連載 | #3 2018年のポップを振り返る

大麻産業の1年から2019年を読む 日本人が知らない世界の合法化事情

世界各国の合法化の動き

大麻合法化に関してこれだけの動きが出ているが、それはアメリカに限ったことではない。2018年は、世界各国、そしてアジアにおいても、激動する大麻産業の変化が現れた1年だった。

カナダ、衝撃の全面解禁

Photo credit: Cannabis Culture on Visualhunt.com / CC BY

世界中で大きな注目を集めたのが、カナダの大麻全面解禁だ。カナダでは2001年から医療用マリファナの使用が合法化されているが、10月に嗜好用の大麻使用が合法とされた。

カナダ現地のディスペンサリー

嗜好用大麻を国全体で認めたのは、2013年に解禁したウルグアイに続き2番目となる。

実際のところはカナダではほぼ一般的に大麻が消費されており、合法化された当日も国内ではあまり騒ぎにならなかったことが、現地在住の日本人への取材で明らかになっている。 衝撃なのが、カナダのマリファナデー(420、フォー・トゥエンティ)。マリファナの隠語である「420」にちなんで毎年4月20日に開催される、大規模な"マリファナ祭り"だ。もともとは大麻の合法化を訴えるデモから始まっていることから「デモ運動」として取り扱われており、警備などの目的で警察も協力していた。

「420」の様子

イギリス、医療大麻合法化

翌月の11月には、イギリスで医療大麻が合法化された。

深刻なてんかんの症状を持つ少年2人が、症状を劇的に改善したという大麻油の利用を禁止され、ヒースロー空港で没収されたことが発端。これにより医療大麻の規制への批判・抗議運動が巻き起こり、2人に対して医療大麻の使用を認める特別認可を出された。その後、医療大麻に関する法規制緩和が実現した。

これにより医師は、てんかん患者やがんの化学療法の副作用で吐き気をもよおしてしまう患者、多発性硬化症の患者などに対して、大麻を使用した医薬品の処方を認められた。

東アジア初となる韓国の合法化、そしてタイも

欧米だけにとどまらず、11月末にはなんと隣国の韓国でも医療大麻が合法化された。医療大麻の合法化は、アジアではイスラエルに次いで2番目。東アジアでは初となる。

さらに12月には、韓国に続いてタイでも医療大麻の使用・研究を認める法案が可決された。医療大麻の解禁は東南アジアでは初となる。

ちなみに、イスラエルは1963年からマリファナ研究に着手しており、「医療用大麻の最先端国」ともいわれる。世界ではじめて医療用大麻が合法化された国の一つであり、2017年には嗜好用利用も非犯罪化されている。

それぞれ規定が異なるものの、一部容認を含めて医療大麻を認めている国は以下となる。

アメリカ、オランダ、オーストラリア、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、ジャマイカ、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、チリ、デンマーク、ギリシャ、フィンランド、メキシコ、ペルー、韓国、タイ

合法化以外にもグリーン・ラッシュが顕著に

これまで述べたような合法化の流れ以外にも、大麻を巡る世界の状況は劇的に変化している。

数多くの大麻関連のスタートアップやサービスが起こり、先日には「マルボロ」で知られる世界最大手のタバコメーカー・アルトリア社がカナダのマリファナ事業会社・クロノス社へ18億ドル(約2000億円)の巨額投資を発表した。 またアメリカのテキサス州で開催される世界最大のクリエイティブの祭典「SXSW」では「大麻」カテゴリが新設され、大麻ビジネス・カルチャーにおける最先端の議論の場になる可能性がある。 さらに、スヌープ・ドッグが立ち上げたマリファナブランド「Leafs by Snoop」や、女優のウーピー・ゴールドバーグが手がける女性用医療用マリファナ製品ブランド「Whoopi & Maya」などセレブリティも続々と大麻事業に参画。

2018年、個人的に最も衝撃だったのは、元プロボクサーのマイク・タイソンが大麻農場経営者としての一面を持っていたことだ。カリフォルニアの40エーカーもの荒地を開墾し、「タイソン農園」の開園を目指している。New York Postによると、タイソンの大麻農家・実業家としての顔を扱うTV番組も予定されているそうだ。(関連リンク

ちなみに、大麻系の番組でおもしろいのは、Netflixで配信されている『クッキング・ハイ』。世界初の大麻を食材にした料理番組。かなりイカれてるので必見だ。

2019年はどうなる?

