ドワンゴが2020年冬から開催しているVOCALOID(ボーカロイド)の祭典「The VOCALOID Collection」(通称・ボカコレ)。回を重ねるごとに参加するユーザーも増え、ボカロコミュニティに期待と興奮を運ぶ主要な祭典へと発展を遂げた。2023年も3月18日(土)から21日(火・祝日)にかけて「ボカコレ2023春」の開催が控えている。
イベントのハイライトは、ボカコレTOP100やルーキーランキング(デビューしてから2年以内のボカロPを対象)をはじめとした各種ランキング。開幕に向け、今回は1年前の「ボカコレ」でプレイリスト企画に参加したsasakure.UKさんにインタビューを実施した。
2007年12月にニコニコ動画に楽曲を投稿してボカロPデビュー。「*ハロー、プラネット。」「ぼくらの16bit戦争」など、チップチューンを取り入れた個性的なサウンドとSF/寓話要素を散りばめた世界観は唯一無二。ボカロだけでなく、バンド・有形ランペイジとしても活動している。
ボカロPとして活動16年目に突入したsasakure.UKさんが語る「ボカコレ」と、黎明期から現在に至るまでシーンの内側から見てきた景色の移り変わり。「常に初音ミクとの関係性を考えている」──そう口にしたsasakure.UKさんが、ブームやトレンドの変化の中で活動を続けられた理由とは。
取材・文:小町碧音 編集:恩田雄多 撮影:寺内暁
sasakure.UK 音声合成ソフトとしての初音ミクが2007年8月に発売されてから、すぐに気になり始めました。
ニコニコ動画に投稿されたbakerさんの「celluloid」、OSTER projectさんの「恋スルVOC@LOID」を聴いて、ボカロに興味を持ったのがきっかけですね。それまでインストだけだった自分の創作を、ボカロが広げてくれそうという可能性を感じたのでやってみようと。 sasakure.UK 僕の音楽表現のベースには、昔のゲームミュージックがあるんです。最近の商業音楽に近いリアルな音とは異なり、限定された三和音で構成されたいわゆるピコピコサウンド。その影響で、学生の頃にはガラケーの着メロがつくれる機能を使って、限られた和音でコードを打ち込んだのが音楽制作の原体験なくらい。
かつてのゲームミュージックのピコピコした音と、人間の声をサンプリングした初音ミクの音は近いところがあると感じたんです。両者に親和性の高さを感じたからこそ、僕の初音ミク楽曲には、ゲーム音楽の要素をたくさん取り入れています。 ──自身の音楽表現のベースとの合致があったからこそ、16年目を迎えた活動の中でもsasakure.UKさんの活動はブレていないというか、作品を通じて軸のようなものを感じます。
sasakure.UK 年々こだわりは強くなるし、楽曲制作や調声にもより時間をかけるようになって、曲を生み出すために必要なエネルギーはどんどん増えている気がします。でも僕自身、やっていることは変わってないと思っていて、軸というか、表現したいことはずっと変わっていません。
それは、楽曲やボカロに対して、自分の正直な思いを伝えることです。曲を通じて何を伝えたいのか、ボカロに対してどう思うのか。作品に正直であり続けることは、ずっと大切にしていますね。
──たしかにsasakure.UKさんの楽曲は、人とボカロおよび初音ミクとの関係性をすごく意識しているような印象です。
sasakure.UK 周囲の環境も変わり続ける中で年齢を重ねる僕と、人に似ているけど年を取らず、(機能的なアップデートはあるものの)不変に生き続ける初音ミク──その対比についてすごく考えてしまうんです。
こんなに歌ってもらっているのに、自分と話すことすらない。いつも自分の近くにいる一方で、初音ミクという存在と自分との距離が、今以上に近づくことはないんだろうな、交わることもないんだなとか……。
そんな初音ミクとこの先も付き合っていくと考えたときに、どう向き合っていくのがベストなんだろうと、お風呂とかで考えて(笑)。曲にも、常にそうした思いが滲み出てるんじゃないかなって思います。
──楽器とも人とも違う、ある意味別次元の存在だと。
sasakure.UK たしかに僕にとって初音ミクは、唯一無二の存在かもしれません。
sasakure.UK 選択肢や可能性が増えて嬉しいですね。音声合成ソフトには、その時々の音のトレンドに適した性質があると思っているので、時流にマッチするソフトを選べるのはありがたい。
僕がボカロを始めた頃は、GUMIを使った曲がすごく増えていた時期でした。個人的にも、当時のサウンドの流行に合っていて、使いやすかったことを覚えています。 ──sasakure.UKさんはボカロPでありつつ、バンド・有形ランペイジとしても活動されています。ボカロに対して深く考える一方で、人の声の魅力をどのように感じますか?
