バーチャルYouTuber(VTuber)のキズナアイさんについての話題がSNS上を賑わせています。
最近の活動を巡り引退するのではないかと様々な憶測が飛び交いTwitterのトレンドにも登場、チャンネル登録者数も減少するなど多くの影響が出ています。
この記事では経緯について改めて確認しながら、何が問題だったのか整理していきます。キズナアイが4人いるって言ったら信じますか? #1
計10本の動画が投稿されたこのシリーズは、キズナアイさんが4人に分裂しながらより多くのみんなとつながるために自身の様々な可能性を広げようと模索するものでした。
このような可能性については『ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber』に掲載されたインタビューでも言及されている通り、以前から検討されていたものでした。 今までと異なる声のキズナアイさんが登場するなどした「キズナアイな日々」の後、6月30日にキズナアイさんの2回目となる誕生日パーティー「A.I. Party! 2019 〜 hello, how r u? 〜」が開催されます。 このライブの終盤でキズナアイさんは一連の動画について言及。「より私の可能性を広げていくために、よりたくさんの人間のみんなと出会うために、この決断をしました」と改めて説明しました。
さらにライブ終了後のアンコールでは中国語を話すキズナアイさんが登場しファンを驚かせました。また、中国語をインストールしたキズナアイさんは今後、中国の動画サイト「bilibili」にて活動していくと発表されました。【いってらっしゃい!】私のチャレンジ、どうぞよろしくお願いします!【中国語】
しかし7月の半ば以降、もともと活躍していた声のキズナアイさんの登場する頻度が減少。ファンからは不審に思う声が上がりました。
様々な憶測が流れる中、8月16日にキズナアイさんを運営するActiv8株式会社はbilibiliにて「Kizuna AIファンのみなさんへ」と題した声明を発表(外部リンク)。
もともと活動していたキズナアイさんについて「初期ボイスモデルのKizuna AIに関して、活動を休止するというようなことはございません」と明言しました。 また初期ボイスモデルのキズナアイさんも16日に生配信に登場。18日の「SUMMER SONIC 2019」への出演のために投稿頻度が減っていたと改めて謝罪しました。【LIVE】サマソニ開幕!緊急LIVE配信!
しかし声明や配信を経てもキズナアイさんへの言及は尽きず、17日のTwitterではキズナアイさんがトレンドに入り、いわゆる炎上の形となっていました。
また、飛び交っている情報についてもActiv8の声明にもあったとおり「様々な憶測や虚偽の情報が、流布されている状況」であると考えられるため、今回は言及しません。
しかしそれでも、一連の対応については疑問が残ります。
1つ目は今回の声明がbilibiliのサイト上のみで発表されたこと。憶測の中には中国の話題も含まれており、特に中国のファンに向けた発表が必要だったことは理解できます。しかしそれでも、公式サイトにも合わせて掲載し日本のファンに向けても発表することが、あらぬ詮索を減らすためには必要だったのではないかと考えます。
トレンドに表示されたこともあってか、Twitterではキズナアイさんを良く知らない利用者が言及することでネガティブな印象が広まっていました。それ自体は責められません。だからこそ、運営側から公式に日本のファンに向けたメッセージが必要でした。
2つ目には初期ボイスモデルのキズナアイさんに謝罪させたことです。運営側からのメッセージが行き届いていない状態で配信をさせるのはかなり悪印象でした。
キズナアイさんが矢面に立たされ、運営側はそれを隠れ蓑にして責任から逃れようとしていると受け止められてもおかしくない。仮に登場させることで安心させようとしたのだと好意的に解釈しても、逆効果にしかなりません。
以前の記事(関連記事)でも同じような旨を書きましたが、謝罪まで動画に登場するタレントに任せるのであれば運営とはタレントと対立する存在だとファンから認識されても仕方ないのではないでしょうか。
マネジメントなどの裏方担当の方や動画内に登場するVTuberの運営がファンから好印象なのは、VTuber以外の関係者を1つの人格として認識できるからです。
3つ目はそもそも今回の分裂の経緯はキズナアイさんのファンにどの程度伝わっていたのかということです。
キズナアイさんは日本以外の国にも多数のファンを抱えチャンネル登録者数は260万人を数えます。対して、「キズナアイな日々」の動画の再生数は多くても55万回に過ぎません。限定公開の動画や各インタビューまで熱心に追いかけ、今回の件と結びつけるファンとなればなおさら少ないでしょう。
しかし、すべての動画やキズナアイさんの活動を追っていなくとも彼女のファンだと自認している人も多くいるはずで、それはそれでファンと自認して良いはずです。
