環境は改善されないが新しい才能は増え続ける? アニメーター本音座談会

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若手は増え、技術的格差は広がりつつある

──皆さんはキャリア的に若手から中堅になりつつありますよね。最近の新人が辞めていくとかで危機感を覚えることはありますか?

荒井 むしろ逆で、新しい才能がどんどん来ていると思います。

──意外です。なぜそうなっているんでしょうか?

荒井 僕は『うごメモ』※の影響だと思っていますね。

※2008年に配信された、タッチペンで手がけメモが描ける任天堂開発のニンテンドーDSiウェア。パラパラ漫画やアニメを制作することも可能。後継として『うごくメモ帳 3D』がリリースされている

──うごメモですか?

小嶋 DSのうごメモのサンプルを描いている人が京都アニメーション出身の人でメチャメチャ上手いんですよ。
うごくメモ帳 3D ニンテンドースタッフが教えるムービー完成作品
──知りませんでした。その影響で、若い人たちがアニメの現場に増えているかもしれないと。

荒井 デジタル機器が普及して制作のハードルが下がったのもあります。子供の頃からペンタブで絵を描いている方も増えているし、アニメに興味を持つ年齢層も段々と低くなってきている。

絵は描き始めが早いほど上手くなるので、最近の新人は本当に上手だと思いますよ。

小嶋 デジタル機器の恩恵は大きいと思う一方で、結局モチベーションが伴わないと技術は上がらないとは思います。

アニメの専門学校に行く機会があったのですが、みんなスマートフォンを持っていても、作画のときに使おうという人はほぼいませんでしたからね。

──スマホをどう使うのですか?

小嶋 写真をとってデッサンの参考にしたり、ムービーから動きを起こしたり。アプリケーションも色々と活用できると思います。

──今は映像編集もアプリからできますからね。 小嶋 ツールは増えているのにやらない人は全くやらないので、勉強する人との差はどんどん開いていると思います。それはアニメーションだけではなくてイラストや造形でもそうですね。昔もスマホはありませんでしたが、ガラケーの低解像度からでも絵を描いてましたね。

荒井 なるほど。ツールが進化しようが手に入りやすくなろうが、やる人はやるしやらない人はやらないってことですね。

小嶋 僕は会社でアニメーターの新人育成も担当しているのですが、あらためて思うことは「興味がある人じゃないとこの業界は無理!」ってことですね。

事務処理は教えればできると思いますが、作画などの技能系は研修のみでフォローしきることは厳しいです。モチベーションを上げられるような努力はしてますが、悩ましいですね。

「早くて安い」海外アニメーターを重宝する理由

──アニメのスタッフロールを見ると韓国や中国の方の名前が沢山あります。海外への発注は増えているんですか?

荒井 昔はわかりませんが、今の動画に関してはほとんど海外ですね。国内アニメに関しては動画の9割は海外の方が描いていると聞きました。

──9割もですか。

小嶋 向こう(海外のスタジオ)って、必ず時間内にあがってくるんですよ。どういう仕組みで動いているのかは僕もよく分かってません。

中園 中国の場合は、分業化を徹底して回しているようですね。日本みたいに動画→原画→作画監督のようなキャリアをつくっているのではなく、その職種に特化してプロフェッショナルを育てて担当者ごとに専門領域を決めているとか。日本でも似たようなことはやってますが、もっと細分化されてそうです。

小嶋 スケジュールにもよりますが、社内に動画マンがいるのに早く上がるから海外に発注しているせいで、日本の動画マンの仕事がなくなるケースもあります。

どのアニメにどれくらい関わる? アニメーターのキャリアアップ

──テレビCMや動画広告、ミュージックビデオなどTVアニメ以外のアニメも増えてきましたよね。尺が短いので仕事としては魅力的じゃないですか?

中園 確かに単価はデカいですね。業務の内容が軽いということもあって、稼ぐためにはそっちに行くという人も増えています。

──TVアニメを特にやりたいみたいなこだわりは、皆さんはありますか?

