旧態依然の体制が崩壊する現代で「モノノ怪」が意味するもの
──実際、前作同様に本作も時代性の高さを感じました。劇中では、徐々に旧態依然とした大奥の変化が描かれています。これは近年、芸能界という“因習村”の問題点が露わになり、旧体制が崩壊していく姿にも重なります。
鈴木清崇 本当に中村さんの時代の先を見る力は凄いんですよね。もう超能力者レベルなんじゃないでしょうか。
アニメーションは長い時間をかけてつくるものなので、必然的に話を考えた時点から世に出すまで時間差が生まれるんです。なのに、現実よりちょっと先の未来を描けてしまう。
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』でも現実世界とのリンクを感じる点が多数ある。
鈴木清崇 『C(シー)』(※)の時も金融危機による国の存亡を描いて、その後実際にギリシャで経済危機が起きていましたから。
いつもならそのように時代の先読みになるところを、今回は劇場版三部作という少し重ための行程で動いた結果、時代とピッタリ合ってしまったという感じなのかなと思っています。
※『C』:2011年4月から6月にかけてフジテレビ「ノイタミナ」枠などで放送された中村健治監督によるアニメ。近未来の日本を舞台に金融問題などを描いた。
中村健治 それでも企画の段階では、「劇場版モノノ怪」のテーマも早すぎるって言われてたんですよ(笑)。だから、ちょっと遠慮した結果「合成の誤謬」をテーマにしているんです。
『C』の時もすごい取材をして、自分なりに感じた危機感をみんなに伝えないといけないと思って作品に描いたんですが、「こんなことになるわけないじゃん」って冷たい反応を受けました。だからこそ未来を描きすぎるのも良くないって思ったんです。
でも今は昔と違って、ユーザーの方々もこちらの思いを敏感にキャッチしてくれるような時代になりました。それに、一つの大きな意見にまとまるのではなく、みんなが様々な考え方で作品を捉えてくれるようになりました。こちらとしてもやりがいを感じられるいい時代だなと思います。
大奥を取り巻く人々。フキと三郎丸の父親・良路(CV.チョーさん)とフキの弟・ 三郎丸(CV.梶裕貴さん)にも、それぞれの立場がある。
自分自身を許すことの難しさ 「モノノ怪」が表現する因果応報と救済
──『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』では、悪事に直接的に加担したキャラクターには報いを、辛い目に遭った人物には救いを、それぞれ明確に用意しているのも特徴だと感じました。因果応報と救済、それらを一層明確に描こうと意識されたのでしょうか?
鈴木清崇 最初から明確に描こうとしていたというよりは、つくっていく中で明確になっていったのが感覚としては近いです。脚本の段階から描かれていた展開ではありますが、実際にフィルムにしていく段階での取捨選択の中で、より浮かび上がってきたのかなとも思います。
加えて、僕自身の趣味嗜好も反映された結果として、そうなっていった部分もあるかもしれません。
──救済という意味では、「自分で自分を許せるのか」という点も一つの命題だったように思えます。
中村健治 そこは明確に意識していました。僕が最初にシナリオを読んで一番悲しかったのは、スズさんが自分自身を許せなかったことなんです。どういう事情があったとしても、スズさんには生きていてほしかった。
現代にも、様々な事情があってやむを得ず悲しい選択をする人はいます。それを非難する人もいるでしょうが、僕は辛くてもその人が生きていてくれたらいいなと思うんです。
その人が自分を許せなくて自分自身を破壊してしまったら、その人と出会えたかもしれない将来もなくなってしまいますから。
「自分で自分を許せるのか」を明確に意識したという中村健治総監督
中村健治 実際にそうしたトラウマを抱えた人たちとも出会って話を聞いてきましたが、もちろんひとりひとり事情が違う中で、それでも生きていてくれて本当に良かったと思えたんです。だからこそスズさんにも生きていてほしかった。
綺麗な水の中でなくても力強く生きる魚もいますし、そんな生き方も素敵じゃないですか。
──総監督としては、スズが肯定または救済されてほしかった?
中村健治 自分を許せなかったスズさんを否定するわけじゃないですが、それでも生きていてほしいという思いを込めて、スズとリンクさせつつも生きていく選択をしたフキを描きました。
スズとフキの2人が合わさることで、「自分で自分を許せるのか」というテーマを描くことができたと思います。
フキがどう立ち回り、何をどう判断するのかも注目だ。
中村健治 フキの対として描かれるボタンはすごくピュアで穢れがない人ですが、そんな異なる2人が今作の最後ではちょっと寄り添い合うことができたのかもしれない。出自や立場も違うけど、お互いを想い合う2人を描けたのは、希望だと思っています。
©︎ツインエンジン

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作品情報
劇場版モノノ怪 第二章 火鼠
- 公開日
- 3月14日(金)全国ロードショー
■キャスト
薬売り:神谷浩史
時田フキ:日笠陽子/大友ボタン:戸松遥
時田三郎丸:梶裕貴/坂下:細見大輔/アサ:黒沢ともよ/サヨ:ゆかな
マツ:青木瑠璃子/キヨ:芹澤優/タケ:茜屋日海夏/スマ:森なな子
天子様:入野自由/溝呂木北斗:津田健次郎/幸子:種﨑敦美
時田良路:チョー/老中大友:堀内賢雄/勝沼:楠見尚己/藤巻:堀川りょう/水光院:榊󠄀原良子
■主題歌
「花無双」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■エンディングテーマ
「渇望」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■スタッフ
総監督:中村健治/監督:鈴木清崇/脚本:新八角
キャラクターデザイン:永田狐子/アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一/美術監督:倉本章 斎藤陽子/美術監修:倉橋隆
色彩設計:辻󠄀田邦夫/ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D 監督:白井賢一/編集:西山茂/音響監督:長崎行男/音楽:岩崎琢
プロデューサー:佐藤公章 須藤雄樹/企画プロデュース:山本幸治
配給:ツインエンジン ギグリーボックス/制作:くるせる EOTA
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:12125)
絢爛豪華でため息をつく位美しい背景の数々を堪能しトリップできました。薬売りさんの瞳、手、声が妖艶で、見とれました。スズには泣けたんですが、もう少し子供を楽しみに待ち望むシーン、例えば懐妊わかり喜ぶ姿とか、安産のお守りいつも大事にしてるシーンなどあれば、もっと感情移入できたのに…。又岩崎琢さんの第一章の曲凄く良かったので新曲あるかと思ってたら第一章と同じ曲だったのが、ちょっと残念でした。最後の戦闘シーンは空間表現素晴らしく、これが第3章でもいい位盛り上がりました✨✨3回観に行き、また友人と行きます♪