安斉かれんのリアルと“アユ”というフィクション 音楽性の再構築を試みた1stアルバム

平成の歌姫という虚像を、電子の歌姫とリセットする

楽曲に初音ミクなどの音声合成ソフトを使う利点のひとつに、人とは異なり、癖のない歌声をつくり出せるという点がある。

たとえば、カラオケで歌う場合、人が歌う曲では歌手に寄せてしまいがちなところ、音声合成ソフトがボーカルになっている曲では、自分の歌声・歌い方で歌うことができるように。

いまや、音声合成ソフトは人の歌声に近い表現が可能なものも存在する。そういう意味で、初音ミクは癖のないフラットな音声合成ソフトと言えるだろう。
「18の東京 feat. 初音ミク」
安斉かれんさんも、初音ミクをボーカルに迎えることで、自身の“虚像”をリセットしようしているのかもしれない(2曲は初音ミクバージョンしか収録されていない)。初音ミクを迎えた歌唱によって匿名性を担保し、当時の楽曲が有する安斉かれん像を破壊しようとしたのではないだろうか。

加えて、2000年代以降の音楽シーンを語る上で欠くことのできない、“電子の歌姫”とも呼ばれる初音ミクをボーカルに採用していること自体が興味深い。

もともとあった“平成の歌姫の生まれ変わり”という自身とは異なるイメージを塗り替え、安斉かれんさんは新たな時代を生きるアーティストとして始動。その一端を、初音ミクが担っている。

“安斉かれんの音楽”を知る、これ以上ない作品

ほかにも、『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』には、VTuberをはじめ、ネットシーンのアーティストに楽曲提供するTAKU INOUEさんや、音楽レーベル・TREKKIE TRAX創設者の一人であり、国内外で活躍するCarpainterさんなども参加。現代を牽引する、ネットシーンのクリエイターが集結している。

2000年代のJ-POPリバイバルサウンドの印象が強かった安斉かれんさんだが、2枚の1stアルバムは、これまでの安斉かれん像が解体され、再構築されていく過程を堪能できる
「ら・ら・らud・ラヴ」

きっとキミ次第で この音の結末は変えられるはず 『ANTI HEROINE』収録「ら・ら・らud・ラヴ」より

きっと、これからの彼女の音楽は、より自由な感性でつくられていくはずだ。そこから何を感じ、どの曲を好むのかも、聴き手次第。

“安斉かれんの音楽”を知るという点において、『ANTI HEROINE』と『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』以上の作品はないかもしれない。

新曲を中心とした『ANTI HEROINE』

既存曲のリミックスやカバー曲を収録した『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』

『ANTI HEROINE』を聴いてみる 『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』を聴いてみる
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安斉かれんをもっと知るインタビュー

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安斉かれん

アーティスト

世界的にも大きな潮流を生みつつあるリバイバル・サウンドをいち 早く取り入れ、J-POPのニュージェネレーションを謳う歌手として令和元日の5月1日にavexよりデビュー。これまでに90年代リバイバルを意識した8cm シングルを4作FREEリリースするなど、新たな音楽の届け方を定義している。

5th「僕らは強くなれる。」は音楽関連ランキングにチャートイン。Googleトレンド急上昇ワードで1位を1ヶ月の間に2度獲得。

2022年9月7日より、コスメブランド『M·A·C』から日本初のコラボリップ『リップスティック@カレン』を発売。

2023年3月29日、ファースト・アルバムを2枚同時リリース。こうあるべきカタチを壊す「ANTI HEROINE」と、軌跡を更新するヒストリカル・アルバム「僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。」、計26トラックを収録。

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