モブの何気ない会話にも注目すべき理由
加えて触れておきたいのが、主役だけでなく、モブを含めて全員にリアリティがあるということです。
例えば、2巻収録の7話「蓮の花 1」に登場する男女のモブキャラクター。前話で描かれた、雪人のライブデビュー戦に居合わせた2人です。
謎だらけの雪人のことがとにかく気になる女キャラと、そんな彼女の心情を察せずに家に行きたい男キャラの下心との対比を、簡潔なやり取りで表現しているシーンがあります。こういう何気ないモブキャラの会話にも逐一リアリティがあるのが、この漫画の凄いところです。
ページの隅から隅まで『スーパースターを唄って。』という物語が張り巡らされている。終始上滑りのない堅実なつくり込みに惚れ惚れしてしまいます。
登場人物の可愛らしさを演出する目の描き方
あともう一点言及しなければならないのが絵です。
というか多分、わざわざ言及までもなく、初めて本作を見た方は、フルアナログで描き込まれた、こちらに語りかけてくるような情感ある絵に圧倒されると思います。
絵に関しては上記のレビューでよく触れていることもあるので、ここでは簡単に、デフォルメのバランスについて。
先にも書いているように、本作は貧困や反社とセンシティブな話題も多く、そして暴力描写が克明です。雪人の顔にはだいたい生傷があります。暴力描写は絵柄によってはかなり痛々しく、それが読む際のハードルにもなり得ますが、本作はここのケアがしっかりしています。
どの登場人物も程よくデフォルメが効いていて、特に目の描き方から遊び心と可愛らしさを感じます。象徴的なのが、雪人たちが世話になるクラブの店長・孫慎太郎ですね。明らかに『ザ・シンプソンズ』味を感じる。
一方で半グレの丸本はサングラスで目元が隠れ、同じく芦屋は他の人物よりも意図的に細く険しくなっており、目の描き分けにはかなり気を遣っていることが窺えます。
こういう細かな点も抜かりない。これが連載デビュー作だってんだから、驚きもひとしおです。今後も楽しみでなりません。
漫画好きなら問答無用で読むべきだし、特に漫画を読まない方にも手放しでオススメしたい。作者・薄場圭さんの本気、ガチで受け止めてください。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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