映画の都・ニャリウッドを舞台に、ものづくりに魂を燃やす人々を描いた漫画『映画大好きポンポさん』。pixivで公開されると瞬く間に人気を集め、累計で94万ビューを記録。「このマンガがすごい!」などに入賞を果たしている。
ほとばしるほどの映画愛はファンだけでなくクリエイターたちの心にも火を付け、『劇場版「空の境界」第五章 矛盾螺旋』『GOD EATER』などを手がけてきたアニメ監督・平尾隆之さん、「ソードアート・オンライン」シリーズのキャラクターデザインを手がけた足立慎吾さんをはじめとした充実のスタッフ陣によって劇場アニメ化。6月4日からの公開で累計興行収入は1億円を突破している。
もともとは没になってしまったアニメの企画だったというアイデアが、原作者・杉谷庄吾【人間プラモ】さんの不屈の意思によって蘇り、劇場アニメにまでなったという映画のようなシンデレラストーリーを歩んできた本作。公開延期に見舞われながらも大ヒットを記録し、公開後に劇場数が拡大されるなど快進撃を続けている。劇場アニメ『映画大好きポンポさん』本予告
そんな今注目のアニメ作品に主題歌・挿入歌で華を添えているのが、異能のクリエイター集団・KAMITSUBAKI STUDIOに所属するアーティスト、CIELさん、EMAさん、そして花譜さんだ。
三者三様の歌声で、クリエイティブに命を懸ける人々の生き様をありありと描き出してみせた歌姫たちの中から、今回は花譜さんにインタビューを実施。映画と歌で表現は違えども「クリエイターとして共感した」という劇場アニメ『映画大好きポンポさん』について話を聞いた。
「幸福は創造の敵」──作品のテーマとして掲げられる危ういまでの尊い思想に、稀代の歌姫はいかに心を寄せたのか。他の何を捨ててでも創作に臨むという一見狂気的な旅路の中で、それでも見失わない歌を聞いてくれる人々への思いとは。
※劇場アニメ『映画大好きポンポさん』のネタバレを含みます。
取材・文:オグマフミヤ
花譜 『映画大好きポンポさん』という素敵な作品の中で、歌を歌わせていただけて本当に嬉しかったです。『ホットギミック ガールミーツボーイ』で主題歌を歌わせていただいたときもそうだったんですが、映画館で直接自分の声が流れるのを聞くまで、実感が上手く湧かないです。
映画のことを思い出すときに、「例えば」が頭に流れ出したり、「例えば」を聴いたときに映画のことを思い出したり、『映画大好きポンポさん』を見た人たちにとって切っても切り離せないようなところに「例えば」があったらいいなと思います。CIELちゃんの「窓を開けて」、EMAちゃんの「反逆者の僕ら」も大好きです。【オリジナルMV】窓を開けて / CIEL #01
EMA「反逆者の僕ら」
──様々な作品でテーマソングを歌う機会が増えてきたと思いますが、他の作品とご自身の楽曲が混ざり合う中で、普段と意識が変わるようなことはあるのでしょうか?
花譜 意識が変わるようなことは特にありません。でも歌うときに、よく頭の中に曲を聞いて妄想した映像を流すんですが、そこにその作品のキャラクターやワンシーンが登場するときがあります。
──今回の挿入歌「例えば」はかき鳴らしたギターの疾走感に花譜さんの透き通る歌声が重なって、MVで描かれる雄大な景色に響き渡るような力強いギターロックに仕上がっていました。予告編でも使われている大サビは、特に強く作品テーマとのリンクを感じる部分ですが、歌う立場からみた楽曲の魅力を教えてください。 花譜 すべてですが、私は特に歌詞をとても愛していて、初めてこの曲を映画の中で聴いたとき、「まさしく『映画大好きポンポさん』の曲だ……」と思いました。
「例えばその光があれば揺れる髪も爪の色も春風を知った雪雲も全部を捨ててもいい どうでもいいんだよ」という歌詞があるんですが、映画って誰かの何日何週間何十年もの生活がぎゅっと1、2時間になっていて、でも私たちはそれを見て目まぐるしいな!!!って思わないですよね。
いろんなことがちょんぎられているのにあまりにも自然で、本当に今生きてるみたいで、そしてとっても綺麗……そう、まさに、この歌詞なのです。花譜 #80「例えば」
──まさに…! しかし、創作にかける情熱が真っ直ぐに描かれる一方で、それ以外のすべてを捨て去っても構わないといった危うさも表現されています。そうした自己と創作のバランスについては花譜さんも葛藤されたりしますか?