小嶋 僕はないですね。その作品で何ができるかという部分が僕のモチベーションなので、配信場所が変わるからと言って、あまり意識はしていないですね。

荒井 TVアニメだと確かに放映されますし、注目もされますからテンションは上がりますね。逆に金額が大きい仕事を提案されても名前が表に出ないなら断るようにしています。

小嶋 僕はメインスタッフとしてしか作品に参加したくないです。たまーにOPだけ手伝うとかはあるかもですけど。作品の根幹のスタッフとの直接的なやりとりが一番刺激的ですし、熱量や一体感があります。

単発でTVアニメの原画のお仕事をしても良くも悪くも労働力の一部というか、学べることが少ないです。

荒井 僕はこの仕事をはじめて、アニメーターって思っていたよりもメディアへの露出って少ないんだなと思いましたね。

小嶋 業界内での認知度を上げるなら一本の作品に集中してコミットするよりも、複数の作品を並列でこなした方が沢山クレジットされるし、関係値も増やせますが、(特定作品で)ローテーションでの作画監督や演出になってくると人との縁は強くなりますからチャンスも増えます。

自分担当の話数をつくれると、会社やメインスタッフ側から宣伝してもらえたり、そういう積み重ねで知名度が伸びてくる感じですね。

アニメは修羅の世界?

荒井 TVアニメってスケジュール感覚がおかしいんですよ。絵を描いたら2週間後くらいに放映されるので。悪い面も多いと思うんですけど、自分の絵がすぐにフィードバックされるので描き手としては楽しいですよね。

あとは現場が滅茶苦茶になってることが多いので、普段やらないことを実験的にやってしまおうというのもありますね。そういった遊ぶ余裕が逆にあるかな。

小嶋 僕それできないんだよな〜(笑)。

中園 僕もできない(笑)。

──友人がアニメ背景のコンセプトアート※を担当しているのですが、オンエアの数日前に「数時間で描いて」みたいな発注が来たと。そのコンセプトアートをもとに背景マンが描いて、撮影、編集……時間単位というか分刻みのスケジュールですよね。

友人がその時間つかまらなかったらどうするのかと(笑)。これは極端な例ですか? 業界あるあるですか?


※アニメーションなどで使用するデザイン・アイデア・雰囲気などを最終製品として仕上げる前に視覚化して伝えることを主目的としたイラストレーションの形態

荒井 あるあるですね。

小嶋 ある。

中園 よくないところですよ。

──アニメって1年くらい時間をかけてつくるわけじゃないですか、その準備を1ヶ月早めるだけで解決する問題ではないんですか?

小嶋 結果から「あの時ああすれば」とかは言えると思うのですが、いかんせん人数が多いので予定通りに進むことはほぼありません。

中園 制作期間を増やしたとして、前準備の段階で時間を喰ってしまうというパターンもある。

例えば脚本家の方って仕事をかけもちしている場合が多いんですね。しっかりと(早めに脚本を)あげてくれる人ならいいんですが、遅れているから打ち合わせに入れずにズレることもあります。

──無間地獄。

小嶋 アニメ業界ってシステムが出来上がってしまっているので、悪しき風習も淘汰されずに残ってしまっているんですよね。

中園 「なんとかなるでしょ」みたいなのはありますね。オンデマンド配信だったり外資が絡んだりしても、業界のシステムが刷新されない限りは同じことになると思いますね。

荒井 アナログのセル画時代はその「なんとかなる」ラインが明らかで、諦めるところはスッパリと落とせました。しかしデジタル化のおかげで余裕がでてきたというか、悪い意味で無理が利く時代になっているのですよね。 小嶋 デジタル化とネットが普及して、昔では考えられないくらいのタイトなスケジュールを強行できるようになったので、逆に現場は逼迫しているかもしれません。

逆にセル画時代は「こんなアニメ誰も見ないだろう」という案件も発生していたと思います。ビデオなどの映像メディアも普及していない時代だったので、テレビで1回放映したら終わりですからね。まさか当時の人もデジタルリマスター版で復刻されるとは思っていなかったと思いますよ(笑)。

──デジタルリマスター版をつくる場合、アニメーターに新しく仕事が発生することが多いのでしょうか?

