow もう1つ、自分にとって大きなことがあって。ニューヨークから帰ってきたタイミングで、僕のバックDJをやってくれるはずだった、これから一緒にやっていこうと言ってくれていた友だちがバイク事故で亡くなってしまったんです。

周りの人の死はこれまでに何度も経験していたんですが、こうして辛いことが重なったことで逆に何かが吹っ切れたんです。

この時は色んな思いが交差してよく覚えてないんですけど、自分も明日死んでしまうかもしれないし、本当にやりたいことをやらないといけないみたいな、何かを気づかせてくれて。それで、もう一度HIP HOPをやろう、HIP HOPで成功してやる、と強く決意するきっかけになりました。

復活を遂げた「第4回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」

──その後、帰ってきた初代王者として、「第4回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」にT-Pablowという現在のMCネームで出場されて、見事に2度目の王者の座を勝ち取りましたよね。明らかに他の出場者とは一線を画する雰囲気がとても印象的でした。その時のことは覚えていますか?

T-Pablow あの時はもちろんプレッシャーもありましたけど、それよりも一度HIP HOPから離れた男がここで優勝できなかったら俺、超小物だなと思って。もう一生チャンスは巡ってこない。絶対に優勝する以外道は残されていないという気持ちで挑みました。新たなスタートとして改名したT-Pablowという名前で、絶対に前に踏み出す必要があったんです。

──2度目の優勝を果たしていかがでしたか?

T-Pablow 多くの方に自分の存在が認識されたことがすごく嬉しかったですね。周りの方に求められる機会が増えたり、期待をしていただいたり、逆にすごく批判されたりすることも多くなって、今まで評価も批判もされたことがなかったので、それも嬉しかったし、スタートラインに立てたということが実感できました。

完全自主制作コンピレーションアルバム『BAD HOP ERA』

自身が主導とする10代の若手8人で結成されたBad Hopによるコンピレーションアルバム『BAD HOP ERA』

──2度も優勝者になり、2014年はさらに「勝負の年」として、これまで以上に精力的に活動されるとうかがいました。その手始めとして、3月25日(火)に自主制作でコンピレーションアルバムがリリースされますね。

T-Pablow 2013年はあえてイベントも極力出演しなかったし、音源も発表しませんでした。その間は毎日毎日ひたすらリリックを書き続けて、ストイックに楽曲制作に励んできました。

このコンピレーションアルバムは、自分の価値をもっともっと高めるためにつくりました。アルバムリリース直後には「高校生RAP選手権」も控えているし、2014年一発目の大事なポイントですね。
MADE IN KAWASAKI 工業地帯が生んだヒップホップクルー BAD HOP
こちらの動画では、T-Pablowさん率いるヒップホップクルー・BAD HOPの地元川崎区池上町での日々の暮らしや楽曲制作の模様をみることができます。

──今回のコンピレーションアルバムはどんな内容になっているんですか?

T-Pablow いろんなテーマでリリックを書いていて、地元の同世代のラッパーに参加してもらっている楽曲がほとんどです。やっぱり「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」で僕のことを知ってくれた人が多いと思うので、楽曲を通して僕の生い立ちやストーリーを感じてもらえれば嬉しいです。

地元を離れた時のことを振り返っている楽曲も収録されていて、このアルバムのリリース後には、もっと面白い展開を考えているので、それも楽しみにしておいてほしいですね。

GOMESSくんとも一緒にやりたかった

T-Pablow 今回のコンピレーションアルバムでは実現できなかったんですが、本当はGOMESSくんとも一緒にやりたかったんです。今のHIP HOPシーンでは、ラップが上手い人よりもかっこいい人の方が売れている気がして、正直上手い人はどんどん若い世代から生まれてくるから、替えがきいてしまう。

だけどGOMESSくんは完全に後者で、GOMESSくんがしていることやその存在はGOMESSくんにしかできないしありえない。僕もGOMESSくんのような、唯一の存在になりたいと思ってます。

GOMESSくんがHIP HOPに出会ったことで勇気をもらって活動していると聞いて、僕もHIP HOPに救われたので、そういう面でもすごく共感できる部分がありますね。

変わるきっかけをつくってくれたのは間違いなくHIP HOP

──では、今注目を集めているT-Pablowさんは、日本のHIP HOPシーンをどう見ていますか?

T-Pablow 今のシーンというかHIP HOPには、ポップ寄りな人たちが増えたり、本当に色々な人が活躍していて、たしかに時々好きじゃない人もいたりするけど、僕はそういう人たちとはそもそも戦っているフィールドが違う。だから全然否定的じゃないし、むしろすごく面白いと思います。

否定する人たちもいるけど、それよりも一人でも多くの人に自分の音楽を知ってもらう努力をしたいし、気に喰わないんだったら自分が目立てばいいと思ってます。あとは、影響力があって若手を引き上げてくれるヒップホップレーベルが存在するので、そんなヤバいレーベルに自分も注目してもらえるように頑張りたいですね。

──「高校生RAP選手権」で「革命」というフレーズが印象的でしたが、そういった思いを表しているのでしょうか?

T-Pablow 人がビックリするようなことをやり続けたいっていう気持ちがあるんです。ずっと日本のHIP HOPシーンのことを考えてくれている方々がいるおかげで、今のシーンがあって、もっと言えばそれがあったから「高校生RAP選手権」という企画も生まれて、今の僕がいる。僕が変わるきっかけをつくってくれたのは間違いなくHIP HOPでした。

自分の中で、それは「革命」だったんです。だからそういう先人の思いを僕よりも若い世代に伝えたり、シーンの力になれるように頑張りたいし、自分も誰かの中に革命を起こせる、人を変えてしまえるような音楽を届けたいですね。

HIP HOPでヤバいところまで行ける

──では最後に、今後の意気込みをお聞かせください。

T-Pablow もっと大きくなるために、まずは自分が売れないといけない。イベントとかで結果を残して有名になって、音源もどんどん発表して、僕でも音楽で食べていける、HIP HOPでヤバいところまで行けるんだぞ、ということを証明して、若い世代に夢を見させたい。

2014年は特に気合いを入れて活動していきます。後々は「第1回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」に僕と一緒に出場していた双子の弟とユニットを組んで活動したいと思っています。

その第一歩として2014年はコンピレーションアルバムをリリースして、「第5回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」で僕か双子の弟が絶対に優勝する。チャンスは1回しかないし、1つずつ確実につかんで階段をのぼっていきます。

現代を代表するラッパーたちの像

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高校生RAP選手権超特集!

「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」で活躍したT-Pablow、GOMESS、HIYADAM、かしわ、EINSHTEINら若きラッパーたちのロングインタビューや大会のレポート、MC☆ニガリなど大会優勝直後の心境などを特集。 また「BAZOOKA!!! 第9回高校生RAP選手権」も取材!

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T-Pablow

ラッパー

神奈川県川崎市生まれ。現在話題沸騰中のMCバトルの甲子園「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」初代王者に輝いたはじまりの男。優勝後、約1年もの間、HIP HOPと離れ全国を放浪するが、あることをきっかけに再びシーンに舞い戻ってきた。翌年2013年夏、同大会第4回目にて大会史上初となる2度目の優勝を収め、さらなる注目を浴びる。2014年3月25日には、自身が主導とする10代の若手8人で結成されたグループ・Bad Hopによるコンピレーションアルバム『BAD HOP ERA』を完全自主制作でリリース。今後の活動に期待が集まる若きラッパー。
T-Pablow a.k.a K-九(@TPablow)

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