評論同人誌『ボーカロイド文化の現在地』の主宰・highlandさんが選ぶ、2024年下半期を彩ったボカロ曲──。
初音ミクの誕生から17年。椎名もたさんの「少女A」やDECO*27さんの「ラビットホール」、サツキさんの「メズマライザー」といった楽曲が世界的にヒットし、きくおさんが海外ツアーを実施するなど、VOCALOID(ボーカロイド、以下ボカロ)文化はさらなる広がりを見せている。
今回は、6月末に公開した2024年上半期のボカロ名曲15選に続き、2024年下半期に発表されたボカロ曲の中から15曲をピックアップした。
いずれも、ボカロを知らない人にも届くような力を持つ“ポップ”な名曲ばかりだ。
記事の最後にはプレイリストも掲載しているので、少しでも気になった曲があればぜひ聴いてみてほしい。
目次
- 1. おべか(重音テト、鏡音レン)/すりぃ
- 2. 山田PERFECT(初音ミク)/jon-YAKITORY
- 3. 化けの花(初音ミク)/なきそ
- 4. 修羅薔薇(flower)/てにをは
- 5. テトリス(重音テト)/柊マグネタイト
- 6. モニタリング(初音ミク)/DECO*27
- 7. だまってちゃん(重音テト)/Chinozo
- 8. ディア(初音ミク)/Giga
- 9. 全部夢だった!(重音テト)/黒うさぎ
- 10. シンカンセンスゴイカタイアイス(初音ミク、GUMI、歌愛ユキ)/シャノン
- 11. FAKE HEART(鏡音リン・レン)/KIRA & Asteroids
- 12. てにをは(重音テト)/sabio
- 13. エス(可不)/内緒のピアス
- 14. 新次元の禁じ手(星界)/フロクロ
- 15. スカイライン(狐子)/higma
- 16. あなたが選ぶ2024年のボカロ名曲は何?
(※)ヒットチャートや音楽媒体の慣例に合わせ、対象範囲は6月〜11月としている。
おべか(重音テト、鏡音レン)/すりぃ
シンガーソングライターとしても活動し、ユニークな世界観の作品を打ち出すすりぃさん。「テレキャスタービーボーイ」「エゴロック」といった思春期の青少年やマイノリティの目線に寄り添う楽曲群で知られている。
すりぃさん自身が「令和の童歌(わらべうた)的な曲」と銘打ちリリースされた本楽曲。MVの主人公は、着ぐるみを被った子どもたち。
ユーモラスなテイストもありつつ、その実、人並みから外れたものが疎外される過酷な状況や人間関係の虚飾性も描いており、彼の代表曲「テレキャスタービーボーイ」にも通じる風刺の精神がある。
キャラクターの視点に合わせ、二人のボーカルをパート分けし、最後にユニゾンで歌わせるストーリーテリングも効いている。
山田PERFECT(初音ミク)/jon-YAKITORY
2023年に「混沌ブギ」で話題をさらったjon-YAKITORYさんが手がけた続編的楽曲。発表から5ヶ月足らずでYouTubeでの再生回数が800万を超えるなど大ヒットを記録した。
MVは前作に引き続き、「animation meme(※)」で注目されているいちまるさんが担当。病みかわいい絵柄が、楽曲のクールでワイルドなアレンジとマッチしている。
「混沌ブギ」では、<完全体の山田 無関心なんてありえない>と歌われていたのに対し、「山田PERFECT」では世間の称賛を受けるその<完全体>の孤独とジレンマが描かれ、相補的なテーマ性を持っている。
(※)animation meme:ある音楽に合わせて、キャラクターが動くアニメーション。静止画イラストを顔や胴体、手などパーツごとに細かく分け、おのおの変形やイージングなどのアニメーションをつけ、BPMに合わせて上下させ動かすことが多い。
化けの花(初音ミク)/なきそ
ボカロのダウナーな歌唱に、トラップ系の凶悪なアレンジ、漆黒の闇のような世界観で知られるなきそさん。
本楽曲はスマホゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(以下プロセカ)』に登場するユニット「25時、ナイトコードで。」のイベントストーリー用に書き下ろされた。
メインキャラクターの暁山瑞希が、秘めていた自身の性別を望まぬ形でアウティングされるショッキングなストーリーに合わせ、秘密の発覚による葛藤や理解されないことの苦しみを、鋭く表出する。
