フジロックは若者文化を諦めたのか 賛否両論のCMから考えるフェスの高齢化

賛否両論を巻き起こした「The FUJIROCKER in you!」

新規層にアプローチすることを諦めた文化・産業に、明るい未来はあるのだろうか。

7月29日(金)30日(土)31日(日)に、新潟県・苗場スキー場で開催されるロック・フェスイベント「FUJI ROCK FESTIVAL '22(フジロックフェスティバル '22)」。 そのCM動画「The FUJIROCKER in you!」が6月25日に公開され、音楽ファンを中心にSNS上で賛否両論を巻き起こした。

動画の内容は次のとおり。感染症対策からか、マスクを着けている人で賑わう渋谷・スクランブル交差点。そのド真ん中で、俳優・大宮将司さんが演じるスーツ姿の中年サラリーマンが、ドラムンベースのBGMが鳴り響くとともに、突如として踊り始める。

中年サラリーマンはスーツを脱ぎ捨ててTシャツ・短パン・ハット姿に。打ち上げ花火の映像が重なり、過去の「フジロック」の様子がインサート。その熱狂の中に、中年サラリーマンは身を委ねる──。

突然、BGMが中断。場面は飲食店の中へ。実は、これまでのできごとは中年サラリーマンの頭の中で行われていたものだった。

店員と思われるハードロックバンド・KISSのTシャツを着た男性が「今年も行くんすか?」と聞くと、中年サラリーマンは「そりゃ行くっしょ/夢にも出ちゃうよ」と答える。「フジロックフェスティバル '22」のポスターがアップとなり締めくくられる。

このCMに対して「ダサい」「安っぽい」といった酷評が上がる一方、その話題性から「マーケティングとしては成功しているのでは?」など、様々な意見が寄せられた。

高齢化が囁かれる「フジロック」の観客層

Green stage at Fuji Rock Festival(Jmills74 at the English Wikipedia)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以前、伸び悩んでいたCDなどの音楽ソフト販売に代わり、音楽産業の活路、希望として語られてきた音楽ライブイベント事業。

その象徴たる夏のフェスイベントは、観客層が年々高齢化していっている。特に歴史が長く、入場料も高く、都心からのアクセスも容易ではない「フジロック」はその最たる例だ。

2018年のイベント同行SNS・AMIPLEの調査によれば、「フジロック」は「SUMMER SONIC(サマーソニック)」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロック・イン・ジャパン・フェスティバル)」と比較して、30代・40代がメインの客層として支持されている

また、同年のニュースサイト・Sirabeeの調査でも、「夏フェスに行ったことのある」と答えた世代は、30代・40代が最も多い結果となっている

データとして明示されていないものの、その他にもフェスイベントの高齢化に対する指摘は数多く存在する。実際に毎年足を運んでいる人ほど、その実感は大きいはずだ。今回のCM映像には、そういった「フジロック」ひいては夏フェスの実情が自己言及的に反映されているともいえる。

ポップミュージックとしての「ロック」の今

ロックは最早、若者の文化ではない──その是非や結論はともかく、昨今のポップミュージック市場はロックの存在感が後退し、ヒップホップ/R&Bが世界的な流行となっているのは2010年代からすでに囁かれていることだ。

国内最大の動員を誇る「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」では、名に「ロック」を冠しつつも2013年よりアイドルグループの出演も実施。

ロックバンド一辺倒だった同イベントとしては異例の出来事であり、当時のファンはその是非について喧々諤々の議論を行っていたが、年々アイドル出演が増加するだけでなく、よりジャンルレスな傾向が強くなっている。

すでに「ロック」だけで野外フェスの莫大なキャパシティを埋めることはできず、各イベントでも新陳代謝のために様々なジャンルのアーティストをブッキングしているのが実情だ。

2022年には国内最大級のヒップホップフェス「POP YOURS」も開催されるなど、新たな音楽の潮流を感じさせるイベントも興っている。
1
2
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。