特別展「毒」レポート漫画 “あらゆる物質は毒”──毒と人間の付き合い方

“ずつき”で毒を注入? 有毒生物は20万種以上

改めて。「毒」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?

毒きのこ、青酸カリ、ケシの実(モルヒネ)、etc……実際に見たり聞いたりした毒から、アニメや漫画で知った毒まで、意外とその数は多いはず。

その中でも気になるのは、毒を持った生き物たち。ちなみに、地球上には20万種類を超える有毒動物がいるといわれています。多ッ!

特別展「毒」の会場には、トビズムカデやヒトスジシマカ、キョクトウサソリなど、人を咬んだり刺したりすることで、皮膚のかゆみやかぶれ、痛みなどを引き起こす生き物・通称「毒虫(どくむし)」の展示も。

よだれ(唾液)に含まれた血液凝固阻害(血液毒)や血圧低下を引き起こす成分で、水牛のような獲物すらも捕食するコモドオオトカゲ(有毒爬虫類)。頭骨にある鋭い棘を“頭突き”で突き刺し、毒を注入してくるブルーノイシアタマガエル(両生類)など、毒を持った生き物たちのオールスターゲームの様相を呈しています。

コモドオオトカゲ。この口元に伸びている唾液、毒です!
©Cezary Stanislawski/Shutterstock.com

ブルーノイシアタマガエル。見た目は愛嬌がある
©2012 Mauro Teixeira Jr

ブルーノイシアタマガエル頭骨の拡大模型

もちろんハブクラゲトラフグ、もはや名前を聞くと夏を感じると言っても過言ではない(個人の感想です)カツオノエボシといった海洋生物、数少ない毒を持つ哺乳類・カモノハシ、きのこをはじめとした菌類なども展示されていますよ。

意外なのは、有毒生物のイメージが強いヘビですが、実際に毒を持つのは全体の5分の1程度という事実。クサリヘビ科とコブラ科の全種、ナミヘビ科やイエヘビ科の一部などに限られているそうです。

不死身の肉体で何度でも毒を飲む人間たち

毒の歴史は人類の歴史……と言っても過言ではありません。やや勇み足に豪語しましたが、実際に毒を毒として解明するまでには、人間は古くから体当たりによる検証を続けてきました。

あくまでも伝承や伝説であり、特別展「毒」では紹介されていませんが、一日一種さんが教えてくれたのが「神農(しんのう)」という人物。

紀元前3000年頃、古代中国の伝承に登場する神農または炎帝神農(えんていしんのう)は、草や木といった植物の薬効を調べるために、自らそれらを体内に摂取。

何度も中毒症状に見舞われてはその度によみがえる。文字通り伝説のような不死身の身体で、人々に薬としての効能を伝えたとされています。

また、古代エジプトを代表する存在のひとり・クレオパトラ7世は、自死に使う毒を極めるために、何人もの奴隷で様々な毒のテストを行った──そんな怖い言い伝えも。

毒と人間の関係は、長年の歴史が積み重ねられたからこそ今がある

とはいえ、これらはあくまでも伝承。

特別展「毒」では、人間が毒を使った最古の証拠をはじめ、ドクニンジンで処刑されたギリシャの哲学者・ソクラテスや、世界最古の百科全書『博物誌』を手がけたプリニウスなど、中世から近世、現代に至る毒と人類の歴史が紹介されています。

あなたの隣にあるものは毒ですか? 薬ですか?

あらゆる物質は毒である。毒になるか薬になるかは、容量によるのだ

1490年代から1540年代にかけて実在した、医師で化学者で錬金術師でもあったパラケルススの言葉です。現代の「用法・用量を守って正しくお使いください」に通じる名言が、当時すでに確立されていたとは!

毒の性質を理解し、毒の正体を見抜いていたと評されるパラケルススは、当時流行していた梅毒に対する治療薬に水銀を提唱。

パラケルススが“薬”として提唱した水銀。ただし当時は水銀中毒者も続出。もちろん現在では水銀は危険すぎるので治療に使われていない

水銀が人体に対して有害であることを理解しつつも、適切な量を仕えた有効な薬になると考えた結果、前述の名言が導き出されました。

そうなんです。あらゆる物質は、毒なんです。もちろん今も。

“酒に含まれるアルコールも神経毒の一種です”

タマネギ、ニンニク、ブドウ、チョコレート、ピーナッツなども、イヌやネコにとっては有毒な食べ物になります(もちろんヒトにとっても食べ過ぎはよくないですよ!)。

タバコに含まれるニコチンや、身近なアルコールも神経毒の一種。お刺身が美味しいマグロもメチル水銀を含むため、妊婦や幼児等は食べ過ぎに注意が必要とされています。

パラケルススの名言を噛み締めて生きていきましょう

毒からは逃げられない、だから「正しく知って、正しく恐れる」

特別展「毒」を通じて強く感じられるのは、「毒からは逃れられない」ということ。

「身の回りにはこんなにも毒であふれてるのか!」と驚くと同時に、「意外と毒とうまく付き合ってるんだな」とも実感できるはず。

もっと言うと、地球の温暖化などの気候変動や国際的な物流は、新たな環境へ毒生物の分布を広げる一因となっています。つまり、私たち人間の活動が新たな毒を生み出してもいます。

いったいどうすればいいんだ……!

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イベント情報

国立科学博物館 特別展「毒」

会期
2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)
会場
国立科学博物館(東京・上野公園) 
開館時間
9時~17時 (入場は16時30分まで)
休館日
月曜日、12月28日(水)~1月1日(日・祝)、1月10日(火)
※ただし1月2日(月・休)、 9日(月・祝)、2月13日(月)は開館
※会期等は変更になる場合がございます。
※入場方法等の詳細は公式サイトをご確認ください。
入場料(税込)
一般・大学生:2,000円、小・中・高校生:600円【日時指定予約】
※未就学児は無料。※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料。
オフィシャルサポーター
伊沢拓司(クイズプレーヤー)
音声ガイドナビゲーター
中村悠一(声優)
クイズコラボ
QuizKnock(クイズノック)
キャラクターコラボ
秘密結社 鷹の爪
タイアップソング
BiSH「UP to ME」
お問合せ
050-5541-8600(ハローダイヤル)・03-5814-9898(FAX)
主催
国立科学博物館、読売新聞社、フジテレビジョン

関連キーフレーズ

一日一種

イラストレーター/漫画家

身近な生き物の魅力や面白さを表現したくて、漫画を描いている(元)野生生物調査員。著作に図鑑型4コマ漫画『わいるどらいふっ!』『身近な「鳥」の生きざま事典』など。
・公式サイト
・Twitter

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