そもそもテレビ朝日といえば2010年代、他の民放局と比べてほとんど深夜アニメを放送してこなかった。しかし、2020年の枠開設以降、NUMAnimationでは先述のように多数のオリジナルアニメーションを編成し続けている。
他局も深夜アニメの製作に乗り出す今、テレビ朝日はNUMAnimationをどのような方針で編成し、ブランディングしようとしているのか。そして『リーマンズクラブ』で目指すものとは? テレビ朝日でアニメを担当するコンテンツ編成局の小野仁さんと遠藤一樹さんに話を聞いた。
取材・文:太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
『新世界より』経ての『ユーリ!!! on ICE』テレ朝アニメ事情
『新世界より』/画像は公式サイトより
小野 おっしゃる通り、ゼロ年代には何本か深夜アニメが放送されていましたが、それらの多くは企画製作にコミットしておりません。
当時はすでにフジテレビさんのノイタミナや毎日放送さんのアニメイズムがはじまっていましたが、テレビ朝日ではバラエティが強いこともあって、より一層そちらにリソースを割いていたというのが当時の状況になります。
──なるほど、それで徐々に深夜アニメの本数が減っていったんですね。ですがそういう意味ですと、2012年に放送された『新世界より』は最初から2クールと、かなり力が入っていたように感じます。
小野 新しい企画を通すためには、編成されている番組の移動をはじめ、それ相応のカロリーを要するわけです。そんな中で、『新世界より』に関してはアニメに対して情熱のあるスタッフの想いと作業が結実して、いきなり2クール放送することになった。
その前にはもちろん様々な検討があったわけですが、企画単体で勝負した結果、枠としてのブランディングまで行きつかず、平日の27時台に単発枠という形になりました。一方、『新世界より』において企画から放送までの作業を行った経験値により、4年後に『ユーリ!!! on ICE』が生まれます。
『ユーリ!!! on ICE』/画像は公式サイトより
小野 やはり久保ミツロウさん、山本沙代監督をはじめとした素晴らしいクリエイターと一緒に『ユーリ!!!』をつくったことで、社内的にもロールモデルができたんだと思います。それを軸にしてようやく放送枠として継続的に深夜アニメをやっていこうという提案が整った。
なので、NUMAnimationが成立した経緯までは、長い検討の歴史がありまして、積み上げてきたものの結果というのが正しいと思います。
──単発ではなく、枠名を冠してまで継続的にやっていこうという意思が固まったと。
小野 ベタなことで言えば、テレビ朝日はアニメの供給本数が少ないので、まだまだアニメで表現したいことがたくさんあるんです。他局さんに比べてやはり後発組ですし、現在はWeb配信など視聴方法も多様化しています。
その中で地上波放送を観ていただくにはどうしたらいいのかと考えたときに、きちんとブランディングをしたうえで、同時視聴体験ができるように整備するべきなのではないかなと考えました。
──枠開設後から2020年7月クールまではローカル放送でしたが、2020年10月クールからテレビ朝日系列全国24局ネットになったのはそのような意図があったんですね。
全国24局ネット第1弾となった『体操ザムライ』 ©「体操ザムライ」製作委員会
キー局の強みを考えたときに、同時に作品を楽しんでいただくために全国ネットは不可欠だと初期から前提条件に入れていました。
枠名を考えるよりも、全国ネットにすべく各局と交渉する方が早かったと思います。毎週地上波で同時に楽しんで、SNSでも感想を言い合っていただく。そのような状況を整備すると、より楽しめるのではないかなと。
男子バドアニメ『リーマンズクラブ』中継権を活かしたスポーツもの
小野 深夜アニメ枠をやることになった際に、どうすればテレビ朝日のオリジナリティや強みが出せるのか考えました。
テレビ朝日にはスポーツの中継権を持っている競技が多くて、その面白さを伝えるプロのスタッフもいます。ならば、そういった人のアドバイスをすぐに聞けて、アニメスタジオにもフィードバックできるという強みを活かしてスポーツものをつくってみたらどうか、というような形ですね。
そもそも『ユーリ!!!』のときにも、社内のフィギュアスケートチームのバックアップによって、実際に取材することができました。
遠藤 『リーマンズクラブ』でも社内のスポーツ担当の協力があり、実業団チームに取材させていただきました。やはり専門のスタッフがいることで、リアリティを高めるお手伝いはできたんじゃないかなと思います。
遠藤 いえ、これまでの作品ですと『ユーリ!!!』くらいでしょうか。『体操ザムライ』も企画初期からご一緒させていただいておりましたが、テレビ朝日が主導していたわけではありません。ですので、NUMAnimationとしては『リーマンズクラブ』が初めてのテレビ朝日発作品となります。
──素朴な質問ですが、『リーマンズクラブ』はどのような経緯で企画されたのかお教えください。
遠藤 自分がそもそも中高生時代にバドミントンをやっていたんですが、その経験からバドミントンをアニメーションで表現したらキャッチーなものになるのではないかと常々考えていました。
そんな中、ライデンフィルムさん制作の『はねバド!』が2018年に放送されました。『はねバド!』は女子高校生によるバドミントンものだったんですが、それを観ながら「男子ならではのかっこよさと、バドミントンのスピード感をアニメで表現したら、面白いものになるのでは?」とイメージが浮かんだんです。
──『リーマンズクラブ』は確かに男子バドミントンものですが、そのまま中高生の青春ものではなく、社会人の実業団ものとなったあたりに妙を感じます。
遠藤 どういう方向性にするかを考える中で、女性の友人から「スーツ男子っていいよね」というフレーズが飛び出したんです。その瞬間、実業団チームのお話にしたら「大人の男性の魅力も付与した新しい切り口のアニメになるのではないか」と着想を得ました。
そこから企画書をつくり、知り合いを頼ってライデンフィルムさんに「『はねバド!』が素晴らしかったので、バドミントンものを一緒にやりたいです」とコンタクトを取りました。担当のプロデューサーさんからも好意的な反応をいただいたので、そこから企画内容を詰めていきました。なので、企画段階から男子実業団ものというのは決まっていましたね。
連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
0件のコメント