進捗ダメダメです(宮舞モカ)/GYARI
GYARIさんは「何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン」など、ストーリー仕立てのネタ曲で知られるボカロP。ボーカロイド(ソングボイス)とボイスロイド(トークボイス)両方の界隈で支持されており、楽曲も「VOICEROID劇場」風の構成が特徴だ。
近年、ずんだもんや小春六花のようにソングボイスとトークボイスの両ソフトで展開されるキャラクターも増えたことで、2つのシーンは緩やかに交差しつつある。「進捗ダメダメです」の宮舞モカもその一例であり、今後楽曲面においてもこういったクロスオーバー的な盛り上がりが期待できるだろう。
本楽曲は、「進捗が出せない」という誰もが共感できるテーマをユーモラスに描いている。ネタ性と音楽性を高いレベルで両立しており、笑いながらも唸らされる完成度を誇っている。
花弁、それにまつわる音声(初音ミク)/あばらや
独自の美学と批評性を備えた作風で注目を集めるボカロP・あばらやさん。「花弁、それにまつわる音声」は「The VOCALOID Collection ~2025 Winter~(ボカコレ2025冬)」TOP100ランキングで1位を獲得した。
リミナルスペース風の3DCG空間にグリッチエフェクトが挿入され、仮想と現実の境界が溶け合うサイケデリックなMV。
<ああ、.wavに閉じ込めてく>というラインが象徴するように、創作衝動ごと自己を音声ファイルへ圧縮するような感覚が、自己表現に取り憑かれた若者像を鋭く描き出す。暗く陰鬱な世界観ながら、ドゥーワップ風のコーラスをベースに使うなど、グルーヴィなファンクとしても聴ける仕上がりになっている。SNS時代の自意識と孤独、そして創作への強迫観念を“音声”に託した傑作だ。
LEMON MELON COOKIE(初音ミク)/TAK
TAKさんは、K-POPや音楽ゲームで数々のヒット作を手がけてきた敏腕プロデューサー。2024年よりボカロ曲も発表しており、柔軟なポップセンスで注目を集めている。
「LEMON MELON COOKIE」は、三つのスイーツのモチーフで、甘くて酸っぱくて切ない恋愛感情を描く新感覚のポップスだ。
サビでは、<レモン・メロン・クッキー>という言葉の連打がパーカッション的に機能しており、音程より語感のリズムで聴かせる趣向は「みむかゥわナイストライ」などにも通じるところがある。
独特のイントネーションが加えられたボーカルも聴きどころだ。MVでは、K-POPアイドル風の制服姿で踊る初音ミクの姿が描かれ、音と映像の両面で“スイート&エネルギッシュ”な存在感を発揮している。
the Hole(足立レイ)/r-906
r-906さんは、クラブミュージックの要素をボカロ楽曲に巧みに取り入れるクリエイター。
「the Hole」は、正弦波をもとに生成された100%人工の合成音声ソフト・足立レイをフィーチャーし、その無機質な音声を使い尽くした実験的な作品である。
歌詞らしい歌詞はあまり存在せず、代わりに足立レイの声がサンプリングされトラックの一部として組み込まれている。人間離れした足立レイの声だからこそ可能な表現であり、電子音とボイスの境界を溶かす遊び心も満載だ。
音楽的には、彼が敬愛するDJのDimensionのような四つ打ちドラムンベース的な手法を採用。基本は四つ打ちで進行することでキャッチーさを保ちながらも、本格的なブレイクビーツと重低音が炸裂する展開は中毒性を帯びている。
Worlders(初音ミク)/じん
「Worlders」は、『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』のED主題歌として、じんさんが書き下ろした楽曲だ。「一緒に歌おう!」というゲームの合言葉を「世界をつくるのは君たち」というエールに昇華している。
編曲を手がけたのはTeddyLoidさん。ケルト調のバグパイプと鳥のさえずりが旅立ちを告げ、フルートや澄んだピアノ、爽やかなギターが情景を広げる。サビではマーチング風ブラスも加わり、跳ねるようなリズム隊で高揚感が加速する。
アウトロでは再び鳥の声が舞い戻り、物語は“次の旅”へ開かれたまま幕を閉じる。映画から日常へバトンを渡し、聴き手を新たな“Worlder”へ導く、ボカロ界屈指のアンセムと言えるだろう。

この記事どう思う?
0件のコメント