花譜 ジーンくんほどではないですが……
「今!! この! そう! このかんじ!!!気持ち!! 心!! 留めたい!!! 今! 録りたい!!!! 今じゃなきゃだめだ!!」と深夜に歌の録音をはじめたり、何時間か歌って喉がちょっとやばいなと思っても「待って!!ちょっとあと1回録ってみよう! なんかもっとよくなる気がする!!」と、自分を鼓舞して結局めちゃくちゃ録り直すことになるんですけど、「というかこれ最初からやり直した方が良くない?」となったりとか、よくあります(笑)。
次の日ちょっぴり後悔したりもするんですけど、もうちょっとあとで、そのときの産物を聴くとめちゃくちゃ満たされるのでやっぱり自分が満足できるのが一番良いなと思います。でも私はぐっすり寝たいしおいしいごはんを食べたい!!!
花譜 田舎に暮らしているのでコロナウイルスが蔓延しはじめた頃はまったく実感がなくて、ただテレビとかネットとかでなんだか別世界のことが流れてるみたいだなあと思っていました。
コロナウイルスの影響で家でレコーディングすることが多くなりました。1人なので時間の制限なく何回でもやり直せるのは本当に素晴らしいです。
でも、普段はカンザキイオリさん(※)が「ここ、こういうふうに歌ってみて」とアドバイスをくださったり「イイネー!」と言ってくださったりするので、完全に自分本意で歌っていると「本当にこれが良いのか??」とどんどん不安になってくるところが1人録音の玉に瑕なところです。たまにきずという語彙、初めて使った。
※カンザキイオリ:ボカロP(ボーカロイドプロデューサー)/コンポーザー。花譜さんの楽曲で作詞・作曲・編曲を担当している。 ──歴史的な瞬間に立ち会えて光栄です。そうした状況にあって、花譜さんと活動領域の近いバーチャルYouTuberの方々はVRライブなど、新たなエンターテインメントの領域を展開しています。現在の状況下だからこそ感じる音楽そのものの魅力や、今だからできることについての意義はどのように感じていますか?
花譜 何をするにも困難かと思われてしまうような状況で、ライブを配信してくれたり、曲を発表してくれたり、活動を続けてくれる大好きなアーティストたちがいることで得られる心強さといったら! という感じです。
たぶんコロナがなかったら出会わなかっただろう自部屋で撮ったMVとか、見つけられなかっただろう今大好きな曲とか、コロナがなかったらなかったでも出会いはあったのだろうけど、今はそれらが圧倒的に愛しいです。 花譜 今しか思いつけないことってたくさんあると思っていて、例えば私これ前テレビで見たんですけど、ライブハウスの壁に穴が空いてて、そこからライブを見るっていう。完全に自分とそのアーティストとのプライベート空間じゃないですかそんなの……。ファンだったら大歓喜だなあ、いいなあと思いました。
でも、これってお客さんがいっぱい入れないから思いついたことで! 状況を嘆くのではなく「じゃあこれは? これは?」って今できる楽しいことをどんどん思いつける方、すごいな、たくましいな、と思います。プロデューサーさんもそうです。
ほとばしるほどの映画愛はファンだけでなくクリエイターたちの心にも火を付け、『劇場版「空の境界」第五章 矛盾螺旋』『GOD EATER』などを手がけてきたアニメ監督・平尾隆之さん、「ソードアート・オンライン」シリーズのキャラクターデザインを手がけた足立慎吾さんをはじめとした充実のスタッフ陣によって劇場アニメ化。6月4日からの公開で累計興行収入は1億円を突破している。
もともとは没になってしまったアニメの企画だったというアイデアが、原作者・杉谷庄吾【人間プラモ】さんの不屈の意思によって蘇り、劇場アニメにまでなったという映画のようなシンデレラストーリーを歩んできた本作。公開延期に見舞われながらも大ヒットを記録し、公開後に劇場数が拡大されるなど快進撃を続けている。
