loundrawが肯定した“綺麗“からの脱却 アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』の経験

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「絵を描く」その先を見たい──loundrawへの期待

loundrawさん

──ここからはloundrawさんご自身の活動についてお聞きします。2019年1月にはアニメスタジオ・FLAT STUDIOを設立、2020年6月には短編アニメの制作を1つのゴールとしたメディア横断型プロジェクト「PROJECT COMMON」を立ち上げられました。アニメに対する強い創作意欲が感じられます。

loundraw アニメーションは、自分で想像できない領域が多いというのが、悔しくもありつつ楽しいんです。

イラストレーションは、自分の技術だったり頑張りだったり、自己完結する部分が大半。ですがアニメーションは、スタッフから自分が想像もしていない新しい絵が上がってくることもありますし、今はまだまだ“終わり”が見えない。だから面白いし、続けていきたいと考えています。
loundrawさん所属の音楽アート集団・CHRONICLEのアニメ映像
──2019年6月の音楽アート集団・CHRONICLE(クロニクル)としての新プロジェクト予告アニメ(外部リンク)から、2020年10月の花譜さんのライブのEDアニメまで、対外的なアニメ関連の発表がなかったような印象もあります。

loundraw そうですね。『ジョゼと虎と魚たち』の制作期間でもありましたし、まだ表に出ていない監督作品やプロジェクトの準備も行っていました。特にここ2年ほどは、表舞台から姿を消していたなと自分でも思っています。

作品をなかなか発表できず、もどかしい気持ちはありましたが、「そのぶん、ちゃんと準備をしているんだ」と自分に言い聞かせていましたね。やっと充電が終わって動きだした感覚はあります。 loundraw あとありがたいのは、「新しいことに挑戦する」のを期待してくださっている方々の存在です。僕を応援してくださっている方は、なんとなく「loundrawが絵を描く」のはもう当たり前で、むしろ、僕がどこに向かうのかに興味を持っていただいているような気がしていて。

いろんな反応を見ていても、「その先で何を見せてくれるのか」への期待を感じるので、そこに応えたいなと思います。発信の頻度が減ってしまったからといって、落書きを1枚描いてつなぎ止められるものではないというのは、肌感覚でわかっているので。

アニメ表現に訪れている「次の時代のかっこよさ」

──近年、新たなイラストレーターが続々と出てきて、イラストの需要のされ方も大きく変化しているように感じます。特にアニメMVにおける個人クリエイターの活躍や、loundrawさんのように1人でさまざまな創作を手がけるクリエイターの増加などが印象的です。そういった新しい潮流に対して、どうお考えでしょうか。

loundraw それだけツールが発達したということでもあると思いますし、アニメーションが「集団じゃないと生み出せない、特別な価値があるもの」という考え方だけでなく、「個人が感性を表現する場」という新しい考え方・価値観も出てきているように感じます。

ただ、1人でアニメーションをつくることができる時代だからこそ、みんなでつくるメリットや、そこに監督として入って精度を上げる“意味”は、より考えるようになりました。

誰かに託すならば、今後はより的確で緻密な指示をしなければならないと思いますし、逆にそれができなければ、ともすれば集団作業をしたせいで、才能やセンスのある1人のアニメーターに負ける、という危機感もあります。 ──作画の枚数は多ければ結果的に滑らかな動きにもなりますが、動きや枚数を犠牲にしても、個人制作で強烈な個性を打ち出す、という考え方もありますよね。

loundraw 例えば、実写やアニメなどのMVにしても、高品質であることが良い、という時代ではなくなってきていますよね。ダウンコンバートしたほうが良いという考え方も出てきています。

若いアニメーターの方だと、従来の「3コマ打ち(1秒を24コマに分割して絵を描く基本の考え方から派生し、3コマに1枚画を描くスタイル)」から、さらに落として4コマ打ちにしている方もいますし、「カクカクしていてカッコ悪い」と捉えるのか、「コマが抜けていてかっこいい」と捉えるか……クリエイションにおいても、「次のかっこよさ」を追求していく時代に立っているようには感じます。
loundrawさんの自主制作アニメ「『夢が覚めるまで』予告編」
──お話をうかがって、改めて今の時代を的確にとらえつつ創作を行われていると感じました。そんなloundrawさんが、感性を保つために心掛けている習慣はあるのでしょうか。

loundraw わざと自分が想像していない手法を試すようにしています。例えば、普通に明るい絵を描くならここに赤を入れればいい、となるところを、あえて緑を入れてみる。

「うまくいくかはわからないけれど、やってみることで新しい何かが見つかるかもしれない」という意識は、常に持っています。「これが本質」という思考自体、固定概念かもしれないですし。 ──今は、SNS等で気軽に自分のイラストを発表できる一方、心無いコメントなどで挫折してしまう人も多いかと思います。loundrawさんだったら、下の世代のクリエイター候補たちにどんな言葉をかけますか?

loundraw 僕がすごく言いたいこととしては、自分が正しいと思うもの、いいと思うものをちゃんと磨いてほしいなということです。

僕がSNSにイラストを投稿していたときよりも、いまははるかに多くイラストが投稿されていて、ちょっと検索すればその瞬間瞬間のシーンの最適解が見えてくると思います。

どういう色を使えばいいとか、どういうものを描けばバズるとか……。ただ、それを踏襲して一時期注目されたとしても、自分の中には何も残らない。

潮流やトレンドを一方では気にしつつも、ちゃんと自分が正しいと思うものを描いてほしいなと思います。
アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』冒頭シーン
©️2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

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作品情報

ジョゼと虎と魚たち

公開日
2020年12月25日(金)
原作
田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫刊)
監督
タムラコータロー
脚本
桑村さや香
出演
中川大志/清原果耶
宮本侑芽/興津和幸/Lynn/松寺千恵美
キャラクター原案・コミカライズ
絵本奈央
キャラクターデザイン・総作画監督
飯塚晴子
コンセプトデザイン
loundraw (FLAT STUDIO)
音楽
Evan Call
アニメーション制作
ボンズ
配給
松竹/KADOKAWA
製作
『ジョゼと虎と魚たち』製作委員会

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