水樹奈々×堀江晶太対談 “人間の限界”に挑むアニソン界の歌姫とボカロPが出会う時

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オグマフミヤ
水樹奈々×堀江晶太対談 “人間の限界”に挑むアニソン界の歌姫とボカロPが出会う時
水樹奈々×堀江晶太対談 “人間の限界”に挑むアニソン界の歌姫とボカロPが出会う時

アニメ『#コンパス2.0』のOP主題歌を担当した水樹奈々さんと楽曲を制作した堀江晶太(kemu)さん

4月から放送中のTVアニメ『#コンパス2.0』のOPテーマ「拍動」は、歌唱を担当する水樹奈々さんの真骨頂たる力強い歌声が伸びやかに響く、まさに物語の幕開けにふさわしい楽曲に仕上がっている。

歌手活動25周年を迎えてリリースされたアルバム『CONTEMPORARY EMOTION』のリード曲であり、新たなフェーズに突入した彼女を象徴する楽曲を手がけたのは、共にボカロPとしても活躍するGigaさんと堀江晶太(kemu)さんだ。

TVアニメ『#コンパス2.0』ノンクレジットOP映像

アニメの原作となるゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、#コンパス)は、キャラクターのデザインやテーマソングなどで、ニコニコ動画で活躍するクリエイターと積極的にコラボレーションを展開。ゲームとしてのみならず、才能が集う場としても存在感を放つ。

25年のキャリアを持つ水樹奈々さんにとって、ボカロPを出自とするクリエイターとのコラボは今回が初。デビュー以来最前線を疾走しつつ挑戦をやめないアニソン界の歌姫と、ボカロPとしても存在感を有する堀江晶太さん──楽曲制作という“異文化交流”を通じて、2人は何を見出したのだろうか。

取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多

水樹奈々×ボカロPが『#コンパス2.0』主題歌で邂逅

──「拍動」は、Gigaさんと堀江晶太さんのお二人が作編曲としてクレジットされています。制作においてはどのような役割分担があったのでしょうか?

堀江晶太 Gigaちゃんから共同制作に誘ってもらった流れだったと思うんですが、せっかく一緒につくるのであれば、キッチリ役割分担するのではなく、アイデアを持ち寄って話し合いながらつくっていくようなやり方にしたいと思ったんです。

今回は、まず最初に私がワンコーラス分のメロディをつくって、それをGigaちゃんに好きにいじってもらい、そこからお互いに持ち寄ったアイデアを改造しながら楽曲に繋げていくというフローでやってみました。

放送中のTVアニメ『#コンパス2.0』

──放送中のTVアニメ『#コンパス2.0』のOP主題歌でもありますが、どのようなイメージで制作されたのでしょう?

堀江晶太 最初のイメージではアニメのOPとして、幕開けに相応しいものにしたいし、水樹奈々さんというアーティストが歌う意味のある楽曲にもしたいという思いがありました。

そこからさらに、Gigaちゃんらしさと私らしさを加えていくという4つの要素を、喧嘩させてはいけないけど、ほどよく乱闘してるぐらいには混ぜ込みたいと考えていました。

水樹奈々 まさにそれぞれの要素を組み合わせた楽曲をつくっていただいて、最初にいただいた第一稿からとても素晴らしくて! でも、私も触発されて欲が出てしまって、「サビをもう少し派手にしてもらいたい」という無茶なオーダーを出してしまいました(笑)。

水樹奈々さん

堀江晶太 そうでしたね。

水樹奈々 イントロから、一度聴いたら忘れられない印象的なフレーズがたくさん組み込まれていたんです。だからこそ、サビはもっとバーンと爆発させたいと思いました。

するとすぐに別のバージョンをいくつか送ってくださって。最終的に別々のバージョンを2つ組み合わせて完成しました。無茶なお願いに付き合ってくださって、素晴らしい作品に仕上げてくださったお二人に本当に感謝しています。

堀江晶太 Gigaちゃんと一緒につくれたからこそなのかなと思います。「こんなのはどうだろう?」って無作為にメロディをつくってはGigaちゃんに送っていくんですけど、どんなものを投げても「Gigaちゃんがいい感じにしてくれるだろう」って安心感がありました。