三者三様の歌声で、クリエイティブに命を懸ける人々の生き様をありありと描き出してみせた歌姫たちの中から、今回は花譜さんにインタビューを実施。映画と歌で表現は違えども「クリエイターとして共感した」という劇場アニメ『映画大好きポンポさん』について話を聞いた。
「幸福は創造の敵」──作品のテーマとして掲げられる危ういまでの尊い思想に、稀代の歌姫はいかに心を寄せたのか。他の何を捨ててでも創作に臨むという一見狂気的な旅路の中で、それでも見失わない歌を聞いてくれる人々への思いとは。
※劇場アニメ『映画大好きポンポさん』のネタバレを含みます。
取材・文:オグマフミヤ
目次
『映画大好きポンポさん』×「花譜」
──レーベルメイトのCIELさんEMAさんと共に『映画大好きポンポさん』の主題歌・挿入歌に抜擢され、発表の時点から大きな反響・期待が寄せられていました。実際に劇場で見た人たちからも好評ですが、挿入歌に抜擢されたときはどう思いましたか?花譜 『映画大好きポンポさん』という素敵な作品の中で、歌を歌わせていただけて本当に嬉しかったです。『ホットギミック ガールミーツボーイ』で主題歌を歌わせていただいたときもそうだったんですが、映画館で直接自分の声が流れるのを聞くまで、実感が上手く湧かないです。
映画のことを思い出すときに、「例えば」が頭に流れ出したり、「例えば」を聴いたときに映画のことを思い出したり、『映画大好きポンポさん』を見た人たちにとって切っても切り離せないようなところに「例えば」があったらいいなと思います。CIELちゃんの「窓を開けて」、EMAちゃんの「反逆者の僕ら」も大好きです。
花譜 意識が変わるようなことは特にありません。でも歌うときに、よく頭の中に曲を聞いて妄想した映像を流すんですが、そこにその作品のキャラクターやワンシーンが登場するときがあります。
──今回の挿入歌「例えば」はかき鳴らしたギターの疾走感に花譜さんの透き通る歌声が重なって、MVで描かれる雄大な景色に響き渡るような力強いギターロックに仕上がっていました。予告編でも使われている大サビは、特に強く作品テーマとのリンクを感じる部分ですが、歌う立場からみた楽曲の魅力を教えてください。 花譜 すべてですが、私は特に歌詞をとても愛していて、初めてこの曲を映画の中で聴いたとき、「まさしく『映画大好きポンポさん』の曲だ……」と思いました。
「例えばその光があれば揺れる髪も爪の色も春風を知った雪雲も全部を捨ててもいい どうでもいいんだよ」という歌詞があるんですが、映画って誰かの何日何週間何十年もの生活がぎゅっと1、2時間になっていて、でも私たちはそれを見て目まぐるしいな!!!って思わないですよね。
いろんなことがちょんぎられているのにあまりにも自然で、本当に今生きてるみたいで、そしてとっても綺麗……そう、まさに、この歌詞なのです。
花譜 ジーンくんほどではないですが……
「今!! この! そう! このかんじ!!!気持ち!! 心!! 留めたい!!! 今! 録りたい!!!! 今じゃなきゃだめだ!!」と深夜に歌の録音をはじめたり、何時間か歌って喉がちょっとやばいなと思っても「待って!!ちょっとあと1回録ってみよう! なんかもっとよくなる気がする!!」と、自分を鼓舞して結局めちゃくちゃ録り直すことになるんですけど、「というかこれ最初からやり直した方が良くない?」となったりとか、よくあります(笑)。
次の日ちょっぴり後悔したりもするんですけど、もうちょっとあとで、そのときの産物を聴くとめちゃくちゃ満たされるのでやっぱり自分が満足できるのが一番良いなと思います。でも私はぐっすり寝たいしおいしいごはんを食べたい!!!
