連載 | #9 KAI-YOU編集部ネタバレ全開座談会

『シン・仮面ライダー』座談会 日本映画業界と庵野秀明に託された使命

仮託された、庵野秀明の使命

特撮、あるいは映画の商業性という話でいうと、『シン・ウルトラマン』の時にも言ってたけど、「ウルトラマン」の映画版も10億円みたいなところが限界だったと。

特撮を一部の好事家のものではなくて国民的なものにする、「自分はそうじゃないものをつくるために映画業界に呼ばれたんだ」という庵野の使命がある。

実際に『シン・仮面ライダー』もすでに興行収入20億円を超えてるし、『シン・ウルトラマン』なんて40億円を超えてるわけですよ。

都築くんが言うように、これまでにも独立した映画作品として優れた特撮作品もあっただろうけど、その需要はやはり一部に留まっていた。

どうしてもテレビシリーズのファンが観に行く企画ではあるからね。あくまでファンムービーだから。

いや俺が言ってるのは、だから別に、「仮面ライダー」や「ウルトラマン」っていう枠であっても、工夫やその見せ方次第によっては、全然物語として成立し得るということなんです。

全然できる、やっている前例があるのに、「仮面ライダー」だから、「ウルトラマン」だから映画を面白くつくることは難しいよねっていうのは納得できない。「仮面ライダー」も「ウルトラマン」も、もっと面白くなる。そういう題材なんです。

ただ、ふるみくんが言ってるのは、庵野監督がやりたかったことや目指したかったものは、もしかしたら映画という限られた時間を使う媒体では、ちょっと狭すぎたのかなっていう話ですよね。

そうです。それに加えて、ヒーロー特撮の連続性のあるドラマものの面白さっていう性質と、単発のものはどうしても食い合わせが悪かったから。

庵野監督の肩を持つわけではないけど、庵野監督の作家性が暴走してしまった──という点だけが、批判されるべきではないかなって思います。

それはそう思う。いかに庵野が『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァ』を大ヒットさせたとはいえ、どうしても日本映画の予算というのは限られてて、彼が本当に思い描いてることは実現できない。

実写の場合はスタジオを確保して俳優さんを確保して、絶対それをずらせない。自分が原作者で最高決定者である『シン・エヴァ』みたいに何年も遅らせるわけにはいかない。リミットのあるリソースでやらなきゃいけないから、そもそも日本映画には余裕がないと、庵野さんは『シン・ゴジラ』の時に言ってた。

庵野がかわいそうだよ!!!

へ!? いや、待ってください。

まず普通に……社会的な常識を考えて、予算があって限られた枠や時間でしかできないんだったら、その中で創意工夫して、面白いものをつくるのがプロじゃないですか?っていう反論がまず一つあるのと……

そりゃそうだ!(怒)

あとこれは反論じゃなくて、納得というか。「ウルトラマン」も「仮面ライダー」も、新規でリブートするっていう企画は実は以前にもやってるんですよ。

初代『仮面ライダー』のリブートも、これが1回目じゃなくて、『仮面ライダー THE FIRST』って映画がある。これも結構酷評だったけど、『ウルトラマン』も『ULTRAMAN』という映画をやって、残念ながらこれもコケてしまっている。

だから確かに特撮ヒーローというフォーマットそのものが、そもそも文脈性というか、連続性で成り立ってるから映画単体だと成立しにくいという意見は、たしかに言えなくはないっていうのは思いました。

仮面ライダー THE FIRST

職業として、プロの作家/監督だったらもっとちゃんとやれよっていう意見については──依頼する側も、もう少し庵野秀明という人間について考えろよっていう思いもありますね……。

安易に庵野監督に依頼するなってことでしょうか?

するならもうちょい、体制を考えてあげないとダメじゃないか? みたいなのは思います……。

『シン・ゴジラ』と『シン・エヴァ』であまりに上手くいっちゃったから、「自由にやってください」になったのかもしれないなと、私は思います。特に『シン・ゴジラ』のときは、もっと他者の思惑とか意見とかが、かなりあったと思う。なんというか一枚岩じゃなくて多層的な作品だった

他人のコンテンツを預かってつくるわけだから、基本的には傍若無人には振る舞えないはず。 でも、『シン・ゴジラ』が望外な成功を収めたために、庵野監督が自由で奔放につくったのが『シン・仮面ライダー』だったのかなって、思ってしまいました。

ただですよ、擁護しとくけど、別に『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』も、まあ俺は正直納得全然できないけど、別に世間的に言えば大ヒット作品です。

