ボカロP/アーティストのカンザキイオリさんが作詞・作曲、バーチャルシンガー・花譜さんが歌った「それを世界と言うんだね」。
ポプラ社の児童文庫レーベル・キミノベルの創刊プロジェクト第2弾「この夏、キミノウタをつくろう!」の一環として制作された楽曲だ。
「もしもキミが物語の主人公だったら?」をテーマに、「キミノベル」の読者からオリジナルの物語を募集。
応募総数632件にも及んだストーリーや言葉をもとに、カンザキさんと公式アンバサダーをつとめる花譜さんがひとつの楽曲へと仕上げていった。花譜 #91「それを世界と言うんだね」【オリジナルMV】
カンザキさんといえば、歌い手/アーティストのまふまふさんが年末の『第72回NHK紅白歌合戦』で、カンザキさんの代表曲「命に嫌われている。」をパフォーマンスしたことも記憶に新しい。
メールインタビューを通じて、自身初の取り組みとなった「それを世界と言うんだね」制作の裏側や、カンザキさんにとっての「物語」の位置づけ、さらには、NHK紅白で歌われることになった経緯など、気になるトピックスを掘り下げていく。
取材・文:草野虹 編集:都築陵佑
カンザキイオリ うーん……あの頃は何を読んでいたかな。今パッと思い出したのは、山田悠介さんの『リアル鬼ごっこ』かなぁ。
私はホラー小説が好きだったので、本屋さんに行くたびに文庫本のホラー小説のコーナーでずっと立ち読みしていました。
映画は『呪怨』かな。観たあともう脳裏にこびりついて、一人でお風呂入れないわ、一人で寝れないわ、一人でトイレもいけないわ、散々な思い出がありましたが、今は好きです。
──カンザキさんはどのような子どもだったのでしょうか?
カンザキイオリ 学校はあまり好きじゃなかったのでよく休んでいました。
中学生あたりはだいたい不登校だったので、家の古いパソコンで小説投稿サイト「小説を読もう!」のインディーズノベルを延々と読んでいた覚えがあります。
──キミノベルについての第一印象はどういったものでしたか?
カンザキイオリ キミノベルさんを初めて知ったのは、水野あつさん書き下ろしの楽曲「ソレカラ」を聴いてからでした。花譜 #77「ソレカラ」【オリジナルMV】
カンザキイオリ 公式サイトを見たら、キミノベルさんのオリジナルキャラクター・のべぺんを見つけて、「かっわいい。。。。」って思ったのを覚えています。ペンギン、、、なのかな、、、、、。
カンザキイオリ とても嬉しいことにたくさんの応募がありましたので、すべてを入れることは容量的に難しく、まずは歌詞に組み込む物語を選ぶことからはじまりました。
──特に印象深い作品はありましたか? カンザキイオリ たくさんの夢ある物語があってどれも素敵だったのですが、一番「あ、素敵だな」と思ったのは「ヒーローなどにはならずとも、誰かを救えればよい」という風に綴った応募作品でした。
「もしもキミが物語の主人公だったら?」と、なんにでもなれる、想像できる企画であるにもかかわらず、非現実的なものではない。等身大の自分自身で何かを思うひたむきな気持ちがとても心に響きました。
──これまでのカンザキイオリさんや花譜さんの楽曲は、少年・少女のどことなく内向きな感情を、歌詞/歌声/サウンドの3軸で、時には丁寧に、時には苛烈に表現してきたと思います。しかし「それを世界と言うんだね」は「自分はなんにでもなれる。どこにでもいける」という感覚を柔らかく描いていると思いました。
カンザキイオリ 今回は年齢的な目線をいつもより少し下げて制作しました。
私は曲をつくる中で、根底に「好きなものを好きに」というメッセージを込めたいと常に思っています。
花譜ちゃんの場合、タイアップの方やプロデューサー・PIEDPIPERさんのご意見もあるのでそこまでの場合もありますが、今回は「応募してくれた子たちの願いすべてを尊重するべき」だと思ったので、柔らかく、寄り添うように歌詞を組み立てました。
カンザキイオリ 今回はサウンドから制作をはじめました。歌詞は皆様からいただいた言葉をもとにしたかったのでじっくり時間をかけたいと思い、先にメロディラインだけ簡単に決めました。
──曲中には「子どもたちの合唱・コーラス」を思わせる部分がありますが、どのような意図があるのでしょうか?
