1999年生まれのシンガーソングライター・安斉かれんさんが、2021年9月スタートした7作品連続リリース。第3弾「現実カメラ」のMVでは、安斉さん本人とアニメ調の彼女が切り替わりながら、スマホで自撮りをする印象的な映像に仕上がっている。
リアルとバーチャルの境界線が曖昧になりつつある中で、加工されたスマホ内の写真こそが、もう一つの現実になりつつある現象を描いた「現実カメラ」は、たびたびSNSを楽曲のテーマとして歌ってきた安斉さんならではの感覚によって誕生した。
「アーティストの仕事をしてなければ、SNSはやっていない」──正直に明かす彼女が、なぜSNSを音楽活動のテーマとするのか。「現実カメラ」を通じて、SNSとリアルとの境界や安斉かれんにとっての自分らしさなどを聞いてみた。
取材・文:ミクニシオリ 編集:恩田雄多 撮影:小野奈那子
【写真13枚】安斉かれん撮り下ろしギャラリー
「もともとアートが好きで、SNSでもイラストレーターさんの作品をよく見るんです。MVでそれぞれのイラストレーターさんの世界観に入り込んでみると、同じ自分なのに曲によって全く違う人物のように見えるのは、面白いですね。ただ見え方が違かったとしても、私は私だなとも思います」
MVでは、実写とイラスト化された安斉さんが、それぞれリアルとバーチャルの曖昧な境界線を行き来する。加工されたスマホ内の写真が自分の現実になりつつある現象を歌った楽曲だ。安斉かれん - 現実カメラ
彼女によれば「今の女の子たちって“加工までが化粧”なんて言葉を使ったりするけど、その感覚がリアル」。本人は現実の自分とSNS上の自分をどう考えているのだろうか?
「SNSの自分=本来の自分というわけじゃないです。でも、加工してアップされる自分が自分じゃないかっていうと、そういうわけでもない。加工された写真と本当の自分は地続きです。ただ、実際にリアルで会わないとわからないこともあるっていうのは、リリックにも込めています」
これまで自身の体験をベースにした曲づくりが多かったという彼女だが、連続リリース中の曲からは、自分が見て感じたもの以外も参照するようになった。 「最近は曲づくりのイメージを探すために、映画を見たり街ゆく人の人生を想像したりしています。周囲の友人の話からアイディアを得ることもありますし、そこはいろいろですね」
だからこそ彼女は言う。「曲はすべてがリアルではないし、曲が私のすべてではないです」と。
「楽曲を制作する過程で主人公に共感することはありますよ。私自身は、SNSはみんなと繋がれる場所で、キラキラが詰まった世界だと思っています。でも、それがリアルじゃないってことはみんな知ってるじゃないですか。『現実カメラ』の主人公は、加工写真をアップするSNSの自分と現実の自分に戸惑っている。現実とのギャップを感じながらも『飾らずにいられる自分』を探してるんです」
「何が“ありのままなのか”をわかっていないです。自分のことを自分で理解するのって難しい。たとえば、最近ずっと好きだった金髪をやめたんです。ファンの人に『なんでやめちゃったの?』って聞かれたりするけど、特別金髪が自分らしいとも思ってなくて、ただ飽きちゃったんですよね」
デビュー時の金髪・ギャルといった印象が強いのか、現在もそういったイメージで語られることも多い。そんな現象を「まあ、慣れてますし、違和感はないです(笑)」と理解しつつ、「周囲に合わせてテンションが変わる時はあるけど、自分が変わっちゃうわけじゃないし。自分がどんな人間なのかは説明しづらいですね」と、ありのままの難しさを口にする。
「“安斉かれんっぽい”ものが、私もまだわからないんです。だから楽曲制作も、まだまだいろんなジャンルに挑戦しながら探していきたい」 前回2020年9月のインタビュー以降も、現在までに複数の楽曲をリリース。精力的な音楽活動を通じて、心境の変化はなかったのだろうか。
「え、全然ないです(笑)。自分のキャラクターを出せる外見とかSNSのやり方とか、悩んだ時期もあったけど……。あんまり承認欲求がないので、考えること自体向いてないって気づきました!」
一時期はSNSでの振る舞いに悩んだと明かす彼女は、ファンと繋がれる場所という魅力を認識しつつ「アーティストの仕事をやっていなければ、SNSはやっていなかった」という。 「本音を言えば、みんな本当にそこまで他人の人生に興味ある? とは思います(笑)。私の中ではSNSは仕事の一部でしかないし、周りにも苦手だと公言してるんです」
他人の人生に興味はないという一方で、「現実とSNSの狭間で悩んでいる子に寄り添いたい」と、音楽活動において意識する優しさにも言及した。
「そういう子の気持ちを代弁しているなんて言うのはおこがましいし、思ってないんですけど、自分の曲を聞いてテンションが上がって、元気になってくれたら嬉しいなって思う。『現実カメラ』だと、曲の中に“かわいい”要素をたくさん詰め込みました。女の子にとっては、かわいいってすごくテンションが上がるものだと思うので」
