しかし一方では、現場スタッフにかかるストレスは大きく、長時間労働や低賃金といった過酷な労働環境がたびたび指摘されている。
ここでは、アニメの制作現場から気鋭の若手クリエイター3名をゲストに、アニメーターとして食べていく方法やオンデマンド配信による現場への影響、海外への外注事情など、現在の環境を巡る状況と未来について赤裸々な話を聞いた。
※本稿は『ネット絵学2018』掲載の座談会の再編集版となる 取材・文章:虎硬 扉絵:so品 Web版の編集:新見直
アニメーター座談会の参加者
小嶋慶祐
原画、作画監督、絵コンテ、演出
1991年生まれ。新潟出身。18歳で上京し、GAINAX勤務を経て、現在は2016年設立のスタジオ・REVOROOT(レヴォルト)所属。高校生の時にニコニコ動画に投稿した『エアーマンが倒せない』アニメでも有名。幅広い実務経験を持つ。
参加作品:『絶対可憐チルドレン』『ゆゆ式』『ワンパンマン』『ACCA13区監察課』など
Twitter:@kkeisuke220
荒井和人
原画、絵コンテ、演出
1991年生まれ。東京都出身。ハンドルネームは「バリキオス」。東京工業大学卒。TRIGGER勤務を経て、フリーランスのアニメーター、演出家として活動中。
参加作品:『戦姫絶唱シンフォギアGX』『モブサイコ100』『Re:CREATORS』『フリクリ-プログレ-』など
Twitter:@Barikios
中園真登
演出
1988年生まれ。東京都出身。東京造形大学卒。貞本義行のアシスタントを経て、中途でMADHOUSEへ制作進行として入社。その後、演出へと転身し現在はフリーランスで活躍する。
参加作品:『ハナヤマタ』『リトルウィッチアカデミア』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』など
Twitter:@zonozonu
そもそもアニメってどうやってできるの?
──皆さん今日(土曜日)も仕事なんですよね?一同:はい。
小嶋 最近、睡眠が迷子になってます。まぁ大丈夫です。なんとかなります(笑)。
──修羅場が日常なのですね。皆さん仲よさそうですけど、3人で一緒に仕事をすることはありますか?
小嶋 そういえば、ないですね。
──イラスト界隈ではそうでもないんですが、アニメ業界って大体みんな仲良いというか繋がっているようなイメージがあって。
小嶋 狭いんですよね業界全体が。専門学校ないしは大学からそれぞれの会社に行ったら同期が誰かしらいる。あと、Twitterなどでの繋がりも最近は多いですね。
──アニメ業界は、イラスト業界と近そうでかなり遠いと思ってます。技術やワークフローも全く異なる印象です。そもそも皆さんはアニメの「演出」という仕事をしてますが、具体的にどういうことをやっているのですか?
中園 大きく分けて2つあります。脚本からコンテを描くコンテマンと、絵と尺の整合性を合わせる処理演(「処理演出」のこと)。どちらも大切な仕事です。バリキオスさんは両方やられてますが、最近はそれぞれ別の担当者が行うケースが多いです。
荒井 口パクが音に合っているか、ポーズがちゃんと前のカットを引き継いでいるか、レイヤー構造は正しいか……アニメは大人数で制作するのでどうしてもそういった矛盾が起きがちで、処理演はその辺の調整役ですね。
中園 大まかな映像の流れやキャラクターの動きなどはコンテで決めますが、処理演では絵コンテの内容がちゃんとカットに反映されているかを確認します。 処理演はコンテを元に監督から「このシーンはこう見せたい」などのオーダーを受けます。これを演出打ち合わせ「演打ち(えんうち)」と呼びます。演打ちのあとにはアニメーターさんにレイアウトを描いてもらうため、アニメーターさんと作画打ち合わせ「作打ち(さくうち)」を行います。
アニメーターで食べていく秘訣は“○○○”
──アニメーターは給料月数万円、基本的に食っていけないという話を世間でされていますが実情はどうでしょうか?中園 それはその通りです。ただ、キャリアアップしていけば食べれるようにはなると思います。 荒井 小嶋さんは暮らしていけるだけのお金が稼げるなと思ったのってどれくらいのときですか?
小嶋 この世界に入って3年目くらいで、アニメ『織田信奈の野望』ではじめて作画監督を担当したのですが、その後に、(特定作品に)ローテーションで作画監督のお仕事をいただくことができて。
定期的な収入が発生し、そこでようやく生きていくためには十分な額になりましたね。
中園 僕は、今は独立してますが入社した時は実家でした。それにスタートが制作進行で月あたり固定の給料を支払われていて、お金的なハンデはあまり感じませんでした。
荒井 動画マン時代は月6万でしたが、僕も東京で実家暮らしなので生活できてました。
原画マンになると、基本出来高ではあるのですが、作品や会社によって拘束料というものが発生するんですね。「他の仕事はしないでこの作品を優先してください。その代わり毎月お金を払います」という契約です。
他の仕事は一切させない完全拘束なら月10〜30万円、他作品との掛け持ちをある程度許す半拘束なら5~15万円くらいでしょうか。
──原画って完全な出来高かと思ってました! たしかに固定給が出れば生活しやすくなりますよね。
荒井 アニメで安定して食べられるようになるには、拘束料をもらえるかどうかが重要です。原画になりたての頃に半拘束をもらえたおかげで、一気に安定しました。
──原画マンになれば必ず拘束料がいただけるものなんでしょうか?
