Kindleストアで12月29日(木)まで、早川書房の書籍1600点を対象にした50%オフのセールが開催されています。
この記事では、初のセールとなった『同志少女よ、敵を撃て』のほか、国内作家によるオススメ24作品をご紹介します。海外作家編もあるので、そちらもあわせてどうぞ。
ソビエト連邦とドイツによる「独ソ戦」で母を失った少女・セラフィマが主人公。彼女が母の命を奪った人物と、命の恩人ではあるが母の遺体を冷酷に扱った兵士・イリーナへの復讐を誓う物語です。
やがて狙撃手として戦場に出たセラフィマが、血と硝煙にまみれた世界で何を思うのか。真の敵とは何なのか。本作を読まずして年は越せません。
独自に事件を調べていくなかで、予想もしなかった真実にたどり着くのですが……。阿部サダヲさんの怪演に背筋がひやりとする実写映画もオススメのサスペンスになっています。
彼が頻発する虐殺を扇動する謎の人物を追う中で、人間に眠る「虐殺器官」の存在を知るというあらすじ。その存在を知った主人公がとる行動とは。ラストの余韻があまりに痛烈なため、筆者の記憶を消して読み返したい作品No.1です。
健康に過ごすことが至上とされる、ユートピアともディストピアとも似つかない、でも息苦しさは確かにある近未来的な世界のなかで、安穏と暮らすことができなかった人々の葛藤が描かれています。
いずれの短編も伊藤計劃さんのエッセンスを感じられるのですが、氏が多大な影響を受けたという小島秀夫さんへのリスペクトが溢れる「フォックスの葬送」は、特にゲーム「メタルギア」ファンなら必見です。
下に紹介する「日本SFの臨界点」シリーズでも溢れんばかりだったSFへの愛、古今東西の作品へのリスペクトも感じられます。間口の広さという点でも抜けているので、SFに苦手意識のある方にも推したい。
同時刊行の[恋愛篇]と[怪奇篇]の2作、そして中井紀夫さん、新城カズマさん、石黒達昌さんの作品を収録した3作、現在までに刊行されている全5作がセール中です。この機会に一気買いでどうぞ。
急進的な政策でカンボジアを激動の時代へ引き込み、国民の大量虐殺を招いたポル・ポト政権下を下地にした上巻、そこから一気に時間を進めて物語を転回させる下巻の巧みな構成に圧倒されます。
誰もが読後うなるであろう表題作は、共産主義の消滅をもくろむCIAの歴史改変SF。このほか、時を超えるタイムトラベルに執念を燃やすマジシャンを描いた「魔術師」など、どれもこれも完成度の高い6編を収録。
自らのプライバシーを切り売りして対価を得る生活、判断を他に委ねて深く考えず日々を過ごす日常の描写は妙にリアル。小川哲さんの作家デビュー作にして、後の活躍が予感できる作品になっています。
なんかもう読んでもらうしかないんですが、一つだけ言わせてもらえれば表紙にピンときた方はカートへGoです。その直感、当たってます。
アニメ化、漫画化もされた近年を代表するポップなSF作品です。難解さとは無縁で、ホラー風味がいいアクセントになっています。挿絵も素敵。
一度死にかけた少女が力を手にして蘇り、奪われる者から奪う者への変遷を遂げ、その異能を振るうなかで生き方を見つけ、精神的な成長を遂げていく本作。全3巻の短さで濃密に描かれる成長譚は必見です。
人造脳葉の移植が義務化され、莫大な情報が手にとるように処理できるようになった超情報化社会が舞台。この脳葉を開発した行方不明の恩師を探す男と謎の少女の逃避行が、エンタメ性抜群の展開で描かれています。
決して万人に受け入れられる作品ではありませんが、様々なものに翻弄されながらも懸命に生きる彼女たちの姿に打ちのめされます。
特に小児性愛をテーマにした短編「allo,toi,toi」の衝撃たるや。犯罪を犯してしまった小児性愛者を矯正する目的で行われる実験を通して、その精神性に踏み込む記述の生々しさが凄まじいことになっています。
逃れられない運命に対峙してボロボロになっていく科学者の述懐が淡々と続く構成は、読者に鬱々とした感情を植え付けてくるのですが、擬似的でも死を意識する読書体験には確かな引力があります。