「もちろんちゃんと事務所の人に連絡してからですよ。調べ物も写真も撮れなくて不便なんですけど、そういう日にきれいな景色を見たり、いい音楽が聞こえてきた時は、全身全霊で目や耳にその光景を残そうと思えるんです」
連続リリース第4弾として1月19日にリリースした「一周目の冬」にも、そんな自身の体験を反映。スマホも持たず1人で出かけた時の澄んだ景色を、“優しさ”と一緒に楽曲として表現した。安斉かれん - 一周目の冬
2019年末以降、新型コロナウイルス感染症が流行し、気軽に出かけられる機会も減少。多くのアーティストにとっては、これまで通りの活動が難しくなった。
しかし、安斉さんの場合、日常生活や音楽活動も大きな変化はなかったという。もともとインドアな彼女ならではと思う一方で、音楽活動においても変化がなかったとは。
「そもそもデビュー(2019年5月)して1年も経たないうちにコロナ禍っていう状態で、その前を知らないのもあって、あまり変化は感じないですね。これから良い方向に変わっていけばいいとは思うけど。大変なのはみんないっしょだし、活動が制限される歯痒さも感じないです」 それでも、前回のインタビューと比べて、大人びたような印象を感じる。
率直にこちら側から見た変化を伝えると、“大人”というワードに敏感に反応し、考えること自体向いてないと語っていたにもかかわらず、安斉さんは深く考え込んでしまった。
「大人になるってわかんないんですよね。子どものままはよくないけど、大人ってこういうものだから〜とか語り出す大人には一生なりたくないですね。年は重ねていくものなんですけど、重ねた分だけが大人なわけじゃないと思うし。大人っぽいとか、どうしたら大人とか、今はまだ答えを持ち合わせていないですね」 安斉かれん楽曲配信ページ YouTubeチャンネル「かれんの日常」
リアルとバーチャルの境界線が曖昧になりつつある中で、加工されたスマホ内の写真こそが、もう一つの現実になりつつある現象を描いた「現実カメラ」は、たびたびSNSを楽曲のテーマとして歌ってきた安斉さんならではの感覚によって誕生した。
「アーティストの仕事をしてなければ、SNSはやっていない」──正直に明かす彼女が、なぜSNSを音楽活動のテーマとするのか。「現実カメラ」を通じて、SNSとリアルとの境界や安斉かれんにとっての自分らしさなどを聞いてみた。
取材・文:ミクニシオリ 編集:恩田雄多 撮影:小野奈那子
【写真13枚】安斉かれん撮り下ろしギャラリー
安斉かれん「自分と加工した写真は地続き」
安斉かれんさんが2021年9月から連続リリースしている作品は、すべてMVにアニメーションが使われている。「18の東京」では古塔つみさん、「夜は未完成」では森田ぽもさん、そして「現実カメラ」ではがーこさんと、シーンの第一線で活躍するイラストレーターのコラボレーションが続く。「もともとアートが好きで、SNSでもイラストレーターさんの作品をよく見るんです。MVでそれぞれのイラストレーターさんの世界観に入り込んでみると、同じ自分なのに曲によって全く違う人物のように見えるのは、面白いですね。ただ見え方が違かったとしても、私は私だなとも思います」
MVでは、実写とイラスト化された安斉さんが、それぞれリアルとバーチャルの曖昧な境界線を行き来する。加工されたスマホ内の写真が自分の現実になりつつある現象を歌った楽曲だ。
「SNSの自分=本来の自分というわけじゃないです。でも、加工してアップされる自分が自分じゃないかっていうと、そういうわけでもない。加工された写真と本当の自分は地続きです。ただ、実際にリアルで会わないとわからないこともあるっていうのは、リリックにも込めています」
これまで自身の体験をベースにした曲づくりが多かったという彼女だが、連続リリース中の曲からは、自分が見て感じたもの以外も参照するようになった。 「最近は曲づくりのイメージを探すために、映画を見たり街ゆく人の人生を想像したりしています。周囲の友人の話からアイディアを得ることもありますし、そこはいろいろですね」
だからこそ彼女は言う。「曲はすべてがリアルではないし、曲が私のすべてではないです」と。
「楽曲を制作する過程で主人公に共感することはありますよ。私自身は、SNSはみんなと繋がれる場所で、キラキラが詰まった世界だと思っています。でも、それがリアルじゃないってことはみんな知ってるじゃないですか。『現実カメラ』の主人公は、加工写真をアップするSNSの自分と現実の自分に戸惑っている。現実とのギャップを感じながらも『飾らずにいられる自分』を探してるんです」
SNSで悩む人を代弁──そう言うのはおこがましい
