それぞれ50年以上の歴史をもちながらも、史上初となるジャンプとマガジンのコラボレーションは、漫画好きであれば驚き以外のなにものでもないだろう。 ゲストに迎えられたケンドーコバヤシさんとともに、集英社からは『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さんとWeb漫画雑誌「少年ジャンプ+」(以下「ジャンプ+」)担当の細野修平さん。そして講談社からは、『週刊少年マガジン』編集長の栗田宏俊さんと公式アプリ「マガジンポケット」(以下「マガポケ」)担当の橋本脩さんが登場。
両誌の編集長とWeb漫画サイトの担当者が一堂に会し、「少年ジャンマガ学園」の記者発表会が行われた。
ジャンプとマガジンが「共闘」のきっかけ
今回の企画は、ジャンプとマガジンの編集部が定期的に情報交換をするなかで、どちらからの提案ということもなく、雑談ベースから立ち上がった。実際に企画が動きだしたのは、2018年の10月から。 ジャンプとマガジンと言えば、やはり少年漫画においてしのぎを削る存在という印象が強い。両誌の編集長も、企画があがってきた際には実現するか半信半疑だったという。
『ミスター味っ子』『オフサイド』『特攻の拓』『金田一少年の事件簿』など、マガジン作品にも魅了されていたというジャンプ編集長の中野博之さん。「ついにこの日が来た。いち漫画好きとしてもドキドキしている」と発表会の冒頭で語りつつも、「企画を聞いたときは、やっちゃえやっちゃえという感じ。むしろマガジンに断られるのが心配だった」という。
仲が悪いわけではないんですけど(笑)、先生がたの協力も必要ですし、それぞれ50年以上やってきたなかでハードルも高かったとは思うんですが、スタッフの情熱があってはじめて実現しました。
4月1日のエイプリルフールにジャンプとマガジンがタッグを組むという情報を出しましたが、やはり誰も信じてませんでした(笑)。 『ジャンプ』中野さん
突然ですが #週刊少年ジャンプ は #週刊少年マガジン と合体し、『 #少年ジャンマガ 』が誕生します‼︎ pic.twitter.com/VnKWEQCCNc
— 少年ジャンプ編集部 (@jump_henshubu) 2019年4月1日
「ライバルが共闘する」という、ある意味で少年漫画の王道展開を、少年漫画誌の両雄自ら体現することとなった。(はじめに企画を聞いたときは)マジか!? の一言でした。僕は入社25年ですが、打倒『少年ジャンプ』を掲げて仕事をしてきましたし、最大のライバルとして常に意識をしてきた好敵手です。なので、本当にジャンプはいいって言ってるの!? と当初は半信半疑でした。
とはいえ、一度決まったらスムーズにプロジェクトは実現に向かって順調に進みましたね。ジャンプ派、マガジン派、読者にはいらっしゃるかもしれませんが、ジャンマガ学園では数えきれないくらいのコンテンツを用意しているので、全国の若い読者に楽しんでほしいです 『マガジン』栗田さん
エンターテインメントが多様化する中で、ジャンプとマガジンはライバルであるけども、一緒に漫画を盛り上げる仲間。これまでは思いだけだったのが、具体的にタッグを組めたことを嬉しく思います。(『ジャンプ』中野さん)
『ネタでしょ?』という作家さんは多かった
「ジャンプ+」の細野修平さんは、「ジャンマガ、ジャンプ+、マガポケ、3つのサービス間でそれぞれ擦り合わせるところが大変ではあった」と実務面での苦労を振り返ったが、実務的な部分を除けば、社内の調整が難しかったということもなかったという。「マガポケ」橋本脩さんは、「編集部での拒否反応もまったくなかったですね。覚悟していたよりは大変な部分は少なく、何も問題なかったです。お互い漫画好きでこの仕事をしていますし、マガジン編集部員の中にも、ジャンプさんの作品を好きなひとももちろん沢山いる。作家さんも好意的で、驚きの方が大きかった。『ネタでしょ?』という作家さんは多かったですね」と話す。
「(どれほどの覚悟?という質問に対し)中野(編集長)が、『そんなことは許さん!』ってめちゃくちゃキレるんじゃないかとか。それぐらいでしたね(笑)」 「ジャンプ+」細野さん
「少年ジャンマガ学園」対象を、“22歳以下”にした理由
「少年ジャンマガ学園」の特徴的な点としては、対象ユーザーを22歳以下に絞った点だ。サイトへの初回アクセス時、生まれた年を入力することで年齢認証をする。中野さんは、「少年漫画誌なので、やはり子どもたちに漫画を読んでもらいたい」とその理由を語り、「漫画で世界中の子どもたちを幸せにしたいという野望」が一つ形になったと続ける。
「少年ジャンマガ学園」は、「ジャンマガ学園」への掲載話数は作品ごとに異なるが、すべて1話からの連続掲載。途中で間が開くことはない。多い作品で1話から100話ほどの掲載作品もあるという。いまの若者を取り巻く環境は決して優しいものではないと感じている。そういったなかで、少しでも楽しい時間を過ごしてほしいと思ってこの企画を実現させました。マガジン・ジャンプの主人公は、常に前を向いて戦い続けている。そういった姿を若い方々を励ましてくれると信じています 『ジャンプ』中野さん