<みーんないなくなれ>に続く<そばに居て>は、他者への拒絶と孤独の耐え難さを同時に示し、最後の「あー もういいや」に続く激しい高速連打ドラムは、精神的危機の極地を象徴する。切実な歌詞と不穏なアレンジが緊密に絡み合い、不安定な心理世界が映し出されている。
修羅薔薇(flower)/てにをは
ボカロPとして楽曲提供をこなすかたわら、小説家という顔も持ち、マルチな活躍を見せるてにをはさん。軽妙洒脱という形容がふさわしい、洗練された楽曲でリスナーを魅了する。
本楽曲はドワンゴが開発に携わるスマホゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』に登場する陰陽師・鬼ヶ式うらのキャラクターソング。
<乱心Dancin>や<Tu Tu True問ぅ>など言葉遊びの効いた歌詞が特色だ。叙情的なメロディに、ラテン〜スパニッシュを下敷きとしつつ、尺八風の笛などを交えたサウンドも和洋折衷の味わいを醸し出す。
まさに修羅(=猛々しさ)と薔薇(=優雅さ)が同居するような、耽美的な世界観が表現されている。
テトリス(重音テト)/柊マグネタイト
ダンサブルな高速デジタルロックに、リリースカットピアノを際立たせたクールなアレンジ、ミステリアスな歌詞などで人気を博している柊マグネタイトさん。
本楽曲では、ゲーム『テトリス』のBGMで知られるロシア民謡「コロブチカ」を電子音で大胆にアレンジ。『テトリス』とかけて、重音テトをフィーチャーした。
アッパーなEDMスタイルの中に、Bメロから加えられるストリングスやチェンバロ(ハープシコード)がクラシカルな趣を添えている。曲調がエネルギッシュである一方、歌詞は自己嫌悪や解消できない不安が表現されており、多くの共感を集めた。
反復的な曲調とループアニメーションが<鬱とか躁とか忙しくて眠れないわ今日も>といった歌詞と重なり、強烈な印象を与えている。
モニタリング(初音ミク)/DECO*27
DECO*27さんは「初音ミク」の可能性を追求し続ける代表的なアーティストだ。
黎明期より活動を続けているが、氏の探求心はとどまることを知らない。近年は「ヴァンパイア」の地雷系ミクや「ラビットホール」のバニーガールミクなど、新たなミク像を提案している。
その特異な作風により、大きな議論を巻き起こしたことも記憶に新しい。
本楽曲「モニタリング」の初音ミクも例外ではない。従来あまり見なかった地味な色合いの制服と虚ろな目のビジュアルが、魚眼レンズとサイケデリックな映像に合わさり、強いインパクトを与えた。
MVでは、ドアスコープ越しの覗き見視点を採用。監視というモチーフを通じて、相手を支配し依存関係を築こうとする歪んだ愛情を表現している。
エレクトロ・スウィング風の編曲もスタイリッシュ。哀愁あるアコースティックギター、ラストのサビで強烈な唸りを上げるエレキギターなども聴きどころだ。
だまってちゃん(重音テト)/Chinozo
「嫉妬」を主題にしている本楽曲は、Chinozoさんらしい、思わず口ずさみたくなるキャッチ―なメロディーが印象的なナンバー。
跳ねるようなアグレッシブなリズム、語尾を上げるような歌唱が高揚感を与える一方で、歌詞では、ディスコミュニケーションと毒のある感情が綴られている。
構ってちゃんならぬ「だまってちゃん」とは、本音を隠し、相手に気に入られようと振る舞う自己を俯瞰し、自嘲するような表現だ。
表面的には明るく軽快だが、その裏では抑圧された嫉妬と劣等感が交錯している。笑顔で振る舞いつつ、裏で相手を皮肉り揶揄するギャップが魅力的。
サムネイルのイラストに見られる口角を上げて笑顔を取り繕うようなポーズも、曲のテーマを体現しているようで秀逸だ。
ディア(初音ミク)/Giga
ド派手で刺激的なエレクトロで得意とするトラックメイカー/ボカロPのGigaさん。
洋楽EDMの要素を取り入れつつも、ドロップだけで終わらせず、キャッチーなサビを入れるなど、J-POPの様式美的な魅力も持ち合わせた作風だ。
本楽曲は、GigaさんがReolさん、お菊さんと結成したサークル・あにょすぺにょすゃゃが久々に集結し制作された楽曲。Reolさんの10周年ライブで初披露されたのち、Reolさんの歌唱版と初音ミク版が同日に投稿された。
Reolさんは同ライブでも「ヒビカセ」を初音ミクと二人で歌うなど、ボカロ文化への確かな愛を示している(外部リンク)。
力強いトラックとキャッチ―なメロディで紡がれる<バースデー>ソングであり、孤独を乗り越えて希望を抱き進むメッセージが込められている。
この記事どう思う?
関連リンク
0件のコメント