荒井 いや、能力給なので、原画マンとしての力を認められなければなりませんね。使えないとなったら契約打ち切りです。
──拘束料というのはワンクールごとの契約?
小嶋 そうですね。例えばワンクール(12話を3ヶ月で放送)のアニメをつくるのに、制作は1年ほどかかるので、最初から関わっていくのであれば1年は毎月支払われます。
──拘束料というのは最近の慣習なんでしょうか?
小嶋 詳しくは分からないのですが昔からあるとは思います。僕が入った頃にはもう既に存在していました。
中園 半拘束に関しては増えているかもしれません。人材の取り合いが苛烈になってきてますからね。
荒井 半拘束が日常化したために複数の会社の半拘束をかけもちしている方もいますね。3社も4社もかけもちしてて「拘束という言葉の意味はいったい…?」なんてことがあったりします。
小嶋 半拘束に関しては僕はもらったことがないのですが少し懐疑的です。できれば完全拘束でフルコミットするほうがお互いに健全かなあと。まあ複数の案件をちゃんと回せるくらい優秀なら言うことはないのですが。
荒井 ただ、アニメーターにとって、単純に一番稼げる形態は半拘束プラス出来高報酬だと思います。完全拘束だと他の仕事をとれませんからね。
中園 会社によって出る拘束料も変わってくるので、やはり多く支払われるところに人材は集中します。
冷遇されがちな動画マンこそ給料をあげるべき
荒井 動画マンは拘束料をもらえないケースが多くて、一番収入が少ないはずなのに一番金額が保証されていないという現状があります。これは批判されて然るべきだと思いますね。小嶋 「動画マンはバイト禁止」とか言われてるところがほとんどですから。
──バイト禁止!? 社員でもないのに?
荒井 1日の大半を数枚描くだけで終わってしまうので、実際バイトなんかしている暇がないですから。 小嶋 そもそも暮らしていけない給料しかもらえていないので、仕事として成立していません。その上で「バイト禁止」とか「仕事としての責任感を持て」というのは酷な話ではありますね。
荒井 それでいて動画マンの描く絵が最終的な画面に出るわけで……業界が「歪だ」と言われる所以はそこにありますね。
中園 むしろ一番お金をかけなければならないところは動画で、そこから次は原画というように改善されていかなければどんどん先細りになっていってしまうという危機感はあります。
小嶋 最近は動画マンに拘束料を払う会社も増えてきてて、高待遇なところもありますね。
アニメ業界、潤ってますか?
──NetflixやAmazon primeビデオなど、作品のオンデマンド配信が進んでます。外資が沢山お金を出していることもあり、アニメ業界は潤ってきているという話を聞きますが、現場はどうですか?中園 結論からいうと、少なくとも現場のレベルでは飛躍的に収入が増えるということはないです。原画の単価は少し、10〜20%程度上がりますが。
──微妙! メディアがやたら煽ってるからてっきり10倍くらい増えるものだと思ってました。
中園 大元の予算が大きいと言っても、「浮いたお金をアニメーターに」ではなく、予算は編集や音響に回さなきゃいけない。海外出資のアニメの制作費において、かなりの割合を占めているのが編集や音響なので。
小嶋 オンデマンド配信の場合は吹き替えもあるので、むしろその分の編集や音響の費用はTVアニメよりも高くなります。
──編集というのはどの部分にあたるんでしょうか?
中園 編集は外部の会社に依頼する、仕上げの工程です。それぞれのカットを「撮影」して動画化、それをつなぎ合わせてテレビなら21分前後にまとめるのが編集の仕事です。
編集は決まった尺に気持ちよい映像の流れをつくる役割上、工程全体からみると重要度は上がります。
そのためか、編集は作業単価ではなくて時間でお金が発生します。つまり作業が長引くほど金額が膨大になります※。かつ、編集の会社は基本アニメ業界の外側なので、アニメ業界内の価格基準と比較すると金額の水準が高いです。
※近年では、編集も時間給ではなく固定で請け負う企業も増えている
中園 社内に編集室を持っている会社もありますが、少ないですよね。
荒井 編集作業は外注が基本なので、どうしてもコストのしわ寄せが制作現場にいってしまいます。
──アニメーター側から労働交渉や賃上げなどの声が上がらないというのはなぜでしょう?
荒井 みんなフリーなので働く場所も違い、団結しにくい。あとはめんどくさい労働改革だとか交渉だとかに興味がないのだと思います。そんな(改革や交渉に積極的な)人間はアニメーターなんかやらないです。
小嶋 とにかく忙しいのでみんな疲れてて、そこに体力を使ってられないというのもありますね。だから交渉せずに諦めて辞めていく人が多いと思いますよ。
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虎硬
イラストレーター
1986年生まれ。会社にディレクターとして勤務する傍ら、イラストレーター・デザイナーとしても活動している。
担当した仕事に、バンド『神様、僕はきづいてしまった』メインイラスト、『株式会社アニメイト』ロゴデザイン、TOYOTAプリウスPRイラストなど。現在は育児に奮闘中。
Twitter @anofelus
1件のコメント
CKS
やっぱ固定給って重要なんだなぁ