コロナ禍の1人レコーディングは“玉に瑕”
──本作の公開が延期されるなど、新型コロナウイルスは様々な分野に影響を与えています。花譜さんご自身の身の回りでの変化、創作意欲・活動などの変化などはありましたか?花譜 田舎に暮らしているのでコロナウイルスが蔓延しはじめた頃はまったく実感がなくて、ただテレビとかネットとかでなんだか別世界のことが流れてるみたいだなあと思っていました。
コロナウイルスの影響で家でレコーディングすることが多くなりました。1人なので時間の制限なく何回でもやり直せるのは本当に素晴らしいです。
でも、普段はカンザキイオリさん(※)が「ここ、こういうふうに歌ってみて」とアドバイスをくださったり「イイネー!」と言ってくださったりするので、完全に自分本意で歌っていると「本当にこれが良いのか??」とどんどん不安になってくるところが1人録音の玉に瑕なところです。たまにきずという語彙、初めて使った。
※カンザキイオリ:ボカロP(ボーカロイドプロデューサー)/コンポーザー。花譜さんの楽曲で作詞・作曲・編曲を担当している。 ──歴史的な瞬間に立ち会えて光栄です。そうした状況にあって、花譜さんと活動領域の近いバーチャルYouTuberの方々はVRライブなど、新たなエンターテインメントの領域を展開しています。現在の状況下だからこそ感じる音楽そのものの魅力や、今だからできることについての意義はどのように感じていますか?
花譜 何をするにも困難かと思われてしまうような状況で、ライブを配信してくれたり、曲を発表してくれたり、活動を続けてくれる大好きなアーティストたちがいることで得られる心強さといったら! という感じです。
たぶんコロナがなかったら出会わなかっただろう自部屋で撮ったMVとか、見つけられなかっただろう今大好きな曲とか、コロナがなかったらなかったでも出会いはあったのだろうけど、今はそれらが圧倒的に愛しいです。 花譜 今しか思いつけないことってたくさんあると思っていて、例えば私これ前テレビで見たんですけど、ライブハウスの壁に穴が空いてて、そこからライブを見るっていう。完全に自分とそのアーティストとのプライベート空間じゃないですかそんなの……。ファンだったら大歓喜だなあ、いいなあと思いました。
でも、これってお客さんがいっぱい入れないから思いついたことで! 状況を嘆くのではなく「じゃあこれは? これは?」って今できる楽しいことをどんどん思いつける方、すごいな、たくましいな、と思います。プロデューサーさんもそうです。
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作品情報
映画大好きポンポさん
- 原作
- 杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック)
- 『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
- 監督・脚本
- 平尾隆之
- キャラクターデザイン
- 足立慎吾
- 演出
- 居村健治
- 助手
- 三宅寛治
- 作画監督
- 加藤やすひさ 友岡新平 大杉尚広
- 美術監督
- 宮本実生
- 色彩設計
- 千葉絵美
- 撮影監督
- 星名工 魚山真志
- CG監督
- 髙橋将人
- 編集
- 今井剛
- 音楽
- 松隈ケンタ
- 制作プロデューサー
- 松尾亮一郎
- 制作
- CLAP
- 配給
- 角川ANIMATION
- CAST
- ジーン/ジーン・フィニ:清水尋也
- ポンポさん/ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット:小原好美
- ナタリー/ナタリー・ウッドワード:大谷凜香
- ミスティア:加隈亜衣
- マーティン/マーティン・ブラドック:大塚明夫
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