アニメ「おジャ魔女どれみ」は、多くの子どもたちが「魔法はあるもの」と信じさせてくれた物語だろう。魔女見習いのどれみたちが魔法を使う姿に憧れたと同時に、魔法ではなく努力で問題を解決する姿に勇気をもらった。
そんな「おジャ魔女どれみ」は2019年に20周年を迎え、2020年11月13日に完全新作映画『魔女見習いをさがして』となって私たちのもとに帰ってきたのだ。しかし、予告を見てみるとどうやらどれみたちが主人公ではない様子。
どれみたちの物語ではなく、どれみたちを“見ていた人”の物語を描いた意図とは。KAI-YOU.netでは「おジャ魔女どれみ」オリジナルスタッフの1人であり『魔女見習いをさがして』でも監督をつとめる佐藤順一さんと、本作で初監督をつとめる鎌谷悠さん、2人の監督へインタビューを実施。
『魔女見習いをさがして』の制作経緯や制作過程を中心に、本作における“魔法の立ち位置”、大人になった我々にとっての“魔法の在り方”を深く掘り下げた。
取材・文:阿部裕華 編集:恩田雄多
※この記事には映画『魔女見習いをさがして』本編の内容に関する記述があります。
「おジャ魔女どれみ」を見ていないことが、作品づくりに活かされた
映画『魔女見習いをさがして』
佐藤順一(以下、佐藤) 当初は、TVアニメシリーズをつくっていたメンバーである脚本の山田(隆司 ※栗山緑)さんとプロデューサーの関(弘美)さんと僕の3人で『魔女見習いをさがして』の企画を進めていました。みんな還暦を迎えたアラ還です(笑)。
でも、本作の視聴者として考えていたのは、当時「おジャ魔女どれみ」のTVアニメシリーズを見ていた20~30代の女性。にもかかわらず、スタッフの中にその年代の人がいない。
さらに、現場をしっかり仕切れるような監督が必要でした。そこで、関さんがずっと注目していた鎌谷さんに参加してもらうことになりました。鎌谷さんがアニメ『タイガーマスクW』(2016年放送)の演出をされていたときから、関さんは「目をつけている」と言っていたんですよ。
佐藤順一監督
──鎌谷監督は「おジャ魔女どれみ」世代かと思いますが、当時シリーズをご覧になられていました?
鎌谷 見ていなかったんですよ。関さんは「見ていたらいいな」と思っていたはず(笑)。
佐藤 でも、結果的に見ていないことが助かったんです。当時「おジャ魔女どれみ」を制作していたスタッフ陣は愛情が無駄に多いものですから、事あるごとに昔のネタを入れようとするんですけど(笑)。
今回の映画は「おジャ魔女どれみ」ファンだけでなく、そうではない方々にも見てもらいたい思いがありました。なので、どれくらい「おジャ魔女どれみ」のシーンやネタを入れるか、迷っていたんです。
そこへ鎌谷さんが入ってくれたことで「どれみを見ていない人はわからないから、このネタはいらない」「このネタを入れるなら、もっと説明をしたほうがいい」と、すごく毅然としたジャッジをしてくれて。迷っていた部分が鎌谷さんのおかげで「入れても分からないよな…!」とちゃんと腹落ちして精査できました(笑)。
鎌谷 懐かしい……。そういうことも言ったような気がしますね(笑)。シナリオの段階でかなり削りましたよね。私が入ったときから「どれみちゃんたちをたくさん出すぞ!」という感じはなかったですけど。
鎌谷悠監督
──どういった部分を削られたんですか?
佐藤 どれみたちが「この場所でこういうことをした」「第○話で何をした」みたいなネタを最初のシナリオには入れていたのですが、そこはバサバサっと削りました。
鎌谷 当時見ていた人たちでも、さすがに何話までは覚えていないのではないかと思った気がします。
──オリジナルメンバーに囲まれる中抜擢されて、鎌谷監督ご自身はどんなお気持ちでしたか?
鎌谷 すごいプレッシャーでした、ってことは言っておきたいですね……。
佐藤 プレッシャーがあるわりには、かなり毅然としていましたけどね(笑)。
鎌谷 初監督でしたし、佐藤さんが隣につくプレッシャーもありました。何か間違いを起こしても隠ぺいができないから(笑)。
「おジャ魔女どれみ」そのものが大きいコンテンツですし、そもそも自分はちゃんと見ていなかったので。当時見ていた人たちに納得してもらえる作品がつくれるかなとビクビクしながら入った感じはありました。
多くの人へ届けるため、どれみたちが“出ない”物語に
映画『魔女見習いをさがして』の3人の主人公。左から長瀬ソラ(CV.森川葵さん)、川谷レイカ(CV.百田夏菜子さん)、吉月ミレ(CV.松井玲奈さん)
佐藤 映画の企画が決まったとき、そもそもどれみたちの話にするか、新たなヒロインたちにするかで悩みました。
その上で、仮にどれみたちの物語にするにしても、小学生のどれみたちをもう一度描くパターンと、ライトノベル(講談社ラノベ文庫)で描いたような成長したどれみたちを描くパターンもあった。
小学生のどれみたちをもう一度見て「あの頃のどれみちゃんだ」と懐かしさを感じる作品が見たいのか、どれみたちが会社でパワハラにあいながらも仕事を頑張っている姿を見て「私たちと同じだ…」と共感する作品が見たいのか(笑)、掴み切れていませんでした。
鎌谷 なんだか見たくないような気がしますね…(笑)。
佐藤 そうなんです、どちらも見たい作品ではない気がして。「おジャ魔女どれみ」のファンだけではなく、どれみを知らない人でも楽しめる作品にした方が映画として正しいと企画サイドからも言われていましたし。
そこから「おジャ魔女どれみ」を見ていた人たちが、「おジャ魔女どれみ」をきっかけに友だちになっていく物語が生まれました。これなら多くの人に届けられるのではないかと。
──東映アニメーションという意味では、 『美少女戦士セーラームーン』や『ドラゴンボールZ』など、TVアニメのリメイクや劇中の時間軸でオリジナルエピソードとして映画化するような作品も多いと思います。そういう方向性にしなかったのには何か理由があるのでしょうか?
佐藤 今の技術でもう一度同じように再現しても、当時の興奮には届かないと思います。放送当時、それが不本意な仕事だったとか、ものすごい後悔があったとかであれば、トライする意義はある。
でも、やりたいことをやらせていただいて、力不足だったとしても自分たちの納得のいくような作品をつくれた。それなのに、もう一度自分たちで同じ作品をつくっても、オリジナルを越えられないんですよ。
鎌谷 ビックリはしました(笑)。参加が決まる前から社内で「おジャ魔女どれみ」の劇場版をつくるらしいと話は聞いていて、「きっとどれみちゃんが出てくるんだろうな」と思っていたので。
でも、『魔女見習いをさがして』に出てくる3人は私と歳が近い子たちだったので、シナリオを見せていただいたときに「リアリティを出してほしいのかな」と思いました。自分の経験を活かした貢献ができるといいなと。
──「おジャ魔女どれみ」20周年のタイミングで、どれみたちがメインではない映画をつくるのは、かなり挑戦的にも感じます。そのあたりはどうお考えですか?
鎌谷 予告が出るたびにハラハラしていました!
佐藤 「どれみたちがちっとも出てこない!」と言われるかなとかね。見てもらえれば、「おジャ魔女どれみ」の地続きになっている作品だと感じてもらえるはずですが、やっぱりリスクも感じています。挑戦ではありますね。
匿名ハッコウくん
めちゃくちゃ絶妙なバランス感は鎌谷監督のおかげだったんだ