ボカロPぬゆり×煮ル果実対談「flower」ユーザーの対極的な創作論

ボカロPぬゆり×煮ル果実対談「flower」ユーザーの対極的な創作論
ボカロPぬゆり×煮ル果実対談「flower」ユーザーの対極的な創作論

ぬゆりさんと煮ル果実さん

パワフルな中音域を得意とした、女性歌声ライブラリ「v flower」。VOCALOID4版の「flower」の中性的なキャラクターデザイン、少女とも少年とも取れる声質から、幅広い世界観の曲にマッチする点を強みとしている。

「v flower」を使用した曲では、「シャルル」「グッバイ宣言」「ベノム」「フィクサー」「ボッカデラベリタ」「トラフィック・ジャム」「ヴィラン」などが有名だ。

「flower」の声にCeVIO AIを用いた新たなソングボイス「Ci flower(シィ フラワ)」が、ダウンロード版は3月10日(金)、パッケージ版は3月31日(金)にリリース。AI技術によって、人間の声質・癖・歌い方を高精度に再現している。

CeVIO AIを用いた新たなソングボイス「Ci flower(シィ フラワ)」

今回は「Ci flower」のリリースを記念して、「フラジール」「ロウワー」などの楽曲を手がけるぬゆりさんと、「トラフィック・ジャム」「紗痲」などで知られる煮ル果実さんの対談が実現した。

ともに「v flower」ユーザーのボカロPとして名高い2人だが、対談を通して見えてきたのは、“対極”ともいえる制作スタイルの違いだった。

取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多

目次

自然体で生み出すぬゆり、分析してつくる煮ル果実

──ぬゆりさんと煮ル果実さんは初対面というわけではないですよね?

煮ル果実 お話するのはめちゃくちゃ久しぶりですね。

ぬゆり 最初にお会いしたのって3、4年前くらいでしたっけ?

ぬゆり:2012年にボカロPとして活動を開始。近年は、ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」の作曲(共作)・アレンジまで担当。2019年よりソロプロジェクト「Lanndo」としても活動し、Eve、suis(fromヨルシカ)、須田景凪らをゲストボーカルに迎えた楽曲もリリースしている。

煮ル果実:2018年にボカロPとして活動を開始した作詞・作曲・編曲家。主にVOCALOID楽曲のコンポーザーとして、独特な世界観の作品を手掛ける。Ado、ずっと真夜中でいいのに。、Sou、ナナヲアカリ等のメジャーアーティストにも編曲参加・楽曲提供を行う。

煮ル果実 新宿でご飯に行きましたよね。

ぬゆり 行きました! でもそれが最初だったか最後に会ったときだったかは定かではなく(笑)。直接のやり取りはそれくらい久しぶりですけど、楽曲とか活動とかはめちゃくちゃ追っています。

煮ル果実 ありがとうございます。僕も同じですね。ぬゆりさんの楽曲やMVは毎回聴いてるし毎回見てる。

 ──互いの作品で特に好きな曲はありますか?

ぬゆり 大好きな曲はいっぱいあるんですが、定期的に「また聴きたい!」と一番思うのは「極楽鳥花」です。
 
煮ル果実 まさかの!
ぬゆり めちゃくちゃ好きなんですよ。メロディーがすごく尖っていて、自分に突き刺さって。でも、煮ル果実さんはいろんな曲調をやられているので、それぞれに好きな曲があって絞るのが難しい。いっぱい好きです(笑)。
 
煮ル果実 嬉しいです。意外な選曲でした。ぬゆりさんを知ったのは僕が活動を始める前だったんですが、「フィクサー」を聴いてめちゃくちゃ好きになったんです。

そこからもう全部聴いていきました。僕が一番好きなのは、すごく悩むんですけど「プロトディスコ」か「ターミナル」かな。
ぬゆり ありがとうございます!
 
煮ル果実 ぬゆりさんは盛り上がる曲もつくれるし、静かで繊細に突き刺してくるような曲もつくれる。かつ、僕ができない「生きることの困難さ」みたいなものを歌詞とかで表現されていて、そういう自分にない部分を尊敬しています。

──それぞれボカロ曲を通して表現したいテーマなどはあるのでしょうか?
 