読むこちらを嘲笑うような奔放さと、「その発想はなかったな〜!」と思わされる展開で読ませる6つ物語が収められています。
表題作「アメリカン・ブッダ」は、人々が仮想世界に閉じこもる未来のアメリカで、仏教徒のインディアンが救済の旅に出るというなんとも刺激的なあらすじ。VRの中で一生を過ごす少数民族を描いた短編なんてのもあります。
死の概念が人に与える影響を否が応でも考えさせる内容になっていて、私達の常識がいかに死に縛られているかを自覚させられます。難解な物語ではありますが、何度も読んでは思索にふけりたくなる作品です。
粘菌を組み込んだ自動人形を生み出す奇天烈な発想とは裏腹に、人間の意識とは何かを問う哲学を内包している絶妙なバランス。同時にエンタメとしても楽しめる軽やかさ。とんでもない。
読んでいると、いつもは使っていない、頭のどこかにある機能を無理やり目覚めさせられるような感覚に襲われます。バナナを食べるたびにこの本を思い出す。
読むたびに印象が変わるほど捉えようがありません。たぶん誰一人として感想が一致しない。物語の時間軸も、中心にいるべき主体も、1冊の本としての構成も挑戦的かつ実験的。
まさしくガイドブック。表紙の密度が半端ない。抑えておきたい名作も、全く知らなかった作品も、この1冊にギュッと詰まっています。こちらを購入してセールを一巡りするのもありでしょう。
この記事では、初のセールとなった『同志少女よ、敵を撃て』のほか、国内作家によるオススメ24作品をご紹介します。海外作家編もあるので、そちらもあわせてどうぞ。
目次
- 1. 『同志少女よ、敵を撃て』
- 2. 『死刑にいたる病』
- 3. 『虐殺器官』
- 4. 『ハーモニー』
- 5. 『The Indifference Engine』
- 6. 『なめらかな世界と、その敵』
- 7. 「日本SFの臨界点」シリーズ
- 8. 『ゲームの王国』
- 9. 『嘘と正典』
- 10. 『ユートロニカのこちら側』
- 11. 『と、ある日のすごくふしぎ』
- 12. 『裏世界ピクニック』
- 13. 『マルドゥック・スクランブル』完全版
- 14. 『know』
- 15. 『官能と少女』
- 16. 『My Humanity』
- 17. 『あなたのための物語』
- 18. 『人間たちの話』
- 19. 『アメリカン・ブッダ』
- 20. 『ニルヤの島』
- 21. 『ヒト夜の永い夢』
- 22. 『バナナ剥きには最適の日々』
- 23. 『エピローグ』
- 24. 『ハヤカワ文庫SF総解説2000』
『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬さんのデビュー作にして傑作『同志少女よ、敵を撃て』が初のセール!ソビエト連邦とドイツによる「独ソ戦」で母を失った少女・セラフィマが主人公。彼女が母の命を奪った人物と、命の恩人ではあるが母の遺体を冷酷に扱った兵士・イリーナへの復讐を誓う物語です。
やがて狙撃手として戦場に出たセラフィマが、血と硝煙にまみれた世界で何を思うのか。真の敵とは何なのか。本作を読まずして年は越せません。
『死刑にいたる病』
うだつの上がらない大学生が、大量殺人犯として獄中にある知り合いから「冤罪を証明してほしい」と頼まれるところからはじまる本作。独自に事件を調べていくなかで、予想もしなかった真実にたどり着くのですが……。阿部サダヲさんの怪演に背筋がひやりとする実写映画もオススメのサスペンスになっています。
『虐殺器官』
近年の話題作もいいですが、やはり語り継がれる名作も読みたいという方にはこちら『虐殺器官』。世界中で激化したテロを抑制するために発展したアメリカの情報部に所属する軍人が主人公。彼が頻発する虐殺を扇動する謎の人物を追う中で、人間に眠る「虐殺器官」の存在を知るというあらすじ。その存在を知った主人公がとる行動とは。ラストの余韻があまりに痛烈なため、筆者の記憶を消して読み返したい作品No.1です。
『ハーモニー』