カンザキイオリ 今回応募してくださった皆様である「キミ」と繋がることに重きを置いていたので、聴いてくれた子たちが口ずさめるような雰囲気が欲しいなと思いコーラスを入れました。
──花譜さんとのレコーディング時のエピソードなどはありますか? カンザキイオリ レコーディングする前に花譜ちゃんに聴いていただき、花譜ちゃんに飲み込んでいただいてから録りはじめました。
今回の曲はとにかくコーラスが多かったので、花譜ちゃんに頑張ってもらいました。
──アニメーション作家・門脇康平さんがディレクションされたMVも印象的です。感想をお聞かせください。 カンザキイオリ MVは楽曲完成後に制作されたものなので、公開されるときに初めて見ました。
いろんな花譜ちゃんがMVに登場して、まるで「パラレルワールドの花譜ちゃんみたい!」って思いました。違う選択肢があったら、もしかしたら花譜ちゃんも怪盗だったのかな。
今回のようにしっかりとしたアニメーションのMVは、花譜ちゃんのオリジナル楽曲には少なくて。だからこそ、いつもと違う柔らかい幻想的な花譜ちゃんを観られて素敵でした。命に嫌われている。/初音ミク
──ところで、2021年大晦日に放送された『第72回NHK紅白歌合戦』では、まふまふさんがカンザキさんの代表曲である「命に嫌われている。」を披露しました。どのような経緯で決まったのでしょうか?
カンザキイオリ まふまふさんから直接「『命に嫌われている。』を歌わせていただききたい」と、とても温かく熱意のこもった言葉が綴られたお手紙をいただきました。
そのとき、友達と遊んでいたのですが、本当にびっくりして思わず友達の前で叫び散らかしてしまいました。
マネージャーさんから、まふまふさんのお手紙をメールでいただき、メールで返せばよかったものの、私は興奮のあまり友達の前でマネージャーさんに電話してしまいました。もう本当に嬉しかったんです。
長くなるので深いところは省きますが、すぐに、「こちらこそよろしくお願いいたします」という内容で返事を戻しました。
──パフォーマンス当日をどのように迎えられたのか、そして実際に観て感じられたことを教えてください。命に嫌われている。/まふまふ【歌ってみた】
カンザキイオリ 紅白でのパフォーマンスは圧巻でしたね。まふまふさんの本気を感じました。
自分にとっても大切な曲なので、それに全力で立ち向かってくださったと思うので、私にとってこれ以上幸せなことはしばらくないと思います。
──「命に嫌われている。」をはじめ、カンザキさんの楽曲は、歌詞が非常に私小説(物語)的な流れで、自身の心の内を曝け出すものが多い印象です。改めて自身の創作において「物語」 はどのような立ち位置にありますか?
カンザキイオリ 前までは、自分の感情を余すことなく伝えるための、音楽に匹敵する新しい手段という感覚でした。
しかし最近、というか前作「親愛なるあなたへ」を書いているあたりから、ただただ物語を考えるのが楽しくて、今はただ自分が楽しむための新たなおもちゃのような立ち位置に感じています。 ──「物語」がもたらす影響や魅力をどのように捉えていますか?
カンザキイオリ 「物語」って聴く人、読む人によって頭の中に浮かぶものが違うから、人の数だけ「物語」があるって考えると、本当に無限大で。私はその広大さが魅力だと思います。
──カンザキさんは、自作曲をもとに『あの夏が飽和する。』『親愛なるあなたへ』などノベライズしています。最後に、物語を記していく上で意識している点はありますか?
