連載 | #7 「AnimeJapan 2018」特集

『名探偵コナン』 担当Pが明かす 製作委員会もビビったファンの推理力

『名探偵コナン』 担当Pが明かす 製作委員会もビビったファンの推理力
『名探偵コナン』 担当Pが明かす 製作委員会もビビったファンの推理力

劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』メインビジュアル

POPなポイントを3行で

  • 劇場版『名探偵コナン』の宣伝とは?
  • 「AnimeJapan 2018」で東宝プロデューサーが講演
  • ファンの考察には制作委員会も興奮
いよいよ4月13日(金)から公開される劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』。第22弾となる映画最新作の公開日が近づくにつれ、宣伝にも熱が入っている。

普段、何気なく目にする映画の宣伝だが、制作決定から公開に至るまで、タイミングに応じて打ち出し方や手法が変化する。

3月22日から25日まで開催された「AnimeJapan 2018」の展示スペース「アニメのお仕事」では、「劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』宣伝執行計画」と題して、映画の宣伝スケジュールをもとに、その手法や素材を紹介していた。

さらに24日には、劇場版シリーズの宣伝に関するクリエイションセミナーを開催。東宝の宣伝プロデューサー・林原祥一さんと、アニメ『名探偵コナン』を立ち上げた読売テレビのチーフプロデューサー・諏訪道彦さんを迎え、宣伝展開の裏話などが披露された。

20年以上の歴史を積み重ねてきた『名探偵コナン』

左から東宝の宣伝プロデューサー・林原祥一さん、読売テレビのチーフプロデューサー・諏訪道彦さん

冒頭、諏訪さんは20年以上という放送を振り返り、「当初はほとんどのサブタイトルに“○○殺人事件”と入れていた。でも、いまは殺人事件を見せたいわけではないので入れていない」とコメント。作品としての歴史の長さゆえの変化を改めて感じさせた。

TV放送の翌年、1997年からスタートした劇場版についても、第1弾『時計じかけの摩天楼』では、「原作者・青山剛昌さんが原作で描こうと思っていたとっておきのトリックを出していただいた」と、往年のファンにはうれしいエピソードが披露された。

現在、9年連続で興行収入30億円以上を記録している劇場版。人気シリーズに林原さんが加わったのは、第17弾となる『絶海の探偵』(2013年)から。劇場版の宣伝プロデューサーとしては6人目となった林原さんは当時25歳。「すでにレジェンド的な作品だっただけに、プレッシャーがすごかった」と回想した。

すると諏訪さんが当時の印象として、「東宝のプロデューサーはかっこいい人たちばかりなので、かっこ悪い男の苦労なんか知らないんだろうなって(笑)」と語り林原さんを困らせる場面も。

映画とTVの宣伝は大きく違う

会場の空気も温まったところで、本題である宣伝の話題へ。TVシリーズも担当する諏訪さんによると、「お金を払って見に行くかどうかという点において、映画とTVの宣伝は大きく違う」という。

毎週放送と宣伝をしているTVからすると、「個人的に映画の宣伝は別の島に行って仕事をする感じ」と、その違いを表現した。

林原さんも、「TVはずっと蓄積されていく授業、映画は年に一度の文化祭」と両者を学校に例え、「宣伝という意味では、前者はファンを絶やさないようにする作業、後者は公開に向けて一極集中で盛り上げる作業。個人的にはTVのほうが難しいと思う」と語った。
劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』予告映像

ティザービジュアルに込められた青山剛昌のメッセージ

『ゼロの執行人』の公開を来月に控えた段階で宣伝と聞くと、予告映像をイメージする人も多いだろう。とはいえ、同作の宣伝はそれだけにとどまらない。

宣伝のスタートとなったのが、2017年11月に公開された青山剛昌さんによるティザービジュアルだ。

劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』ティザービジュアル

林原さんによると、このティザービジュアルで「青山先生から劇場版に対するメッセージを受け取る」のだという。例えば今回は、劇場版のティザービジュアルとして最も多くのキャラクターが登場している点、さらに黒田(右上のキャラクター)の大きさなどに、意味を見出した。

同時に、林原さんの宣伝プロデューサーとしての仕事がスタート。ティザービジュアルが使われたチラシの裏面で、コナンと安室の対立構造を明確に打ち出していく。

「知っていても見たくなる」メインビジュアルとは?

