ワンシチュエーション会話劇という思い切った演出で注目を集めた2018年製作のデンマーク発サスペンススリラー映画『THE GUILTY/ギルティ』。
2021年10月にはジェイク・ギレンホールが主演したリメイク版がNetflixで配信スタート。オリジナル版も11月20日からNetflixに登場しています。
サスペンス映画といえばネタバレを特に避けたいジャンル。本作もまさにネタバレ厳禁な一作です。
100%楽しめるのは初見の1回だけなので、ネトフリユーザーはオリジナル版とリメイク版、どちらから観ようか迷ってしまうかもしれません。
今回は『THE GUILTY/ギルティ』の作品紹介に加え、オリジナル版とリメイク版それぞれの魅力を考察したいと思います。
※画像は映画公式サイトおよび予告映像(オリジナル版・リメイク版)より
物語の舞台は事件・事故等の通報を受ける警察の電話センター・緊急通報指令室。主人公のアスガー(※リメイク版ではジョー)はオペレーターとして勤務しています。
通報の多くは緊急性の低いもので、うんざりしながら黙々と対応するアスガー。そんな彼のもとへ一本の奇妙な通報が入ります。
通報者は女性で、まるで子どもをあやすような口調で要領を得ない話を繰り返すので、アスガーは酔っ払いのいたずら電話だろうと通話を切りかけました。 しかし彼女の声に切迫したものを感じて思い直し、YES/NOで答えられる質問で状況の確認を試みることに。「誰かと一緒?」「車に乗ってる?」「彼は電話の相手を知ってる?」など質問を重ね、通報者の女性が今まさに誘拐されている事実を突き止めます。
現在はとある事情でオペレーターをつとめているものの、アスガーはもともと現場でバリバリ事件を追っていた警察官。本来は上層の指令室へ情報を繋ぐまでの仕事でしたが、彼らの悠長にも思える捜査方針に納得できず、アスガーは小さな指令室の中で電話を頼りに独自の捜査を開始するのでした。
加えて、登場人物としてスクリーンにしっかり映るのは、なんと主人公ひとりだけ。カメラも基本的に主人公のみにピントを合わせて周囲はぼやけているため、他の登場人物の顔が明確に映るのは数える程度です。
そんな限定的なシチュエーションでサスペンスを成立させるために、キーとなるのが電話。主人公と電話口の向こうの人々──誘拐された女性、彼女の娘、警察官たち、犯人──との会話によって物語は進んでいきます。 会話劇というより、いっそのこと「電話劇」と呼んだ方がふさわしいような状況。観客に与えられる視覚的な情報は主人公の姿だけで、現場の状況は主人公と同じく被害者の顔すらわかりません。
音声の情報のみを頼りに、観客ひとりひとりが独自の「現場」を頭の中に描き、観る、という独特な鑑賞スタイルの映画。この斬新な演出もオリジナル版・リメイク版で共通しています。
ストーリー展開や特徴的な演出など、かなり忠実にオリジナルを踏襲しているリメイク版ですが、実は全体的な雰囲気はだいぶ異なります(そもそもまったく同じにするならリメイク版の意味がなくなってしまう……)。
オリジナル版と比べたときのリメイク版の魅力は、観る人がより楽しみやすくなっているところ。その理由のひとつは、主人公に関する情報が多くなっていることです。 例えばオリジナル版では一言二言のセリフで暗示するだけだった主人公の家庭状況について、リメイク版ではスマホの待ち受けに娘の写真を入れたり、妻とこっそり通話するシーンを追加。観客が「ああ、離婚か別居するかして子どもと会えなくなってるんだな」と明確に理解できるように変更しています。
加えて主人公の性格にも違いが。ある問題を抱えていて精神的にまいっているのは共通ですが、オリジナル版のアスガーは努めて感情を押し隠し平静を装っている印象です。
一方、リメイク版のジョーはカッとなりやすいタイプ。すぐ怒鳴るし周囲に当たり散らすしで、こんな人職場にいたらイヤだなとは思うものの、アスガーに比べると掴みやすく理解しやすいキャラクターです。 ストイックなくらい情報を絞った演出を徹底しているオリジナル版は、物語に入り込めれば、ジェットコースター並みに揺さぶられる主人公の気持ちをこれでもかと味わえます。しかし入り込めないと退屈にさえ感じるかもしれません。
その点リメイク版は主人公のキャラクターが掴みやすく、観る人が入り込みやすい作風です。普段サスペンスをよく観る人はもちろん、あまり観ない人や何かサクッと観たいというときにも楽しみやすいかもしれません。より多くの観客に受け入れられる魅力がリメイク版にはあります。