『虐殺器官』の鮮烈なデビューを飾った伊藤計劃さんの遺作となったのが『ハーモニー』です。未知のウイルスと世界規模の戦争を経験して、高度な医療が発達した管理社会を舞台にしています。健康に過ごすことが至上とされる、ユートピアともディストピアとも似つかない、でも息苦しさは確かにある近未来的な世界のなかで、安穏と暮らすことができなかった人々の葛藤が描かれています。
『The Indifference Engine』
伊藤計劃さんが残した断片的な試作や短編を集めたのが本書『The Indifference Engine』です。収録されている「屍者の帝国」は、円城塔さんが引き継いで刊行もされています。いずれの短編も伊藤計劃さんのエッセンスを感じられるのですが、氏が多大な影響を受けたという小島秀夫さんへのリスペクトが溢れる「フォックスの葬送」は、特にゲーム「メタルギア」ファンなら必見です。
『なめらかな世界と、その敵』
SFファンであろうがなかろうがオススメしたいのが、ご存じ伴名練さんの短編集『なめらかな世界と、その敵』です。2019年に年間ベストSFに選ばれたのも納得。下に紹介する「日本SFの臨界点」シリーズでも溢れんばかりだったSFへの愛、古今東西の作品へのリスペクトも感じられます。間口の広さという点でも抜けているので、SFに苦手意識のある方にも推したい。
「日本SFの臨界点」シリーズ
編者として伴名練さんが、テーマごとに、あるいは作家ごとにSF作品を1冊に集めた「日本SFの臨界点」シリーズ。同時刊行の[恋愛篇]と[怪奇篇]の2作、そして中井紀夫さん、新城カズマさん、石黒達昌さんの作品を収録した3作、現在までに刊行されている全5作がセール中です。この機会に一気買いでどうぞ。
『ゲームの王国』
直木賞の候補作に『地図と拳』が選ばれたばかりの小川哲さん。彼の代表作『ゲームの王国』はどうでしょうか。上下巻ともに半額です。急進的な政策でカンボジアを激動の時代へ引き込み、国民の大量虐殺を招いたポル・ポト政権下を下地にした上巻、そこから一気に時間を進めて物語を転回させる下巻の巧みな構成に圧倒されます。
『嘘と正典』
小川哲さんと直木賞といえば、こちらもかつて候補作として名前が挙がった『嘘と正典』を忘れちゃいけません。本作は著者初の短編集です。誰もが読後うなるであろう表題作は、共産主義の消滅をもくろむCIAの歴史改変SF。このほか、時を超えるタイムトラベルに執念を燃やすマジシャンを描いた「魔術師」など、どれもこれも完成度の高い6編を収録。
『ユートロニカのこちら側』
『ユートロニカのこちら側』は、SF定番のディストピアをテーマにしている作品です。ゆえに作者の個性がにじみ出るわけで、現代と地続きであると思わせる世界観や、物語を通して今に警鐘を鳴らす視点が特徴。自らのプライバシーを切り売りして対価を得る生活、判断を他に委ねて深く考えず日々を過ごす日常の描写は妙にリアル。小川哲さんの作家デビュー作にして、後の活躍が予感できる作品になっています。
『と、ある日のすごくふしぎ』
ヘンテコでエキセントリックでシュールでポップ。「この人にしか描けない」を地で行く漫画家・宮崎夏次系さんのショートショートを集めた『と、ある日のすごくふしぎ』。なんかもう読んでもらうしかないんですが、一つだけ言わせてもらえれば表紙にピンときた方はカートへGoです。その直感、当たってます。
『裏世界ピクニック』
百合、怪異、異世界でのサバイバル! いろんなジャンルを詰め込み、かつそれをエンタメに昇華した「裏世界ピクニック」シリーズ。アニメ化、漫画化もされた近年を代表するポップなSF作品です。難解さとは無縁で、ホラー風味がいいアクセントになっています。挿絵も素敵。
『マルドゥック・スクランブル』完全版
多作な冲方丁さんですが、代表作にこれを上げる人も多いのではないでしょうか。サイバーパンク×ハードSFの傑作「マルドゥック」シリーズです。一度死にかけた少女が力を手にして蘇り、奪われる者から奪う者への変遷を遂げ、その異能を振るうなかで生き方を見つけ、精神的な成長を遂げていく本作。全3巻の短さで濃密に描かれる成長譚は必見です。
『know』
野崎まどさん活動初期の身軽さとセンスが合致した『know』。鬼才を知るにはここから。人造脳葉の移植が義務化され、莫大な情報が手にとるように処理できるようになった超情報化社会が舞台。この脳葉を開発した行方不明の恩師を探す男と謎の少女の逃避行が、エンタメ性抜群の展開で描かれています。
