リアルとバーチャルの境界線が曖昧になりつつある中で、加工されたスマホ内の写真こそが、もう一つの現実になりつつある現象を描いた「現実カメラ」は、たびたびSNSを楽曲のテーマとして歌ってきた安斉さんならではの感覚によって誕生した。
「アーティストの仕事をしてなければ、SNSはやっていない」──正直に明かす彼女が、なぜSNSを音楽活動のテーマとするのか。「現実カメラ」を通じて、SNSとリアルとの境界や安斉かれんにとっての自分らしさなどを聞いてみた。
取材・文:ミクニシオリ 編集:恩田雄多 撮影:小野奈那子
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安斉かれん「自分と加工した写真は地続き」
「もともとアートが好きで、SNSでもイラストレーターさんの作品をよく見るんです。MVでそれぞれのイラストレーターさんの世界観に入り込んでみると、同じ自分なのに曲によって全く違う人物のように見えるのは、面白いですね。ただ見え方が違かったとしても、私は私だなとも思います」
MVでは、実写とイラスト化された安斉さんが、それぞれリアルとバーチャルの曖昧な境界線を行き来する。加工されたスマホ内の写真が自分の現実になりつつある現象を歌った楽曲だ。
「SNSの自分=本来の自分というわけじゃないです。でも、加工してアップされる自分が自分じゃないかっていうと、そういうわけでもない。加工された写真と本当の自分は地続きです。ただ、実際にリアルで会わないとわからないこともあるっていうのは、リリックにも込めています」
これまで自身の体験をベースにした曲づくりが多かったという彼女だが、連続リリース中の曲からは、自分が見て感じたもの以外も参照するようになった。
だからこそ彼女は言う。「曲はすべてがリアルではないし、曲が私のすべてではないです」と。
「楽曲を制作する過程で主人公に共感することはありますよ。私自身は、SNSはみんなと繋がれる場所で、キラキラが詰まった世界だと思っています。でも、それがリアルじゃないってことはみんな知ってるじゃないですか。『現実カメラ』の主人公は、加工写真をアップするSNSの自分と現実の自分に戸惑っている。現実とのギャップを感じながらも『飾らずにいられる自分』を探してるんです」
SNSで悩む人を代弁──そう言うのはおこがましい
「何が“ありのままなのか”をわかっていないです。自分のことを自分で理解するのって難しい。たとえば、最近ずっと好きだった金髪をやめたんです。ファンの人に『なんでやめちゃったの?』って聞かれたりするけど、特別金髪が自分らしいとも思ってなくて、ただ飽きちゃったんですよね」
デビュー時の金髪・ギャルといった印象が強いのか、現在もそういったイメージで語られることも多い。そんな現象を「まあ、慣れてますし、違和感はないです(笑)」と理解しつつ、「周囲に合わせてテンションが変わる時はあるけど、自分が変わっちゃうわけじゃないし。自分がどんな人間なのかは説明しづらいですね」と、ありのままの難しさを口にする。
「“安斉かれんっぽい”ものが、私もまだわからないんです。だから楽曲制作も、まだまだいろんなジャンルに挑戦しながら探していきたい」
「え、全然ないです(笑)。自分のキャラクターを出せる外見とかSNSのやり方とか、悩んだ時期もあったけど……。あんまり承認欲求がないので、考えること自体向いてないって気づきました!」
一時期はSNSでの振る舞いに悩んだと明かす彼女は、ファンと繋がれる場所という魅力を認識しつつ「アーティストの仕事をやっていなければ、SNSはやっていなかった」という。
他人の人生に興味はないという一方で、「現実とSNSの狭間で悩んでいる子に寄り添いたい」と、音楽活動において意識する優しさにも言及した。
「そういう子の気持ちを代弁しているなんて言うのはおこがましいし、思ってないんですけど、自分の曲を聞いてテンションが上がって、元気になってくれたら嬉しいなって思う。『現実カメラ』だと、曲の中に“かわいい”要素をたくさん詰め込みました。女の子にとっては、かわいいってすごくテンションが上がるものだと思うので」
デビューからコロナ禍、でも歯痒さはない
「もちろんちゃんと事務所の人に連絡してからですよ。調べ物も写真も撮れなくて不便なんですけど、そういう日にきれいな景色を見たり、いい音楽が聞こえてきた時は、全身全霊で目や耳にその光景を残そうと思えるんです」
連続リリース第4弾として1月19日にリリースした「一周目の冬」にも、そんな自身の体験を反映。スマホも持たず1人で出かけた時の澄んだ景色を、“優しさ”と一緒に楽曲として表現した。
しかし、安斉さんの場合、日常生活や音楽活動も大きな変化はなかったという。もともとインドアな彼女ならではと思う一方で、音楽活動においても変化がなかったとは。
「そもそもデビュー(2019年5月)して1年も経たないうちにコロナ禍っていう状態で、その前を知らないのもあって、あまり変化は感じないですね。これから良い方向に変わっていけばいいとは思うけど。大変なのはみんないっしょだし、活動が制限される歯痒さも感じないです」
率直にこちら側から見た変化を伝えると、“大人”というワードに敏感に反応し、考えること自体向いてないと語っていたにもかかわらず、安斉さんは深く考え込んでしまった。
「大人になるってわかんないんですよね。子どものままはよくないけど、大人ってこういうものだから〜とか語り出す大人には一生なりたくないですね。年は重ねていくものなんですけど、重ねた分だけが大人なわけじゃないと思うし。大人っぽいとか、どうしたら大人とか、今はまだ答えを持ち合わせていないですね」 安斉かれん楽曲配信ページ YouTubeチャンネル「かれんの日常」
安斉かれんをもっと知る
安斉かれん // Karen Anzai
アーティスト
1999年生まれ。2019年5月「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でデビュー。2020年話題となったドラマにW主演。アーティスト活動以外に、ファッション・アイコンとして、コスメティックブランドの「M·A·C」の店頭ビジュアルの起用やカラコンイメージキャラクターを飾るなど、そのルックスにも注目が集まっている。

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