Photo credit: Dank Depot on Visualhunt / CC BY

先述した通り、2019年はニューヨークという世界最大の都市がついに嗜好用大麻解禁となるが、そのほかにも大きく変化が起きる可能性がある。

昨年10月にはなんと「カルテル大国」メキシコが大麻合法化を検討する可能性があることを、外相のマルセロ・エブラルドが明かしている。

嗜好用大麻合法化の論理として、麻薬密売組織の弱体化と、合法化後に見込まれる莫大な税収がある。

大麻の流通を国の管理下に置くことで、ブラックマーケットで横行する違法薬物の流通と、それによる密売組織の資金源を断つことができる。合法的、かつどこでも自由に手に入るとなれば、わざわざプッシャーや違法組織から大麻を買う必要もない。

さらに、大麻を取り締まることで行政が密売組織から得る没収金よりも、合法化して得られる税収のほうが効率的で、額も桁違いだ。

とりわけ麻薬密売組織による麻薬の供給、そしてそれを巡る暴力や争いが社会問題となっているメキシコにおいて、一向に解決しない国の病である「麻薬戦争」の解決策として、前向きに検討するのは十分理解できる。(カルテルを巡るドキュメンタリーばかり見ている筆者としては、メキシコではそう簡単にはいかないと見ている)

また、2017年に医療大麻を認めたニュージーランドは、嗜好用大麻合法化の是非を問う国民投票を2020年の総選挙と同時に実施する。嗜好用大麻の解禁はアジア・オセアニア地域ではいまだどこの国でも行われていないため、こちらも極めて注目に値するトピックだ。

さらには、200g以上の麻薬所持は極刑の可能性もあるマレーシアでも、医療大麻の検討・議論の段階に入りつつある。処方用に薬用大麻などを所持していた医師の死刑判決に多くの署名と抗議が起こったことをきっかけに、医療大麻に関する議論が始まっていることも水・土地・天然資源大臣が明かしている。

世界は、日本はどうなる?

このように世界各国の2018年を中心に、大麻合法化にまつわる動きや大麻産業の変化を見てきた。ここであげた出来事は2018年に起きたことの一部に過ぎず、目まぐるしすぎてついていけていないというのが正直なところだ。

しかし一度冷静になると、「はて、日本やいかに」と、世界の流れから完全に置いてきぼりを食らっている感覚に襲われる。

大麻の是非については、国や文化によっても価値観は異なり、一概にイエス・ノーと言えるものではない。しかし、議論のステージにすら立てていないこの状況は、好ましいとは言えないとも感じる。

「大麻はハードドラッグ(覚せい剤)と同じ!」という認識は、世界ではとっくに通用していない。

それは、ニューヨークでの嗜好用大麻合法化や米連邦法でのヘンプ栽培容認、さらには隣国・韓国の医療大麻合法化などからも決定的だと感じる。今後大麻ビジネスの導入の是非は、国際的にも避けられないレベルのイシューとなりつつあるからだ。

そういった意味で、連邦法の改正が今後日本にどのような影響を及ぼすのかも注目だ。

2018年は大麻産業にとって激動の変化が起きた年だったと感じているが、この変化は今後さらに加速度的に起きていくだろう。そうなったときに(もうなっているが)、世界は、そして日本はどうなっているのか。今年もますます大麻産業から目が離せない。

いろいろ振り返ってみました

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