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loundrawが肯定した“綺麗“からの脱却 アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』の経験

loundrawが肯定した“綺麗“からの脱却 アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』の経験

イラストレーター・loundrawインタビュー

POPなポイントを3行で

  • イラストレーター・loundrawインタビュー
  • 映画『ジョゼと虎と魚たち』のコンセプトデザインを担当
  • “きれいな絵”のloundrawという殻を破る大きな経験に
透明感、空気感のある色彩と被写界深度を用いた緻密な空間設計」──これは、イラストレーター・loundrawさんを紹介する際に、枕詞のように付いてくる言葉だ。

小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』などの装画や、劇場版『名探偵コナン』のイメージボードを手掛けるほか、アニメーションスタジオ・FLAT STUDIOの設立など、八面六臂の活躍を見せるloundrawさん。イラストレーターの枠にとどまらない新たな動き方を見せる彼だが、その一方で自身は「イメージの定着」に苦しんでいたという。

揺るがない個性を持つ反面、世間から「こういう絵を描く人」とレッテルを貼られてしまう──。そんなときに出会ったアニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』(公開中)は、現状打破への一手となった。
アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』PV
原作は作家・田辺聖子さんの代表作である小説『ジョゼと虎と魚たち』。2003年の実写映画も印象的な本作を、『おおかみこどもの雨と雪』助監督や『ノラガミ』の監督をつとめたタムラコータローさんとボンズがアニメ映画化。

同作で「アニメーション映画のコンセプトデザイン」という未知の体験に飛び込んだloundrawさんに、得られた経験について、自己分析してもらった。

取材・文:SYO 編集:恩田雄多

作品全体の“雰囲気”をつくるコンセプトデザイン

アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』

──『ジョゼと虎と魚たち』は小説、そして実写映画としても人気の高い作品です。コンセプトデザインのオファーを受けたときの印象を教えてください。

loundraw お話をいただいたのは、制作の初期段階でした。僕はこの作品を存じ上げておらず、まずは小説を読んで、その後実写映画も拝見しました。

実写版でも、小説から映画化するにあたり話としては大きなジャンプがあったと思いますが、今回のアニメーション映画化においても「何か新しいコンセプトをもって取り組むだろうな」と楽しみにしていました。

──これまでにTVアニメ『月がきれい』ではキャラクター原案、劇場版『名探偵コナン』ではイメージボードを手掛けられてきて、アニメのコンセプトデザインは今回が初かと思います。作品への関わり方として、これまでとの意識の違いはありましたか?

loundraw そうですね。やはり関わり方によって、スタンスはすべて違います。例えば『名探偵コナン』であれば、すでに存在しているIP(知的財産)に寄り添ってつくっていきますし、今回は原作はありつつも、ほぼオリジナルに近い形だったので、作品全体の雰囲気をつくる役割でした。

loundrawさんによるコンセプトデザイン

──初歩的な質問で恐縮ですが、本作における「コンセプトデザイン」とは、制作工程におけるどのタイミングでつくられたものなのでしょうか?

loundraw 作品によっても違うかと思いますが、今回はまず、タムラ(コータロー)監督とお話しさせていただいた際に、脚本の第一稿を読みながらすり合わせていったので、ある意味最初のほうから関わっています。

そのディスカッションを経てパッとラフを書かせていただき、そこから「もう少しこういうイメージ」といった感じで、細かいシーンのビジュアルをつくっていきました。 loundraw 映画のキーとなるシーンの絵を描かせていただいて、そこから脚本に反映いただいたり、スタッフ間の打ち合わせの際に「こういう感じにしたい」という資料として使っていただいたりしましたね。

僕も何回かボンズさんにうかがったのですが、そのたびにどんどん進捗として新しいキャラクターデザインなどが増えていって、リアルタイムで制作に関わっている実感がありました。

──アニメーションが出来上がっていく過程に立ち会われて、いかがでしたか?

loundraw 一番大きいのは「うれしい」ですね。僕自身もアニメーション制作を行おうと2019年にFLAT STUDIOを立ち上げているので、一線で活躍されているプロの方々の現場を見られて、とても勉強になりました。「あ、ここが修正されてこうなるんだな」といったような部分もわかりましたし、すごく楽しかったです。

タムラ監督が明かしたloundrawに依頼した理由

──事前にコンセプトデザインを拝見しましたが、本編ではそのすべてが印象的なシーンとして描かれていました。そういった象徴になるようなシーンを想定して、つくられるものなのでしょうか?

loundraw それはもう、タムラ監督のセレクトが良かったんじゃないかと思います(笑)。

普遍的なシーンにおいては、むしろ美術設定の方々などが設計した小物のディティールなどが魅力を発揮しているのかなと。感情が動く部分など、それ以上の“何か”が必要な場面を任されていた気はします。

──実際の作品をご覧になった感想を、ぜひ教えてください。

loundraw 小説や実写版をアニメーションがどう超えてくるのかは、僕自身すごく楽しみにしていたし、同時に不安でもあったところです。

実際に観賞して、想像や空想などアニメーションにしかできない表現がたくさんあり、それでいて現実をベースにした作品がつくれるんだと、発見がありました。その部分はある意味、観客の皆さんよりうれしかった部分かもしれません。