ここまではいわゆるティザー宣伝期間と呼ばれるもの。年明け以降、メインビジュアルが解禁され、宣伝も多彩になっていく。 このメインビジュアルで林原さんは、「いま『名探偵コナン』はここまできてる、そんな壮大さを表現したかった」という。なぜなら、劇場版シリーズは5年連続で興行収入が増加。前作『から紅の恋歌』では68.9億円を記録している。

物語の壮大さと、世間的な『名探偵コナン』としてのスケールの大きさ、その両方をビジュアルに表現できるタイミングだった。

とはいえ、このメインビジュアルは往年のファンからすると、内容が想像できてしまう面もあるようだ。実際、会場に集まったファンに「(何が起こるのかとか)わかります?」と聞くと、何人かがうなずぐ場面があった。 林原さんとしては意識的に「知っていても見たくなるもの」をコンセプトに考えたビジュアルだが、諏訪さんからは、当初はもっとネタバレになりそうな内容だったことが明かされた。

「林原さんから最初に提案されるものは、だいたい“ちょっとやりすぎじゃない?”と感じるもの。今回も物語に関わる要素がたくさん入っていた」(諏訪さん)

すると林原さんは、「やりたいことのさらに上で提案して、その場は笑われてピエロにみたいになる(笑)。でも、委員会の方々によって少し抑えられることで、結果的にやりたいレベルになっている」と述懐した。

ちなみにビジュアルの中で、毛利蘭の両親である毛利小五郎と妃英理が手をつないでいるのは、林原さんこだわりのポイントだという。

製作委員会でも話題になるファンの反応

ティザーからメインへというビジュアル解禁の間に、『ゼロの執行人』ではコナンと安室がぶつかり合うバトルビジュアルを用意。

劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』バトルビジュアル

2人の対立構造を明確に打ち出すことで、イメージがシンプルになると同時に、関心のベクトルを向けやすくする狙いがあった。

一方で、『名探偵コナン』の宣伝は、「1つの情報を発表すると、ファンの方々があらゆる角度から推理してくださって、緊張感を感じつつも面白い」という。

諏訪さんも「深読みしてもらえる快感というか、ここまで考えてくれるんだ! と関心する」と同意した。

本作で象徴的だったのが、4月13日の金曜日という公開日を発表したタイミング。

「これまでは土曜日の公開だったので、大丈夫かなという心配もあった。でもファンの人たちの反応を見ると、“あれ? 4月13日って喫茶店の日だ、これって安室が喫茶店で働いているから!?”と、盛り上がってくれた。僕は全然知りませんでした(笑)

後日、製作委員会でも話題となったほど、ファンからの支持がアツい『名探偵コナン』。ファンからはすでに、「安室さんを(興行収入)100億円の男にしないと!」という声も上がっているという。

安室の電話番号が流出したり、蘭がJK語をしゃべったり

ほかにも本作では、印象的な宣伝を展開している。そのひとつが、3月1日から実施した安室の電話番号流出した、という設定の「シークレット安室コール」。 流出したという電話番号には、初日の段階で5万件もの電話があったという。この宣伝に関して、林原さんは「『名探偵コナン』のアンバサダー的な人たち(ファン)に、何が刺さるかを考えた結果」と語る。

口コミの精度や質が高い人たちが楽しめる、遊び心あふれた宣伝を用意することで、それまで展開してきた王道的な宣伝とのギャップも相まって、大きな反響を集めた。

もうひとつが、「蘭チャンだってJK」と題した予告編のような映像。
劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』毛利蘭×極秘任務 蘭チャンだってJK篇
声優・山崎和佳奈さん演じる毛利蘭が、JK語を連発するという奇想天外な内容だが、映像をきっかけに改めて「毛利蘭=女子高生(JK)」と認識した人も多いのではないだろうか。

諏訪さんが「山崎さんもよく引き受けてくださった」と振り返る映像は、林原さんいわく「作品が20年以上続く中で、毛利蘭が女子高生かどうかを気にする人はほとんどいなくなっていた。もし蘭が2018年にいたら、JK語をしゃべっているかもしれない」と思い、提案したという。 「“蘭ちゃんて女子高生だよね”という納得感は、最近コナンを見ていない人にも伝わるだろうと。そういう意味では、より広い層への宣伝として考えた」(林原さん)

普段、何気なく見ている映画の宣伝も、タイミングやアピールする層などに応じて、様々な手法がとられている。本作の公式サイトでは「ZERO MISSION PROJECT」と題した宣伝施策も展開中だ。

ちなみに「○○ PROJECT」シリーズも林原さんが中心となってスタートした企画。『純黒の悪夢』(2016年)では「BLACK IMPACT PROJECT」と題して松崎しげるさんとのコラボも話題となった。 劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』の公開まで残りわずか。これまでの宣伝を振り返りつつ「これはどんな人に向けられたものだろう?」と考えてみるのも面白いかもしれない。

(C)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

「AnimeJapan 2018」で見つけたPOPたち

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イベント情報

AnimeJapan 2018

期間
2018年3月24日(土)〜25日(日)
場所
東京ビッグサイト

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