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『ゴジラ S.P』円城塔インタビュー 実験と笑い、ポップで新たなゴジラの誕生

「なんか、ちょっと変なことをやったほうがいいんだと」

怪獣たちの鍵を握ると思われる人物・芦原が残した「葦原論文」の図

——なるほど。ペロ2のおかげで全体の深刻さとコメディのバランスが調和している点もありますよね。それを観て、円城さんのイメージが変わるところがあったんです。実験的な小説を書かれていますが、過去のインタビューでは近い作風と言われてる、べレックの『煙滅』のような海外の実験小説に対してあまり乗り気ではないと。

円城塔 ベレックは真面目なので。「そこまで真面目じゃなくていいだろう」と。

——小説で実験的な表現に取り組む作家は、基本的にシリアスにやっている印象がありますが。

円城塔 いや、本当はふざけてないとできないんじゃないですかね。例えば、筒井康隆さんとか徹頭徹尾真面目かというとそんなことはないはずじゃないですか。普通に書いてもつまらないから実験的な作品をやっている。

小説でストーリーを読むのと、ドラマを映像で見るのはどっちが楽しいのかって難しい問題ですよね。小説にしか書けないストーリーというのはたしかにあるんですけど、ぼくはそれががあまり得意ではないので(笑)。

それなら人とは違うものでやったほうがいいんじゃないかと。自分が小説でやれることがあるとしたら、ちょっと変なことをやったほうがいいんだとなった。

——ニッチなところに方向を定めていったと。

円城塔 僕の場合は軽妙な会話で、サクサクと進むものをやってもしょうがないなと。2人の登場人物が会話するにしても、会話を描くのが上手くないから。どっちが話しているかわからなくなる。そのための技術として、どちらかの語尾が違うとかいろいろあるんですけど。

——「~ナリ」とか「~なのです」とか語尾につけてキャラ立てさせるような。

円城塔 アクションも下手なので、その辺は完全に才能のある方にまかせたほうが良い。自分がやれることを考えたらこういう作風になりましたね。

——かつて「自分は子供時代から斜めに物事をみていた」ということも語っていますよね。そうしたことも関係していますか。

円城塔 まあ斜めでしょうね。基本的に人の揚げ足を取っていったり。……としか言いようがない(笑)。まあまっすぐにはいかない。

——そういう性格も込みで、円城さんの実験的なクリエイティブと、「笑い」の性質は近いところにあるように思うんです。たとえば音楽家のジョン・ケージの『4分33秒』とか。マルセル・デュシャンの『泉』とか。円城さんの『文字渦』などはそのあたりに近いんじゃないかと。

円城塔『文字渦』第39回日本SF大賞受賞

円城塔 (笑)。たしかにどう考えてもふざけている。それも100年も前の話ですけど、まあまあまあ、笑えるのが一番いいですよ。

だからこそ難しいですよね。時代がズレちゃうと笑えなくなったりするし。

——デュシャンの話でこんなに笑われるとは思いませんでした(笑)。円城さんの『文字渦』などを読むと、アカデミシャンがやる高度な笑いに近い印象もあるんです。おふざけの結果が小説の構造を揺るがす形になっているというか。

円城塔 まあ深刻なものも書いてもいいんですけどね。ただ依頼もありませんし。別に社会問題とか、すれ違いを続ける夫婦とかを書いてもいいですけど、あまり面白くならないような気がします。

僕が書いても面白くなくて、お金にもきっとならない。そこで食える気がしないんです。

逆に、むしろ昔の昼ドラみたいなのなら書けるかもしれない。ギャグにまで振り切っているようにしか見えない韓流ドラマみたいな。「もう次の事件が!」みたいに進んでいく嫁と姑の話とかは書けると思います。まあやっぱりそっちに行っちゃうんですね。

