そこで今回は、漫画・アニメ・ゲーム・映像など、ポップカルチャーを日々病的に摂取しているKAI-YOUのメンバーが、家の中にいながら世界を広げられる「サブスクストリーミングサービスで見れる映像作品」を紹介。
ステイ・ホームしながら、良質な映像作品を探す機会になればと思います。
本記事は、2019年4月27日に公開した記事を再編集したものになります。
※対象サービスはNetflix/Amazon Prime Video/Hulu オリジナルコンテンツに限らず紹介目次
・わいがちゃんよねや|KAI-YOU CEO
『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』ほか2本
・新見直|KAI-YOU.net KAI-YOU Premium編集長
『テラスハウス OPENING NEW DOORS』ほか2本
・おんだゆうた|KAI-YOU 編集
『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』ほか8本
・キャベツこうべ|KAI-YOU エンジニア
『美味しんぼ』ほか2本
・かよちゃん|KAI-YOU マーケティング
『Dear Friends』ほか2本
・片山|KAI-YOU マーケティング
『ブラックホーク・ダウン』ほか2本
・うぎこ|KAI-YOU アカウントマネージャー
『おっさんずラブ』ほか2本
・わたはる|KAI-YOU デザイナー
『レディ・バード』ほか3本
・森田|KAI-YOU 編集
『私に天使が舞い降りた!』ほか4本
・和田|KAI-YOU 編集
『ゲーム・オブ・スローンズ』ほか6本
※Amazon Prime Videoは「Amazon」表記
※オリジナルコンテンツには😀マーク
わいがちゃんよねや|KAI-YOU CEO
『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(Amazon)
『クレヨンしんちゃん』の映画は大人も泣ける──とかいう言説は聞き飽きた。よく映画レビューや評論で名前を挙げられる『オトナ帝国』『戦国大合戦』がまさにそういった作品の典型だが、それでは「クレしん」映画の一側面しか捉えられていない。「クレしん」の本質は子供のための、子供心のための作品だ。子供心のための作品──そういう意味で紛れもなく最高傑作は1997年に公開された『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』だ。『暗黒タマタマ大追跡』は鬼才・原恵一が初監督した「クレしん」映画として知られ、さらにしんのすけの妹である「ひまわり」が初登場するという記念碑的な作品でもある。
『七人の侍』をはじめとする日本映画の様々なオマージュが散りばめられ、作画の転調やめまぐるしく展開される演出の数々はまさにジェットコースターのような情報量をもって、シリーズ史上最高の「笑い」を提供してくれる。
なお『暗黒タマタマ大追跡』以降、放送コードや倫理的な問題によって『クレヨンしんちゃん』から「オカマ」という言葉が消滅する。『クレヨンしんちゃん』では性を越境した存在として、「オカマ」は最強の存在として描かれることが多い。ひまわりの誕生と環境の変化によって兄として覚醒したしんのすけ、そして事実上最後の「オカマ」たちの活躍をこの目に焼き付けてほしい。
<その他のオススメ作品>
『プラネテス』(Netflix/Hulu)
『セックス・エデュケーション』(😀Netflix)
新見直|KAI-YOU.net KAI-YOU Premium編集長
『テラスハウス OPENING NEW DOORS』 (😀Netflix)
オシャレな美男美女たちの恋愛ドラマ、1mmも興味ねえ〜〜〜。そんな男でも涙した、それがNetflixで配信された『テラスハウス OPENING NEW DOORS』だ。思いを寄せる相手に「あと5歳若かったらなー」と言われたら、あなたならどう受け止めるだろうか?
