「正義」とは、エゴであり、暴力的なもの
かといって、チェンソーマンが人間を軽視しているのかといえばそんなこともないだろう。事実としてゴキブリの悪魔は「悪魔の癖に人間の味方しやがって!」と言っているし、助けているときは人間も助けているはずだ。今回は、たまたま人間ではなくネコを助けただけだ。そもそも『チェンソーマン』第2部では、1話「鳥と戦争」の時点で「正義」とはエゴであり、暴力的であり、さらなる暴力によってたやすく粉砕されるということが描かれている。 強大な力を持つチェンソーマンも同じく、暴力的に、自分勝手に、助けたいものを助けているだけ。何を助けるのかも、助けないのかもを自由にできてしまうほどの力を、チェンソーマンは持っている。
そして今回、三鷹アサもその身勝手な正義を見せてくれた。
コケピー(鶏の悪魔)の命を奪ってしまったこと自体よりも、それを見られてしまったことに後悔を感じるような等身大の彼女が、見捨てれば自分にとって都合がよくなるユウコを、それでも助けようとする。
三鷹アサの身勝手な正義の行方は?
特別な力を使うことができない三鷹アサの正義は、非常に弱々しい。今回もチェンソーマンの乱入がなければあっさりと死んでいただろうし、足に深刻なケガを負ったユウコの人生を三鷹アサが背負っていけるのかは未知数だ。ケガの具合によっては、その先にかかる苦労を考えると、救われてしまったことがユウコの不幸にもなりかねないし、それが正しい選択だったのかはわからない。
強い力を持つチェンソーマンは、身勝手に命を救っても「お手柄だ」と称えられるのに対し、自分だけほぼ無傷で助かってしまった三鷹アサは、下手をすればまた周囲から責められてしまいかねない。
それでも人を助けることを選んだ三鷹アサの行動は、ヒーローとしての第一歩のようにも見えるし、もしこの後大きな不幸が降りかかり、折れてしまえば強大なヴィランのオリジンエピソードにもなりうる。
三鷹アサは、その身勝手な善性を保ち続けることができるのか、それとも、自分の内に宿した暴力の化身とも言うべきヨル(戦争の悪魔)にその善性を打ち砕かれてしまうのか。
そして、身勝手に命を救うチェンソーマンは今、いったい何を望んでいるのだろうか。
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連載
2019年1月より『週刊少年ジャンプ』で第1部が連載、2022年7月より『少年ジャンプ+』で第2部の連載がスタートした漫画『チェンソーマン』。 ダーティーかつスタイリッシュな描写とアクの強いキャラクターを武器に次々とヒット作を生み出していく、さんの代表作です。 2022年10月からはMAPPA制作のTVアニメが放送が決定。「藤本タツキ『チェンソーマン』超特集」では、『チェンソーマン』に魅せられたKAI-YOUの面々が、その魅力を紐解いていきます。
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