——読んでみたいです。『ゴジラ S.P』では、円城さんのなかで特にふざけて書けたというシーンはありましたか。

円城塔 アンギラスを山狩りしてるあたりは好きですね。あの場面の市長の挨拶を延々書いたりしていました。

13話あるので、重い話だとかなり辛いなあと思うんですよね。

アンギラスとの遭遇

円城塔が思う、技術と物語の関係

紅塵を纏って現れるゴジラ

——円城さんは『ゴジラ S.P』の視聴者の反応などをSNSで見たりしますか。

円城塔 見たり見なかったり……でも見ているとだんだん体調が悪くなってくるんですよね。そうするとやめています。だんだん身体が動かなくなってくるので、仕事に差し障りがでる。Twitterだと、ちょろちょろ100人くらいミュートしたりはしています。無期限で(笑)。

——健康的な使い方だと思います! 『ゴジラ S.P』ではペロ2やユングなどのAIがフィーチャーされていますが、円城さんが注目している技術的なトピックはありますか。

今後さらなる活躍が期待されるジェットジャガー

円城塔 意外とないですね。まあAIがひと段落ついたところですよね。でもそれも、人文社会学に期待される側面の方が大きくなってきたんじゃないでしょうか。

「AIがレコメンドしてくれたからOK」みたいに社会に振れたのかなという気がして、技術自体は当然ガンガン進んでるんですけど。「学会が認めた」みたいにAIが認めた、となると、そっち側の方の問題が顕在化してくる気がします。

これは単に歳のせいかもしれないけど、大きなブレイクスルーは一段落ついたのではないか、と。だって機械学習が完全にプラットフォームになって出てくるようになっちゃったんで、そこに興味があるかというと「ない」としか言いようがない。

今回のペロ2は非常にゆるい形のAIですけど、あれは高橋さんの方針です。僕はもうちょっと堅くてもいいんだけど(笑)。

——アニメ的にはキャラとしてハマっていると感じました。

円城塔 (苦悶の表情で)なんか難しいんだよなぁ~……。SFの歴史上、わりとあるじゃないですか。いろんな新しいAI観が最近ないような気がするんだよな~というのが正直なところですね。

——円城さんは小説にプログラミングを導入して執筆するなど、テックを作品づくりに導入する実験もやっていますよね。それはどういう意図でやっていたんでしょうか。

円城塔 めんどくさいからです。めんどくさいから自動化しようと。でも自動化しようとすると余計めんどくさくなるという。それはまあ普遍的な運動なので、そうしているうちにちょっとずつ楽になってきて。いまはみんなIMEを使って、Twitterで好きなことを書きこんでいるよ、という状態ですよね。

最初は日本語変換って大変でした。候補が出てくるまで、一行しかないウィンドウを見ながらスペースキーをひたすら叩いていたり。最初期のワープロってそうでした。

昔の小説家は、なんでワープロを使いはじめたのか、あるいはなぜ使わなかったのか、そういう話ですよね。

でも今でもいろんなレベルがありますよ。創作のレベルでもあれば、入稿のレベルもあるじゃないですか。「赤鉛筆で修正データが入っていないのはいやだ!」とか。

——テックを導入した小説執筆に関して、物語の自動生成みたいなテーマはいががでしょうか。最近のビデオゲームにおいては、しばしば挑戦されているテーマであるんですけど。

円城塔 まあできないじゃないですか。できるところはできるけど、できないところはできていないというか。

プロットの任意のかたちで「ここでこういうイベントが起こる」みたいな、イベントをどういう風に入れればいいかというイベントリストみたいなものは、ハーレクイン・ロマンスがずっと使っていると言われていますね。

ここで「アラブの富豪を入れる」とか、そういうエピソードの集合があって、それらを組み合わせるとハーレクインができあがるという。

——いまだったら異世界転生小説なんかも、ありがちなイベントリストの組み合わせや集積で作れそうですね。

円城塔 あちらはあちらで高度な技術の集積体なんですが、結局、読み手側の抱く小説のイメージってそうなんですよ。機械化して筋をつくろうとすると、大抵その路線になりがちです。プロットに時間軸が走っていて、そこにいくつかのエピソードを入れていく。

