2017年末の大ブーム発生以降エンターテインメントの歴史を大きく動かしてきたバーチャルYouTuber(VTuber)。その開祖たるキズナアイ(Kizuna AI)さんの無期限の活動休止が発表されたのは、2021年12月のことだった。
チャンネル登録者数は300万人以上、YouTubeでの活動のみならずTVへの出演やアーティストとしての音楽活動も展開し、VTuber界の親分として数々の偉業を成し遂げてきた彼女。「キズナアイがより成長していくことを目標としたアップデートのため」と前向きなメッセージが公開された。
それでも時代を切り開いてきたパイオニアの活動休止に対する衝撃は大きく、別れを惜しむ声も多く寄せられる中、2022年2月26日、活動休止前のラストライブ「Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”」が開催された。
「アイちゃんがいなかったら、今の自分はいない」──VTuberや関係者が口にするように、実際に彼女がいなかったら多くの人生が異なっていたであろうことは想像に難くない。
スリープという選択肢を選んだ彼女を笑顔で送り出したい、でも寂しいものは寂しい。見守る人々の中で整理のつかない様々な感情が渦巻く中で、彼女はいかなるライブを繰り広げたのか。結末がどうであれ、歴史が大きく動くことだけを確かに予感させて、世紀のステージがはじまった。
【画像67枚】写真で振り返るキズナアイのラストパフォーマンス 取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多
最初はただ時を刻むのみだった画面に光点が現れ、模様が現れ、次第に複雑な回路のように組み合わさっていく。アイちゃんのトレードマークたる巨大なぴょこぴょことの邂逅を果たしたところで残り10カウント、その時を待つオーディエンスを囃し立てるようにカウントは進み、といよいよ幕が上がる。 暗闇の中にスポットライトを浴びて現れたのは、前日に開催された「FallAIs2」で画面を埋め尽くしたアイちゃんコスチュームにも似た黄金のSDアイちゃん。構えたマーチングスネアを軽快に叩き出すと、次第にシンバルやバスドラムを持ったメンバーも合流して可愛らしいマーチングバンドを結成した。
バンドは行進しながらどんどんと規模を拡大していくと、気づけば隊列がぴょこぴょこの形に。プリティーなフォルムに反した壮大なサウンドを奏でてボルテージを高めていくと、ピークに合わせて光の中からドレスを纏ったキズナアイさんが降臨した。 主役の到来を祝うように黄金の粒子が弾け飛ぶ中、バンドを率いて優雅に歩を進める姿はVTuber界の第一人者たる荘厳さを放ち、今日という日にかける強い覚悟が眼差しの強さからも見て取れる。
勢いよく手を振り上げて華々しいオープニングを締めくくると一転、彼女が静かに歌いはじめたのは記念すべき1stシングル「Hello, Morning」のワンフレーズ。象徴的な楽曲として数々の場面で披露されてきた名曲を、伴奏をつけずゆっくりと噛みしめるように歌うキズナアイさん。その様がラストライブと銘打たれた今日の日の特別さを思い出させ、涙腺を激しく刺激する。 煌々と輝く階段を一つひとつ降りてステージへ辿り着くと、ライトアップされた会場を埋め尽くしていたのは総勢1820名のVTuberたちだった。
事前に募集したVTuberの出演は予告されていたが、想像を超えた感動的な光景が祝祭感をマックスまで引き上げると、キズナアイさんも大きく手を振って喝采に応える。彼女に導かれるままみんなの声が合わさっていき、巨大なうねりとなった歌声がフロアに轟いた。
「こんなにたくさん集まってくれたバーチャルのみんな、本っ当にありがとう!」と目いっぱいの感謝を伝えると、光の中に消えていくVTuberたちに代わって今度はブラックアイがオンステージ。「今日は最高の思い出をつくりましょう!」とはじまった「First Light」ではブラックアイがフライングVをかき鳴らして特別な夜に華を添える。
ブラックアイのギターテクニックが冴えわたれば、フロアには色とりどりの花が咲き乱れる。幻想的な空間の中で透明感溢れるポップナンバーを歌いあげる姿は、様々なステージを成功させてきたキズナアイさんのアーティストとしての実力を鮮やかに証明する。 続いての「future base」はギターアレンジの加わったスペシャルver.で披露。黄金の花弁が舞い上がるシンプルかつゴージャスな演出の中、後光に照らされて歌唱する彼女はもはや神々しさすら纏いはじめる。
