初音ミクが発売された当時、のちにボカロP(ボーカロイドプロデューサー)と呼ばれる音楽クリエイターたちはこぞって曲を書いた。書いた曲を聴いてもらうには、発表する場所が必要となる。それがニコニコ動画だった。
投稿されたボカロ曲は「歌ってみた」「踊ってみた」「弾いてみた」などジャンルを超えて二次創作され、そんなクリエイティブの熱狂は、やがて商業作家やメジャーアーティストを輩出。その後も様々なヒット作を生み出しながらボカロカルチャーは成熟していった。
そして2020年12月、熱狂を再び巻き起こすべく、ボカロの祭典と題した新たなイベント「The VOCALOID Collection(ボカコレ)」が12月11日(金)から13日(日)まで開催される。
このイベントには、ライブ出演やリミックス用の音源データの配布など、様々な形で人気ボカロPが参加。今回はその中から、世代の異なる3名のボカロPによる座談会をセッティング。 2009年初投稿のピノキオピーさん、2014年初投稿のはるまきごはんさん、2017年初投稿のシャノンさん。それぞれが投稿を始めたきっかけやニコ動の良い点・悪い点など、ボカロシーンを取り巻く環境について率直に語ってもらった。
取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多
「ボカロはランキング上位を目指すゲーム」からの変化
──みなさんの初投稿時、ボカロシーンはどんな雰囲気でしたか?ピノキオピー 2009年頃は、みんなボカロというもので遊んでいる雰囲気でした。意識としては「自分の曲がニコ動のランキングで上位に入れたら嬉しい」みたいな。それで何か得があるという話ではなく、ただ“そういうゲーム”を楽しむ、みんなの遊び場みたいな状態でしたね。
僕は「1作目で目立つことをしてやろう」と思って、「ハナウタ」という曲に初音ミクの鼻が伸びまくっている絵をつけて投稿したんですけど、動画は全然伸びなかった(笑)。
ピノキオピー でも当時のコメントってすごく優しくて。「わしが育ててやろう」感というか、知らない人たちから、ネットを通して初めて褒められたんですよね。それがとても嬉しかったです。
はるまきごはん 僕が始めた頃は、ボカロ界隈が一番落ち着いていた時期かもしれないです。ボカロの存在もある程度知られて、かといって新しい動きもあんまりなくて。ちょうど界隈が一段落していたような頃だったと思います。
ピノキオピー 僕も2014年頃「あ、なんか空気変わったな」って感じたのを覚えてます。
はるまきごはん ただ2014年って、中学・高校で青春時代の音楽としてボカロを聴いていた人たちが、作曲の技術を身に着け始めるタイミングなんですよね。大学生くらいになると、みんななんとなく音楽つくれるようになってくるものなんですよ。
ピノキオピー・シャノン そうなんだ(笑)。
はるまきごはん 僕は初投稿からしばらくは人の目に触れなくて。たくさん見てもらえるようになったのが2016年なので、その頃から本格的に音楽をやり始めたって感覚が強いです。
n-bunaさんとかOrangestarさん、ナユタン星人さんあたりが盛り上がってきた時期ですね。「なんかボカロ、新しい世代来てるんじゃないか?」みたいな空気がありました。
“アフター「砂の惑星」” 再び動き出したボカロシーン
──投稿前から聴いていたボカロPはいますか?はるまきごはん いっぱいいますよ。wowakaさんとかDECO*27さん、ハチ(米津玄師)さん、sasakure.UKさん、ナノウさんとかも聴いてました。あげたらキリがないけど、ほかにもいろんなボカロPの曲を聴いてました。
ピノキオピー 僕はアゴアニキさんの「ダブルラリアット」が印象深くて。それまで初音ミクはアイドル的な曲を歌うイメージが僕の中であったんですけど、泥臭いロックに泥臭い歌詞で「俺の好きな感じのやってる人が現れた!」って思って。それを機に、ボカロに興味を持ったんです。
シャノン シャノンとしての初投稿は2017年の終わり頃だったんですけど、そのときのボカロ界隈は“アフター「砂の惑星」”みたいな世界で。
あるいは「ボーカロイド10周年」も当時のトレンドでした。あの頃のランキングは最新曲よりも2014~16年頃の曲ばかり上がっていて、2018年になってから、どんどん新曲が上がるようになった記憶があります。
僕自身も、ボカロ曲をつくったきっかけはハチさんの「砂の惑星」だったんです。
シャノン 「思いついたら歩いていけ 心残り残さないように」って歌詞を聞いて、「あっ、俺このままだったら心残り残りそう!」って思って、買ったまま放置していたGUMI(※)を引っ張り出しました。
ピノキオピー・はるまきごはん おぉ! すごい影響力!
