海賊版サイトへの懸念を表明し、「全く創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが、利益をむさぼっている現実があります」と糾弾すると同時に、それを利用している読者に対して利用を踏み止まるように呼びかける内容となっている。
日本漫画家協会が海賊版サイトへの声明
『あしたのジョー』や『おれは鉄兵』などで知られる漫画家・ちばてつやさんが理事長をつとめ、赤松健さんや永井豪さん、萩尾望都さん、西原理恵子さん、安彦良和さん、クリムゾンさんといった著名漫画家が名前を連ねる公益社団法人・日本漫画家協会。「海賊版サイトについての見解」というエントリーで、異例とも言える声明文を発表して注目を集めている。
声明では、プラットフォームの変化によって漫画自体の読まれ方が変化し、手軽に漫画を手にとってもらえる状況を喜びつつも、その創作の原動力においては「作り手と、作品を利用するみなさんが、きちんとした『輪』のなかでつながっていることが大事です」と強調。
同時に、つくり手がその「輪」の外に追いやられてしまうことが増え、その代わりに、海賊版サイトなどが広く普及してしまっている現状を憂いている。
そして、それを利用する読者にもその悪影響を訴える内容になっている。
それらを観たり、読んだりするときに、その「輪」のなかに、創作した人たちがちゃんと一緒に入っているだろうか? と、ちょっと考えてみてくれませんか?
私たち作り手は、どんなに頑張っても、その「輪」の外側では作品を作り続けられないのです。
このままの状態が続けば、日本のいろいろな文化が体力を削られてしまい、ついには滅びてしまうことでしょう。
そのことをとても心配しているのです。 平成30年2月13日 公益社団法人日本漫画家協会「海賊版サイトについての見解」より一部引用
海賊版サイトを巡る様々な議論
利用が広がる海賊版サイトについては、ネットメディアやテレビをはじめ、その利用実態が特に2017年から2018年にかけて報道されるようになってきている。漫画がアップロードされ誰でも無料で閲覧できる海賊版サイトの利用は増え続けている。海賊版の大手サイトのドメインなどを調べる限り、ユーザー数は右肩上がりのようだ。
現状、権利者自身に利益が還元される仕組みとなっていない海賊版サイトの利用を問題視する声は多数上がっている。
海賊版についての議論は今に始まった話ではない。
『海猿』や『ブラックジャックによろしく』といった代表作を持つ漫画家の佐藤秀峰さんは、常々海賊版に反対しないという姿勢を貫いてきた。
今年1月にも、プラットフォームや出版社にとっては脅威であるが漫画家個人で考えれば必ずしも海賊版サイトは不利益であるとは限らないこと、海賊版の影響で売り上げが大きく下がったという説には懐疑的であることを表明している(外部リンク)。「特攻の島」を海賊版で読みたい方はどんどん読んでください、というつぶやきを投稿したのですが、反響がスゴイので、もう少し丁寧に発言の意図を説明しました。
— 佐藤秀峰 (@shuho_sato) 2016年2月18日
https://t.co/NJhYioUWe9
同じく、『やれたかも委員会』などの電子書籍化にあたって佐藤秀峰さんの運営する電子書籍取次サービス「電書バト」を利用している吉田貴司さんも、2月9日に「ハフィントンポスト日本版」でのインタビューにおいて同様の意見を口にしている。その上で、海賊版を叩くのではなく出版社が協力すれば「より便利で優良な定額課金システムを作れると思う」と提案している(外部リンク)。
ただし、上述の2名は、大手出版社を介さないダイレクトパブリッシングを採用し作品を刊行している漫画家で、大規模な著作権侵害が行われている現状については、それぞれの立場によって主張や考え方は異なる。
ちばてつやさんは、前述の日本漫画家協会の声明文発表に先立って公開された「NHK NEWS WEB」のインタビューで、漫画がいろいろな形で読まれていることは嬉しいが、「海賊版サイトで読まれてしまうと単行本にならないし、雑誌が売れない」ため、「若い作家が、どんどん“死んで”いってしまうことに気がついてほしい」と警鐘を鳴らす(外部リンク)。
実際、経済産業省が毎年まとめている模倣品・海賊版の被害とその対策についてのレポートでは、被害総額は莫大なものだと伝えられている(外部リンク)。
一方で、全国出版協会によると、2017年の紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年比6.9%減の1兆3,701億円で13年連続のマイナスとなっている一方、電子出版市場は前年比16.0%増の2,215億円と報告されている(外部リンク)。
ただし、電子コミックの売り上げは伸びているものの伸び率が縮小していることも明らかになっている。
電子書籍巡る様々な取り組み
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