一般参加者向けのイベントではあるが、同時に業界向けの見本市としての側面も持ち、各社が今後展開を狙う作品が揃う。今年で5周年を迎えたこのイベントで目立ったのが、海外からの出展だ。
アニメ作品に関しては世界有数の市場である日本。海外からの参加者がこの市場をどう捉えているのかは、それぞれのポジションによって異なる。ここでは、それら海外勢が日本のアニメの最前線でどう戦おうとしているのか、出展企業への取材を通して探っていきたい。
取材・文:しげる 編集:新見直
Netflixが日本のアニメ事業に本気で取り組むワケ
外資系として出展していた企業の筆頭が、Netflixである。数多くのオリジナル作品を展開するアメリカの動画ストリーミングサービスで、昨年は400本程度だったオリジナルのタイトルを、今年は700本ほどに増やす予定という。その中にはアニメ作品も数多く含まれており、AnimeJapanにおいても、競合であるhuluやアマゾンプライムビデオが不在の中、大型のブースを展開。 ステージイペントの他に、会場に置かれたモニターでは直接Netflixを体験できるという展示を行なった。 Netflixは先日Production I.Gとボンズとの業務提携を発表。今後数年間でいつどのようなタイトルを何本制作するか、という包括的契約を結んでいる。生産ラインのキャパシティを考え、制作費と制作期間を事前に練った上で契約を結べるという点は、スタジオ側にとってもメリットがある。
また、テレビ放送ではなくネットでの配信のため、制作が完全に終了してから配信日を決定できることから、現場に過剰な負担をかけずに済む。これらの強みを活かし、Netflixは日本のアニメ市場に打って出ようとしている。 海外展開が前提のNetflixにとっても、日本ユーザーのアニメ視聴率は並外れている。海外であれば配信タイトルのトップ10にアニメは数タイトルあればいい方だが、日本ではトップ10の半分がアニメ。日本国内で展開する以上、アニメの存在を軽視することはできない。
これだけアニメ目当ての利用者が増えた原因は、1年ほど前にアニメ作品のライセンスを大量に取得したことだという。Netflixでオリジナルのアニメ作品を制作する予定はそれ以前から存在しており、そのオリジナル作品をより多くのファンに届けるためにライセンスタイトルを増やした、というプランが図に当たった形だ。
Netflixではオリジナルのアニメを制作するチームとライセンス契約を結ぶチームを分けておらず、同じチームで業務に当たることでライセンスタイトルとオリジナルの作品をスムーズに連携させることが可能になったという。 また、他のジャンルきっかけで登録したユーザーと比べて、アニメファンはNetflixに費やす時間が圧倒的に多いという視聴傾向がある。例えば「テラスハウス」といった実写コンテンツをきっかけにサービスに加入した層と比較して、視聴時間が圧倒的に長いのだ。こうした良質なユーザーの囲い込みを考えるのは、企業として当然である。
Netflixが狙っているのは、クオリティの高い作品を見られることでオーディエンスもハッピー、作品がワールドワイドに展開されることで制作サイドもハッピー、Netflixは良質な作品を供給できてハッピーという、win-win-winの関係だ。豊富な資金と優れた制作環境を用意することで、日本のアニメ市場に今後継続して作品を投下、利用者を拡大する……。Netflixの活動は、今後も極めて真っ当かつ強力なものとなっていきそうだ。
中国は、日本のアニメ市場をどう捉えているのか?
「AnimeJapan」会場内で目立ったのが、中国からの出展である。動画配信大手であり現在は数多くの日本製アニメと提携しているBilibili、ゲーム市場で大きな影響力を持つ中国の株式会社テンセントから分離した閲文集団、『君の名は。』を制作したコミックス・ウェーブ・フィルムと中国のアニメスタジオ・Haolinersが合作したオムニバス『詩季織々』の特設ブースなど、大小様々な中国企業が目立った。 閲文集団はテンセントからスピンアウトした、中国の電子書籍配信企業。中国国内では小説投稿サイトを運営し、人気が出た小説を電子書籍で発売、さらにそれらの小説をアニメ化するというビジネスを行なっている。投稿されている小説は現在800万作以上だという。 この閲文集団のブースは、同社が展開するアニメ作品の中から日本でも見たいと思うものをネットで投票すると、抽選でプレゼントがもらえるというもの。この内容になった背景には、日本に上陸する上でどのような作品がウケるのか探りたいという同社の姿勢がうかがえる。 閲文集団が日本のイベントで出展するのは初。その動機は、「日本で作品が受け入れられれば、さらにその他の国々での展開も容易になるだろう」という見込みによるものだ。彼らの目的は日本で収益を上げることではない。
要するに、これまでのように日本のアニメを自国で配信するだけではなく、自国のIPを強化していこうという方針だ。中国の配信最大手と言われるテンセントと閲文集団の意図と、政府の意向がうまく噛み合った形だ。
彼らは「世界的に中国製コンテンツを輸出するため、まずは日本市場でちゃんと受け入れられて箔をつけたい」という目線で日本のアニメ市場を捉えている。
そして、『詩季織々』はまた違った経緯で生まれた作品だ。 この作品は中国のHaoliners(中国名は上海絵界文化伝播有限公司)代表である李豪凌(リ・ハオリン)氏の熱烈なオファーから実現したもの。
