安斉かれんのリアルと“アユ”というフィクション 音楽性の再構築を試みた1stアルバム

安斉かれんのリアルと“アユ”というフィクション 音楽性の再構築を試みた1stアルバム
安斉かれんのリアルと“アユ”というフィクション 音楽性の再構築を試みた1stアルバム

安斉かれんさん

安斉かれん”といえば……令和に現れた“平成の歌姫”? 新時代を生きるポスギャル?──どれもデビュー当初の彼女を示す謳い文句だ。しかし、それらは虚像であり、現在の安斉かれんさんに適したものは一つもない

2019年5月1日の令和元日、楽曲「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でアーティストデビュー。翌年、浜崎あゆみさんの告白をもとにした小説をドラマ化した『M 愛すべき人がいて』で主人公・アユ役に大抜擢。安斉かれんという存在を強烈に印象付けた。
ドラマ『M 愛すべき人がいて』
筆者は普段、VOCALOID(ボーカロイド)周辺を中心にライターとして活動している。 安斉かれんさんのことはドラマで認知したが、その音楽までは手が伸びなかった。そもそもの出会いが女優だったからか、もしくは前述した色眼鏡のせいか、無意識に避けてしまったのかもしれない。

しかし、彼女が3月29日にリリースした2枚のアルバム『ANTI HEROINE』『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』で、彼女の音楽はより多くの人に届きうると感じた。端的に言えば、従来の安斉かれん像を解体し、再構築を試みたアルバムに仕上がっている。

『ANTI HEROINE』収録曲「18の東京 feat. 初音ミク」キービジュアル。フィーチャリング曲の発表にあたって新たに制作された。

『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』収録曲「現実カメラ feat. 初音ミク」キービジュアル。イラストは河底9さんとケイゴイノウエさんのコラボレーションによるもの。

アルバム収録曲では、ボカロ曲「劣等上等」を作曲したGigaさんと、P丸様。の「Magical Word」などを手がけるTeddyLoidさんプロデュースのもと、初音ミクをフィーチャリング。さらにはCarpainterさん(TREKKIE TRAX)やTAKU INOUEさんといったネットの音楽シーンで絶大な支持を受ける面々も参加。

彼女の音楽を知るベストなタイミングとも言える今回。ボカロ好きライターの視点から、安斉かれんさんの音楽的な魅力を紐解いていく。

文:小町碧音 編集:恩田雄多

目次

“M”という強烈なイメージが音楽観を限定的に

安斉かれんさんがデビューからドラマ放送前後にリリースした楽曲は、2000年代のJ-POPリバイバル。エレクトロニカルなダンスミュージックが踊る、いわゆる“エイベックスサウンド”をコンセプトにしたものが多い。
「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」

周りの人が 大きく見えて 周りの人が 怖く思えて 世界の全て 敵に感じて 孤独さえ愛していたよ

何を言われても 何が起こっても 周りに 合わせて 生きたくない デビュー曲「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」より

歌詞を見ても、10〜20代が抱える孤独や不安と、自身のブレない想いを強く訴えかけており、2000年代にタイムスリップしたかのような懐かしさを感じさせる節がある。まさに当時の安斉かれんさんの楽曲は、90年代〜00年代を生きた人々の記憶に刺さった

当時の浜崎あゆみさんを彷彿とさせる楽曲、可愛らしいルックスや声、ドラマで見せた純真無垢な演技。

知名度を広げた一方で、本業であるアーティストとしては色眼鏡で見られ、彼女に対する音楽観が限定された部分は否めない。
「誰かの来世の夢でもいい」
ちなみに、現在23歳の安斉かれんさんは、父親に連れて行ってもらったローリング・ストーンズのライブをきっかけに、10代前半からサックスを吹き始めた。高校時代には、喉も一つの楽器として考えるようになり、エイベックスのアカデミーで本格的に歌をスタートしている。

自身で歌うようになってからJ-POPを満遍なく聴き始めたというくらい、それまでの彼女の頭の中で流れ続けた音楽は海外のヒップホップ、R&B、クラシック、ロックなどが中心。本人のバックボーンに多様な音楽がある点は強調しておきたい。

「安斉かれんなんて知らなくていいから」

そんなデビュー当初を経て、“今”のアーティスト・安斉かれんを集約したのが、3月29日に同時リリースされた本人初のアルバム。

新曲を中心に構成した『ANTI HEROINE』と、既存楽曲のリミックスやカバーなどを収録した『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』だ。

アルバムには、前述したプロデューサー陣に加え、言わずと知れたイギリス出身の人気アーティスト・CHARLI XCXさん、世界的なエレクトロポップバンド・CHVRCHES、東京オリンピックの閉会式でリナ・サワヤマさんが歌った楽曲を手がけた音楽プロデューサー/作曲家・DANNY L HARLEさんなど、国籍もジャンルも多岐にわたる面々参加している。

デビュー当初のY2KのJ-POPリバイバルサウンドから、その後に彼女本来の音楽性が発露する過程で生まれた多彩なジャンルをベースにした楽曲まで、その音楽性の拡張と変遷が手に取るようにわかる作品だ。

『ANTI HEROINE』のコンセプトムービーで、安斉かれんさんは次のように語っている。
『ANTI HEROINE』コンセプトムービー

安斉かれんって知ってる?
じゃあ、かれんの音楽、知ってる?
アタシ『に』歌なんて、必要ないのかな?
アタシ『の』歌なんて、必要ないのかな?
どうせ、アタシなんて……
またそれだ。
「どうせ」ってセリフを謙遜じゃなく
逃げ場にしちゃってる。
自分くらいは自分のリアルを生きるしかなくない?
安斉かれんなんて知らなくていいから
アタシの音楽=本性を知ってよ。 『ANTI HEROINE』のコンセプトムービーより

ここまでストレートに「自分の音楽を知って」と訴えかけるアーティストも珍しい。それだけ彼女の音楽へのイメージを限定した壁を、壊したいのかもしれない。

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