「ポップスとは対話である」 ネット発の新鋭 harhaが導く音楽論

「ポップスとは主張ではなく対話である」

──本当に運命的に結成されたんですね。他媒体でのインタビューなどを読むと、harhaは“ポップス”であることに重きを置いているように見えます。その理由は何ですか?

ハルハ 実はharhaをはじめる前、僕は個人でずっとラップをしていたんです。でも当時、ヒップホップで売れていけるイメージが全く湧かなかったんです。

harhaの「ハイホーホー」という楽曲に<喜と怒と哀と楽の隙間に埋まるものって何か探してるの>という歌詞があるんですが、僕が音楽活動を通してやりたいことはまさにそれで。喜びと悲しみの間にあるグラデーションの微妙な感情を掬い上げたいんですよね。

そうした僕がやりたいことや目標に真っ直ぐ進むには、“ポップス”に向き合うことが必要なんじゃないか、と考えるようになりました。

harha「ハイホーホー」

──一口に“ポップス”と言っても様々かと思いますが、harhaとしてはどのように定義しているのでしょうか?

ハルハ 最初は、耳馴染みの良いメロディとか聴きやすい展開とかを意識していたんですけど、それは「音楽的な側面からしか見てない」「この解釈はカルチャー的じゃない」って気づいたんですよね。

たとえばヒップホップなら、 ラップ以外にもDJ・ブレイクダンス・グラフィティという四大要素があって、音楽だけじゃない世界がある。アメリカの黒人の労働階級から生まれたという背景があって、レベル・ミュージック(レベル=反逆・抵抗)という側面もある。

改めてカルチャーとしての“ポップス”とは何かを考えたところ、ヒップホップとは真逆の位置にいるんじゃないか、と思ったんです。“ポップス”で大事なことは「主張することではなく、対話すること」かもしれないって。

ハルハ どうしてもアーティストとリスナーは一方的な関係になりがちだと思うんですが、僕が思い描く“ポップス”はそうじゃないんです。曲を通して「僕はこう思ってるけど、君はどう思う?」みたいな問いかけをしたい

harhaのリスナーたちには、曲を聴いていろんなことを考えたり、感じたりしてもらいたい。とにかく、ただ同じ目線で曲を届けて聴いてもらうって関係が、自分にとって心地いいんです。

──なるほど。harhaはリスナーとのコミュニケーションを大事にしているんですね。

ハルハ そうですね。harhaに関するYouTubeのコメントやSNSの投稿も、必ずすべて目を通すようにしています。そこを怠ってしまうと、対話にはなっていないような気がして。

そういう意味だと、ヨナベさんには近所のお姉ちゃんみたいな存在になってほしいんです。

harha「アンデルセン」(blackboard version)

ハルハ たまにすれ違って挨拶するとか、タイミングが合えば帰り道に近況報告をするとか、そういう関係ってすごくいい。

必要以上に入り込まないけど、言葉は交わせる。この距離感こそが、僕にとってのポップスだと思っています。

ヨナベ 私は、まだ音楽のジャンルとかも勉強中なんですけど、ハルハくんがブレないものを持っているので、それをしっかり表現できるようになりたいと思っています。ちゃんと近所のお姉ちゃんになれますように……!

ハルハとヨナベ、2人のすれ違いが生み出す余白

──確かに、歌詞の中でもその独特の距離感は表現されているように思います。何か意識されていることなどはあるのでしょうか?

ハルハ 一つ伝えたいメッセージがあったとして、それを直接的に描くのではなく、輪郭だけを描いて中身はボカす、みたいな感覚で歌詞を書くことが多いです。

たとえば「悲しい」とストレートに書くんじゃなく、なんで悲しいのかとか、それはいつのことなのかとか、より具体的な要素を肉付けしてみる。その上で肉付けした「12時にフラれた」だけを残すと、逆に「清々しいのかもしれない」とリスナーが想像できる余白が生まれるんじゃないかな、と思ったり。


一番伝えたいことはありつつも、そこに至るまでの過程はリスナーに委ねてみることを意識しています。

ハルハさんが、harhaとしての活動する前から使用しているというノートPC。「普段は、別のキーボードとモニターをつけて音楽制作しています。すごい綺麗な青色なのもお気に入りです」

──そうした楽曲についてのイメージは、ヨナベさんとも共有されているのでしょうか?