それはある意味で非常に発達していて、どこでヤマが来るかも決められる。最近はそれがあまりにも過剰になったので、「こいつちょっといいキャラだなと思ったら、ガーンと死ぬ」みたいな盛り上げ方をしてくる。そういう感じに、機械を使った物語の自動生成といっても、時間軸に沿ったプロットの方向で進んでいくんです。

組み合わせ方式は、一旦走ったものからバリエーションを生み出していくときに力を発揮します。でも小説にはいろんな書き方があって、書き方の方を探すやり方もある。現状の自動生成からは「ひたすら手を眺めているうちに思ったことを書く」フレームワークとかそういうのは出てこないわけですよ。 ——なんだか円城さんの短編小説みたいな切り口で、気になってきます(笑)。

円城塔 昔はエンタメのプロットをすごく並べていたAIが、縁側に座って100年くらい経ったあとに、なにを書くかってみたいな話ですね。そのときのAI自身が、それまで書いてきた小説について思い返すみたいな。

——最後になりますが、円城さんが今後、「こういう技術を使ってふざけた物語を書いてみたい」という構想などありませんか。

円城塔 実は別にないかもしれない(笑)。テーマもね、書きたいと言ったから書けるものでもないですから。その資料がないということも多いです。

「アフリカから日本まで、人類が生まれて歩いていく様子」とか書きたいですけど、書けないじゃないですか。でも彼らが何を喋っているのかとか、そういうことは考えながら、いろいろ資料を集め続けたりしているわけです。

——今回のまとめとして、いよいよゴジラも登場し、佳境にはいった『ゴジラ S.P』のファンに向けて一言お願いします!

円城塔 たぶん大丈夫! いや、もしかしたら大丈夫じゃないかもしれないけど、大丈夫。その辺の匙加減がわからなくなっていて。

『ゴジラ S.P』が発表されて、僕の名前がクレジットされた時にインターネットが「ざわ……」ってなってたんですけど、そのノリ程度には大丈夫です。

——(笑)。最後までジェットジャガーの活躍に期待しています。

毎週木曜22:30 TOKYO MX、KBS京都、BS11/毎週木曜24:00 サンテレビ
Netflixにて1話ずつ国内先行配信中
各週テレビ放送から1話ずつ先行配信(2021年全世界独占配信)

インタビューで知る、日本の異才たち

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作品情報

TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

<スタッフ>
監督:高橋敦史 シリーズ構成・脚本:円城塔 キャラクターデザイン原案:加藤和恵
キャラクターデザイン:石野聡 怪獣デザイン:山森英司 音楽:沢田完
CGディレクター:池内隆一・越田祐史・鈴木正史 VFXディレクター:山本健介
軍事考証:小柳啓伍 美術デザイン:平澤晃弘 美術監督:横松紀彦 色彩設計:佐々木梓
撮影監督:若林優 編集:松原理恵 音響監督:若林和弘
オープニングテーマ:「in case...」BiSH
エンディングテーマ:「青い」ポルカドットスティングレイ
アニメーション制作:ボンズ×オレンジ  
製作:東宝

<キャスト>
神野銘:宮本侑芽
有川ユン:石毛翔弥
ペロ2:久野美咲
ユング:釘宮理恵
加藤侍:木内太郎
大滝吾郎:高木渉
金原さとみ:竹内絢子
佐藤隼也:阿座上洋平
山本常友:浦山迅
鹿子行江:小岩井ことり
海建宏:鈴村健一
李桂英:幸田夏穂
マキタ・K・中川:手塚ヒロミチ
ベイラ・バーン(BB):置鮎龍太郎
リーナ・バーン:小野寺瑠奈
マイケル・スティーブン:三宅健太
ティルダ・ミラー:磯辺万沙子
松原美保:志村知幸
(C)2020 TOHO CO., LTD.

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

(笑)がたくさんあって楽しそうなインタビュー。読んでてても笑った。円城塔さんの、笑いの裏に冷めや真面目さが同居してる感覚を感じ取りました。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

読み応えありすぎる。インタビュアーが円城さんの作品読んでるからこその深み

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