カンザキイオリ 意識してること、なんだろう。楽しむことでしょうか。
楽しくないと思ったことはやらない。やりすぎて疲れて楽しくなくなったらやらない、とか。楽しむ、というよりかは、頑張らない、でしょうか。いやお恥ずかしい。サボるのが好きなんです。一生仕事などしたくない。Netflixだけ見ていたいですね。
ポプラ社の児童文庫レーベル・キミノベルの創刊プロジェクト第2弾「この夏、キミノウタをつくろう!」の一環として制作された楽曲だ。
「もしもキミが物語の主人公だったら?」をテーマに、「キミノベル」の読者からオリジナルの物語を募集。
応募総数632件にも及んだストーリーや言葉をもとに、カンザキさんと公式アンバサダーをつとめる花譜さんがひとつの楽曲へと仕上げていった。
メールインタビューを通じて、自身初の取り組みとなった「それを世界と言うんだね」制作の裏側や、カンザキさんにとっての「物語」の位置づけ、さらには、NHK紅白で歌われることになった経緯など、気になるトピックスを掘り下げていく。
取材・文:草野虹 編集:都築陵佑
目次
「小説を読もう!」を読み漁った小・中学生時代
──キミノベルは小・中学生向けエンタメノベルレーベルですが、カンザキさんが小・中学生のときに読んでいた小説・映画で、印象的だったものはありますか?カンザキイオリ うーん……あの頃は何を読んでいたかな。今パッと思い出したのは、山田悠介さんの『リアル鬼ごっこ』かなぁ。
私はホラー小説が好きだったので、本屋さんに行くたびに文庫本のホラー小説のコーナーでずっと立ち読みしていました。
映画は『呪怨』かな。観たあともう脳裏にこびりついて、一人でお風呂入れないわ、一人で寝れないわ、一人でトイレもいけないわ、散々な思い出がありましたが、今は好きです。
──カンザキさんはどのような子どもだったのでしょうか?
カンザキイオリ 学校はあまり好きじゃなかったのでよく休んでいました。
中学生あたりはだいたい不登校だったので、家の古いパソコンで小説投稿サイト「小説を読もう!」のインディーズノベルを延々と読んでいた覚えがあります。
──キミノベルについての第一印象はどういったものでしたか?
カンザキイオリ キミノベルさんを初めて知ったのは、水野あつさん書き下ろしの楽曲「ソレカラ」を聴いてからでした。
カンザキイオリの胸に響いた読者からの投稿
──「それを世界と言うんだね」は、バーチャルタウンがコンセプトとなっているキミノベルのWebサイト「キミノマチ」内の掲示板に投稿された物語をもとに制作するという流れでした。実際にはどのようにつくられたのでしょうか?カンザキイオリ とても嬉しいことにたくさんの応募がありましたので、すべてを入れることは容量的に難しく、まずは歌詞に組み込む物語を選ぶことからはじまりました。
──特に印象深い作品はありましたか? カンザキイオリ たくさんの夢ある物語があってどれも素敵だったのですが、一番「あ、素敵だな」と思ったのは「ヒーローなどにはならずとも、誰かを救えればよい」という風に綴った応募作品でした。
「もしもキミが物語の主人公だったら?」と、なんにでもなれる、想像できる企画であるにもかかわらず、非現実的なものではない。等身大の自分自身で何かを思うひたむきな気持ちがとても心に響きました。
──これまでのカンザキイオリさんや花譜さんの楽曲は、少年・少女のどことなく内向きな感情を、歌詞/歌声/サウンドの3軸で、時には丁寧に、時には苛烈に表現してきたと思います。しかし「それを世界と言うんだね」は「自分はなんにでもなれる。どこにでもいける」という感覚を柔らかく描いていると思いました。
カンザキイオリ 今回は年齢的な目線をいつもより少し下げて制作しました。
私は曲をつくる中で、根底に「好きなものを好きに」というメッセージを込めたいと常に思っています。
花譜ちゃんの場合、タイアップの方やプロデューサー・PIEDPIPERさんのご意見もあるのでそこまでの場合もありますが、今回は「応募してくれた子たちの願いすべてを尊重するべき」だと思ったので、柔らかく、寄り添うように歌詞を組み立てました。
「とにかく花譜ちゃんに頑張ってもらいました」
──「それを世界と言うんだね」では作詞と作曲、どちらから先にはじめましたか?カンザキイオリ 今回はサウンドから制作をはじめました。歌詞は皆様からいただいた言葉をもとにしたかったのでじっくり時間をかけたいと思い、先にメロディラインだけ簡単に決めました。
──曲中には「子どもたちの合唱・コーラス」を思わせる部分がありますが、どのような意図があるのでしょうか?