結果的に、今まで水樹さんがやられてきた音楽とは別軸の曲になってしまった。第一稿を水樹さんに渡した時は「なんだこれ?」って言われてしまう可能性も全然あると思っていたんですが、好意的な反応を返してくださったのでめちゃくちゃ安心したのを覚えています(笑)。

堀江晶太さん

水樹奈々 新しい扉を開けられる予感がしたというか、新しい景色を見せていただける楽曲だ!と興奮しました。

ただ、絶対に歌いたいという気持ちと同時に、果たして私に表現しきれるだろうかと不安もありました。今まで挑戦したことのないラップパートはどうアプローチするのが正解なんだろうと悩みましたし、「とにかく“滑舌命!”」とたくさん練習しました。

──実際のレコーディングではどんなやり取りがあったのでしょうか?

水樹奈々 せっかくのコラボレーションなので、どちらのエッセンスもうまく取り入れたいと思いました。

ボカロに寄せるのか水樹奈々らしく歌うのか、どんな方向性でいくのか堀江さんと相談したんです。そこで両方の良いところを出せるようなバランスを見つけたいという話をさせていただきました。

たとえば、私はビブラートをかけて語尾を伸ばすことが多いのですが、「Aメロではあえてバシッと切り上げていくのはどうか」と提案していただいて。実際にやってみると、クールだけれどグルーヴ感も出て、とてもカッコ良く仕上がりました。

まだ繭の中にいるという歌詞の世界に沿って語るように歌うところからはじまり、サビではバーンと水樹奈々らしさが炸裂(笑)。凄く良いバランスで、お互いの良いところを表現できたんじゃないかと思います。

堀江晶太、実は水樹奈々の楽曲コンペに参加していた

──「拍動」は、水樹奈々さんがボカロPとしても活躍されるお二人とコラボされるという点でもエポックな試みでした。アニソン文化と近い領域にあるボカロ文化について、水樹さんはどのようなイメージを持っていましたか?

水樹奈々 とにかく曲が全部かっこいいので、「機会があればぜひボカロPの方に曲を書いていただきたい」とひそかに思っていたんです。

人間では表現できないような難易度の高い曲もあって、そういう限界を攻める感じがたまらないですし、私の楽曲も「人間の限界にチャレンジしてる」と言われることがあるので、共通点があるようにも感じていました(笑)。

ただこれまではあまり接点がなくて、近くて遠い存在でした。今回このような機会をいただけてとても嬉しかったです。

水樹奈々『CONTEMPORARY EMOTION』通常盤

堀江晶太 そういうもどかしい片思いって、実はこの業界でたくさん発生していると思います。お互いに羨ましく思っていたり、自分からの一方的な“好き”だから遠慮していたりしたら、実は両想いだったみたいなことがよくあるんですよね。

実は、私も新人作家の頃に水樹さんの楽曲のコンペに参加したことがありまして……。

水樹奈々 えぇ?! 知らなかったです!

堀江晶太 その時はダメだったんですが、そんな私が今になってまた別の形でご一緒することになるなんて不思議だなって思います。すごい勢いと密度と多様性を持って発展してきたボカロというカルチャーから生まれるマジックって、本当に面白いなって実感しました。

我々としても「水樹さんのような方が僕らの方を向いてくれてるわけないよな」と思っていたところがあるので、本当にお互いすれ違ってたんだなって思うと面白いですね。

TVアニメ『#コンパス2.0』より

水樹奈々 私自身が「新しいチャレンジをし続けたい」というタイプですし、私の音楽チームも「これだ!」という良いものはどんどん取り入れるスタイルなんです。

キャリアが積み重なっていくと、自分のやり方が構築されていきます。それが良い時もあるけれど、そこにこだわっていると新しいものは生まれないんですよね。

だから、アンテナに触れたものは積極的に取り込んでいきたいし、色々な挑戦を続けていきたい。将来的には「こんな難解な曲を歌えるおばあちゃん見たことない!」と言われるところを目指したいです!(笑)。

堀江晶太 20年以上の確固たるキャリアがあるにもかかわらず、異なる文化の音楽を面白がって、チャレンジするのは本当にすごいと思いましたし、「まだ冒険するんだ!」と率直に驚きました。

水樹さんのそういった部分が知れたのは本当に嬉しかったですし、私にとっても発見と喜びのある制作でした。

気づいたら高い山に──水樹奈々とボカロの共通点?