多くのファンが拒否反応や、分裂までの経緯に性急さを感じるのであれば、各種インタビューや「キズナアイな日々」だけではキズナアイさんが「よりみんなとつながる」ための準備として不十分だったと言わざるを得ません。もっと長い期間や別の方法でも分裂の可能性についてファンにアピールすべきでした。
しかしこのような声明はファンが求めていたものでしょうか? テーマや理念についての長々とした文章を、肝心の引退について明言する文章の前に置いておくのは、ファンを信頼していない、かつファンの信頼にも応えていない言い訳がましい行為ではないでしょうか。そのような理念こそ、言葉にせずとも動画やその活動の中に表れ評価されるべきものではないでしょうか。
理念について語られる段落内ではキズナアイさんを語る上で欠かせないキーワードとして「分人」という考え方が紹介されています。
おそらくこの分人は作家の平野啓一郎さんが考案した概念で、「本当の自分」の上に「仮面」や「キャラ」を被って他人と接する個人というモデルではなく、「家族といるときの自分」や「友人と話すときの自分」「同僚と話すときの自分」というシチュエーションに応じた自分、分人の総体として1人の人間があるとする考え方です。 例えばVTuberの活動も「アバターを通して視聴者と交流する自分」という分人をつくり上げる行為だと考えられますし、キズナアイさんの分裂を分人に当てはめることも可能かもしれません。
分人やゲーム部プロジェクトの声明に登場した「CTuber」という単語について考えることも、VTuberの鑑賞のされ方やアバターの在り方について考察を深めるためには必要であり、機会があればぜひにとも思います。
VTuberについては「アニメキャラのガワを被ったニコ生」と揶揄されることもありますが、それ以外の語られていない要素や可能性は数多くあり、また仮に「アニメキャラのガワを被ったニコ生」に過ぎないとしても、ニコ生やLINE LIVE、YouTuberではなくVTuberを好んで見る層がいることからも、単純に済ませるだけでなく特に取り上げて語るべきことが残されているはずです。
しかしそれについて語るのは運営とファンとの間を取り持つメディアや新しい視点を提供する批評の役割であり、運営のすべきことではありません。
今回、キズナアイさんにとって何よりも大事だったことは引退を不安視するファンに対して、その不安に寄り添った声明をActiv8がはっきりとわかりやすい形で発表することでした。今後、信頼回復には長い期間がかかると思いますが、Activ8が無事にファンからの期待を取り戻すことを願ってやみません。
最近の活動を巡り引退するのではないかと様々な憶測が飛び交いTwitterのトレンドにも登場、チャンネル登録者数も減少するなど多くの影響が出ています。
この記事では経緯について改めて確認しながら、何が問題だったのか整理していきます。
キズナアイの分裂
5月25日に投稿された動画「キズナアイが4人いるって言ったら信じますか? #1」から始まる一連の動画シリーズ「キズナアイな日々」。このような可能性については『ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber』に掲載されたインタビューでも言及されている通り、以前から検討されていたものでした。 今までと異なる声のキズナアイさんが登場するなどした「キズナアイな日々」の後、6月30日にキズナアイさんの2回目となる誕生日パーティー「A.I. Party! 2019 〜 hello, how r u? 〜」が開催されます。 このライブの終盤でキズナアイさんは一連の動画について言及。「より私の可能性を広げていくために、よりたくさんの人間のみんなと出会うために、この決断をしました」と改めて説明しました。
さらにライブ終了後のアンコールでは中国語を話すキズナアイさんが登場しファンを驚かせました。また、中国語をインストールしたキズナアイさんは今後、中国の動画サイト「bilibili」にて活動していくと発表されました。
キズナアイな日々、その後
その後、キズナアイさんのチャンネルでは計4人の声の異なるキズナアイさんが活躍する形になりました。しかし7月の半ば以降、もともと活躍していた声のキズナアイさんの登場する頻度が減少。ファンからは不審に思う声が上がりました。
様々な憶測が流れる中、8月16日にキズナアイさんを運営するActiv8株式会社はbilibiliにて「Kizuna AIファンのみなさんへ」と題した声明を発表(外部リンク)。
もともと活動していたキズナアイさんについて「初期ボイスモデルのKizuna AIに関して、活動を休止するというようなことはございません」と明言しました。 また初期ボイスモデルのキズナアイさんも16日に生配信に登場。18日の「SUMMER SONIC 2019」への出演のために投稿頻度が減っていたと改めて謝罪しました。
不適切だったActiv8の対応
キズナアイさんが分裂した件についての私の意見は以前の記事でも書いたとおりです。「世界中のみんなとつながりたい!」という意志がある限り、キズナアイさんをキズナアイとして応援したいと思います。また、飛び交っている情報についてもActiv8の声明にもあったとおり「様々な憶測や虚偽の情報が、流布されている状況」であると考えられるため、今回は言及しません。
