歌姫に訪れた歌への意識の変化
──最近ではKizuna AI(キズナアイ)さんや粗品さんなど、レーベル外のクリエイターの方々とのコラボレーションも増えてきたと思います。そうした交流から刺激を受けて、ご自身の中で変化が起きたりはしましたか?これは「私なんて何がいいんだ」みたいなネガティブなものではなくて……いやちょっとはあるんですけど、どんなふうに歌えばより混ざり合うかな、こんなふうに歌ったら、あんなふうに、とか。
1人で歌うときは自分の声しかないので、聴きすぎて頭がおかしくなりそうになるんですけど、一緒に歌う人がどんなふうに歌うかなって妄想しながら歌うのがとても楽しかったです。
──以前のインタビューで「ボーカロイドの世界にはずっと惹かれ続けています」とおっしゃっていましたが、先日音楽的同位体「可不(KAFU)」がデビューし、様々なクリエイターによる楽曲もリリースされています。花譜さんとは似通いながらもクリエイターの方々によって色とりどりの世界観を展開して、新しい存在として成立しているようにも感じますが、花譜さんからみた「可不(KAFU)」はどのような存在なのでしょう?
花譜 自分でもなんだかよくわからない感覚で(笑)。「feat.可不」の文字列からの自分への意識みたいなものはとても薄れてきています。単純にボカロPの方々が可不ちゃんと創り出す世界がとても好きで、よく聴きます! 「あ! 新しい曲!! 聴こう!」みたいな。
可不ちゃんとは液体を通じて繋がってるようなイメージです。直接触れるほど近くはない! みたいな! 伝われ!!!
──伝わりました…! 同じく以前、特に強い言葉で語られていたのが歌へのこだわりでした。「歌を歌うことは本当に生きがいで、私にはこれしかない」という考え方は「例えば」で歌われるテーマでもあり、『映画大好きポンポさん』の主題として描かれているものでもあります。これまでの活動を通じて自身と歌との距離感や、歌そのものへの考え方に変化などはありましたか?
花譜 デビューする前とか、歌を歌いはじめた最初の頃とかは、歌うために曲を聴いているみたいな、覚えるという目的が先行していて「早く歌いたい歌いたい」という感じだったんですけど、今は聴きたいから聴く、という心があります。
この声が聞きたい、この音が聞きたい、と思うことが増えました。歌いたい!!!ってなることもちろんありますが、こう、我が収まったというか……。“歌いたいから聴く”から“聴きたいから聴く→私もこの歌詞声に出してみたいな”へ、という感じになりました。
「最高で一生全部続かせたい」
──劇中では創作に関する数々の名ゼリフが登場し、胸を打つシーンも多くありましたが、印象に残っているものはありますか?花譜 ポンポさんが、目に光が無かったからジーンくんを選んだというシーンです。
自分の中の黒くて好きになれない、そしてきっと誰も好きじゃないから隠しているもの──きっとそれを抱えて生きている人がこの世にたくさんいると思うんですが、だからこそ表現できる、理解できる、つくれる。ジーンくんにとってはそれがポンポさんとの映画になっていて……。
自分のこの感情も葛藤も無駄なんかじゃないんだ、きっといつかどこかに活きてくるんだ、と思えました。
──予告映像での使われ方も印象的でしたが、「例えば」が本編で流れる箇所はそれまでの苦しい状況から抜け出すカタルシスを感じるシーンでした。劇中での活かされ方に関してはどう感じましたか? 花譜 めっちゃ良いところでーーーっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!! と思いました。
もう、歌詞が、本当に歌詞が凄すぎて!!!!!!!!!!! カンザキイオリさんは本当にすごいです!!!
まさしくいくつもの「例えば」を切り貼りして、夢中になってもがきながら確実に前に進んでいくジーンくんを見て芯から体が熱くなりました。心の中で「頑張れ…頑張れ…」と言っていました。
──『映画大好きポンポさん』は絵柄の可愛さに反して、創作の厳しさや華やかな部分だけではないクリエイティブのリアルを描く骨太な作品です。映像と歌で出力の方法は違えども、創作への真摯さという点で共感する部分もありましたか?
花譜 ジーンくんがシーンを増やしたいってチームを再結成してたと思うんですけど、私が同じ立場だったらあれはできないな、言えないなと思いました。
歌は自分とのバトルなので映画とちょっと違うかもしれないけど、後悔はできるだけ減らしたいなと常に思います。妥協をする自分を許したくない!!!! 万事において根に持つタイプなので一生続いてしまいます。だから最高の状態で一生全部のことを続かせたいです。 ──先日は2020年10月から続くワンマンライブ「不可解弐」の完結編としての「不可解弐REBUILDING 」も大成功で幕を閉じました。最後には「不可解参」などの新展開も数々発表されるなど、活動における大きな節目を迎えられたところだと思いますが、最後にそんな今だからこそ考える今後の展望をうかがえますか?
花譜 「不可解弐REBUILDING」無事開催することができました!! 1年3か月ぶりのリアル会場でのワンマンライブで、しかも状況が全然違くて、見てくれる人たちは肩を組むことも声を上げることもできない。
でも、私は、ようやくまた会えたとき本当に泣きそうになりました。拍手の音が生々しくて、みんな生きてて、こっちを見ていて……すごく嬉しかったです。同じ時間に同じ場所で同じものを見て同じ歌を聴いてるって当たり前のようでとてもすごいことだなと思いました。
先のことはわからないですけど、これからもずっと歌っていられたら良いなという気持ちは変わらないです。
©2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会
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作品情報
映画大好きポンポさん
- 原作
- 杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック)
- 『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
- 監督・脚本
- 平尾隆之
- キャラクターデザイン
- 足立慎吾
- 演出
- 居村健治
- 助手
- 三宅寛治
- 作画監督
- 加藤やすひさ 友岡新平 大杉尚広
- 美術監督
- 宮本実生
- 色彩設計
- 千葉絵美
- 撮影監督
- 星名工 魚山真志
- CG監督
- 髙橋将人
- 編集
- 今井剛
- 音楽
- 松隈ケンタ
- 制作プロデューサー
- 松尾亮一郎
- 制作
- CLAP
- 配給
- 角川ANIMATION
- CAST
- ジーン/ジーン・フィニ:清水尋也
- ポンポさん/ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット:小原好美
- ナタリー/ナタリー・ウッドワード:大谷凜香
- ミスティア:加隈亜衣
- マーティン/マーティン・ブラドック:大塚明夫
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