──ただでさえ歴史的なクロスオーバーだと思っていましたが、共に「人間の限界を超える」ような難解曲というイメージでも共通していたんですね。

堀江晶太 ボカロ文化がこれほどの勢いで拡大していった要因の一つとして、「できなかったことができるようになる」というものがあると思っています。

ボカロPとして活躍する人たちの中には、自分では歌えなかった人や、自分の歌では多くの人に届かなかったような人がいるはず。頭の中で浮かんだアイデアを自分の実力では表現できないけど、ボカロに歌ってもらえば音楽にすることができた。

ボカロを取り巻く環境には、“昨日まではできなかったことができるようになった喜びが爆発している場所”っていうイメージがずっとあるんです。

アニメ『#コンパス2.0』のメインキャラクターである塵(ジン)と13(サーティーン)

──なるほど。

堀江晶太 だから、最初から難しいことをやろうと思っているわけではなくて、「できなかったことができるようになる」という喜びのままに、頭の中で暴走するイメージやアイデアを全部詰め込んだ結果、人間が歌うには難しすぎるような楽曲になっていくのかなと思います。

水樹さんも、フィールドは違えど、新しいことができるようになる喜びやワクワクする心のまま突き進んでいるという点で、響き合った部分があるのかなと思っているんですが、どうでしょうか?

水樹奈々 まさにその通りで、気づいたら高い山に登っていたという感覚です(笑)。私の曲も難解と言われることが多いのですが、最初からそれを目指してつくっていたわけではなくて。

「こういう挑戦もしてみたい!」「こんな要素があると面白いかも!」と突き詰めていった結果なので、あとで自分でも「なんかすごいことになってる……」と、レコーディングで若干後悔する時もあります(笑)。

特にアニメの主題歌を担当させていただく時は、その作品の看板になる、とても印象的な楽曲に仕上げたい。作品の熱量に負けないように、あれもこれもと盛り込んでいくと、気づいたら大変なことになっているということがよくあります(笑)。

自身が歌う主題歌を紹介する水樹奈々さん

堀江晶太 わかります。決して意地悪で難しくしてるわけじゃなくて、「好きなことを突き詰めていったらこうなっちゃったからしょうがないじゃないか」みたいな感覚はありますよね。

水樹奈々 その通りです(笑)。

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作品情報

TVアニメ『#コンパス2.0』

放送情報
2025年4月7日(月)よりテレ東6局ネット、BS日テレ、AT-Xにて放送スタート
原作
#コンパス 戦闘摂理解析システム(NHN PlayArt × dwango)
アニメーション制作
Lay-duce
監督
難波日登志
シリーズ構成
福島直浩
オープニング主題歌
「拍動」
歌唱:水樹奈々
作詞:堀江晶太
作編曲:Giga×堀江晶太(Kemu)
エンディング主題歌
「ハートエイク」
歌唱:内田雄馬
作詞・作編曲:バルーン
劇伴
作曲:八王子P・YASUHIRO(康寛)・ゆうゆ・無力P・雪乃イト・にっけい

【『#コンパス2.0』キャスト】
13(サーティーン):小野大輔
塵:内田雄馬
零夜:斉藤壮馬
森田:土岐隼一
ジャンヌ:雨宮天
アオジル:石上静香
Voidoll/Bugdoll:丹下桜
十文字アタリ:山谷祥生
ジャスティス:間宮康弘
軍曹:小林ゆう
リリカ:青木志貴
双挽乃保:近藤玲奈
桜華忠臣:柿原徹也
マルコス‘55:下野紘
ルチアーノ:小山力也
深川まとい:井上麻里奈
グスタフ:山路和弘
テスラ:村瀬歩
ヴィオレッタ:田中敦子
コクリコ:天野心愛
マリア:嶋村侑
アダム:松岡禎丞
メグメグ:佐倉綾音
イスタカ:神奈延年
輝龍院きらら:喜多村英梨
ポロロッチョ:福山潤
ソーン:天﨑滉平
デルミン:和多田美咲
トマス:銀河万丈
ルルカ:市ノ瀬加那
ピエール77世:杉田智和
狐ヶ咲甘色:花澤香菜
システムボイス: A.I.VOICE 結月ゆかり

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