現実とのギャップに戸惑う人物を歌った「現実カメラ」では、“ありのままでいい世界に行ってみたい”というフレーズがある。しかし、彼女自身はそんな世界はたぶんないと一蹴した。「何が“ありのままなのか”をわかっていないです。自分のことを自分で理解するのって難しい。たとえば、最近ずっと好きだった金髪をやめたんです。ファンの人に『なんでやめちゃったの?』って聞かれたりするけど、特別金髪が自分らしいとも思ってなくて、ただ飽きちゃったんですよね」
デビュー時の金髪・ギャルといった印象が強いのか、現在もそういったイメージで語られることも多い。そんな現象を「まあ、慣れてますし、違和感はないです(笑)」と理解しつつ、「周囲に合わせてテンションが変わる時はあるけど、自分が変わっちゃうわけじゃないし。自分がどんな人間なのかは説明しづらいですね」と、ありのままの難しさを口にする。
「“安斉かれんっぽい”ものが、私もまだわからないんです。だから楽曲制作も、まだまだいろんなジャンルに挑戦しながら探していきたい」 前回2020年9月のインタビュー以降も、現在までに複数の楽曲をリリース。精力的な音楽活動を通じて、心境の変化はなかったのだろうか。
「え、全然ないです(笑)。自分のキャラクターを出せる外見とかSNSのやり方とか、悩んだ時期もあったけど……。あんまり承認欲求がないので、考えること自体向いてないって気づきました!」
一時期はSNSでの振る舞いに悩んだと明かす彼女は、ファンと繋がれる場所という魅力を認識しつつ「アーティストの仕事をやっていなければ、SNSはやっていなかった」という。 「本音を言えば、みんな本当にそこまで他人の人生に興味ある? とは思います(笑)。私の中ではSNSは仕事の一部でしかないし、周りにも苦手だと公言してるんです」
他人の人生に興味はないという一方で、「現実とSNSの狭間で悩んでいる子に寄り添いたい」と、音楽活動において意識する優しさにも言及した。
「そういう子の気持ちを代弁しているなんて言うのはおこがましいし、思ってないんですけど、自分の曲を聞いてテンションが上がって、元気になってくれたら嬉しいなって思う。『現実カメラ』だと、曲の中に“かわいい”要素をたくさん詰め込みました。女の子にとっては、かわいいってすごくテンションが上がるものだと思うので」
デビューからコロナ禍、でも歯痒さはない
SNSやバーチャル空間でいつでもどこでも繋がれる状態は、良い反面、人によっては煩わしくなる時もある。そんな時安斉さんは、スマホを1日放置して外に出る。「もちろんちゃんと事務所の人に連絡してからですよ。調べ物も写真も撮れなくて不便なんですけど、そういう日にきれいな景色を見たり、いい音楽が聞こえてきた時は、全身全霊で目や耳にその光景を残そうと思えるんです」
連続リリース第4弾として1月19日にリリースした「一周目の冬」にも、そんな自身の体験を反映。スマホも持たず1人で出かけた時の澄んだ景色を、“優しさ”と一緒に楽曲として表現した。
しかし、安斉さんの場合、日常生活や音楽活動も大きな変化はなかったという。もともとインドアな彼女ならではと思う一方で、音楽活動においても変化がなかったとは。
「そもそもデビュー(2019年5月)して1年も経たないうちにコロナ禍っていう状態で、その前を知らないのもあって、あまり変化は感じないですね。これから良い方向に変わっていけばいいとは思うけど。大変なのはみんないっしょだし、活動が制限される歯痒さも感じないです」 それでも、前回のインタビューと比べて、大人びたような印象を感じる。
率直にこちら側から見た変化を伝えると、“大人”というワードに敏感に反応し、考えること自体向いてないと語っていたにもかかわらず、安斉さんは深く考え込んでしまった。
「大人になるってわかんないんですよね。子どものままはよくないけど、大人ってこういうものだから〜とか語り出す大人には一生なりたくないですね。年は重ねていくものなんですけど、重ねた分だけが大人なわけじゃないと思うし。大人っぽいとか、どうしたら大人とか、今はまだ答えを持ち合わせていないですね」 安斉かれん楽曲配信ページ YouTubeチャンネル「かれんの日常」
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安斉かれん
アーティスト
1999年生まれ。2019年5月「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でデビュー。2020年話題となったドラマにW主演。アーティスト活動以外に、ファッション・アイコンとして、コスメティックブランドの「M·A·C」の店頭ビジュアルの起用やカラコンイメージキャラクターを飾るなど、そのルックスにも注目が集まっている。
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