※GUMI:株式会社インターネットが発売したボーカロイドソフト「Megpoid(メグッポイド)」のイメージキャラクター。声優/歌手の中島愛さんの声をもとにつくられた。本来GUMIはキャラ名だが、ここではソフト名を指す。
はるまきごはん 「砂の惑星」以降、またボカロシーンが動き出した感じがあったよね。
シャノン やっぱりみんなあの曲で帰ってきたというか、つくろうと思う人が増えたってことだと思います。僕、最初にニコ動に投稿したのは、2013年なんですよ。その頃は東方アレンジでインストばかりつくって、GUMIは寝かせたままで。「砂の惑星」をきっかけに、歌ものをつくり始めました。
はるまきごはん 僕も2年ぐらい寝かせてました。高校の頃にDTMを始めて、重音テト(UTAU)と初音ミクを在学中に持ってたんですけど、結局ニコ動に出したのは高校卒業後の春休み。実はその前に違う名前でニコニコに投稿したこともあって、そのときは3マイリス(※)とかでした。
※マイリスト:好きな動画をユーザーが自身のお気に入りとして登録しておく機能。
「今までとは違う結果が…」初投稿を後押ししたもの
──はるまきごはんさんが放置していたボカロを使ってみようと思ったきっかけは、何だったんですか?はるまきごはん 「この曲に初音ミクの歌をつけたら、今までとは違う結果が得られるかもしれない」って期待できる曲がつくれたからですかね。
もともとインストばかりつくっていたんですが、「WhiteNoise」という曲ができたとき、これはぜひ歌をつけてちゃんと公開したいと思ったんです。人に聴いてもらうとなるとインストより歌ものかなと思って、そのとき初めてミクを使いました。
ピノキオピー 僕は「人前で何かやりたい」から始まっているので、本音を言えば、ニコ動に投稿できればなんでもよかったんですよ。最初はボカロじゃなくて、ゲーム実況をやろうとしていました。
はるまきごはん・シャノン ええっっっ!!!
ピノキオピー 1回ゲーム実況を収録してみたんですけど、聞き返してみたらヤバくて封印したんです。面白いこと言おうとしすぎてなんか気持ち悪いことになってて(笑)。その後しばらく経ってから曲のつくり方を知って、それでボカロを選んだんですよね。
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関連リンク
ピノキオピー
ボカロP
2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、アーティストへの楽曲提供などを行っている。ライヴに於いては、電子と肉体の共演、融合を基軸に、ドラムとターンテーブリストをサポートメンバーとして従えたバンドセットとワンマイク&バックDJスタイルなど柔軟なパフォーマンスを提供している。
http://pinocchiop.com/
https://www.youtube.com/user/pinocchiopchannel
はるまきごはん
ボカロP
作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを1人で妥協なく手がけ、そのポップな名前とは裏腹に、切なくてエモーショナルな唯一無二の世界観を描き続けている「はるまきごはん」。VOCALOIDと自身歌唱によるふたつの表現の切り口を持ち、オリジナルアニメーションを駆使したライブも評価が高い。数々の人気アーティストへの楽曲提供や、2020年には出身地札幌で開催された“SNOW MIKU 2020”の公式テーマソングも手がけている。
シャノン
ボカロP
2017年からボカロ作品を発表。作詞作曲編曲、イラスト、アニメーションを自身で手掛ける。作りこまれた、ストーリー性の高い作風がリスナーの考察心をかきたてる。「ヨミクダリの灯」「魚類による考古学」などが話題となり、新世代ボカロPの一人として注目を集めている。はるまきごはんが主催するアニメ制作チーム・スタジオごはんの一員としても活動中。
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