手の届かぬような神聖さを見せたかと思えば、一転穏やかな光に包まれたステージ上からクラップを要求して疾走感抜群のダンスチューン「mirai」へ。
純白のドレスを翻しながら軽やかにステップを踏むキズナアイさんと、冷めた表情から放たれているとは思えない情熱的なリフをかますブラックアイの歪で美しき共演が巻き起こすスパークがステージ上に弾けまくり、進むべき未来を明るく照らし出していった。
衣装がダンスモードに変化したアイちゃんの「Let,s GO!」と共にバーチャルTeddyLoidさんもDJブースに乗って登場すると、ブレイクと同時に会場を一瞬でダンスフロアに変換していく。
激踊必至のダンスビートの上を無邪気に跳ね回るキズナアイさんから「ねぇバーチャルだからって見えないと思ってんの?! 両手挙げながらコメント同時に打つなんて簡単! 余裕だよなァ!!!」と煽られてしまっては、ご期待に沿えねば無作法というもの。 爆熱するフロアを、さらに激しく燃え上がらせるように追いきれない速度でコメントを流しつつ、抑えきれない思いを拳に込めて振り上げるキズナ―たちは今宵、物理法則も越えていく。
続く「The Light」では静と動を巧みに使いこなしながら、背景に広がる宇宙空間を支配するかのような圧倒的なパフォーマンスを展開。スペシャルなライブを誰より楽しむ彼女の姿に、開演前に漂っていたラストライブの悲壮感はすっかり消え去っていた。
スーパーエレクトロポップチューン 「never stop my beat」でさらに限界を超えるような大熱狂を巻き起こし、大盛り上がりパートは百億点満点で終了した。
チャンネル登録者数は300万人以上、YouTubeでの活動のみならずTVへの出演やアーティストとしての音楽活動も展開し、VTuber界の親分として数々の偉業を成し遂げてきた彼女。「キズナアイがより成長していくことを目標としたアップデートのため」と前向きなメッセージが公開された。
それでも時代を切り開いてきたパイオニアの活動休止に対する衝撃は大きく、別れを惜しむ声も多く寄せられる中、2022年2月26日、活動休止前のラストライブ「Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”」が開催された。
「アイちゃんがいなかったら、今の自分はいない」──VTuberや関係者が口にするように、実際に彼女がいなかったら多くの人生が異なっていたであろうことは想像に難くない。
スリープという選択肢を選んだ彼女を笑顔で送り出したい、でも寂しいものは寂しい。見守る人々の中で整理のつかない様々な感情が渦巻く中で、彼女はいかなるライブを繰り広げたのか。結末がどうであれ、歴史が大きく動くことだけを確かに予感させて、世紀のステージがはじまった。
【画像67枚】写真で振り返るキズナアイのラストパフォーマンス 取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多
目次
バーチャルYouTuber界の第一人者、キズナアイ
早くはじまってほしいような、このままずっとはじまってほしくないような。複雑な心境で開演を待っていると、待機画面から切り替わりカウントダウンがスタート。最初はただ時を刻むのみだった画面に光点が現れ、模様が現れ、次第に複雑な回路のように組み合わさっていく。アイちゃんのトレードマークたる巨大なぴょこぴょことの邂逅を果たしたところで残り10カウント、その時を待つオーディエンスを囃し立てるようにカウントは進み、といよいよ幕が上がる。 暗闇の中にスポットライトを浴びて現れたのは、前日に開催された「FallAIs2」で画面を埋め尽くしたアイちゃんコスチュームにも似た黄金のSDアイちゃん。構えたマーチングスネアを軽快に叩き出すと、次第にシンバルやバスドラムを持ったメンバーも合流して可愛らしいマーチングバンドを結成した。
バンドは行進しながらどんどんと規模を拡大していくと、気づけば隊列がぴょこぴょこの形に。プリティーなフォルムに反した壮大なサウンドを奏でてボルテージを高めていくと、ピークに合わせて光の中からドレスを纏ったキズナアイさんが降臨した。 主役の到来を祝うように黄金の粒子が弾け飛ぶ中、バンドを率いて優雅に歩を進める姿はVTuber界の第一人者たる荘厳さを放ち、今日という日にかける強い覚悟が眼差しの強さからも見て取れる。
勢いよく手を振り上げて華々しいオープニングを締めくくると一転、彼女が静かに歌いはじめたのは記念すべき1stシングル「Hello, Morning」のワンフレーズ。象徴的な楽曲として数々の場面で披露されてきた名曲を、伴奏をつけずゆっくりと噛みしめるように歌うキズナアイさん。その様がラストライブと銘打たれた今日の日の特別さを思い出させ、涙腺を激しく刺激する。 煌々と輝く階段を一つひとつ降りてステージへ辿り着くと、ライトアップされた会場を埋め尽くしていたのは総勢1820名のVTuberたちだった。
