「ブームが去っても嘆かない」ボカロP・てにをはインタビュー 創作への執着と達観

「ブームが去っても嘆かない」ボカロP・てにをはインタビュー 創作への執着と達観
「ブームが去っても嘆かない」ボカロP・てにをはインタビュー 創作への執着と達観

ボカロP・てにをはインタビュー

POPなポイントを3行で

  • ニコ動のボカロ文化の祭典「ボカコレ2021秋」
  • ボカロP・てにをは「ブームが去っても嘆かない」
  • Ado、Mori Calliopeらへの楽曲提供の裏側
ボカロ文化の祭典として、10月14日(木)から17日(日)に開催される「The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~」(通称・ボカコレ2021秋)。

ニコニコ動画を中心としたネット上を舞台に、生放送やREMIX企画、Stemデータの配布など、様々な形で人気ボカロPが登場。ボカロに関わる多くのクリエイターや企業はもちろんユーザーも参加する、今回で3回目を迎えるイベントだ。

KAI-YOU.netでは今回、9月3日の事前特番(外部リンク)に出演したボカロPてにをはさんへインタビュー。

てにをはさん:代表曲に女学生探偵シリーズ・モノノケミステリヰシリーズ・ヴィランなどがある。様々なアーティストに楽曲や歌詞を提供する一方で自身の音楽・執筆活動を行っている。

女学生探偵」シリーズや「ヴィラン」のヒットに加え、AdoさんやVTuber・森カリオペ(Mori Calliope)さんへ楽曲を提供するなど、活躍の場を広げるてにをはさん。達観したかのようにも見える独自のスタンスから、どこか不思議で謎めいた作品を生み出している。

成功や評価よりも「つくることが目的」と話す彼に、10年のキャリアの中でボカロシーンから得たものと「ボカコレ」への期待を、率直に語ってもらった。

取材・文:ゆがみん 編集:恩田雄多

目次

投稿のきっかけはコミュニティの存在

──てにをはさんは2010年の初投稿から10年以上ボカロPとして活動されてますが、それ以前から音楽には触れられていたのでしょうか?
てにをは 音楽自体は以前からやっていました。当時、一視聴者としてニコニコ動画を見ていて、ボーカロイドでつくった曲を投稿している人たちがいるのは知っていたんですが、ネット上に公開はしてきませんでした。

僕の場合は、何か特別な野心を持って、曲をつくってはどこかに発表してライブをして……というわけじゃなく、つくることそのものが目的だったので

──では、ご自身でもボカロ曲を投稿しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

てにをは 個人が発表できる場としてニコニコ動画やボカロ文化がどんどん整備されていくのを横目に見ていた頃に、知り合いを通じて、動画がつくれる人を紹介してもらったんです。

それで今まで見ていた世界と自分の世界が繋がったというか。動画をつくる動画師さんやイラストを描くイラストレーター/絵師さんのコミュニティを知って、「その人たちと一緒にやることで、見ているだけだった場所に発表できるんだ」と。

それに気づいた時点で、大きな決意を必要とすることなく、本当に遊びの一環として投稿をはじめました。

──デビュー前後の頃で印象に残っているボカロ曲、またはボカロPを教えてください。

てにをは 当時は初音ミクという新しい時代のキャラクターも含めて、ボカロから生まれるものを楽しんでいた気がします。ボカロPを意識するよりは、曲ごとに追いかけていました。

その中でもryoさんは、彼の動画を見る前後で、ボカロPというクリエイター像が明確になった記憶がありますね。点と点が繋がるというか、「この曲とこの曲の作曲は同じ人で、1人のアーティストとして一貫した音楽性で投稿している」と。
てにをは 僕が投稿をはじめたのはその直後くらいです。その頃からニコニコ動画が自己表現の場としても認識されていったというか、投稿者1人ひとりのキャラクター性が立っていった印象です。

──ではボカロ曲以外ではどんな曲を聞いていましたか?