カンザキイオリ 今回応募してくださった皆様である「キミ」と繋がることに重きを置いていたので、聴いてくれた子たちが口ずさめるような雰囲気が欲しいなと思いコーラスを入れました。
──花譜さんとのレコーディング時のエピソードなどはありますか? カンザキイオリ レコーディングする前に花譜ちゃんに聴いていただき、花譜ちゃんに飲み込んでいただいてから録りはじめました。
今回の曲はとにかくコーラスが多かったので、花譜ちゃんに頑張ってもらいました。
──アニメーション作家・門脇康平さんがディレクションされたMVも印象的です。感想をお聞かせください。 カンザキイオリ MVは楽曲完成後に制作されたものなので、公開されるときに初めて見ました。
いろんな花譜ちゃんがMVに登場して、まるで「パラレルワールドの花譜ちゃんみたい!」って思いました。違う選択肢があったら、もしかしたら花譜ちゃんも怪盗だったのかな。
今回のようにしっかりとしたアニメーションのMVは、花譜ちゃんのオリジナル楽曲には少なくて。だからこそ、いつもと違う柔らかい幻想的な花譜ちゃんを観られて素敵でした。
NHK紅白の舞台裏と「物語」の立ち位置
カンザキイオリ まふまふさんから直接「『命に嫌われている。』を歌わせていただききたい」と、とても温かく熱意のこもった言葉が綴られたお手紙をいただきました。
そのとき、友達と遊んでいたのですが、本当にびっくりして思わず友達の前で叫び散らかしてしまいました。
マネージャーさんから、まふまふさんのお手紙をメールでいただき、メールで返せばよかったものの、私は興奮のあまり友達の前でマネージャーさんに電話してしまいました。もう本当に嬉しかったんです。
長くなるので深いところは省きますが、すぐに、「こちらこそよろしくお願いいたします」という内容で返事を戻しました。
──パフォーマンス当日をどのように迎えられたのか、そして実際に観て感じられたことを教えてください。
自分にとっても大切な曲なので、それに全力で立ち向かってくださったと思うので、私にとってこれ以上幸せなことはしばらくないと思います。
──「命に嫌われている。」をはじめ、カンザキさんの楽曲は、歌詞が非常に私小説(物語)的な流れで、自身の心の内を曝け出すものが多い印象です。改めて自身の創作において「物語」 はどのような立ち位置にありますか?
カンザキイオリ 前までは、自分の感情を余すことなく伝えるための、音楽に匹敵する新しい手段という感覚でした。
しかし最近、というか前作「親愛なるあなたへ」を書いているあたりから、ただただ物語を考えるのが楽しくて、今はただ自分が楽しむための新たなおもちゃのような立ち位置に感じています。 ──「物語」がもたらす影響や魅力をどのように捉えていますか?
カンザキイオリ 「物語」って聴く人、読む人によって頭の中に浮かぶものが違うから、人の数だけ「物語」があるって考えると、本当に無限大で。私はその広大さが魅力だと思います。
──カンザキさんは、自作曲をもとに『あの夏が飽和する。』『親愛なるあなたへ』などノベライズしています。最後に、物語を記していく上で意識している点はありますか?
カンザキイオリ 意識してること、なんだろう。楽しむことでしょうか。
楽しくないと思ったことはやらない。やりすぎて疲れて楽しくなくなったらやらない、とか。楽しむ、というよりかは、頑張らない、でしょうか。いやお恥ずかしい。サボるのが好きなんです。一生仕事などしたくない。Netflixだけ見ていたいですね。
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カンザキイオリ
ボカロP/アーティスト
2014年、ボカロPとしてアーティスト活動を開始。数々の人気曲を発表し、「命に嫌われている。」で初の殿堂入りを果たす。2019年には1stアルバム「白紙」を発表。大人気バーチャルシンガー花譜の全楽曲の提供や映画、ゲームの主題歌など活躍の場を広げる。2020年、大ヒット曲「あの夏が飽和する。」を元にした同名小説で作家デビュー。2021年夏からセルフボーカル活動も本格化する今最も注目のアーティスト。
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