評論同人誌「ボーカロイド文化の現在地」の主宰・highlandさんが選ぶ、2025年上半期を彩ったボカロ曲──。
2025年上半期のボーカロイド(VOCALOID、以下ボカロ)シーンを見渡すと、リスナーやクリエイターのスケールが、かつてないレベルへと拡大しているように思われる。
2025年に発表された楽曲に絞っても、少なくとも「Confessions of a Rotten Girl」「テレパシ」「ダイダイダイダイダイキライ」「雑魚」の4曲が、早くもYouTubeでの再生回数1000万超を突破。従来ではほとんど考えられなかった事象だ。
今回は、そんな2025年上半期に発表されたボカロ曲の中から、ボカロ文化を知らない人にも届くような力をもつ“ポップ”な名曲を15曲をピックアップした。
記事の最後にはプレイリストも掲載しているので、少しでも気になった曲があればぜひ聴いてみてほしい。
目次
- 1. Confessions of a Rotten Girl(初音ミク)/SAWTOWNE
- 2. ダイダイダイダイダイキライ(初音ミク&重音テト)/雨良
- 3. みむかゥわナイストライ(初音ミク)/ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ
- 4. アンコールダンス(重音テト)/MIMI
- 5. シスターに懺悔を(重音テト)/廃原メモリ
- 6. 進捗ダメダメです(宮舞モカ)/GYARI
- 7. 花弁、それにまつわる音声(初音ミク)/あばらや
- 8. LEMON MELON COOKIE(初音ミク)/TAK
- 9. the Hole(足立レイ)/r-906
- 10. Worlders(初音ミク)/じん
- 11. Water the Roses(GUMI)/FLAVOR FOLEY
- 12. FOCUS(GUMI)/KIRA
- 13. 文学的なブーバキキ(flower&重音テト)/安見すや
- 14. 1ピース(初音ミク)/椎乃味醂
- 15. そゆ感じか(可不&羽累)/キツネリ
- 16. あなたが選ぶ2025年上半期のボカロ名曲は何?
- 17. 過去のボカロ名曲まとめもチェック!
※音楽業界の慣例により、2024年12月から2025年5月までを上半期とする。
Confessions of a Rotten Girl(初音ミク)/SAWTOWNE
SAWTOWNEさんは、<MIKU MIKU BEAM!>のフレーズで知られる楽曲「M@GICAL☆CURE! LOVE ♥ SHOT!」(2024)で脚光を浴びたアメリカ在住のボカロPだ。作編曲からMVまでを一手に担い、ハイクオリティな「電波ソング」的楽曲を制作している。
「Confessions of a Rotten Girl」は、教義上、同性愛が罪深いものとされているカトリック系の女子校に通いながら、BLを愛好する「腐女子ミク」が主人公。
BL妄想を罪とし懺悔を繰り返すも、禁欲と衝動のループに溺れ、最後には開き直る──というコミカルかつカタルシスに満ちた物語が綴られる。初音ミクというアイコンを通じて「オタ活」の葛藤と解放を鮮やかに映し出した快作だ。
サビではルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンさん作曲のピアノソナタ「悲愴」第3楽章のメロディーを大胆に取り入れていることでも話題を呼んだ。
ダイダイダイダイダイキライ(初音ミク&重音テト)/雨良
気鋭のボカロP・雨良さんによる「ダイダイダイダイダイキライ」は、初音ミクと重音テトがお互いへの罵倒を応酬するデュエット曲。
<ダイダイダイダイダイキライ><バイバイしたい>と“A・I”で踏む韻がサビを駆け抜け、ラップ調からメロディアスなフックへ一気になだれ込む展開が中毒性を加速させる。
『うごくメモ帳』風のアニメーションにグリッチを駆使した情報過多なMVと相まって、「電子ドラッグ」とも称される刺激を放つ。
サビでは、主旋律を担当するボーカロイドに加えて、コーラスとして40名以上が参加しており、音圧を極限まで押し上げている。BPM130のミドルテンポながら、迫力満点のナンバーだ。
両手のサムズダウンでハートを形づくる振付も秀逸で、二人の愛憎入り混じる複雑な関係性を示唆しているかのようだ。
みむかゥわナイストライ(初音ミク)/ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ
ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ(以下略)さんによる「みむかゥわナイストライ」は、カードゲーム『UNO』で手札があと1枚になった初音ミクが、対戦相手を扇情的/挑発的な口調で煽り散らすという異色の作品。
ネットスラングを混ぜたフレーズやアニメーションはSNSでミーム化し、「#39neko」タグでファンアートも急増。YouTubeやbilibiliを中心に記録的なヒットとなった。
音楽的にも聴きどころが多く、音MADな編集が冴える先鋭的な楽曲だ。ミニマムなトラップ/ベースミュージックを軸に、随所に繰り出される実況動画的なSEや、ハイハットとユニゾンするハンドクラップの連打などキメを盛り上げる小技が効いている。ASMRというウェットな題材ながら、クールな仕上がりになっている。
アンコールダンス(重音テト)/MIMI
繊細なメロディと叙情的な詞世界で、生きづらさを感じる人の心に寄り添うような楽曲をリリースしているMIMIさん。「アンコールダンス」は、ピアノの刻みと四つ打ちのビートで駆け抜けるダンス・チューンだ。
歌詞は<バイバイバイ 寂しい夜が溶けてアンコール空に歌うだけ>のフレーズを軸に、孤独が音楽の高揚によって溶け出していくイメージを描く。透明感のある高域で歌う重音テトの声で、ビートの隙間に希望が差し込むように感じられる。
MVでは、ジャズ・バンド風の演奏隊が黒ドレス姿の重音テトを囲み、大人のラウンジを思わせる洗練された雰囲気を演出。洒脱なエレクトリックピアノとフィンガースナップもほんのりジャズの香りを添え、MIMIさんの新境地を告げる一曲となった。
シスターに懺悔を(重音テト)/廃原メモリ
「シスターに懺悔を」は、シスター姿の重音テトが「お許し致しましょう」「それはお許しできません」と判定してくれるネットミームから生まれた作品だ。
ミームの生みの親である次第ラスクさん自身が、ボカロPの廃原メモリさんとタッグを組み、ボカロ曲として制作したのが本楽曲。
教会風の荘厳な旋律に乗せて、懺悔と許しの物語が展開されるが、物語は次第に狂気を帯び、最後には主人公の重音テトが悪魔としての正体を表すという背徳的な構造を持つ。
MVでは、RPG風のUIなどのパロディも散りばめられており、足立レイの友情出演も話題を呼んだ。ミーム、音楽、ビジュアルが有機的に融合し、ファンによる考察や二次創作を呼び起こす、現代的なヒットの好例と言えるだろう。

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