突然ですが、日本語ラップはお好きですか? わたしは好きです。
「今夜はブギー・バック」(スチャダラパー)、「DA・YO・NE」(EAST END×YURI)、「Grateful Days」(Dragon Ash)のようなカラオケ定番曲だけでなく、メジャー、インディーズ問わず、日本語だからこそ表現できるおもしろさ、かっこよさ、言葉遊びが繰り広げられる日本語ラップの楽曲を楽しんできました。(最近のインディーズだと「手さぐり」をリリースしたばかりの愛知のフィメールラッパー・メガネがイチオシです)
そして、ラップの中にも「フリースタイル」という、即興で歌詞をつくってその場でラップする、という文化があり、その技術を競い合う「MCバトル」というものの存在を、ある番組を通じて知りました。
MCバトルとは、「バトル」というだけあって、対戦相手とラップで戦うというものなのですが、相手が発した言葉尻を拾って即興でアンサーを返したり、韻を踏みつつ相手をdisる(批判する・侮辱する・見下す、などの意味)という、瞬発力の極みのような、「なにそれ、頭の中どうなってるの?!」という戦いです。
頭脳とボキャブラリー、そして表現力のすべてで戦う「脳みそのボクシング」だと思っていただければよいかな、と思います。
さて、そのMCバトルを題材にしたテレビ番組で今、話題なのが、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系列/毎週水曜1:26 - 1:56で放送中)ですね!
番組企画の面白さだけでなく、YouTubeでも全話が視聴できるため、ネットを中心に話題を呼んでいます。「フリースタイル」の普及に一役買っている『フリースタイルダンジョン』ですが、実はその前身とも言える番組があるのをご存知でしょうか。
それが4月2日(土)に第9回全国大会を控える「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」です。 「高校生RAP選手権」はわたしが「MCバトル」というものの存在を初めて知った番組で、2012年に第1回がオンエアされ、元々は「BAZOOKA!!!」という番組の1コーナーだったのがその人気から回を追うごとに規模を拡大。
出場者がフリースタイルでラップバトルをし、トーナメントを勝ち上がるという試合形式で進んでいきます。「高校生」と題されていますが、中卒、高校中退者であっても年齢が高校生の範囲内であれば出場可能、つまり、ほぼ同世代だけのバトル大会であることからキャリアに大きな差が出にくく、接戦が起きやすく、かつ新しい才能が発掘される、というエキサイティングなつくりになっています。 個人的に注目しているのはそこだけでなく、出場者紹介が某高校野球大会を連想させるBGMとナレーションというユーモアあふれる演出、司会にお笑いタレントの小籔千豊さんを配することで番組の空気をラップ界隈に寄せ過ぎないバランス感覚など、ラップバトルに馴染みがない層にも入りやすい仕立てで、隅から隅までが素晴らしい番組だと思っています。
実はわたしも第3回まで観ていたんですが、視聴環境が変わったりオンエア日を追いかけそびれていたりと、しばらく様子を知らずにいました。今回、久しぶりに調べてみて驚いたのが、なんと! もう次回は第9回大会というところまで回を重ねていて、『フリースタイルダンジョン』にも登場しているチャレンジャーが多く出場しているというではありませんか!
つまり「高校生RAP選手権」の過去回は『フリースタイルダンジョン』のファンにとってモンスターやチャレンジャーたちの高校時代のバトルを観ることができる、お宝映像集!
ということで、今回は、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」の第5回と第6回大会の公式映像が視聴できるようになったので、主に第6回を中心に、「高校生RAP選手権」の魅力をお届けしたいと思います。
文/はせおやさい
※ここから先は第5回・第6回大会のネタバレがございます
【公式】第5回 高校生RAP選手権 Part1
【公式】第6回 高校生RAP選手権 Part1
第6回の決勝は何度観てもエモくて泣ける!!! そして第6回の感動を最高潮に高めるため、第5回も絶対に観てください!
「フリースタイルダンジョン」から入る人たちは、出場者たちのいわゆる「若さ」、中学男子のようにシモネタでギャーギャー騒げるような、てらいのないまっすぐな若々しさと、エネルギー有り余るパフォーマンスが新鮮に映るのではないかと思います。
わたしも今回久しぶりに「高校生RAP選手権」を観て、思わず「みんな若いな!」と唸りました。
この「若い」は決して悪い意味ではなく、彼らのステージでのパフォーマンスは、もう言葉も気持ちも、全力でぶつかっていっている感じで、熱い! 手足から熱を放出するようにぴょんぴょんと跳ねたり、全身を使って動いたり、視線を合わせない対戦相手にムカついて「こっち見ろ!」と怒鳴ったり、青臭い! 可愛らしい! 観ているこちらまで自分の内側から青春のほとばしりを引き出されるような、そんなフレッシュな気分になります。
そんな「高校生RAP選手権」の第6回大会、なんと審査員席には第5回に引き続き登場の「漢 a.k.a GAMI」だけでなく、「R-指定」の姿が! もうこれだけで「フリースタイルダンジョン」のファンとしてはテンションが上がってしまいます。しかもR-指定の解説がこれまた上手!