99%の人間はそれが遠回しな拒絶だと気付いて諦めるだろう。逆に、「希望がないわけじゃないんだ」と受け止めたその言葉だけをまるで護符のように胸にしまい、若作りして若返ってみせようとする人間は普通じゃない。ともすればその行動は狂気だ。
しかし、相手を好きだというその一念で、時をも遡ってみせようとした(ように見えた)その姿には強く心を打たれた。
時間は、ただ消費されるだけではない。何を言ってるかわからないかもしれないが、祈りは時を引き寄せることもできる。「今 キミと私の持ち時間の差は16年だけど
私がキミの事 想い続けていれば
キミが私の事 待ち続けてくれるなら
いつか二人の持ち時間の差はゼロになるんだ」 道満晴明『メランコリア』上「ボビー・フィッシャー」より
たとえば見栄っ張りな彼、たとえば(ある意味)素直な彼女、たとえば俗物で必死な彼……そんな彼ら彼女らの一挙手一投足には、たった1000文字では書き切れない小さな祈りが詰まっている。
そんなつもりではないふとした発言や態度が、実は相手には全く別の意味に捉えられることもあるという当たり前の事実に、それでも時にハッとさせられるかもしれない。
副音声で楽しめる、南キャン山ちゃんの研ぎ澄まされた悪意はそれ単体で一つのショーでもあり、溜飲を下げられることもあるだろう(言葉が過ぎる瞬間ももちろんある)。楽しみ方はそれぞれだ。
そして「どうせヤラセだろう」と思う人にこそ、最後まで観る価値がある。番組である以上、“映されている”という作為は働く。意識するとしないとにかかわらず、“カメラの前に立たされ観られる側の人間”のありのままの姿がそこにはある。それは同じくNetflixで配信された「あいのり Asian Journey」でも、テラハとは全く異なる苛烈な形で噴出している。「リアリティーショーとは何か?」という問いに手をかけた本作はその点だけを切り取っても白眉だ。(Netflixページへ)
<その他のオススメ作品>
『獣になれないわたしたち』(Hulu)
『KONMARI〜人生がときめく片づけの魔法』(😀Netflix)
おんだゆうた|KAI-YOU 編集
『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』(😀Netflix)
Netflixってさ、事前に大々的に宣伝した作品よりも、ゲリラ的にリリースする作品が面白いってことない? 『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』がそういう作品かというとそうではないのだけど、配信前に広告とか見た記憶、ないでしょ。彼女から教えてもらったこの作品は、ロサンゼルスの現代美術界を舞台にしたサスペンス。大金を稼ぐアーティストとその作品をいかに高く売るかに執着する画廊、価値もわからずに高い絵を買うコレクター…登場する誰もが少なからず風刺的に描かれている。出演作に外れなしと言われる(言われてるよね?)ジェイク・ギレンホール演じる美術評論家も例外ではないよ。監督は『ナイトクローラー』でジェイクとタッグを組んだダン・ギルロイだよ。
ちなみに『ストレンジャー・シングス』でナンシーを演じたナタリア・ダイアーが、行く先々の職場で死体の第一発見者になるっていう面白い役どころなので、彼女の成長&絶叫姿を見たい人にもオススメ。とはいえ、最初は彼女ってことに気づかないかもね。(Netflixページへ)
<その他のオススメ作品>
『ユニコーン・ストア』(😀Netflix) ※4/26公開のアベンジャーズメンバーが出演
『思いやりのススメ』(😀Netflix)※4/26公開のアベンジャーズメンバーが出演
『アイ・ソー・ザ・ライト』(Netflix/Amazon)※4/26公開のアベンジャーズメンバーが出演
『意表をつくアホらしい作戦』(😀Netflix)
『ウォールフラワー』(Netflix/Amazon)
『スイス・アーミー・マン』(Netflix/Amazon)
『ドライヴ』(Netflix/Amazon)
『ザ・ウォーク』 (Amazon)
キャベツこうべ|KAI-YOU エンジニア
『美味しんぼ』(Netflix)
『美味しんぼ』はシティポップの体現である。シティポップについて細かく語れないけど、OP、EDに使われた楽曲「YOU」、「Dang Dang 気になる」、「TWO OF US」、「LINE」が最高!!!OP映像の世界観シティポップでしょ!つまりそれ!!