ぬゆり 曲づくりに関して、特にテーマみたいなものはありません。それよりも「出来上がる作品をどうやって表現するか」ということを考えていて、それが肉声やボカロに分かれて派生していく。「ボカロだからこそこういう表現がしたい」みたいなことは、実はあまりないような気がします。
 
煮ル果実 すごいと思います。つまり自然体で出るってことですもんね。僕は、人間が何かにぶち当たったときの感情の動きに興味があって、それを何とか楽曲というパッケージに落とし込もうとしてつくっている部分があります。

もともと自分や人の感情の動きを分析したがる性格なんですよ。だから自然体の自分から出るというよりは、いろいろなものを見て聞いて、経験したものをデータ化してつくっているようなイメージです。

ただぬゆりさんのように、自然な状態で生み出す方が美しいと思うので、「こうなりたいな」とも思うんですけど(笑)。
 
ぬゆり いやいや、考えてつくるってすごいことだと思います。そういう意味では、僕と煮ル果実さんの曲づくりって対極なんですね。
 
──歌詞はどうやって書かれるんですか?
 
ぬゆり 自分はPC画面の右半分にDAW(Digital Audio Workstation)を表示して、左半分にEvernoteを開いて書いてますね。一生懸命、一文字ずつ考えながら書いては消してを繰り返しています。なので本当に、自分の中からひねり出すって感覚が近いかもしれない。
 
煮ル果実 僕はいつどんなときでも書けるように、スマホを使ってます。何か思いついたときとか、街中で見かけた文字の意味を調べたときとかにメモをしておいて……そこから使える表現を引っ張り出しながら書いてます。
  
ぬゆり 僕は“歌詞が降りてくる”という経験をしたことがないんですよ。ものすごいキラーフレーズを突然思いついて、それを書き留める……かっこいいから一度やってみたいんですけど。
 
煮ル果実 確かにぬゆりさんが書く歌詞は、キラーフレーズで押し出す感じではないですよね。僕はそこが好きだったりもするんですけど。

キラーフレーズを押しすぎるとチープに聞こえてしまうときもあるし、バランスが難しい。ぬゆりさんはそれがないからこそ、いろんな捉え方ができる深い歌詞になっていて、むしろうらやましいですよ。
 
ぬゆり そういう良さもあったのか。自分では全然思ったことなかった(笑)。
 
煮ル果実 ……というふうに、分析したがっちゃうんです(笑)。

「v flower」には“僕”も“私”も似合う

──歌詞表現も対照的な2人ですが、「v flower」をよく使われているところは共通しています。「v flower」の声のどんなところに魅力を感じていますか?
 
煮ル果実 「v flower」は自分のオケに埋もれない強さがあって、僕はそこがすごく気に入っています。これは曲をメッセージとして届ける上ですごく大事なことだと思っていて。

自分の言いたいことをしっかり言ってくれている──つまり自分が欲しい音をドンピシャで出してくれるという意味で、「v flower」は自分の曲とかなり親和性があると感じています。
ぬゆり わかります! 同じメロディーで同じ歌詞を打ち込んだ状態で、ボイスライブラリを切り替えて聴き比べると、どのボカロより「v flower」が一番説得力があるように感じるんですよ。

ちょっと自信がないようなメロディーのときも、「v flower」に歌わせてみると「意外といいじゃん」みたいな。そういう器の広さがありますよね。
──その「v flower」の器の広さは、何に起因していると思いますか?
 
煮ル果実 ジェンダーレスな感じが一つの要因なのかなと思っています。「v flower」は、「僕」って発音するのと「私」って発音するの、どっちも似合うんですよ。そういう意味でも、いろんなメッセージや、いろんな人物を表現できる存在なんじゃないかなと思います。
 
声質のジェンダーレベルも変えられるんですけど、僕は結構かわいい寄りの調声にしていて、人によってはすごく低くして男の子っぽい声にする人もいる。そういう使い分けができるのはすごく魅力的だなと思います。

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