今のバトルの韻の踏み方は何がうまかったのか、返しのどこが良かったのかを適切に解説してくれるので、詳しくない人にも勝者が選ばれた理由がぐっとわかりやすくなりました。
過去の参加者たちが卒業したこともあり、第6回では初登場のメンツが増えるのですが、個人的に印象に残ったのは「言×THEANSWER」「RACK」の2人です。 言×THEANSWERはこのとき16歳! 年齢を引き合いに出すのもはばかられるほどのキレっぷりで、早くも独特の存在感を発揮しており、堂々としたパフォーマンスはなんかもはやカミソリのようで観ているだけで怖い! そして第3回から4大会連続出場のRACKは、見れば見るほどオードリーの若林と区別がつかない小動物系のあどけない顔立ちなんですが、声が聞き取りやすく、ちょっとふっくらしていて、ライムは童貞キャラで押す、という憎めなさ。なんとなくマスコットぽいんですね。
そんな個性的な彼らのバトルは実際の映像で見ていただくとして、第6回の一番の見所の決勝について語りたいと思います。
青春が詰まった心揺さぶる決勝戦
第6回 高校生RAP選手権 Part2|準決勝戦&決勝戦
対戦カードは「Rude-α」と「MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻」。前述のRACKを第2試合で下し、初出場でいきなり決勝進出までたどり着いた沖縄出身のRude-αと、4大会連続出場、満を持して優勝を獲りにきたMC☆ニガリ、という、初出場×常連が対決するワクワクの組み合わせです。
Rude-αは沖縄の子ということもあり、イントネーションがどことなく優しいんですね。身体も小さいし、声もやや高くて、まだ「少年」という印象が強い。それでもガンガン煽っていくスタイルで攻め、R-指定も指摘していたようにパフォーマンスに気持ちが乗っていて、観ているだけで引き込まれるし、がむしゃらにぶつかっていく様子がグッと来てしまいます。
そしてそれを迎え撃つMC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻。この決勝戦ではそれまでの激しい罵倒ではなく、ストレートな友情や思いが滲み出るラップで応えるんですが、なんかもうこの決勝のやりとりが、めちゃくちゃ胸にこみ上げる!!! よくできたジャンプ漫画の最終回みたいな熱さで、ラップバトル=口喧嘩というイメージを超えて、気持ちをゆさぶる掛け合いを見せてくれました。
この熱さをどうしても伝えたい一心から、1ターンだけテキストでお送りします!
▽先攻:Rude-α
沖縄代表 また見せつける
ニガリ! お前はもう一生のマイメンだ
昨日 会ったばかりだけれど もう俺も
ちゃんと熱いもんを見せてこうぜ
こんな感じ 2人のライムで
第7回 高校生ラップ選手権
周り巻き込む もう
勝ちとか負けとか 関係ねえよ!
ここでしてくぜ 完全燃焼!
やり出す 一生 どうだ
書き起こすため何度も観ながらそのたびわたしは号泣しているんですが、もはや相手をdisるのではなく、お前と出会えてよかったぜ! 一緒に盛り上げていこうぜ! マイメン! という、この友情バトル!▽後攻:MC☆ニガリ a.k.a赤い稲妻
Hey Yo 何が第7回?
俺たちはぶつけあってくぜ
お互いのラップで 確かな愛
Hey Yo そういうところで やってるぜ
昨日会った 奴のラッパーとも
仲良くなれる 最高じゃねえか?
そういう舞台 俺はこの場所
マジやらせとか どうこうじゃなくて
いつも通り即興 ぶつけてくだけだぜ
台本 なんてなしであげてく会場
そうだろう?
このバトルが終わった後は観客も大盛り上がり、審査員も「やばい!」とみんな笑顔で大きな拍手を送っていました。もはや勝者はどちらでもいい! こんなに爽やかなバトルを観ることができて最高! という感じではありますが、最終的な勝者がどちらになったのか、ぜひ動画をチェックしてみてください。
わたしがこの決勝戦を観て泣きながら思ったのは、それまで紹介されてきた、各出場者たちのエピソード。
いじめられっ子やアイドルオタク、補導歴があったり高校を中退したり、環境に必ずしも恵まれたとは言えない子たちがラップを通じて自分のスタイルを見つけ、仲間を見つけ、目指したいものを見つけて、ここに集まってきている。
バトル自体は口喧嘩というか煽り合い・罵倒でありつつも、ベースには尊敬や仲間意識があって、だからこそ絶対に負けたくない、という意地があり、思いがある。このRude-α VS MC☆ニガリ戦は、そういうぜんぶが詰まった決勝戦だと思いました。
自分が高校生のとき、彼らと同じレベルの言葉が持てただろうか?
彼らと同じ切実さで、自分の思いを言葉で表現しようとしていただろうか?
