氷の上でしか生きられない女の子・いのりの未来
前述したように、いのりはかつて、光をして夜鷹純に似ていると形容されました。
夜鷹純と同じように、氷の上で自分が最強だと証明できないのであれば生きる意味なんてないと言う彼女をを見て、光は「氷の上でしか生きられない女の子(47話「夜の生き物」)」と表現した。まさに夜鷹純です。
しかし、本稿では夜鷹純を目指すべき理想の選手ではないとしています。彼に似ているいのりは、夜鷹純と同じ道を行くのか? いや、そうではないでしょう。
夜鷹純のような鋭い危うさは感じません。何度も負けて、負ける度に這い上がってきた、折れない強さがある。
本来なら5歳前後ではじめるのが理想とされるフィギュアスケートにおいて、10歳から本格的に滑りはじめたいのりは、明らかなハンデを背負っています。しかし、それを勝てない言い訳にはしないと断言するメンタリティはすでに一流です。
逆境にめっぽう強いメンタリティ(レジリエンス)が、いのりの真骨頂です。
『メダリスト』9巻。何度負けても決して折れない強さを持ついのり/画像はAmazonから
勝負事において最後に勝つのは誰でしょうか。筆者は勝つまで折れない心の持ち主だと考えます。勝つまで戦う、故に最後には勝てる。
当たり前のことですが、何度負けても立ち上がり、勝つまで戦うことのできる人間は、負けず嫌いの多いスポーツの世界にも一握りしかいません。いのりはその中の一人です。
ただし、自分を追い込みすぎるきらいはありますし、勝つためなら犠牲も厭わないほどストイックな性格をしているのは確かです。
司がいかにいのりの手綱を握って導いていけるか。そして、犠牲の多寡=強さの図式を超える、司なりの“真の強さ”をどう定義して、いのりを教え伝えることができるのかが、今後の見どころになりそうです。
終わりに 夜鷹純、光、司に共通する家族と過去の不明点
最後に、今後の展開に深く関わってくるであろう注目ポイント、メインキャラクターの家族に触れて終わろうと思います。
ここまで見てきた夜鷹純、光、いのり、司の4者ですが、両親と姉が登場しているいのり以外は家族関係に不明点が非常に多いです。
夜鷹純は不明点が多すぎてお手上げです。光が言う「夜鷹純が犠牲にこだわる意味」に深く根ざしている可能性はあります。
光は母がいないこと、孤児であること、経緯は不明ですが有力者の家に引き取られたことが判明しています。この有力者の家が曲者で謎が多く、なんとなく黒幕感がある。
『メダリスト』12巻。初めて光の目線で『メダリスト』が描かれたエピソードを収録した超重要な最新刊/画像はAmazonから
一番気になるのが司です。中学生の頃にフィギュアスケートをはじめるための資金をすべて自分で稼いだらしく、現役時代は事実上のパトロンとして縁のあった加護家の支援を受けており、引退後も何かとサポートを受けています。
司には学生時代から頼りにできる家族がいない、あるいはいても頼れない事情があるのかもしれません。本筋には関わらないため本編ではあまり触れられていませんが、司の家族と過去には重大な何かが秘められていそうです。
いのりの母・のぞみが抱える問題が序盤からフィーチャーされたように、『メダリスト』で家族というテーマは重要視されています。
そのため夜鷹純、光、司の家族関係にはいずれ焦点が当たるでしょう。その時どのようなテーマが新たに立ち現れるのか。楽しみに待ちたいと思います。

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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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