「事実をポジティブに書きたい」声優 悠木碧が問い続ける言葉への責任

悠木碧の人生のモチベーションは「“好き”を考えること」

「楽しむことは趣味にとても近い仕事をしている責任でもあると思う」

──以前、「YUKI×AOI キメラプロジェクト」のラジオで「邪念なく“楽しい”や“好き”を届けるのが難しい、仕事だからってすぐにバレちゃう」と話されていたのが印象的でした。これはエッセイで、“声優になったことを三分の一は後悔している”と書かれたこととも近しいと思うのですが?

悠木碧 その2つの感情は繋がる部分もあるかもしれません。声優として“好き”に近いところ、なんなら半分浸かっているところで仕事をしているからこそ、“好き”に対して構えることがあって。「これを好きと言うことによって、仕事が来るとちょっとでも思わなかった?」と自分に問いながら生きています。

“好き”という感情って貴重なものだからこそ、商売にもなりやすいと思っていて。でも結局のところ、それって受け取る側の人たちも「本当に好きなの?」と見てくるはず。“好き”って「泥臭くないといけないもの」という感覚もあるし、オタクのしていることって基本的に趣味だから、趣味の域である必要がちょっとある。

好きが仕事に繋がるのは決して悪いことじゃないはずなのに、なんとなく「この“好き”は本当に雑念が混じっていないだろうか」という迷いがあるんですよね。

だから、「本当の好きとはなんだろう」と自己分析に落ちていくこともあります。声優という仕事をしているからこそ、「私はなぜこれが好きなのか」を、ちゃんと人に伝えられるようにしておくことが、まず礼儀だなとすごく考えています。

──本来“好き”という感情はポジティブなものなのに、仕事的に“好き”が混じりけのないものであるかどうかを考えなければいけない。それってすごく大変なことですよね。

悠木碧 大変ではあるのですが、好きなものを考えられるのは基本的に幸せで平和な証拠だとも思うんです。今、対処すべき大きな問題がないからこそ、「なぜ、これほどまでこの人(推し)のことが好きなのかな……?」と、推しへの愛を哲学できるわけじゃないですか(笑)。私はそれを最大限に楽しんでいるんです。

また、楽しむことは趣味にとても近い仕事をしている責任でもあると思う。みんながなれる仕事ではないけど、なりたいと思っている人はたくさんいる。きっと知らず知らずのうちに、いろんな人の機会を奪っていることもたくさんあったと思います。

そんな中で仕事をしているからこそ、幸せであらねばと思うし、“好き”をずっと好きでい続けないといけない。“好き”の感情を保つことはすごく重要なんです。そういう、「好きの哲学」がずっと渦巻いています。

……と、いろいろ言ってみましたが、最終的に“好き”を考えることが人生のモチベーションなんですよね(笑)。“好き”を考えること自体がハッピーなんだと思います。

──悠木さんがそこまでいろいろ考えているからこそ、『FGO』で(大好きな)山南(敬助)さんがプレイアブルとして実装された時に、大量の祝福LINEが来たのかなとも思いました。あれは本来、出演作品か本人が何かのアワードを受賞したとか、そういう時のエピソードですよね(笑)。

『悠木碧のつくりかた』のカバーは、本人が大好きな『Fate/Grand Order』山南敬助のイラストなどで知られるきばどりリューさんが担当

悠木碧 それくらい大きな出来事のような雰囲気がありましたね(笑)。なんなら私、誕生日に「おめでとう」LINEとか、そんなにこないんですよ。なのに、山南さんが実装された時は、多方面からLINEがやばかった……。

シンプルに「おめでとう!」というメッセージもあれば、「久しぶり! そういえば山南さん、実装されましたね!」というメッセージもあって「お前! 『あけましておめでとう』も送らずに!」と思いました(笑)。おそらく友達たちは、私の人生の一番の山場だろうと察して、人生の節目メールを送ってくれたのでしょう。

SNS混迷期、悠木碧が挑むDiscordでの“妖精”コミュニティ運営

原作などを担当する「YUKI×AOI キメラプロジェクト」のコミカライズ作品『キメラプロジェクト:ゼロ』

──声優、アーティスト、「YUKI×AOI キメラプロジェクト」では企画・原作・キャラクター原案、そして今回のエッセイと、活動は多岐にわたりつつありますが、「今後こんなことしたい!」と思っていることはありますか?

悠木碧 AIを含めて今はいろいろな技術が発達していますよね。仕事が奪われてしまうかもしれない恐怖があるけど、どうせ逃げていてもついてくるものだから、早く迎合していきたいと思っていて。どんな形にするかは全く思いついていないので、面白い絡み方やネタはないのかなと。なので、いい方法があったらお待ちしています(笑)。

あと、最近VTuberのお友達ができて、彼女たちとご飯を食べに行ったりおしゃべりしたりする機会が増えたんですよ。彼女たちの努力や工夫はすごく面白いし、YouTubeなどで活動する方たちから学ぶことがたくさんある。

今さら、自分がVTuberになるとか、動画を始めるとかはもう遅い気がしているので、こちらも何か捻りがほしいなと思っています。今、X(旧Twitter)くんが混迷を極めているから、どうにかなる前に何かいい案を考えたいですね!

──たしかに、Xの動向によって、ファンの方たちとの交流の仕方も変わってきそうですよね。

悠木碧 そうなんですよね。それでいうと、音楽活動の再始動に併せて、Discordのコミュニティを設立しました。いろんなSNSが混迷を極めている状態なので、「悠木碧を応援しているみんな」が集まれる場所をつくれたらいいなと。そのDiscordチャンネルのコンセプトは“妖精”なんですけど……。 ──妖精……?

悠木碧 Discordチャンネルに参加している人たちには「皆さん、ここでは妖精になり切ってください」「恥ずかしがらずにフェアリーになってください」というルールのもと、妖精名がつけられ、お互いにその妖精名で呼び合ってもらうという香ばしいコンテンツをつくりました(笑)。

コミュニティ内では動画を配信したり、音声配信をしたり、一方的にですけど作業通話をしたり、いろいろできたらいいなと。Discordを起点に、新しいことを何か始められたらいいなと考えています。
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声優

声優。青二プロダクション所属。4歳で子役として芸能界に入り、2003年に『キノの旅』(さくら)で声優デビュー。11年、『魔法少女まどか☆マギカ』(鹿目まどか)での好演が大きな話題を呼び、第6回声優アワードにて主演女優賞を受賞。その後も『戦姫絶唱シンフォギア』(立花響)、『ヒーリングっど♡プリキュア』(花寺のどか/キュアグレース)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン)など話題作に多数出演。また、今秋10月放送開始のTVアニメ『薬屋のひとりごと』にて主演が決定しているほか、『悠木碧のこしらえるラジオ』のラジオパーソナリティや、キャラクターコンテンツ「YUKI×AOI キメラプロジェクト」の原案・企画・キャラクターデザインを担当するなど、多岐にわたり活動している。

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