そもそも「ワンシチュエーション」も「電話劇」もサスペンス映画の演出として珍しいことに間違いありませんが、作品を魅力的にする効果がなければ何のために用いたのかわからなくなってしまいます。私たち観客は珍しいものが観たいのではなく、面白いものが観たくて映画を観るからです。
本作において「ワンシチュエーション電話劇」という演出は、それ抜きで『THE GUILTY/ギルティ』を語れないほど作品の魅力づくりに貢献。 全編が密室で展開する物語は、見ていて息苦しくなるほど閉塞感に満ちています。この閉塞感、実は劇中の主人公自身が感じているもの。
それは単に閑職に飛ばされたからではなく、彼が逃げ場のない問題を抱えて精神的にギリギリのところまで追い詰められているためです。周囲がぼやけるほど主人公にピントを合わせた映像も、彼がおそらく陥っているであろう視野の狭くなった思考力を表現していると考えられます。
不安や苛立ちにとらわれて視野の狭くなった人が、電話という限られた情報しか得られない中でワンマン捜査なんてしたらどんなことになるか──。本作の特徴的な演出が生む映像は、その後のストーリー展開に強い説得力を与えています。 この閉塞感はリメイク版よりオリジナル版の方がずっしりと感じられます。指令室がより狭いからという物理的な条件もあるのですが、やはりオリジナル版は密室にしても主人公ひとりにピントを合わせるにしても、より厳格に行っていることが影響しているでしょう。
観客が主人公から他へ注意をそらさない、というよりそらせない映像に仕上げ、一度主人公と感情を重ねた観客を決して逃さず、その感情をぶんぶん振り回しながらラストまで連れて行ってしまう。そんな新感覚の映画体験をよりパワフルに味わわせてくれるのが、オリジナル版の魅力です。
世界の注目を集めた新感覚サスペンス、未見の方はぜひチェックしてみてください。オリジナル版予告編
リメイク版予告編
2021年10月にはジェイク・ギレンホールが主演したリメイク版がNetflixで配信スタート。オリジナル版も11月20日からNetflixに登場しています。
サスペンス映画といえばネタバレを特に避けたいジャンル。本作もまさにネタバレ厳禁な一作です。
100%楽しめるのは初見の1回だけなので、ネトフリユーザーはオリジナル版とリメイク版、どちらから観ようか迷ってしまうかもしれません。
今回は『THE GUILTY/ギルティ』の作品紹介に加え、オリジナル版とリメイク版それぞれの魅力を考察したいと思います。
※画像は映画公式サイトおよび予告映像(オリジナル版・リメイク版)より
いたずら電話と思われた通報、実は…
まずは『THE GUILTY/ギルティ』のストーリーから。細部に相違点はあるものの、大部分はオリジナル・リメイク版ともに共通しています。物語の舞台は事件・事故等の通報を受ける警察の電話センター・緊急通報指令室。主人公のアスガー(※リメイク版ではジョー)はオペレーターとして勤務しています。
通報の多くは緊急性の低いもので、うんざりしながら黙々と対応するアスガー。そんな彼のもとへ一本の奇妙な通報が入ります。
通報者は女性で、まるで子どもをあやすような口調で要領を得ない話を繰り返すので、アスガーは酔っ払いのいたずら電話だろうと通話を切りかけました。 しかし彼女の声に切迫したものを感じて思い直し、YES/NOで答えられる質問で状況の確認を試みることに。「誰かと一緒?」「車に乗ってる?」「彼は電話の相手を知ってる?」など質問を重ね、通報者の女性が今まさに誘拐されている事実を突き止めます。
現在はとある事情でオペレーターをつとめているものの、アスガーはもともと現場でバリバリ事件を追っていた警察官。本来は上層の指令室へ情報を繋ぐまでの仕事でしたが、彼らの悠長にも思える捜査方針に納得できず、アスガーは小さな指令室の中で電話を頼りに独自の捜査を開始するのでした。
圧巻のワンシチュエーション“電話劇”
『THE GUILTY/ギルティ』でもっとも特徴的なのはやはり「ワンシチュエーション」という思い切った演出手法。上映時間約90分の長編サスペンス映画でありながら、カメラは緊急通報指令室内から一歩も外に出ず、しかもほぼ2部屋のみで撮影が行われています。加えて、登場人物としてスクリーンにしっかり映るのは、なんと主人公ひとりだけ。カメラも基本的に主人公のみにピントを合わせて周囲はぼやけているため、他の登場人物の顔が明確に映るのは数える程度です。
そんな限定的なシチュエーションでサスペンスを成立させるために、キーとなるのが電話。主人公と電話口の向こうの人々──誘拐された女性、彼女の娘、警察官たち、犯人──との会話によって物語は進んでいきます。 会話劇というより、いっそのこと「電話劇」と呼んだ方がふさわしいような状況。観客に与えられる視覚的な情報は主人公の姿だけで、現場の状況は主人公と同じく被害者の顔すらわかりません。