──loundrawさんが特に記憶に残っている場面はありますか?

loundraw 恒夫とジョゼの2人が浜辺にいるシーンですね。なぜかというと、最初にタムラ監督とお会いした際に僕の画集(『Hello,light. ~loundraw art works~』)を持ってきてくださって、昔描いた川辺にしゃがんでいる女の子の絵を見せて「これを見て、loundrawさんにお願いしようと思った」と言ってくださったからなんです。 loundraw だからこそ、浜辺のシーンではただただ期待に応えたかった。もちろん「動かしたらどうなるんだろう?」という期待がありつつ、描いたシーンです。 ──すごく時間がかかった、大変だった場面はありますか?

loundraw 後半にある、ジョゼと恒夫が抱き合うシーンですね。まだ設定などが細かく決まっていなくて、最初に描いたものから変遷があって現在の形に落ち着きました。

最初は、もっと高い場所で空が広がっているような絵だったのですが、ロケーションが出てきたときに、空も入れるような画角が難しくなってしまって。 loundraw でも、最初の絵にあったような2人を祝福する要素は入れたい、というお話だったので、自由に動かせないロケーションの中に、僕が想像で描いたビジュアルをうまく入れていく部分は大変でした。色の温度感だったり、バランスをとったりするのに時間がかかりましたね。

普遍的テーマを再定義する『ジョゼ虎』が転機に

──loundrawさんは「絵を描く」という行為をすごくロジカルにとらえていらっしゃる印象ですが、コンセプトデザインにおいても同様のアプローチで挑まれたのでしょうか。

loundraw 今回に関して言うと、心情部分などシナリオ的に絶対押さえなければならない部分があって、タムラ監督が思い描く世界観のイメージに応えていく必要があるため、よりロジカルに考える必要がありました。

──そういった状況下では、どのような部分にモチベーションを見出すのでしょう?

loundraw 自分の役割を100点でこなすことが大前提ではありつつ、コンセプトデザインというのは最初のほうから関わるポジションなので、「自分の描いたものが以降のたくさんの方々の作業の指標になるかもしれない」という部分がうれしかったですね。

そのため、単なる一作業ではなく、作家としての喜びや使命を感じながら挑むことができました。 ──描き直しなどはかなりあったのでしょうか?

loundraw ボツになったイラストはそもそも画角が合っていないなどの物理的な問題で、その他は色をちょっと直すくらいが多かったので、描き直し自体はほとんどなかったように思います。やっぱり、タムラ監督のディレクションが本当に的確でしたね。

──本作で描かれた「青春」「恋愛」といった要素は、創作における普遍的なテーマでもあります。4年前のインタビュー(関連記事)でご自身が表現したいとされていた「普遍的のものの良さ」とも通じる部分はあるのでしょうか?

loundraw おっしゃる通り、「青春」や「恋愛」はいまも僕の中で表現したいものとしてしっかりあります。ただ『ジョゼと虎と魚たち』は、アニメーションにするにしてはかなりシリアスな題材だと感じています。 こういった重い内容から逃げずに、それでいて普遍性を持って描くということは、「結ばれることが素晴らしい」という固定概念──典型的なテンプレートに対して、アニメーションというジャンルで再定義することにもなるかと思います。

あえてシリアスな部分も描くことは、普遍的ではあれど新しい価値を付加できたのではないでしょうか。 loundraw 自分自身に関して言うと、「自分の感情をビジュアルの中でどう表現していくか」は、この3年でより考えるようになりました。というのも、「loundrawってこういう絵を描く人」というイメージが良くも悪くも定着してしまったから。それに倣ってしまうと、「綺麗だと感じたから描いた」ではなく「記号的に綺麗に描いた」になってしまうんです。

だからこそ、『ジョゼと虎と魚たち』の経験はすごく大きなものになりました。この作品の中で起きていることは決して明るい内容ばかりではなく、つらいシーンもあります。

「綺麗に描けばいい」というものではなく、現実から目を背けずに描くことも必要でしたし、描きたいものを描くための多種多様なアプローチを許してくれる現場だったので、すごくやりがいがありました。「暗い絵を描いていいんだ!」って(笑)。

──(笑)。

loundraw でもそれは本当にありがたくて、なぜなら、いまの僕にはなかなか暗い絵を描ける場所が少なくて。

求められるもの──いわゆる「綺麗な絵」を描く、という行為は、僕の中で、作業としても完成図としても、結構予測できるものになってきてしまって……。そこを脱却していかないと、いま評価いただいているゾーンから先に進めない。「機会があったら違う描き方をしたい」と思っていたところに、今回のお話をいただけたんです。 ──キャラクター原案の絵本奈央さんや、ジョゼが描く劇中画を手掛けた松田奈那子さんといったクリエイターたちから刺激を受けた部分もありますか?

loundraw 直接交流があったわけではないのですが、僕が描いた絵をスタッフの方々が見てくださって、それぞれの表現に落とし込まれていく、というのがやはりとても光栄でした。

そうなると、例えば、絵の中に立っている人物をアニメーターさんが見るかもしれない。今回、僕に求められているのは主に色でしたが、デッサン含め、あらゆる意味で恥ずかしくない絵になっているか、もう少し努力してみよう、という意識が常にありましたね。

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