『官能と少女』
ドラマ化作品『校閲ガール』で知られる宮木あや子さんが、女性たちの官能的な恋愛を描いた短編集『官能と少女』。破滅的に見える登場人物の生活や精神的な傷を、性的な描写と共に書き連ねています。決して万人に受け入れられる作品ではありませんが、様々なものに翻弄されながらも懸命に生きる彼女たちの姿に打ちのめされます。
『My Humanity』
タイトルからもわかりますが、人間性にフォーカスを当てており、全4篇を収録した著者・長谷敏司さん初の短編集です。特に小児性愛をテーマにした短編「allo,toi,toi」の衝撃たるや。犯罪を犯してしまった小児性愛者を矯正する目的で行われる実験を通して、その精神性に踏み込む記述の生々しさが凄まじいことになっています。
『あなたのための物語』
研究に人生を捧げてきた天才科学者が、余命宣告をされたことをきっかけに己と死に向き合う『あなたのための物語』。逃れられない運命に対峙してボロボロになっていく科学者の述懐が淡々と続く構成は、読者に鬱々とした感情を植え付けてくるのですが、擬似的でも死を意識する読書体験には確かな引力があります。
『人間たちの話』
横浜駅が増殖するなんて突飛な作品『横浜駅SF』をご存じでしょうか? そんな作品を手がけた柞刈湯葉さんによる短編集が『人間たちの話』です。読むこちらを嘲笑うような奔放さと、「その発想はなかったな〜!」と思わされる展開で読ませる6つ物語が収められています。
『アメリカン・ブッダ』
著者・柴田勝家さん特有の民俗学を起点にした物語に、相反するようなSF要素を見事にかけ合わせた柴田勝家さんの短編集『アメリカン・ブッダ』。表題作「アメリカン・ブッダ」は、人々が仮想世界に閉じこもる未来のアメリカで、仏教徒のインディアンが救済の旅に出るというなんとも刺激的なあらすじ。VRの中で一生を過ごす少数民族を描いた短編なんてのもあります。
『ニルヤの島』
とある発明により死後の世界が否定された未来、最後の宗教が残る地域を訪れた文化人類学者が、人が死後にたどり着く“ニルヤの島”を追う……こちらも柴田勝家さんらしい民俗学の色が濃い作品です。死の概念が人に与える影響を否が応でも考えさせる内容になっていて、私達の常識がいかに死に縛られているかを自覚させられます。難解な物語ではありますが、何度も読んでは思索にふけりたくなる作品です。
『ヒト夜の永い夢』
不世出の天才学者・南方熊楠をはじめ、歴史に名を連ねる偉人がほいほい出てくる型破りな物語が痛快な『ヒト夜の永い夢』。粘菌を組み込んだ自動人形を生み出す奇天烈な発想とは裏腹に、人間の意識とは何かを問う哲学を内包している絶妙なバランス。同時にエンタメとしても楽しめる軽やかさ。とんでもない。
『バナナ剥きには最適の日々』
タイトルからして円城塔さん。わかるようでわからない、でもどこかでシナプスがつながるから面白い短編集『バナナ剥きには最適の日々』。読んでいると、いつもは使っていない、頭のどこかにある機能を無理やり目覚めさせられるような感覚に襲われます。バナナを食べるたびにこの本を思い出す。
『エピローグ』
円城塔が円城塔を全開にした作品とでも言えば良いのか。稀代の作家が送る作品『エピローグ』。読むたびに印象が変わるほど捉えようがありません。たぶん誰一人として感想が一致しない。物語の時間軸も、中心にいるべき主体も、1冊の本としての構成も挑戦的かつ実験的。
『ハヤカワ文庫SF総解説2000』
最後にこちら『ハヤカワ文庫SF総解説2000』。早川書房のレーベル・ハヤカワ文庫から、1970年〜2015年までに刊行された2000冊のSF作品の要点がまとめられています。まさしくガイドブック。表紙の密度が半端ない。抑えておきたい名作も、全く知らなかった作品も、この1冊にギュッと詰まっています。こちらを購入してセールを一巡りするのもありでしょう。
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