音声の情報のみを頼りに、観客ひとりひとりが独自の「現場」を頭の中に描き、観る、という独特な鑑賞スタイルの映画。この斬新な演出もオリジナル版・リメイク版で共通しています。
楽しみやすさで選ぶならリメイク版
それでは、リメイク版とオリジナル版それぞれの魅力についてご紹介していきたいと思います。まずはリメイク版から。ストーリー展開や特徴的な演出など、かなり忠実にオリジナルを踏襲しているリメイク版ですが、実は全体的な雰囲気はだいぶ異なります(そもそもまったく同じにするならリメイク版の意味がなくなってしまう……)。
オリジナル版と比べたときのリメイク版の魅力は、観る人がより楽しみやすくなっているところ。その理由のひとつは、主人公に関する情報が多くなっていることです。 例えばオリジナル版では一言二言のセリフで暗示するだけだった主人公の家庭状況について、リメイク版ではスマホの待ち受けに娘の写真を入れたり、妻とこっそり通話するシーンを追加。観客が「ああ、離婚か別居するかして子どもと会えなくなってるんだな」と明確に理解できるように変更しています。
加えて主人公の性格にも違いが。ある問題を抱えていて精神的にまいっているのは共通ですが、オリジナル版のアスガーは努めて感情を押し隠し平静を装っている印象です。
一方、リメイク版のジョーはカッとなりやすいタイプ。すぐ怒鳴るし周囲に当たり散らすしで、こんな人職場にいたらイヤだなとは思うものの、アスガーに比べると掴みやすく理解しやすいキャラクターです。 ストイックなくらい情報を絞った演出を徹底しているオリジナル版は、物語に入り込めれば、ジェットコースター並みに揺さぶられる主人公の気持ちをこれでもかと味わえます。しかし入り込めないと退屈にさえ感じるかもしれません。
その点リメイク版は主人公のキャラクターが掴みやすく、観る人が入り込みやすい作風です。普段サスペンスをよく観る人はもちろん、あまり観ない人や何かサクッと観たいというときにも楽しみやすいかもしれません。より多くの観客に受け入れられる魅力がリメイク版にはあります。
新感覚サスペンスをがっつり味わうならオリジナルで
ただし、楽しみやすさの違いはあるにせよ「ワンシチュエーション電話劇」という超ストイックな演出方法を思い切り楽しみ、新感覚サスペンスとしてがっつり味わいたいなら、断然『THE GUILTY/ギルティ』オリジナル版がオススメです。そもそも「ワンシチュエーション」も「電話劇」もサスペンス映画の演出として珍しいことに間違いありませんが、作品を魅力的にする効果がなければ何のために用いたのかわからなくなってしまいます。私たち観客は珍しいものが観たいのではなく、面白いものが観たくて映画を観るからです。
本作において「ワンシチュエーション電話劇」という演出は、それ抜きで『THE GUILTY/ギルティ』を語れないほど作品の魅力づくりに貢献。 全編が密室で展開する物語は、見ていて息苦しくなるほど閉塞感に満ちています。この閉塞感、実は劇中の主人公自身が感じているもの。
それは単に閑職に飛ばされたからではなく、彼が逃げ場のない問題を抱えて精神的にギリギリのところまで追い詰められているためです。周囲がぼやけるほど主人公にピントを合わせた映像も、彼がおそらく陥っているであろう視野の狭くなった思考力を表現していると考えられます。
不安や苛立ちにとらわれて視野の狭くなった人が、電話という限られた情報しか得られない中でワンマン捜査なんてしたらどんなことになるか──。本作の特徴的な演出が生む映像は、その後のストーリー展開に強い説得力を与えています。 この閉塞感はリメイク版よりオリジナル版の方がずっしりと感じられます。指令室がより狭いからという物理的な条件もあるのですが、やはりオリジナル版は密室にしても主人公ひとりにピントを合わせるにしても、より厳格に行っていることが影響しているでしょう。
観客が主人公から他へ注意をそらさない、というよりそらせない映像に仕上げ、一度主人公と感情を重ねた観客を決して逃さず、その感情をぶんぶん振り回しながらラストまで連れて行ってしまう。そんな新感覚の映画体験をよりパワフルに味わわせてくれるのが、オリジナル版の魅力です。
どっちから観ても! 見比べても!
オリジナル版、リメイク版、それぞれに魅力のある映画『THE GUILTY/ギルティ』。どちらから観ても見比べても楽しめる一作です。世界の注目を集めた新感覚サスペンス、未見の方はぜひチェックしてみてください。
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