新しさと古さを同居させる、街づくりの難しさ
──“街づくり”という観点では、北九州市は様々な実験的な試みを行なっていて、それが功を奏して『2018年版 住みたい田舎ベストランキング』で「大きなまち総合部門」と「シニア世代部門」の2部門で1位に輝いています。固有の伝統を受け継ぎながら、同時に新しい挑戦を続けているわけですよね。石川 北九州市の文化を象徴する旦過市場は、再整備の話も進んでいます。安全上の問題などを考えると、やむを得ない判断です。 石川 しかし、あのレトロな雰囲気やこれまで培ってきた文化をなくしていいのかという声を聞く機会もあり、ジレンマを感じている。行政として地域のためになる判断をくだすのは、本当に難しいですね。
──少子高齢化社会にある日本で、北九州市も例外ではありません。長く地元を愛しているご年配の方々のことも大事だし、若い人もどんどん増えてほしいという意味で、老若男女を対象にしないといけない。行政というインフラは社会の最大公約数を実装しなければいけないけれども、かといってそこに最適化すると個性が失われてしまう。
石川 北九州市には古いものがしっかり残っていて、まっすぐに生きている人がそこにいるということがはっきりしている。“チェーン店とは違う”固有のものが街の魅力だと思います。
そして、固有のものを残していくと同時に、例えば建て壊した場所をただの駐車場にするのではなくて、スクラップ&ビルドして新しいものをつくっていかないといけない。
まだ実現できているとは言い難いですが、その方が大多数の幸せに繋がるはずで、目指している方向性はそちらです。
──47都道府県、さらに大小さまざまな街がある中で、それぞれの魅力をアピールするのは、先ほどのセルフボーストの話とも同じですね。
石川 “レペゼン”みたいなことですよね。ただ、とても矛盾しているのですが、市の職員という立場で街をレペゼンすると嘘っぽくなる。役所にいる人間が地元自慢をしてもお仕事感が出てシラけちゃうから。
だから住んでいる人自身がどんどんお国自慢をするのが一番いいんですけど、北九州市民は自信喪失気味で歯切れがよくないんですよ(笑)。
岩渕 自虐体質はありますよね。いい意味でも悪い意味でも。僕は、地元の人たちが「この街は何にもないからさ」って自虐的に笑う瞬間が好きだったりするんですよね。何もないんだっていいながら、好きなのがわかるんですよ。
石川 それもすごくわかります。だから、博多の方々が「博多が世界で一番いい街だ」って本気で言えるのは、めちゃくちゃすごいことなんですよ。もちろん北九州市民も地元が大好きなんですけど、自慢の仕方が分からないという。
昔は今ほど都市間の格差もなかったですが、今やブランディングに成功した福岡市は際立っていますから。でもそういったギャップを無理に隠して、同じ土俵で北九州市を魅力的に見せようとしても、フェイク感をすぐに見抜かれてしまう。
だから、これまで挙げたような北九州市の土着の魅力、飾らない心地よさはなかなか訴求がしにくいんですけど、住んでいる人がもう少しだけ誇りを持てるように、下地づくりをするのが僕らの仕事なのかなと思っています。 石川 その一つが、市外の人に体験してもらって、楽しんでもらうこと。そしてそれを発信してもらうこと。それ一つでも、住民の気の持ちようも変わっていくでしょう。
いろんなシンクタンクが発表する都市ランキングとかでは、ほかの大都市と比べると下の方になることが多いですが、全国でみると上位に入る大きな街です。卑下する必要もなく、もっと胸を張っていいと思ってます。
──博多の人も、全国的に「福岡(博多)は良いところ」だとしきりに言われていることで、市民の自尊心や誇りは高まっていますよね。
北九州市は、ポスト川崎?