しかしそれでも、一連の対応については疑問が残ります。
1つ目は今回の声明がbilibiliのサイト上のみで発表されたこと。憶測の中には中国の話題も含まれており、特に中国のファンに向けた発表が必要だったことは理解できます。しかしそれでも、公式サイトにも合わせて掲載し日本のファンに向けても発表することが、あらぬ詮索を減らすためには必要だったのではないかと考えます。
トレンドに表示されたこともあってか、Twitterではキズナアイさんを良く知らない利用者が言及することでネガティブな印象が広まっていました。それ自体は責められません。だからこそ、運営側から公式に日本のファンに向けたメッセージが必要でした。
2つ目には初期ボイスモデルのキズナアイさんに謝罪させたことです。運営側からのメッセージが行き届いていない状態で配信をさせるのはかなり悪印象でした。
キズナアイさんが矢面に立たされ、運営側はそれを隠れ蓑にして責任から逃れようとしていると受け止められてもおかしくない。仮に登場させることで安心させようとしたのだと好意的に解釈しても、逆効果にしかなりません。
以前の記事(関連記事)でも同じような旨を書きましたが、謝罪まで動画に登場するタレントに任せるのであれば運営とはタレントと対立する存在だとファンから認識されても仕方ないのではないでしょうか。
マネジメントなどの裏方担当の方や動画内に登場するVTuberの運営がファンから好印象なのは、VTuber以外の関係者を1つの人格として認識できるからです。
3つ目はそもそも今回の分裂の経緯はキズナアイさんのファンにどの程度伝わっていたのかということです。
キズナアイさんは日本以外の国にも多数のファンを抱えチャンネル登録者数は260万人を数えます。対して、「キズナアイな日々」の動画の再生数は多くても55万回に過ぎません。限定公開の動画や各インタビューまで熱心に追いかけ、今回の件と結びつけるファンとなればなおさら少ないでしょう。
しかし、すべての動画やキズナアイさんの活動を追っていなくとも彼女のファンだと自認している人も多くいるはずで、それはそれでファンと自認して良いはずです。
多くのファンが拒否反応や、分裂までの経緯に性急さを感じるのであれば、各種インタビューや「キズナアイな日々」だけではキズナアイさんが「よりみんなとつながる」ための準備として不十分だったと言わざるを得ません。もっと長い期間や別の方法でも分裂の可能性についてファンにアピールすべきでした。
キズナアイの「分人」という考え方
最後に声明文の内容です。公開された声明文は多くの部分をキズナアイさんが生まれた経緯、その理念やテーマを説明する段落に割かれています。しかしこのような声明はファンが求めていたものでしょうか? テーマや理念についての長々とした文章を、肝心の引退について明言する文章の前に置いておくのは、ファンを信頼していない、かつファンの信頼にも応えていない言い訳がましい行為ではないでしょうか。そのような理念こそ、言葉にせずとも動画やその活動の中に表れ評価されるべきものではないでしょうか。
理念について語られる段落内ではキズナアイさんを語る上で欠かせないキーワードとして「分人」という考え方が紹介されています。
おそらくこの分人は作家の平野啓一郎さんが考案した概念で、「本当の自分」の上に「仮面」や「キャラ」を被って他人と接する個人というモデルではなく、「家族といるときの自分」や「友人と話すときの自分」「同僚と話すときの自分」というシチュエーションに応じた自分、分人の総体として1人の人間があるとする考え方です。 例えばVTuberの活動も「アバターを通して視聴者と交流する自分」という分人をつくり上げる行為だと考えられますし、キズナアイさんの分裂を分人に当てはめることも可能かもしれません。
分人やゲーム部プロジェクトの声明に登場した「CTuber」という単語について考えることも、VTuberの鑑賞のされ方やアバターの在り方について考察を深めるためには必要であり、機会があればぜひにとも思います。
VTuberについては「アニメキャラのガワを被ったニコ生」と揶揄されることもありますが、それ以外の語られていない要素や可能性は数多くあり、また仮に「アニメキャラのガワを被ったニコ生」に過ぎないとしても、ニコ生やLINE LIVE、YouTuberではなくVTuberを好んで見る層がいることからも、単純に済ませるだけでなく特に取り上げて語るべきことが残されているはずです。
しかしそれについて語るのは運営とファンとの間を取り持つメディアや新しい視点を提供する批評の役割であり、運営のすべきことではありません。
今回、キズナアイさんにとって何よりも大事だったことは引退を不安視するファンに対して、その不安に寄り添った声明をActiv8がはっきりとわかりやすい形で発表することでした。今後、信頼回復には長い期間がかかると思いますが、Activ8が無事にファンからの期待を取り戻すことを願ってやみません。
VTuberの可能性
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