李豪凌氏は10年ほど前に『秒速5センチメートル』を見て新海誠監督に憧れ、その当時からコミックス・ウェーブ・フィルムに熱烈なメッセージを送り続けていた。そして『君の名は。』が完成して一旦スタジオの制作ラインに空きができたところで、ついに合作が実現した……という経緯の作品である(余談だが、Haolinersの株を所有しているのもテンセントであり、2社はアニメ事業に関して統括的独占契約を結んでいる)。
あくまで作家を中心とした制作態勢を貫いているコミックス・ウェーブ・フィルムではイレギュラーな経緯だが、Holinersと李豪凌氏の熱意に応えた形だ。
この『詩季織々』は日中で公開に関する業務を担当する企業が完全に異なる。日本では東京テアトルが配給を担当し2018年の夏に公開予定だが、中国では劇場の枠が取りにくいため、公開の形態に関しては中国側は別で試案を練っている状態だ。作品は合作だが、その作品を売る方法はタイミングを合わせつつ日中で完全に分かれるという形である。
こちらもまた、単純に「中国企業が日本への進出を考えている」という話ではないのだ。
同じように見本市に出展している中国企業を見ても、日本のアニメ市場をどう捉えているかは大きく異なる。が、基本的にどの企業の展示からも「日本の市場で受け入れられれば一流」という気持ちを強く感じた。この事実を念頭に置いて見れば、中国のアニメスタジオの日本進出は、逆に日本のスタジオや関連企業にとっても大きなチャンスとなり得るのではないだろうか。【AnimeJapan2018】
— 『詩季織々』公式 (@shikioriori2018) 2018年3月24日
ただいま、A61: コミックス・ウェーブ・フィルムブースにて『#詩季織々』紹介中です!
ビジュアルの写真を是非、期待コメントなども付けて投稿してください!
<#しきおりAJ>のハッシュタグもお忘れなく!#animejapan #しきおり pic.twitter.com/0LGftYlpbb
コンテンツ制作の機運が高まるサウジからも出展
さらに会場でひときわ異彩を放っていたのが、サウジアラビア王国からの出展であるマンガプロダクションズだ。中東の企業としてアニメ関連イベントに出展するのは初だという。 同社はサウジアラビアの民話を題材に東映アニメーションと共同制作したアニメ「きこりと宝物」と、SNKの格闘ゲーム『THE KING OF FIGHTERS ⅩⅣ』のDLCとして配信されるサウジアラビアをモチーフにしたステージとキャラクターを展示。サウジアラビアの一般的な衣装であるトーブとアラブスカーフを身につけたスタッフがアラビアコーヒーを振る舞うという、見るからにアラブ感漂うブースが目を引いた。 マンガプロダクションズはサウジアラビアのリヤドに本拠地を置く。同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が設立したミスク財団の子会社にあたり、アニメやゲームといったコンテンツの制作・販売、そしてそれらに携わる人材の育成を目的とした企業だ。今年春にも日本支社を設立、アラブの民話をモチーフにした全13話のテレビアニメや劇場アニメを企画している。そのバイロット版となる「きこりと宝物」は5月にテレビ東京で放送されることが決定している。
これまで宗教上の理由からサウジアラビアには映画館などもなかったが、この皇太子の改革によって劇場がつくられる運びとなり、マンガプロダクションズはそこでの上映を目標と意気込んでいる。 現在、サウジアラビアでクリエイターとして人口が多いのが女性なのだそうだ。
『KING OF FIGHTERS』のキャラクターも投稿によるコンペ形式で決定したが、選ばれた作者は2人とも女性。コンテンツ制作の講義でも女性受講者が多く、サウジ国内では現在はFLASHアニメが中心だが、いずれも非常に熱心に取り組んでいるという。
マンガプロダクションズの大きな目標のひとつが、これらのクリエイター志望者を一人前に育てることだ。そのため東映アニメーションやSNKといった日本企業との関係も一過性で終わるのではなく、学生をインターンとして現場に送り込み、そのノウハウを学ばせる取り組みを進めている。
日本の市場で収益をあげるというよりは、そのずっと前の段階としてまずはコンテンツのつくり方自体を日本市場から学ぼうというスタンスだ。若き皇太子の改革路線の一環として、コンテンツを供給する側へと大きく舵を切ったサウジアラビア。その最先端にいる一つがマンガプロダクションズと言えるだろう。 このように、単純に国外からの出展と言っても一括りにできないブースが見られたAnimeJapan。いずれのブースで話を聞いても、日本のオタク市場という巨大な存在をどのように捉えているかそれぞれ異なった点が興味深い。
彼らにとって日本の市場は大規模な取り組みの舞台であり、共同で仕事をする対象であり、またはノウハウを学ぶ場でもあるのだ。これらの動きと国内のスタジオがどのように絡み合っていくのか、今後が大いに楽しみである。
「AnimeJapan 2018」で起きたこと
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しげる
Writer
1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
https://twitter.com/gerusea
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