そこに関しては、庵野秀明という存在は間違いなく寄与している。

もちろんそうですね。

待ってください! 「ウルトラマン」は、そもそも海外、特にアジア圏での人気がめちゃくちゃ高いIPなんですよ。 だから『シン・ゴジラ』がヒットした後、次に公開されたのは「仮面ライダー」じゃなくて、「ウルトラマン」だった。これは個人の見解かもしれませんが、玩具の売上高(※)から鑑みても日本では「仮面ライダー」の方がリアルタイムで人気じゃないですか。

なのに、『シン・仮面ライダー』じゃなくて、『シン・ウルトラマン』が先に公開されたのは、明らかに海外でヒットさせるっていう目論見があった。それは跳ねますよ、海外で。仮に庵野秀明じゃなくても、立て付けの段階で跳ねるはずです。

(※)バンダイナムコホールディングスの発表によれば、2022年のIP別売上高(グループ全体)は「ウルトラマン」が約168億円なのに対し、「仮面ライダー」は約295億円となっている(外部リンク)。

本当にそうだろうか? 庵野が関わっていなくても、ここまで跳ねてますか?

僕も庵野秀明の存在やブランド力は大きいと思いますよ。

「シン・」って付いたら期待しちゃう身体にはなっています。

それも含めて、10億円がマックスだった特撮の映画業界、ひいては特撮IPを自分が蘇らせるという目論見は成功している。

私はそこが疑問です。一つの映画が商業的に成功したことで、特撮文化や業界全体に寄与したと言っていいのかがわからないです。

簡単に言うと、庵野秀明の『シン・仮面ライダー』を見て、「じゃあ、テレビシリーズの仮面ライダーも見てみようかな!」ってなるのかということです。

うーん……残念ですが、ならなかったですね……。

初代『仮面ライダー』ファンなら刺さるという風潮があるけど、僕は自分が特撮育ちと自負しているからこそ、激怒してしまったんですよ。「『ウルトラマン』も『仮面ライダー』も、こんなもんじゃないが?」と。

これで何年も経ったら、もしかしたら庵野秀明が1人で特撮界を救った英雄のような功績が歴史になってしまうんじゃないか、神格化されてしまいかねないのが、恐ろしいと思っています。

ULTRAMAN_n/a

私もね、「仮面ライダー」の平成/令和シリーズをずっと見てて、すでにめちゃくちゃ面白いと思ってるのに、庵野秀明が特撮文化を復活させる、という業界的なストーリーに乗れない

例えば、庵野秀明が手がけた1つの映画が50億円の大ヒットをしたとしても、それが「仮面ライダー」という歴史とか文化を救ったとかは、ちょっと思えないよ。だってすでに面白いもん。

なんなら歴史修正もいいところですよ!

こいつらの愛は本物だ……)それはもう、未来で答え合わせするしかない!

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2件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:8229)

全然ダメでしょ。
結局、自分が見たいものじゃなかったという話しかしていない。
というか、ほぼ同じ意見の人どうしで話をするなら一人でいい。
同じ意見だから、互いの意見にツッコミも入らない。
座談としても、つまらない、できが悪い。
シン仮面ライダーという作品が、何をどう描こうとし、具体的にどう描かれているかという話がまるで不十分。オーグを倒す度に、本郷が彼らに黙祷を捧げることの意味や、単なる組織の殺人マニアかのように見えるクモオーグの人間性をKKオーグが語ること。母を持たないルリ子が母を失ったことで苦悶するイチローと同じ写真の中に居たかったというSF的な設定とシナリオの高度な連携。
冒頭コミュ障だと言われる本郷が、ルリ子の本心を察することで描かれる繊細さ等々、そうした丁寧な表現の積み重ねの上で世界の平和や人々を守るのではなく、むしろ守られなかった、傷つき排除された存在を救う物語が描かれる。そこにはライダーも含まれる為に最後の的はライダー0号を名乗るわけでしょう。
本郷の姿を見守るケイの存在にも言及がないし。
特撮映画だからといって、一般の映画評論についてなされるような最低限のシナリオの分析と評価はされたうえで、座談のようなことはされるべきだよ。
折角、賛否両論ある映画の座談をやろうというのなら、双方相当の理解があった上で、真っ向意見をぶつけられるようなやり方をすべきでしょ。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:7455)

面白い記事でした

確かに特撮を復活させる!みたいな作品ではなかったと思います
シン・ウルトラマンとシン・仮面ライダーは、どちらかと言うと昭和特撮を復活させる!昭和特撮の良いところを知って欲しい!みたいな思惑の方が強いんじゃないかなと思ってます

洗練され常に新しい試みが続いてるウルトラと仮面ライダーシリーズは、蓄積していく中で削られていったものが確実にあります
そこに再度スポットライトを当てようとしていたような感じがするのです

古臭いよね、ダサいよね、そう思えるようなところにこそ
そこがいいんだよかっこいいんだよと本気で庵野秀明は思っている

シン・仮面ライダーが深く刺さった自分の戯言かもしれませんが笑

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