事前に募集したVTuberの出演は予告されていたが、想像を超えた感動的な光景が祝祭感をマックスまで引き上げると、キズナアイさんも大きく手を振って喝采に応える。彼女に導かれるままみんなの声が合わさっていき、巨大なうねりとなった歌声がフロアに轟いた。
ラストの悲壮感を消し去るキズナアイの真骨頂
早くも大団円な空気漂うフロアの目を覚ますかのように投入されたのは「Hello World」だ。「いよいよはじまるよ!」と声をかけてダンス強度を加速度的に上げていくと、伸びゆく歌声も響かせてパフォーマンスは迫力と輝きを増す。「こんなにたくさん集まってくれたバーチャルのみんな、本っ当にありがとう!」と目いっぱいの感謝を伝えると、光の中に消えていくVTuberたちに代わって今度はブラックアイがオンステージ。「今日は最高の思い出をつくりましょう!」とはじまった「First Light」ではブラックアイがフライングVをかき鳴らして特別な夜に華を添える。
ブラックアイのギターテクニックが冴えわたれば、フロアには色とりどりの花が咲き乱れる。幻想的な空間の中で透明感溢れるポップナンバーを歌いあげる姿は、様々なステージを成功させてきたキズナアイさんのアーティストとしての実力を鮮やかに証明する。 続いての「future base」はギターアレンジの加わったスペシャルver.で披露。黄金の花弁が舞い上がるシンプルかつゴージャスな演出の中、後光に照らされて歌唱する彼女はもはや神々しさすら纏いはじめる。
手の届かぬような神聖さを見せたかと思えば、一転穏やかな光に包まれたステージ上からクラップを要求して疾走感抜群のダンスチューン「mirai」へ。
純白のドレスを翻しながら軽やかにステップを踏むキズナアイさんと、冷めた表情から放たれているとは思えない情熱的なリフをかますブラックアイの歪で美しき共演が巻き起こすスパークがステージ上に弾けまくり、進むべき未来を明るく照らし出していった。
「バーチャルだからって見えないと思ってんの?!」
「ブラック最高! アイちゃん最高! 自画自賛しちゃうくらい気持ちいい!」と、ここまでの出来に花丸を付けるもライブはまだまだ序の口。「ここからはお待ちかね大盛り上がりパートです!」という驚きの宣言と共に突入したのは「melty world」。衣装がダンスモードに変化したアイちゃんの「Let,s GO!」と共にバーチャルTeddyLoidさんもDJブースに乗って登場すると、ブレイクと同時に会場を一瞬でダンスフロアに変換していく。
激踊必至のダンスビートの上を無邪気に跳ね回るキズナアイさんから「ねぇバーチャルだからって見えないと思ってんの?! 両手挙げながらコメント同時に打つなんて簡単! 余裕だよなァ!!!」と煽られてしまっては、ご期待に沿えねば無作法というもの。 爆熱するフロアを、さらに激しく燃え上がらせるように追いきれない速度でコメントを流しつつ、抑えきれない思いを拳に込めて振り上げるキズナ―たちは今宵、物理法則も越えていく。
続く「The Light」では静と動を巧みに使いこなしながら、背景に広がる宇宙空間を支配するかのような圧倒的なパフォーマンスを展開。スペシャルなライブを誰より楽しむ彼女の姿に、開演前に漂っていたラストライブの悲壮感はすっかり消え去っていた。
スーパーエレクトロポップチューン 「never stop my beat」でさらに限界を超えるような大熱狂を巻き起こし、大盛り上がりパートは百億点満点で終了した。
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イベント情報
Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”
- 出演者
- Kizuna AI and over 1000 virtual friends
- 開催日
- 2022年2月26日(土)
- Open:18:00 JST/Start:19:00 JST
- チケット
- 無料
- 配信プラットフォーム
- Horizon Venues/bilibili/U-NEXT/YouTube
- イベントオフィシャルサイト
- https://5th.kizunaai.com/hw2022/
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