アクシデントをエンタメに変える力
振り付けがダイナミックな動きに変わると「ANEMONE」へ。配信では360度様々な角度から叶さんを映し、この日が初披露でもあった私服衣装をじっくり楽しめるとともに、ARならではの「そこにいる感」もひときわ強く感じられた。ここで、機材トラブルに伴い急遽本日最初のMCタイム。本来なら焦る場面のはずが、さすがは長年生配信を行ってきたベテランライバー。FreFlowの制御機能を活用して会場を盛り上げ、むしろライブでしか味わえない特別な体験をプレゼントしてみせた。 暗い寒色の照明のもと、足元で刻むリズムはMI8k(ミヤケ)さんによるボカロ曲「アクシデントコーディネイター」のイントロ。ざらっとした低音から透き通る高音まで巧みに歌いこなし、ステージを端から端まで歩けば、照明の角度によって時折りその顔に美しい陰影が生まれる。
ステージには、再び2人の叶さん。今度は私服の叶さんがガラス越しにいて、flores衣装の叶さんがこちら側にいるという、先ほどと逆の立ち位置。 「今の自分に満足してる?」と語りかけられた叶さんの答えは果たして本心なのか。こちら側と向こう側、白と黒の対比が世界観を強める中、2人の叶さんの会話には、彼の活動の根幹に関わるような話も登場する。
聞き入っていると、今度はグレーのニット姿の叶さんが登場。対話を終え、ステージに残った叶さんは「セイテイノア」を披露。こうして見ていると、複数の叶さんが登場し対話する幕間演出はコンセプト上の表現でもあり、衣装チェンジをシームレスに行っているとも言える。 VTuberだからこその、そして長い活動の中で多くの衣装を発表してきた叶さんだからこそなせる表現だ。歌い出し後は「イェーイ!」とアレンジを入れ、ダウナーなリズムに青一色のペンライトが揺れる。
最後にはウインク+投げキスの特大サービスで観客を虜にすると、そのまま「ハルを追いかけて」をたたみかける。にじさんじの展開するメディアミックス作品「Lie:verse Liars(リーバース・ライアーズ)」の主題歌であり、桜の花びらが舞い散る幻想的な世界の中、叶さんの高音が感動を誘った。
楽曲ごとの衣装で感じる叶の歩み
酔いしれるような感覚のまま、椅子に座った叶さんが歌い始めたのは「水性のマーブル」。水槽のように水泡が浮き上がっていく中、楽曲の浮遊感に合わせてゆらゆらと左右に身体を揺らす。<今日と明日の中間地点><時計の針戻らなくて><平行線を捻じ曲げたくて もがいてる>といったフレーズを聴けば、思わず頭の中で今回のライブコンセプトとリンクさせてしまう。 「みんなと僕が知ってる僕と、みんなも僕も知らない僕が、水槽の中みたいな世界で、吸って吐いて、深呼吸。夢と理想を飲み干して、満たしていく」
VTuberの在り方を綴ったような独白とともに、初期衣装であるパジャマに眼鏡姿の叶さんが現れる。 おもむろにハンドマイクをかまえた初期衣装の叶さんは、Δ(デルタ)さんの「青色が怖くなったんだ」をカバー。現在から過去へ衣装をさかのぼっていくような展開と、感情のこもった歌唱・仕草に胸が熱くなる。
切なくも爽やかなリリースカットピアノが空気を塗り替え、傘村トータさんの「晴天を穿つ」へ。振り付けなしで続けてカバー曲を歌う初期衣装の叶さんは、まだオリジナル曲やステージ経験がなかった頃を想起させる。そんな姿で歌われる<共犯者になろう>という歌詞が、ひときわ心を揺さぶった。
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