と思うと、そこにたどり着くまでの彼らの苦悩や渇望がリアルに迫ってきて、目頭が熱くなってしまいます。
それは審査員も同じだったようで、総括でコメントを求められたZeebraの目にも涙が……。
「おじさんだから、涙もろくてすみません」と照れ隠しのように言っていましたが、こんな名勝負を目の当たりにして、日本のヒップホップ、ラップのシーンを(時に揶揄されながらも)引っ張ってきた人物の一人であるZeebraの思いたるや、いかばかりか! さらにそれだけでなく、やはり彼も同じように孤独を抱えて言葉を探したラッパーの1人であったわけで、10代の彼らが仲間を見つけて思いをぶつけあうバトルに共鳴するものがあったのではなかろうか、と感じずにはいられない素晴らしい決勝戦だったのでした。
10代は自己形成もあやふやで、周りの目を気にして、良くも悪くも周囲の影響を受けることが多いと思います。その中で、いかに自分自身を形づくっていくか。もしかしたら「自分自身の考え」なんてないのかもしれない。自分が今思っていること、考えていることは誰かの受け売りで、自分自身は空っぽの、生きている価値がなにもない人間なんじゃないか。
そういう不安と戦いながらも言葉を探し、自分自身のものにして相手にぶつけ、受け止めてもらったり受け止め返すことで彼ら彼女らは成長していくのかもしれません。ラップを通して、その過程をリアルタイムで見守ることができる、というのは、なんて素晴らしいことでしょうか。
ということで「高校生RAP選手権」第6回は必見!
決勝は「ああ、こういうバトルが観たかった!」というのを実感できる名勝負だったと思います。「高校生RAP選手権」という冠に恥じない、素晴らしい一戦でした!
Zeebraがつくった点が線になる
そして第6回を見終えて改めて強く印象に残ったのが、Zeebraの存在でした。彼は1999年に「Grateful Days」で誰もが知るあの名ライン「俺は東京生まれ ヒップホップ育ち」を世に放ち、2006年、日本テレビの深夜番組『シュガーヒルストリート』で多くのヒップホップアーティストを地上波に登場させました。そして2012年「高校生RAP選手権」では審査員、2015年にはオーガナイザーとして『フリースタイルダンジョン』の企画と、常にヒップホップをメジャーシーンに引っ張り出そうとしていました。そんな彼がつくってきた「点」が「線」になったのが、この「高校生RAP選手権」であり『フリースタイルダンジョン』なのではないか、と思います。
第9回、審査員にZeebraの名前はありません。
それは、自身が立ち上げた新レーベルに出場者であるT-PablowとYZERRが所属することから公平性を欠くという理由で辞退した、第5回以来のことです。辞退したのか、何かあったのか、理由は分かりませんが、『フリースタイルダンジョン』からは漢 a.k.a GAMIと、R指定が引き続き審査員として顔を並べており、もうZeebra自身が登場しなくても十分だ、と思ったのかもしれません。
Zeebra不在の第9回、バトンを渡された彼ら審査員を始め、新たな出場者たちは、どんな名勝負を見せてくれるのでしょうか。否が応にも期待が高まります。
こうなると、第9回も絶対に見逃せませんね。
3月28日(月)放送の出場者発表で予習をしつつ、4月18日(月)のオンエアを楽しみにしたいと思います。チケットも絶賛発売中とのことなので、行ける方は是非会場でその熱気を体感してきてください!
ということで今日はそんな感じです。
チャオ!
BAZOOKA!!!高校生RAP選手権 全国大会」 告知ムービー到着!!
※記事初出時、一部表記に誤りがございましたのでお詫びして訂正いたします
この記事どう思う?
イベント情報
BSスカパー! BAZOOKA!!!第9回高校生RAP選手権
- 日時
- 2016年4月2日(土)
- 時間
- 開場14:00、開演15:00
- 場所
- 大阪南港ATC HALL(〒559-0034 大阪府大阪市 住之江区南港北2-1-10)
<チケット料金>
スタンディング ¥3,500/当日券 ¥4,000
※ 入場時に、1ドリンク代¥500を別途お支払いいただきます。
※ 3歳以上の方は入場にチケットが必要です。
チケット購入URL:http://eplus.jp/sys/T1U89P0101P006001P0050001P002093003P0030007P0006
<放送日時>
「第9回 BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」の模様はBSスカパー!にて4月18日(月)後9:00-深0:00放送! お見逃しなく!
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hase0831
会社員 兼 ブロガー
好きなものはお酒と読書とインターネット。
ブログ『インターネットの備忘録(http://hase0831.hatenablog.jp/)を中心に活動。
「サイボウズ式(http://cybozushiki.cybozu.co.jp/bloggers/)」にてブロガーズコラム連載中です。
Twitter id : @hase0831
連載
「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」で活躍したT-Pablow、GOMESS、HIYADAM、かしわ、EINSHTEINら若きラッパーたちのロングインタビューや大会のレポート、MC☆ニガリなど大会優勝直後の心境などを特集。 また「BAZOOKA!!! 第9回高校生RAP選手権」も取材!
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