15年ですっかり“ボカロ脳”に 黎明期から駆け抜けてきたsasakure․UKインタビュー

ボカロとアニメMVの密接な関係「映像があったから広がった」

──sasakure.UKさんとボカロとの関係性に続いて、シーン全体に関してもお聞きしたいと思います。ボカロ曲が人の目に触れる過程で、様々なクリエイターが関わるようになりました。中でも、MVの重要性はより大きくなっているのではないでしょうか?

sasakure.UK 僕が活動を始めた頃は、1枚絵に歌詞を載せるくらいだったものが、今はイラストレーターさんやアニメーターさんと一緒に、非常に高いクオリティのアニメMVが生まれていますよね。

個人的にもMVは重要視していて、一番大切にしているのが世界観。自分のつくりたいものや伝えたい思想が反映されているかは、かなり意識して制作しています。もちろんサムネも重要なんですけど、それ以上に自分の表現したい要素をMVに詰め込む方が、自分の感覚的にしっくりきますね。

──MVをイラストレーターやアニメーターの方々と制作する場合は、どのように進めているんでしょうか?

sasakure.UK 制作方法は楽曲やクリエイターさんによって変わるんですけど、大きくは二つあります。一つ目は最初の打ち合わせでコンセプトやモチーフ、伝えたいことは共有して、細かい部分はクリエイターさんにお任せするケース。

たとえば、2022年に発表した「マジカルミライ」10周年記念テーマソング「フューチャー・イヴ」では、イラストレーターの革蝉さんにほとんどお任せして、本人の良さを発揮する形で比較的自由につくってもらいました。僕の方では最終的に映像のテンポを調整したくらい。 逆に「ÅMARA(大未来電脳)」では、イラストレーターのたいやきさんと映像の世界観や場面ごとの構図などを話し合いつつ、僕の方でコンテを書いた上でお願いしました。

クリエイターによって得意な方法があるし、個人的にはクリエイターの個性や描きたいものを120%表現してもらえるのが嬉しいので、その都度最適解を模索しています。 ──ご自身でもイラストを描いたり、MVを制作したりするsasakure.UKさんからみた、共同制作のメリットを教えてください。

sasakure.UK コラボレーションによって、作品的に広がりが出るのは間違いありません。表現はもちろん、作品を届けられる範囲という意味でも。その上で、広がった先にそれまでの自分にはなかった可能性が生まれる。

それに、自分の楽曲に携わってくれたイラストレーターやアニメーターが、別のジャンルで活躍していく姿を見るのもすごく嬉しいんですよね。個人としてもシーン全体としても、ボカロを起点にしながら、クリエイターのフィールドが広がっていることを実感します。

とはいえ、一人で完結させる良さもあって、労力は結構かかるけど、上手くいけば自分の考えていることを100%きちんと伝えられるんですよ。だからこそ自分でやったり、クリエイターさんにお願いしたり、ケース・バイ・ケースですね。

──楽曲とMVには密接な繋がりがあると思いますが、もし現在のボカロシーンにMVという概念がなく、ただひたすら曲をつくり続ける世界だったとしたら、今のsasakure.UKさんはどうなっていると思いますか?

sasakure.UK 自分に対してここまでの反響はなかったでしょうし、確かにまったく違う状況になっていたかもしれません。最初がニコニコ動画への投稿だったからっていうのはありますけど、僕は映像あってのボカロ曲というか、映像も含めたトータルプロデュース作品だと考えています。

MVがあるからこそ様々な楽曲が広がったのは間違いなくて。もし音源だけだったら、初めて聴く人にとっては、ボカロ曲ってどう解釈していいかわからないものだったかもしれません

楽曲とMVが一緒に世の中に広がっていく。そういう文化が最初にできたのは、絶対にボカロだと思います。たとえば、歌詞が聴き取りにくいからリリックを大きめに表示したり、それが結果的にリリックビデオとしてのかっこよさに繋がっていったり。

VTuberからの楽曲制作依頼は「ありがたい」

──ではMV以外で、最近のボカロシーンにおける変化や気になる動きはありますか?
 
sasakure.UK 個人的には、ボカロシーンとしての懐の深さ、特に曲のカバーを気軽にしてもいい文化が生まれたのが嬉しいです。僕はバーチャルYouTuber(VTuber)の方の配信が好きでよく見るんですけど、僕の曲を歌ってくれていると感動しますね。
 
ありがたいことに、VTuberの方から楽曲制作を依頼されることもあります。社築さんだったり、ドーラさんだったり、多くのVTuberの方が以前から僕の曲を聴いていて、お願いしたいと思ってくれている。

ボカロそのものの広がりを感じますし、自分自身もこの活動を長く続けてきて良かったなと、感慨深い気持ちになります。
社築さんに提供した「BlackFlagBreaker!!」
ドーラさんに提供した「レッド・ルーラー」
──もう一つ、ボカロP同士のコラボも増えてきました。
 
sasakure.UK まず、技術の底上げが進んだことが大きいと思います。あとはセンスやアイデアって、一人で考えるのには限界があるので、コラボすることで新たな着想が得られるんだと思います。

最近のボカロ曲って、どれもベースがしっかりしている。でも、仮にクオリティの高さで横並びだった場合、頭ひとつ抜けるためには何かスパイスを入れなきゃいけない。歌詞にせよ楽曲にせよ、どうやって聴く人の興味を引くのかというのも大切になってきて、そういう工夫ってすぐに出てくるものではないから、なかなか難しい。

これからのボカロ曲はよりアイデアが必要で、その課題を打破する手法としてコラボが増えているんじゃないでしょうか。

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