サブスクリプション型音楽サービスで伸びるためにめちゃ重要なのが、耳触りの良さ、BGMとしての優秀さという、シティポップが備えている部分。そして、『美味しんぼ』はBGMにも最適!!アニメを垂れ流してBGMとして聞いています。とりあえず一度観て(聴いて)みてDangDangこの作品にハマってください。(Netflixページへ)
かよちゃん|KAI-YOU マーケティング
『Dear Friends』(Netflix/Amazon/Hulu)
ケータイ小説の始祖、Yoshiが手がけた小説『Dear Friends』。元号が改正されるGW。過ぎ去ろうとしている平成の一つの文化として、ケータイ小説的物語を知ってほしい。ケータイ小説を紹介すると、大抵馬鹿にされる。「ガッシ!ボカッ!」アタシは死んだ。スイーツ(笑)って言われる。だけど、累計で200万部突破の大ベストセラーとなった「恋空」をはじめとして、多くの若者から支持を受けていたのは事実だし、平成中期を彩ったカルチャーであることを理解した上で作品と向き合っていただきたい。"愛情のない父親と過保護の母親。
そして、完璧な容姿を持つ高校生のリナ。
「友達なんて、利用するもの」
そう言い放つリナに予期せぬ出来事が襲う。” zavnより引用
レイプや病気、死といったイベントによって受けたトラウマを克服する(あるいは受け入れていく)ことがケータイ小説の様式美と言われるが、ここが多くの共感や憧れを抱くポイント。
ただ決して、レイプされている人が多いとかそういう話をしているんじゃない。誰しも必ず、トラウマ的な思い出があるはず。いじめられたとか、彼氏に浮気されたとか、親がウザいとか。この気持ちに寄り添う作品だからこそ、ここまで多くの支持を受けているのではないか。
ヤンキー文化からギャル文化へと移行していく中、暴力性は下がり、心に”病み”を秘めていくことが進んでいった。『Dear Friends』とは関係ないけど、かよちゃんは病みに寄り添う浜崎あゆみさんが大好きなので聞いてほしい。
ケータイって便利だけど、つながりを求めていかなきゃいけなくって、生きづらいですよね。今もSNS疲れという言葉をオッサンたちが作ってますが。
そんな時代を感じることができる作品が『Dear Friends』。
平成最後の夜は、浜崎あゆみと『Dear Friends』。これで決まり。(Netflix/Amazon/Huluページへ)
<その他のオススメ作品>
『SHIROBAKO』(Netflix/Amazon)
『愛のむきだし』 (Netflix) /Amazon/Hulu
片山|KAI-YOU マーケティング
『ブラックホーク・ダウン』(Amazon)
戦争映画。あらすじは、1993年10月3日の米軍によるソマリア侵攻で、米軍のヘリ「ブラックホーク」が墜落し、敵地のど真ん中で米軍兵士たちが孤立するところから始まる。「戦争ってよくないよね」という話は一旦置いといて、エンタメとして頭を空っぽにしてみると最高にカッコいい映画。「米軍の少数精鋭部隊 vs 大量の市民」という、「兵士 vs 兵士」とはまた違う絶望感、銃撃音や戦闘時の兵士の所作ひとつひとつのカッコよさに、脳汁がバンバン出るやつです。
定期的に観たくなるので、TSUTAYAでDVDを借りて観て返してを繰り返し、ひとりでテンションを上げていた時代がわたしにもありました。
しかし、サブスク時代が到来し、いつでもどこでも観れることになり、僕はなんて幸せ者なのでしょうか。ストーリーうんぬんよりも、ビジュアルや感覚的なものを楽しむところまでが欲求としてあるため、月額を払うだけで湯水のように好きなシーンを好きなときに好きなだけという贅沢 is 最高。
ちなみに、他の候補で上げている『BLACK LAGOON』のロベルタ初登場シーンの銃撃戦や、『ヨルムンガンド』のオーケストラ戦でルツがヘッドショットをかますシーンも同様です。何度みてもカッコいい....(Amazonページへ)
<その他のオススメ作品>
『BLACK LAGOON』(Netflix/Amazon)
『ヨルムンガンド』(Netflix/Amazon)
うぎこ|KAI-YOU アカウントマネージャー
『おっさんずラブ』(Netflix/Amazon)
