1話の見開きに度肝抜かれる
『ハイキュー!!』の主人公・日向翔陽(以下、日向)は、中学時代はバレー仲間に恵まれず、試合はおろか練習もまともにできなかった苦労人です。
3年時にやっと初の公式戦に出場したものの、後にチームメイトになる影山飛雄が所属する強豪に惨敗します。
2人の出会いから『ハイキュー!!』の物語は動き出します。まずは2人の出会いでもある中学時代の試合が描かれた、1話38〜39ページの見開きに注目しましょう。
絶望的な試合展開の中、チームメイトのミスで明後日の方向に飛んでいったボールに、ただ1人反応しスパイクを撃ち抜く日向に、度肝を抜かれるはずです。
筆者は希望が見えない試合を切り開くような、躍動感ある絵に鳥肌が立ちました。演出の緩急にビビビッときた。
件の見開きに至るまで比較的細かいコマ割りが続いていたのもあって、急な大ゴマにガツンと殴られたような衝撃を覚えたものです。コマ割りのメリハリ。これも緩急の一種です。
簡略化すると以下のようになります。
絶望的な試合展開(緩)/閉塞感を破る日向のプレー(急)
細かいコマ割り(緩)/大胆な見開きのコマ割り(急)
件の見開きには二つの緩急が生かされていたわけですね。
作者・古舘春一さんはとにかくコマ割りが巧みです。大小のコマを織り交ぜ、キャラクターのプレーを上下、左右、斜めとあらゆる角度から捉えて描き出しています。
それでいて視線誘導もスムーズ。一種の美学を感じさせる美しい見開きのレイアウトに何度震えたことか。
これも実際に読んで実感してほしい! 特に361話は、本当にたまらないものがあります。
そして、そうしたコマ割りと見開きで一番輝いていたのが主人公の日向でした。
主人公・日向翔陽が生む緩急
天性のスピードとバネを持つ日向は、試合中にコートの誰よりも縦横無尽に動くキャラクターです。
大きさが物を言うバレーボールで、技術が拙く身長160cm前半の彼が生き抜くためには、まず誰よりも走る必要がありました。カラスのように宙へ舞い、猫のような敏捷性でボールに迫るその姿は小さな獣です。
そんな彼のプレースタイルは、作者・古舘春一さんの多彩なコマ割りで躍動しまくっていました。
さらに、日向は漫画の中に緩急をつけるのに最適なキャラクターだったように思います。
目立たない場面では、いつどこで飛び出してくるのかわからない嵐の前の静けさのような怖さがあり(緩)、元気よくプレーしている時は一気に画面が動きます(急)。
コートのどこにいても気にかけなければいけない厄介な存在感によって、作中で日向は“最強の囮”と命名されるわけですが、この異名は読者に対しても向けられたものだったように思います。
「日向の強烈なスパイクが来るぞ!」と身構えてめくった次のページの見開きで、全然違う誰かがスパイクを打っていたなんて場面はしょっちゅうありました。
日向翔陽は敵も読者も騙す、まさに最強の囮だったのです。
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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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