sasakure.UK 人の声はやっぱり感情をダイレクトに伝えることができるし、歌を収録する際の対話を交えたテイクの仕方、スタジオの空気感から正解を選んでいく楽しさがあるんです。
逆にボカロは一人で完結させる。だからボカロPとバンドで真逆なことをしていますね。でも、良いテイクに共通するノリとかグルーヴ、歌い回しは、どちらにも活用できるんですよ。
有形ランペイジとして活動すると決めた当初、「生音が好きになって、今後は生音を使う人生を歩んでいくのかもしれない」と思っていたのに、いざバンドメンバーに楽器を弾いてもらったら、自分の表現する電子音もさらに好きになりました。生音・生歌も、打ち込み・ボーカロイドも、両方いいなって今は思います。
──ご自身の楽曲にゲストボーカルを迎えたときのレコーディングでは立ち会うことが多いんですか?
sasakure.UK そうですね。ボーカルの方とは、実際に話した方が自分の理想とする声に対する回答が得られるので、レコーディングにはなるべく立ち会うようにしています。
最初はディレクションの仕方もわからなかったんですけど、場数を踏むことで徐々につかんでいきました。これってボカロも同じで、やればやるほどきれいに歌ってくれるようになっていくんです。 ──対象とするボーカルは違いますが、共通項は多いということですね。
sasakure.UK 根本的にやっていることは同じでも、理想の歌声を会話で引き出すか、パラメータを調整して引き出すかの違いはあります。“ボカロ脳”が自分のベースなので、人の声でもボカロのことを考えながらディレクションすることもありますね。
「ここはこうやって(ボカロで言う)ジェンダーファクターを下げるから、少し幼い雰囲気で歌ってください」みたいに。言われた側は、すぐには理解できないかもしれませんけど(笑)。
イベントのハイライトは、ボカコレTOP100やルーキーランキング(デビューしてから2年以内のボカロPを対象)をはじめとした各種ランキング。開幕に向け、今回は1年前の「ボカコレ」でプレイリスト企画に参加したsasakure.UKさんにインタビューを実施した。
2007年12月にニコニコ動画に楽曲を投稿してボカロPデビュー。「*ハロー、プラネット。」「ぼくらの16bit戦争」など、チップチューンを取り入れた個性的なサウンドとSF/寓話要素を散りばめた世界観は唯一無二。ボカロだけでなく、バンド・有形ランペイジとしても活動している。
ボカロPとして活動16年目に突入したsasakure.UKさんが語る「ボカコレ」と、黎明期から現在に至るまでシーンの内側から見てきた景色の移り変わり。「常に初音ミクとの関係性を考えている」──そう口にしたsasakure.UKさんが、ブームやトレンドの変化の中で活動を続けられた理由とは。
取材・文:小町碧音 編集:恩田雄多 撮影:寺内暁
目次
sasakure.UK「初音ミクとの距離は縮まらない」
──改めてではありますが、まずは2007年12月にボカロPとして活動をスタートした経緯を教えてください。sasakure.UK 音声合成ソフトとしての初音ミクが2007年8月に発売されてから、すぐに気になり始めました。
ニコニコ動画に投稿されたbakerさんの「celluloid」、OSTER projectさんの「恋スルVOC@LOID」を聴いて、ボカロに興味を持ったのがきっかけですね。それまでインストだけだった自分の創作を、ボカロが広げてくれそうという可能性を感じたのでやってみようと。 sasakure.UK 僕の音楽表現のベースには、昔のゲームミュージックがあるんです。最近の商業音楽に近いリアルな音とは異なり、限定された三和音で構成されたいわゆるピコピコサウンド。その影響で、学生の頃にはガラケーの着メロがつくれる機能を使って、限られた和音でコードを打ち込んだのが音楽制作の原体験なくらい。
かつてのゲームミュージックのピコピコした音と、人間の声をサンプリングした初音ミクの音は近いところがあると感じたんです。両者に親和性の高さを感じたからこそ、僕の初音ミク楽曲には、ゲーム音楽の要素をたくさん取り入れています。 ──自身の音楽表現のベースとの合致があったからこそ、16年目を迎えた活動の中でもsasakure.UKさんの活動はブレていないというか、作品を通じて軸のようなものを感じます。