てにをは 音楽という意味では、ユーミンさん(松任谷由実)や浜田省吾さんなど、そして親が聞いていたフォークソングが原体験ですね。ギターを教えてくれたおじさんもフォーク世代でした。あと全然ジャンルは違うけど筋肉少女帯BUCK-TICKも。

それらのアーティストからは音楽性でも影響を受けていて、音楽性はそのときどきで変わってもいいんだと。特に90年代のBUCK-TICKのアルバムは、突然打ち込み音楽を混ぜたりヘヴィになったり、アルバムごとにサウンドコンセプトやジャンルが変わっていくんですよ。

後に聴くことになるレディオヘッド(Radiohead)も含めて、活動の中で音楽は変化してもいいというお手本でした

──確かにてにをはさんの音楽的な変化にも当てはまりますね。

てにをは 僕は最近まで、和風な楽曲をつくるボカロPとして知られていたと思います。けれど、和風な曲をつくっていた時期も傍らには別ジャンルの音楽があったんですよね。

そういう引き出しはいつか出したいと思っていて、特に「ヴィラン」は周囲から見たいわゆる新たな一面が出た曲だと思います。
てにをは 自分の中にあるものは押さえ込まずに、良いと思ったときに出す──個人だからできるというのが大きいですね。

ブレーキ役となる他のメンバーがいないことで崩壊する可能性もありますが、僕の場合は、1人でやっていることだから自分の責任で「一か八かでやってみよう」と考えられました。

emon(Tes.)とみきとP、2人との出会いがもたらす影響

──これまでご自身がつくった楽曲で転機になった曲はありますか?

てにをは ぱっと思いつくのは最初に自分のイメージの要因になった「古書屋敷殺人事件」(2012年)。この曲以前と以降で、見られ方も広まり方も変わったのは間違いないですね。
てにをは もう1つは、世間的にはたくさん聴かれた「ヴィラン」が転機……となってるんですけど、自分としてはその前に出した「ブラッドベリ」(2019年)という曲くらいが本当の転機というか。

人との出会いの中で徐々にいろいろ試して、もっと高いレベルで自分の表現の幅を広げてみたいと思うようになりました。そのあたりが大きくスイッチが切り替わった時期かなと思いますね。
──音楽性にも影響を与えた人との出会いについて、もう少し教えてください。

てにをは 友人との出会いですね。僕の場合つくることが目的で、1人でひたすらに曲をつくっていたんです。でも、技術的なことやアイディアを相談できる横の繋がりができたことは、ボカロPとしての活動の中で大きな出来事でした。

──具体的にはどなたとの出会いになるのでしょう?

てにをは 1人はボカロPのemon(Tes.)さん。「shake it!」や「どりーみんチュチュ」など、とにかく初音ミクでエレクトロをやらせたら、この人よりすごい人はいないと思っている人です。

大勢の人を踊らせる曲でありつつ、キャラクターに一番マッチしたものをサウンドで表現できて、それが認知されている。大きなイベントで必ずかかるような曲をつくっている、そんなemonさんからの技術的なアドバイスや考え方はすごく参考になりました。
てにをは もう1人はみきとPですね。彼と仲良くなって、やっぱりいろいろなアイディアの相談など……かなり助けられました。

僕はとにかく「なるようになる」と考える性格なんですよ。人間関係がほとんどないときも、1人で黙々とつくって完結していたんです。

けれど、巡り合わせで偶然知り合った彼の創作に対する考え方は、自分にも当てはまることが多くて、お互いに深いところで相談し合える。そういう相手に出会うことは、なかなかないですよね。
──てにをはさんは小説も書かれていますが、小説でもそういった存在はいらっしゃいますか?

てにをは 残念ながらいないんですよ。小説って、いわゆる界隈みたいなものがなくて、あるとしても文壇ぐらいしかない。だから心持ちとしても1人でやるしかないかなって。

当然、ボカロPの中にはボカロ小説を書いている方もいらっしゃいます。けれど僕が知り合ったボカロP、ある程度以上親交を深めた人は、本当に今挙げた人たち以外でも数人程度ですから。

正直に言うと、これ以上は高望みだろうとどこかで思っている自分がいます。世界観や考え方が自分と一致するような人に出会える奇跡って、そう簡単に起きないと思うんですよね。

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イベント情報

「The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~」

開催日時
2021年10月15日(金)~17日(日) / 前夜祭:10月14日(木)
開催場所
ニコニコTOPページなどのネットプラットフォームほか
協賛
東武トップツアーズ株式会社
協力
株式会社インクストゥエンター、株式会社インターネット、ガイノイド、カクヨム、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、産業技術総合研究所 RecMusプロジェクト、株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ、Twitter Japan、一般社団法人 日本ネットクリエイター協会(JNCA)、株式会社NexTone、VOCALOMAKETS、ヤマハ株式会社
メディアパートナー
InterFM897、MTV、『GAKUON!』、JFN、『BOMBER-E!』、『RADIO MIKU』
※「VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

関連キーフレーズ

てにをは

作家/ミュージシャン

代表曲に女学生探偵シリーズ・モノノケミステリヰシリーズ・ヴィランなどがある。様々なアーティストに楽曲や歌詞を提供する一方で自身の音楽・執筆活動を行っている。

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