長期連載作品/連載終了作品が増えるなかで、物心ついた頃から連載している、またすでに連載終了している作品も、若い読者にとっては多い。そういった読者が、素晴らしい作品に触れるきっかけをつくりたいという想いからだ。
細野さんは「1話目から読んでほしいという気持ちが作家さんにも我々にもりますし、少年漫画ですから子どもに読んでほしいというのはごく自然な流れです」と経緯を説明した。
「少年ジャンマガ学園」には、「マンガリレー」という、『週刊少年ジャンプ』、『週刊少年マガジン』、『別冊少年マガジン』の連載作品の第1話を次の人に繋ぐといった、回し読みの原体験をヒントにしたサービスが提供される。自分が若い頃、漫画を読むには買うか、あまり褒められたものではありませんが、立ち読みにしにいくくらいしかありませんでした。いまデジタル化が進むなかですべてが変わりましたが、そういったなかで少しでも漫画に触れる機会をつくりたい。 「ジャンプ+」細野さん
「マガポケ」橋本脩さんは「若い頃はお金がなかったですし、読みたくても全部は買えない。だから“ジャンプ当番”や“マガジン当番”を決めて、それぞれ買った漫画誌を回し読むという文化があった。そして、そこに強制的にコミュニティが生まれていた時代ではあったと思います。そのコミュニティにいなければ漫画全部は読めないですから」と、自身の少年時代を振り返る。
今は娯楽の多様化するなかで、必ずしも漫画を起点としたコミュニティづくりは必須ではないという状況がある。
「でも、漫画の話をする相手を見つけづらかったり、コミュニティがつくりづらくなってはいる気もしています。今回の企画が、『あれ読んだ?』といった、友達とのコミュニケーションのきっかけになったらいいなと考えています(橋本さん)」と、マンガリレーに思いを託した。
海賊版、サブスクサービスに対する見解も
漫画村をはじめとした海賊版サイトの問題や、サブスクリプション型のプラットフォームが世界の潮流となっているなかで、会見ではやはりこのプロジェクトの先を見据えた、出版社を横断したサブスク型の漫画プラットフォームに関する質問も投げかけられた。これらに対しては、「このプロジェクトが受け入れられたら、そのときに考えることはあるかもしれない」としながらも、この先を見据えたプロジェクトは今のところ考えていないという。将来的な出版社を横断してのサービス展開や、海賊版サイトに対する危機感、違法サイトに関する対抗策などの意識は、今回のプロジェクトには直接関係性はないとした。
今回のプロジェクトは、あくまでも「少年漫画なので、子どもたちに漫画の魅力を伝えるためのプロジェクト」というシンプルな動機だ。雑誌の直接的な売り上げについても特に期待しておらず、子どもたちが漫画を好きになれば、後から売り上げはついてくると考えているという。今回は、シンプルに若者向けに新しいことをやりたいというところからはじまりました。危機感というよりも、デジタル化が進む中で楽しそうなことができるような時代になったので、『やってみるか』というのが出発点。15年前であれば、『じゃあジャンプとマガジンの雑誌を始めますか!」という雑誌ベースでの選択肢しかありませんでしたし、そういったことは難しかったですから(「マガポケ」橋本脩さん)
また、ここで気になるのが週刊少年サンデー。「サンデーには声をかけなかったのか?」という質問も挙がったが、「定期的に意見交換をしているのがマガジンだったので、まずはそこから、というところです」との回答だった。
歴史的コラボであることは変わりない。漫画ファンとして、この先の未来にも期待
この日会見に出席していたケンドーコバヤシさんは、「個人的には、このプロジェクトに多くの若者が乗ってくれれば、きっとこの先のことも期待できる」と語る。もちろん今回のプロジェクトは期間限定ではあるが、歴史的なコラボレーションであることには変わりなく、これがコラボレーションの枠組みを超えて漫画産業全体の、なにかのきっかけになることも大いにあり得る。完全なライバル誌ですから、吉本と松竹のコラボどころの騒ぎじゃないですよ。子供のころの自分に言っても信じないくらい、すごいことが起こっている。個人的には、この先のこと、ジャンプとマガジンのキャラクターが共闘するみたいな特別企画もこの先期待している。MARVELとDCコミックスだってやってるじゃないですか ケンドーコバヤシさん
中野さんが語ったように、少年漫画のヒーローたちはときにタッグを組んで共通の敵と戦ってきた。コンテンツ産業の構造全体が激変し、様々な課題があるなかで、日本の漫画がどう変わっていくか。
まだまだ道のりは長いが、「少年ジャンマガ学園」は、そんな漫画の未来への希望を感じずにはいられないくらいのインパクトを持つコラボレーションだった。
ジャンプ、マガジン、ありがとう
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