言わずと知れた2018年世の中を席捲したテレ朝のラブコメドラマ。全7話という短い構成ながら、鉄板ラブコメとして完成されている。男同士の恋愛だけど純愛モノという視点ではあまりに多くの人から語られているので、腐女子視点で紹介すると、「これPi●ivでみたやつ!」というボーイズラブ漫画やボーイズラブ小説のあるある展開を、顔のいい男たちが本気で演じてくれることに感動した。
正直、第6話の最後の展開はpix●vで400回見たけど号泣したし、第7話のプロポーズは全推しカプにやってほしいでしょ…。個人的には年下しっかり者苦労人攻め×年上ちゃらんぽらん受けが大好物なので、牧くんとはるたんまじでありがとう。
もう一つの見どころとしては、春田、牧、部長という主人公を取り巻くキャラたちが全員いい人なこと。全7話という構成の限界だったのかもしれないが、男同士の恋愛という難しい問題について扱うが、フィクション要素が強くあまりに優しい作中の世界が、主軸のラブコメに集中させてくれる。
どのキャラを好きになっても絶対に損はさせない展開になっているので、安心して感情移入してほしい。登場キャラを全員好きになれるドラマって凄い。
今夏に映画化も決まっているので、まだ見てない方はもちろん、1度見た方も20回見た方もGWに履修して映画に備えよう!(Netflix/Amazon/Huluページへ)
わたはる|KAI-YOU デザイナー
『レディ・バード』(Amazon)
もともと私がなぜこの映画を見たかというと、ポスターに目を奪われたから。主演のシアーシャ・ローナンがマジで可愛い(たぶんオレンジの髪の毛の女の子フェチなんだと思う)。しかも、『Call me by your name』のティモシー・シャラメが出てる。ビジュアルと好きな俳優に惹かれたってだけの単純な理由だけど、マジで心のベスト10に入っちゃうような映画だったと見終わった後に思った。
言ってしまえば反抗期真っ只中の17歳の女の子のお話。ただ、自分の10代の記憶と断片的に重なる部分が多くて妙に共感してしまった。
悪意なく割とすぐに嘘をついたり、イケてるグループの子とつるむためにそれまでの友達を身勝手に切ったり、学校でいいことがあった後に家でお母さんに怒られて気分を悪くして逆ギレしてみたりとか。
25歳の私から見たら「うわぁ...なんか残念な子...」とか考えちゃうんだけど、よく考えたら17歳の時は自分もそうだったんじゃないかと思ってしまう。田舎の大学に進学するのが嫌で、イケてない友達が嫌で、お母さんのお小言がうるさくて。その時の自分の状況と行きたい場所があまりに違っていつもモヤモヤしていたし、イライラしていた気がする(青春っぽい)。
「周りから見られたい自分」とか「自分がありたい自分」になれないのがその頃の環境のせいだと思ってたし、都会に行ったりつるむ友達が変わったりすれば何もかも変わると思ってた。しかし、全くそんなことはなかった。
自分の青春を思い出したくないとか、美化しちゃってる人たちみんなに見て欲しいなって思う。お前らの10代は総じてイタい。だが、私たちの今はそんなイタい10代の地続きなのです。「あの頃は若かったから...」みたいな言葉で片付けないで欲しい。レディ・バードという映画を通して、自分の青春時代を追体験してみるといいかもしれない。(Netflix)
<その他のオススメ作品>
『パーフェクト・レボリューション』(Netflix/Amazon)
『十二国記』(Netflix/Amazon/hulu)
『犬ヶ島』(Amazon)
森田|KAI-YOU 編集
『私に天使が舞い降りた!』(Amazon/Hulu)
アニメをみるようになってからちょうど一年くらい経ちました。これまでほとんどアニメを見てこなかった僕が、アニメを見るきっかけになった『宇宙よりも遠い場所』(通称:よりもい)がいかに素晴らしかったについては過去に記事を書かせていただいたので、今回は2019年冬クールの俺的覇権アニメ『私に天使が舞い降りた!』(通称:わたてん)について紹介します。わたてんは、女子大生・みゃー姉と彼女が恋した女子小学生・花ちゃんを中心に描かれる百合作品です。これだけ聞くと、かなりハードル高めのロリ百合アニメに思われてしまうかもしれませんが、当然ですが露骨な性描写があるなんてことはありません。
百合に馴染みがなかった僕がなぜここまでわたてんにドハマリしたかというと、「とにかく、みゃー姉の妹ひなたのキャラ魅力が凄まじい」という一点に尽きます。
裏表がなく、元気なひなたは、寝るときもお風呂に入るときもずっとみゃー姉から離れようとしない重度のシスコンです。でもこの姉妹っていう関係性が絶妙で、メイン登場人物達の中でこの2人だけが百合ではない純粋な姉妹愛だったりします。