中園 ケースバイケースですね。新規カットや描き直しが入ってくるとなるとアニメーターの仕事になりますが、アップコンバートするというだけになったらキングレコードやアニプレックスなどの出資会社が手配してやるということが多いみたいですね。

アニメの未来の希望と絶望

小嶋 新しい試みという意味では、Netflixで『DEVILMAN crybaby』を制作した湯浅政明監督のサイエンスSARUなんかは、普通のアニメ業界とはシステムが違っているので興味がありますね。

中園 サイエンスSARUは動画をFLASHでやるという取り組みをしていて、人件費と時間を割かずトゥイーン※で補完することで動画マンの工程をスキップして、作業を内製しているということで注目されていますね。

※between(中間)に由来する言葉で、2つのイラストが変化しながら繋がるアニメーションのこと

小嶋 FLASH会社に外注をしていることもあるんですが、旧体制の日本のシステムになるべく頼らないようにしているように感じますね。

荒井 SARUは毎年、高い頻度でハイクオリティな作品をつくってます。アニメ業界の未来に希望を感じさせる存在ですね。

荒井 アニメをつくるには、膨大なコストがかかるわけですよ。だから、1つの会社で制作を完結させることはどうしてもできません。

いくら新しい会社が新しい体制で進めようとしても、旧体制の会社と連携をした瞬間にその体制に取り込まれてしまうという沼があるんですね

小嶋 あと、3Dアニメをやっているところは、全部新システムでかつ社内で回せるのでなんとかなっているようには思います。

中園 昔からある会社で有名なところだと、京都アニメーションは全員社員で構成されてますね。音響以外はすべて内製。

動画にしても日本国内の動画マンの人数では足りないはずなんですが、提携している大阪の会社と韓国の会社で完結できているので外注していたとしても実質自社みたいなものなのですよね。

なので突発的に外注するということもありませんし、つくり方もローテーションが決まっていて、この演出さんとこのコンテさんならこのチームという風に組まれているので安定したクオリティを発揮できるのだそうです。

小嶋 チーム、いいですね。僕の現場もチーム感が欲しいです。

──アニメ制作におけるチームのメリットというのはなんでしょう?

小嶋 コミュニケーションのとりやすさです。勤務地も稼働時間もバラバラで、会ったこともない方と仕事することもある現状でそれを叶えることはかなり困難です。

演出や作画監督の意図って絵や簡単な指示だけでは伝わらないんですよね。顔を合わせたり、お互いが欲しいものを理解しあったり、そういった息の合うチームをつくることが作品においては一番重要なんです。

中園 お互いが欲しいものを理解できればリテイクも減るし効率も上がりますね。

──ゆるくて自由な勤務形態を求めてアニメ業界に来る方も多そうですが、ちゃんと組織化した方が幸福度が上がるというのも皮肉な話かもしれません。

荒井 そういった現状なので、名を挙げた監督たちが自分の身内で囲って会社を立ち上げようとするんですよね。

小嶋 実際、僕の会社(REVOROOT※)はそうですね。

※REVOROOT(レヴォルト)は、フジテレビで深夜アニメ枠「ノイタミナ」を手がけた山本幸治氏が独立し、2014年に設立した株式会社ツインエンジンのグループ会社として立ち上がったアニメスタジオ 荒井 そうやって小さい会社が乱立すると、業界全体で見るとバラけてしまうんですよね。もはや大改革を起こして、業界みんながひとつの会社になってアニメのジャンルで部署ごとに分けてしまえばいいとまで思えますね(笑)。

──株式会社 亜弐目、ファンタジー部、日常系部、BL部……みたいな(笑)。

荒井 そうそう(笑)。



なお、本座談会の全文が掲載されている『ネット絵学2018』は、8月12日(日)の「コミックマーケット94」れ37aブース、8月19日(日)の「コミティア125」こ16bブースでも頒布される。

本文中のイメージ画像はすべてフリー写真素材サイト「ぱくたそ」より

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虎硬

イラストレーター

1986年生まれ。会社にディレクターとして勤務する傍ら、イラストレーター・デザイナーとしても活動している。

担当した仕事に、バンド『神様、僕はきづいてしまった』メインイラスト、『株式会社アニメイト』ロゴデザイン、TOYOTAプリウスPRイラストなど。現在は育児に奮闘中。

Twitter @anofelus

1件のコメント

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CKS

CKS

やっぱ固定給って重要なんだなぁ