【短編】『ハンターハンター』 クロロvsヒソカがもしMCバトルだったら

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先攻 クロロ=ルシルフルvs後攻 ヒソカ=モロウ

先攻後攻を決める時、ジャンケンを用いるのが一般的だが、クロロはここでコイントスを提案した。旅団内での争いごとをおさめるための例のコインである。

「これの方がオレたちに合ってるだろ?」

「ボクも“ジャンケン”と聞くとついつい“グー”を出したくなっちゃうタチだから助かるよ♡」

コイントスにより先攻がクロロ、後攻がヒソカに決定した。

この時、ヒソカが薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)でコインを両面とも裏に改ざんしていたことをクロロは知らない。

ヒソカは、コイントスを提案されることをあらかじめ推測していたわけではない。純粋に、あのコインが視界に入った瞬間に“即興”でこのイカサマを思いついたのである。

そして、試合がはじまると同時に、クロロが自分用に策を練って臨んでいることを察知し、自分に限定した勝利への徹底振りに心の底から興奮した。

まるで、オーダーメイドの指輪をプレゼントされたかのような気分にヒソカは昂り、こういう時こそ自分の閃きが八行詩に命を与えるということを再確認した。

先攻のクロロの八行詩が終わる頃には、会場が大歓声の渦となっていた。ヒソカはなんの予習も復習もなく、自然体の脳味噌をフル稼働させていた。

有能な数学者は公式を暗記したりしない。自分で公式を生むことが出来るからね♤

ヒソカは自らの“盾を持たずに矛に飛び込む姿勢”を慈愛していた。また同時に、この赤裸々にも近い自身のスタイルを一片もブレることなくやり通した上でクロロに勝つことが、射精を超えた快感であると理解していた。

奇術師でありながらタネは即席で用意する。だから、この試合でも自身の発想力を超えたショーとして表現できると、ヒソカは詩を綴りながらギアを上げていく。

しかし、そんなヒソカを熟知してか、クロロは「その全てが想定通り」といった態度で自分がこの戦いに用意した“素材”の説明をはじめる。

「ここで説明をする必要があるのか?」という疑問は勿論あっただろう。だが、思考をそちらに巡らせては説明自体を聞くことができなくなってしまう。

ヒソカはクロロの言葉をしっかりと聞くことに徹する。そして、その1回の説明がクロロの用意した複雑なカラクリであることにヒソカは気付けずにいるのである。

だが、その説明が終わると同時に、容赦なくノータイムでクロロの詩が綴られる。

ヒソカはすぐさまそれに対する解答詩を脳内に描き、もらった攻撃を全てチャラにできる揚げ足の取り方を試合の終わりまでに発見できるよう全神経を集中させた。

つまり、2本目の八行詩はほとんど捨てたと言ってもいい状況であると同時に、後攻の利を活かし3本目ではなく、最後の4本目に全てをひっくり返す術を持ってくるプランを立てたのである。

勝ちにこだわるか、ベストバウトに価値を置くのか

クロロ=ルシルフルはいわゆるベストバウトにまるで興味がなく、普通なら打撃を緩めるであろう溜めの場面でも容赦なく綴り続けた。

想定していたディフェンス用の一行詩(パンチライン)を1つもヒソカは口にしなかったが、同時にクロロ自身も用意していた詩をほとんど使わずに済むくらいに圧倒的な試合が進行していた。

紙面に書いた散文詩よりも、シミュレーションで実際に口にした詩吟の方が実戦対策として効能が強かったらしい。

このままでも勝ち戦になるのが目に見えていたのだが、クロロはその手をまるで緩めずに予想外の詩を綴り出す。

“対ヒソカ用”に書き出した散文詩を全て詠み上げ、さらに追い打ちをかけるように、ヒソカが綴りそうな詩を先回りして詠んでしまったのである。

これにより、ヒソカが次のターンで紡ぐはずだった詩もことごとく使えなくなり、即席で導き出した勝利へのルートを次から次へと封鎖される。

さらに、自身のクルーである幻影旅団のメンバーの声真似を披露する。実は、このパフォーマンスで不自然なく観客を沸かせるために、わざと説明の多い詩吟を続けていたのである。

シャルナークとコルトピの真似を随所に落とし、ヒソカは完全になす術のない状況へと追い込まれる。

もはや余裕を見せるというより、ヒソカが勝てる可能性を限りなく0%に近づけていた。

その証拠に、3本目でヒソカが解答した言の葉は、まるでクロロと同じ顔をしただけの人形を殴っているかのように手応えを感じさせなかった。

しかし、ヒソカならまだ何か奇策を持っているかもしれない。クロロは油断も慢心も見せることなく最後の一手においても、残酷なまでに手を緩めずに自身の詩を締める。

クロロは4本目の八行詩を詠み上げると、パフォーマンスと称して大歓声の沸き起こる観客席へ豪快にダイブをする。

敵を目の前から失ったヒソカは自らの死を覚悟し、戦闘演舞曲が鳴り止むまでのあいだ、己の敗北と向き合っていた。観客判定を請うまでもなく、ヒソカは負けを認めていた。

4本目にすべてをひっくり返す逆転劇を演出するというプランも、詩篇のように白紙に戻ってしまったのだ。

そして、PAブースの後ろを通って控え室に帰ろうとすると、そこには原稿を手に持ちながらマイクを握ったシャルナークとコルトピの姿があった

そこに居合わせたマチが消沈しているヒソカに話しかける。

ま、これに懲りたら今度からは、戦う相手と場所をちゃんと選ぶことだね
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面白すぎて自分の中のオーディエンスが沸きに沸きまくってる

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