特に僕が好きな回はひなたが風邪をひいて学校を休む話。ここぞとばかりにみゃー姉に甘えまくるひなたが尊すぎました。
GWにひなた回だけ見直すつもりなので、これを読んだあなたも一緒にひなたに癒やされましょう!(Amazon/Huluページ)
<その他のオススメ作品>
『91days』(Amazon)
『B: The Beginning』(😀Netflix)
『たまこラブストーリー』(Amazon)
『モテキ』(Netflix/Amazon/Hulu)
和田|KAI-YOU 編集
『ゲーム・オブ・スローンズ』(Amazon/Hulu)
個人的には今世紀最高峰のエンタメ作品だといいたい。4月についに最終章となるシーズン8が放送開始した『ゲーム・オブ・スローンズ』は「ドラマ史上最高傑作」といわれ、いま世界でもっとも熱狂を生み出している作品だ。これまでに、エミー賞をアメリカのケーブルテレビ史上最高となる累計128部門ノミネー&47回の受賞。制作費は1話ごとにおよそ約1000万ドル(約11億円:シーズン6の場合) と、テレビドラマとしては規格外のスケールを誇る。
かといって、この作品は受け手の快楽を局所的に満たすためのその場しのぎのストーリーテリングや演出が作中で消費されるエンタメ作品でない。『ゲーム・オブ・スローンズ』は、はなから物語を最高のかたちで「終わらせる」ためにすべてを作動させることで、エンターテインメントを極限まで追求している。そのためには長い助走をも厭わないし、ややもすればWebの世界でも語られる「視聴者(読者)の離脱」を一切恐れない。
『ゲーム・オブ・スローンズ』はファンタジー作品ではあるものの、ファンタジー的な完全なヒーローは存在せず、不完全な人間のオンパレードだ。クソをいくらかけてもかけ足りないほどのクソ野郎も、絶望的なほどにわんさかと出てくる。男尊女卑、かつ弱肉強食という地獄のような世界で、登場人物がうける不条理は挙げればキリがない。殺され、犯され、見下され、虐げられる。「レッドウェディング」「シーリーンの死」「ラムジー・ボルトンの暴虐」などは衝撃的な胸糞の悪さだ。そうしたひとつひとつの悲劇を常に取り巻くのが、「家族(血)」や「愛」という、いつの時代も変わらない普遍的な要素だったりするから、さらに感情移入してしまう。
この作品は、そうした起承転結の「結」の発射台となる「起(前振り)」の部分が、数シーズンかけて執拗なまでに丹念に描かれている。辛いが、それが積み重なるほどにより大きなカタルシスを生んでいく。
シーズン8というボリュームはいかにも海外ドラマらしい長さに思えるが、この作品は当初よりシーズン7で完結させるという構想のもとスタートしている(最終的にはシーズン8で完結)。この8年という年月(放送開始が2011年)はダラダラとシリーズを続けた結果ではなく、起承転結を丁寧に構築し、物語が突き進む先の終焉にある快楽を、極限まで高めるために用意されたものなのだ。
こうした作りにも関わらず、それでもなお世界中の視聴者が8シーズンにもわたる物語を毎シーズン、毎エピソード心待ちにするのは、終わりが明確に設定された帰納法的な物語の作りや、すべてを無慈悲に焼き尽くすドラゴンの業火というチート的な存在をはじめとした、「この積もり積もった感情をどこかで回収してくれるはず」という期待感を抱かせる(ときに局所的に回収する)、カタルシスを象徴する要素が各シーズンに埋め込まれている点が大きく与しているように思う。個人的には、各シーズン「しんどい」と思うことは一切なかった。
また、この物語では、とりわけ女性キャラがキーとなっている。
ナイーブで典型的な箱入りのお姫様から一族を率いる「レディ」へと成長するサンサ・スタークや、国を終われ辛酸を舐め尽した日々からの国盗りを実現しようとする「マザー・オブ・ドラゴン」こと主人公のデナーリス・ターガリエン、愛する家族以外は全て敵とみなし歯向かうものはみな殺す女王・サーセイ、男性しかなることのできない騎士として成り上がるブライエニー、レディとなることを拒み、少女から暗殺者となるアーリャ。ありていに言えば「女性の強さ」が際立ち、それがときに世界を支配する男たちをちっぽけな存在として映し出す。