ハルハ 「語尾のところちょっとエモい感じで」とか、「ここは可愛い感じで」とか、レコーディングのときに細かく言いはしますね。

楽曲についてのイメージを伝えると、ヨナベさんはわかってるんだかわかってないんだか微妙な反応をするんです(笑)。でも、実際に歌ってもらうとバッチリなのですごいんですよ。

ヨナベ (笑)。

──逆に、ヨナベさんはレコーディングの際、意識されていることなどありますか?

ヨナベさんが影響を受けたという小説『星の王子さま』と絵本『三びきのやぎのがらがらどん』。「“さばくがうつくしいのは、どこかに井戸をかくしてるから……”って台詞があるんですけど、『この世界が砂漠だとしたら、私の井戸は何になるのかな』って考えるようになって。今は私の井戸は音楽なのかもしれないと、手探りで探しているところです」

ヨナベ 歌詞の流れとか、込められた感情とかを拾いながら歌うようにしています。

実はそれまでヨルシカさんが好きと言いつつ、ボーカルのsuisさんをトレースしながら歌っていたところが大きかったので、歌詞の背景とか意味とかをあまり考えていませんでした。

なので、それを考えるというのがすごい難しくて……。今は、レコーディングの前に歌詞を朗読して、ボイストレーニングの先生と「ここはこういう感情だよね」ってひとつひとつ相談するようにしています。

──ハルハさんの書いた歌詞を解釈していくなかで、印象的だった曲はありますか?

ヨナベ 「恋はずみ」は本当にハルハくんとの価値観の違いをものすごく感じましたね(笑)

harha「恋はずみ」

ヨナベ 私は恋愛というものをあまり重要視せずに生きてきてしまったんですけど、ハルハくんの話を聞いて、すごく奥深いものなんだなって知ったんです。

私が知らない感情がたくさんあったので、朗読もいっぱいしましたね。先生にもよく「そこは違うんじゃない?」とか「本当に恋してるんだよね?」とか言われて(笑)。本当に大変でした。

ハルハ 「恋ってドキドキするじゃん?」って言っても、ヨナベさんは「そうなの?」って返すんですよ(笑)。

特にヨナベさんに共感されなかったという「恋はずみ」2番のラップ風のパート。「恋愛すると<もう気分次第こうしちゃいられなくない>ってなるんだよって言っても、ポカーンとしていました(笑)」

ハルハ でも逆に、ヨナベさんの中にしっかり恋の定義があっても困ったと思うんですよね。フラットに歌えなくて、歌詞に寄り添っていけないじゃないですか。最初はわからないと言いつつも、どの感情もしっかり捉えようとしてくれるのですごくありがたいです。

「恋はずみ」も、ヨナベさんの明るくも切なくも感じられる歌声で歌ってもらったからこそ、よりリスナーに入り込んでもらえる余白が広がったなって思います。

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イベント情報

harha 1st ONE-MAN LIVE「ミライサイライ」

開催日時
2025年3月30日(日)
開場
18:30 / 開演 19:00
会場
【東京】恵比寿 CreAto
主催
SDR
制作
interblend inc.

関連キーフレーズ

ハルハ

音楽クリエイター・ラッパー

Rap / 作詞 / 作曲 / 編曲
ヒップホップ&MCバトルをバックグラウンドに、感情的で繊細な音楽を特徴とする。
harha結成後、他アーティストへの楽曲提供など音楽プロデューサーとしても活動

ヨナベ

ボーカル

ボーカル
唯一無二の透明感あふれる歌声が魅力。ヨナベのYouTube投稿に出会ったハルハがその歌声に惚れ込んだことからユニット・harhaが生まれた。

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