──外から中へ働きかける一方で、地域の中で育くむべきものはなんでしょうか?石川 街づくりにおいて、カルチャーはものすごい重要なものだと思っています。
最初に言った通り、高校を卒業して京都に住んだときに感度の高いカルチャーに触れたのが衝撃で、なぜ地元にはなかったんだろう、なぜ誰も教えてくれなかったんだろうと悔しかった。そういった感度の高い情報や人が集まることのできるスペースの存在する街が理想です。
北九州には、先輩の背中を見て後輩が伝統を繋いでいくという側面がある。言葉を選ばずに言うと、ヤンキー文化みたいなもので、有名な成人式はまさにそれです。先輩の雄姿を見て、後輩が「来年は俺たちが」となる。コミュニティ形成力の源泉みたいなものです。
なので、そういった真似したくなる先輩が、音楽やファッション、漫画やアニメ、テクノロジー、色々な分野でこの街にいて、いろんなコミュニティが育っていけばいいなと思っています。
──東京でも、行政、民間主導の都市開発が至るところで行われているものの、その土地のカルチャーを育む視点に欠けているということはよく語られます。
岩渕 僕は、関東圏では、(神奈川県)川崎市にすごい親近感を抱いています。海が近くて工業地帯で、飲み屋の雰囲気や地域の繋がりが強いという点では、北九州市を重ねることができるから。
今、川崎って音楽的なバックグラウンドとしてもとても豊かに語られる土壌を持っていますよね。
──磯部涼さんの『ルポ川崎』や、武道館公演を大成功させたBAD HOPの存在が、川崎の知名度を押し上げましたね。
岩渕 レペゼン川崎のミュージシャンやラッパーたちの発する嘘のない言葉やスタイルが、ローカルな繋がりから始まって新しさを開拓している。それを代表するBAD HOPのようなラッパーたちが若い人の支持を得ていますよね。
そういう意味では、川崎と共通点が多い北九州市もそうなっても全然おかしくないはずだと思うんです。
「から騒ぎを本騒ぎ」に
──言い表せない魅力を持っている北九州市が、最初のハードルを乗り越えるためには、どんな方法があると思いますか?岩渕 ネガティブな部分もガンガン打ち出してもいいんじゃないかと思うんですよね。コンプトン(編注:アメリカのカリフォルニア州の一角。治安が悪く、それゆえに“ギャングスタ・ラップ”発祥の地となった)みたいに(笑)。 岩渕 かつては事実として今ほど平和ではなかったわけで、そこに蓋をして触れないのも嘘のような気がします。人も街も温かいのは、今も昔も変わりないですから、根本が変わったわけじゃないと思うんですよね。
一番浸透しているのがあの成人式なのであれば、そこにカルチャーを集約させるのもひとつの手なんじゃないかと思います。
僕は子供のころから黒崎祇園山笠で神輿を担いでいたんですが、もともと北九州はお祭り文化が根付いていて、一回盛り上がると爆発する。
アーティストを呼んだりしてもっとお祭りにしちゃえば、それがポジティブな意味で固有の文化になるし、いろんなひとに北九州のカルチャーが浸透していく気がします。
石川 それはいいかもしれないですね。北九州市のお祭り気質を最大限まで爆発させられるかもしれません(笑)。
岩渕 僕はいつも、“から騒ぎを本騒ぎ”にしたいと思っています。
理屈のない、抑えきれない感情を解放できるものをつくりたくて。単なるから騒ぎとして消費される音楽ではなく、もっと人を心から騒がせて爆発できる場所をつくりたい。
北九州の街づくりにも、そういった側面を取り入れていただきたいなと。
成人式も、北九州の祭り好きという性質もあって、普段おさえているものを晴れの場で瞬間的に爆発させているんだと思うんですけど、それに乗っかれる人もまだ一部で、から騒ぎの状態です。
もっと継続的に、文化的な祭り(本騒ぎ)になれば、最高だと思うんです。
石川 北九州市には小倉祇園、戸畑祇園、黒崎祇園など、それぞれ地域に祭りがあって、それぞれの特色と思い出と愛着がありますよね。
個人的に僕はデトロイトのミニマルなテクノが好きなんですけど、電飾を使う黒崎の山笠祇園を最高潮にギラギラにしてテクノをかけまくったら面白いなと思っていますね。ベルリンのラブパレードみたいに。 職場でずっと主張し続けているんですが、まだ企画として通ったことはありません(笑)。デトロイトも北九州も工業都市なので、共通点はあると思うんですよね。
──北九州と川崎とデトロイトが繋がりましたね(笑)。
石川 川崎がヒップホップで、デトロイトがテクノで、北九州はなにか、はきちんと定義付けしないといけないと思うんですけど、ぼくの白昼夢ではテクノですね(笑)。
岩渕 山笠テクノ(笑)。そういう心からワクワクすることから、誇りだったり、文化が生まれる。そんな気がします。そのときは是非北九州で演奏させてください!
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オルタナティヴロックバンド
福岡、広島、大阪、神戸と、それぞれ出身の異なる4人が、神戸大学の軽音楽部で集まり、結成された4ピースオルタナティヴロックバンド。バンド名の由来は自分達の多様性を表す「パノラマ」という言葉とポップ過ぎて違和感を感じるほどの発語感を意識したもの。高笑いをしながらシーンのちゃぶ台をひっくり返すことを目論む、2010年後期、ロックシーン最終兵器。Vo&Gtの岩渕想太は、福岡県北九州市出身を公言している。
石川裕之
北九州市企画調整局 地方創生推進室
1972年、北九州市八幡西区黒崎生まれ。1997年に北九州市役所に入職し、主に産業振興に携わる。現在は地方創生推進室にて、市外に向けた戦略的広報を担当。人生のテーマソングはBeastie Boysの「(You Gotta)Fight for Your Right(To Party!)」。
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