このことから、昨今のジェンダーやソーシャルマイノリティの議論など、現代社会に接続されたテーマ性から本作を評価する声は多い。しかし、(もちろん重要なテーマではあるはずなのだが)これらは決して物語の前提ではなく、あくまでラストに向かってカタルシスを爆発させるための付随する要素にすぎない。それが、本作を「最高のエンターテインメント」だとした理由だ。
『進撃の巨人』で知られる漫画家の諌山創先生は、「こんなものを見せられたら、もう他にエンターテイメントはいらないのではないか」と自身のブログで語っている。
こうして書いてみると、先述の「おっぱい」「殺戮」「ドラゴン」というのは、的を得ているように感じる。「おっぱい」は女性や母性(家族/愛)、生きることを、「殺戮」は不条理と死、「ドラゴン」はカタルシスと、この物語のコアとなる要素を的確に象徴した記号にも捉えられるからだ。 加えて『ゲーム・オブ・スローンズ』の個人的にもっとも好きな点が、物語の外に物語がある点だ。放送開始当時、『ゲーム・オブ・スローンズ』は無名の役者の集まりだった。サミュエル・ターリー役のジョン・ブラッドリー=ウェストなど、テレビ出演の経験すらなかった俳優たちもいる。
最近では主人公 ジョン・スノウ役のキット・ハリントンの、無名時代にコメディドラマで女装ストリップするシーンが掘り起こされ、「キット、本当によかったな...」と涙が出そうになる。また『アクアマン』で一躍スターとなったジェイソン・モモアも、デナーリスの夫(最初はデナーリスを犯す)となる戦闘部族の長 カール・ドロゴとしてシーズン1、2に出演しているし、いまでは世界的女優となったエミリア・クラーク(デナーリス・ターガリエン役)は、ゲーム・オブ・スローンズに携わった8年のあいだに、くも膜下出血の大手術を乗り越えた経験を経て、「ゲーム・オブ・スローンズの8年から役者のすべてを学んだ」と語っている。
無名俳優たちが世界の熱狂を作り上げた8年。この時間の濃密さはキャストたちの友情にも表れており、世界中でゲームオブスローンズのネットミームが拡散し続ける要因にもなっている。さらにジョン・スノウを演じたキット・ハリントンは、作中で結ばれなかった野人のイグリットを演じたローズ・レスリーと結婚した(これが本当に泣ける)。
アメリカではシーズンが始まるたびに、物語の「Winter is coming」というキャッチコピーが春であろうが夏であろうが大々的に並ぶ。遅くまで開いているカフェがあるなと思い店内に入ってみれば、近隣のネイバーたちが上映会を開いて騒いでいるというのも、シーズン中は毎週見られる光景だ。
海外旅行で、その国のサッカー選手の名前を出せば一発で会話のアイスブレイクができるというのはサッカー好きあるあるだが、『ゲーム・オブ・スローンズ』もまさにそれ。「ラムジーに可能な限り凄惨かつ盛大に死んでほしい」という話をすれば、すぐに仲良くなれる。そんな共通言語にすらなっているのだ。
2013年ごろ、ハリウッドの伝統ある芸術機関「アメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)」で学ぶ友人に、「いま、一番ヤバイ映像作品は?」と聞くと、「ぶっちぎりで『ゲーム・オブ・スローンズ』だ」と返ってきた。あれから6年、日本での話題のならなさに悲しみを抱き続けてもいる。
日本では実感をしにくいかもしれないが、いま世界では確実にこの『ゲーム・オブ・スローンズ』が大きな熱狂が起こしており、終わりを迎えようとしている。その熱狂に、GW中に少しだけ触れてみるといいだろう。GW明けには、最終回を待ち望む自分と、この物語が終わってしまう悲しさに気づく自分が同居しているはずだ。(Amazon/Hulu)
<その他のオススメ作品>
『FORMULA 1 栄光のグランプリ』(😀Netflix)
『Love,Death & Robots』(😀Netflix)
『ストレンジャー・シングス』(😀Netflix)
『ハサン・ミンハジ 愛国者として物申す』(😀Netflix)
『ブラック・ミラー バンダースナッチ』(😀Netflix)
『クッキング・ハイ』(😀Netflix)
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日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。
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