sasakure.UK 年々こだわりは強くなるし、楽曲制作や調声にもより時間をかけるようになって、曲を生み出すために必要なエネルギーはどんどん増えている気がします。でも僕自身、やっていることは変わってないと思っていて、軸というか、表現したいことはずっと変わっていません。
それは、楽曲やボカロに対して、自分の正直な思いを伝えることです。曲を通じて何を伝えたいのか、ボカロに対してどう思うのか。作品に正直であり続けることは、ずっと大切にしていますね。
──たしかにsasakure.UKさんの楽曲は、人とボカロおよび初音ミクとの関係性をすごく意識しているような印象です。
sasakure.UK 周囲の環境も変わり続ける中で年齢を重ねる僕と、人に似ているけど年を取らず、(機能的なアップデートはあるものの)不変に生き続ける初音ミク──その対比についてすごく考えてしまうんです。
こんなに歌ってもらっているのに、自分と話すことすらない。いつも自分の近くにいる一方で、初音ミクという存在と自分との距離が、今以上に近づくことはないんだろうな、交わることもないんだなとか……。
そんな初音ミクとこの先も付き合っていくと考えたときに、どう向き合っていくのがベストなんだろうと、お風呂とかで考えて(笑)。曲にも、常にそうした思いが滲み出てるんじゃないかなって思います。
──楽器とも人とも違う、ある意味別次元の存在だと。
sasakure.UK たしかに僕にとって初音ミクは、唯一無二の存在かもしれません。
人間のボーカルも“ボカロ脳”でディレクション
──近年、CeVIO AIを用いた「Ci flower」「可不」なども登場していますが、初音ミク以外の音声合成ソフトについてはどのように考えていますか?sasakure.UK 選択肢や可能性が増えて嬉しいですね。音声合成ソフトには、その時々の音のトレンドに適した性質があると思っているので、時流にマッチするソフトを選べるのはありがたい。
僕がボカロを始めた頃は、GUMIを使った曲がすごく増えていた時期でした。個人的にも、当時のサウンドの流行に合っていて、使いやすかったことを覚えています。 ──sasakure.UKさんはボカロPでありつつ、バンド・有形ランペイジとしても活動されています。ボカロに対して深く考える一方で、人の声の魅力をどのように感じますか?
sasakure.UK 人の声はやっぱり感情をダイレクトに伝えることができるし、歌を収録する際の対話を交えたテイクの仕方、スタジオの空気感から正解を選んでいく楽しさがあるんです。
逆にボカロは一人で完結させる。だからボカロPとバンドで真逆なことをしていますね。でも、良いテイクに共通するノリとかグルーヴ、歌い回しは、どちらにも活用できるんですよ。
有形ランペイジとして活動すると決めた当初、「生音が好きになって、今後は生音を使う人生を歩んでいくのかもしれない」と思っていたのに、いざバンドメンバーに楽器を弾いてもらったら、自分の表現する電子音もさらに好きになりました。生音・生歌も、打ち込み・ボーカロイドも、両方いいなって今は思います。
──ご自身の楽曲にゲストボーカルを迎えたときのレコーディングでは立ち会うことが多いんですか?
sasakure.UK そうですね。ボーカルの方とは、実際に話した方が自分の理想とする声に対する回答が得られるので、レコーディングにはなるべく立ち会うようにしています。
最初はディレクションの仕方もわからなかったんですけど、場数を踏むことで徐々につかんでいきました。これってボカロも同じで、やればやるほどきれいに歌ってくれるようになっていくんです。 ──対象とするボーカルは違いますが、共通項は多いということですね。
sasakure.UK 根本的にやっていることは同じでも、理想の歌声を会話で引き出すか、パラメータを調整して引き出すかの違いはあります。“ボカロ脳”が自分のベースなので、人の声でもボカロのことを考えながらディレクションすることもありますね。
「ここはこうやって(ボカロで言う)ジェンダーファクターを下げるから、少し幼い雰囲気で歌ってください」みたいに。言われた側は、すぐには理解できないかもしれませんけど(笑)。
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