評論同人誌「ボーカロイド文化の現在地」の主宰・highlandさんが選ぶ、2025年下半期を彩ったボカロ曲──。
米津玄師さんやAyaseさん(YOASOBI)、n-bunaさん(ヨルシカ)……ボカロP出身のアーティストが、J-POPの第一線で活躍する2020年代。ネット発のVOCALOID(ボーカロイド、以下ボカロ)文化が日本の音楽シーンに与えた影響の大きさは、最早語るまでもない。
また、椎名もたさんの「少女A」(2015)やDECO*27さんの「モニタリング」(2024)、柊マグネタイトさんの「テトリス」(2024)といった楽曲が世界的なヒットを記録し、ボカロP・きくおさんが海外ツアーを実施するなど、ボカロ文化はさらなる広がりも見せている。
今回は、6月末に公開した「2025年上半期のボカロ名曲」15選に続き、2025年下半期(※)に発表されたボカロ曲の中から15曲をピックアップした。
いずれも、ボカロを知らない人にも届くような力を持つ“ポップ”な名曲ばかりだ。記事の最後にはプレイリストも掲載しているので、少しでも気になった曲があればぜひ聴いてみてほしい。
※音楽業界の慣例に合わせて、2025年6月〜11月を2025年下半期としている。
目次
- 1. いますぐ輪廻(初音ミク)/なきそ
- 2. BIRDBRAIN(重音テト)/Jamie Paige&OK GLASS
- 3. 目撃!テト31世(雨衣、重音テト)/はろける
- 4. チェリーポップ(初音ミク)/DECO*27
- 5. Spoken For(重音テト)/FLAVOR FOLEY
- 6. PPPP(初音ミク、重音テト)/TAK
- 7. SLIP(GUMI)/いよわ
- 8. ドゥーマー(重音テト)/東京真中
- 9. クローンクローン(GUMI、鏡音リン)/Atena
- 10. 鬼ごっこ(洛天依)/春野
- 11. ウニ(雨衣)/Adeliae
- 12. I wish I could go back in time(GUMI)/corpsefish
- 13. Self-Destructive Girl(初音ミク)/EMIRI
- 14. スパソゲッティ(初音ミク)/なみぐる
- 15. Ribbon(重音テト)/sabio
- 16. あなたが選ぶ2025年下半期のボカロ名曲は何?
- 17. 2023年〜2025年上半期のボカロ名曲もチェック!
いますぐ輪廻(初音ミク)/なきそ
甘さと毒を併せ持つ、執着系のラブソングを尖ったセンスで放つなきそさん。
本楽曲のMVを担当したchannelさんも、可愛らしいタッチと内容の不穏さとのギャップで、近年のボカロMVシーンを牽引する映像作家。2人がタッグを組んだのは、シーンで大きな話題となった。
輪廻転生をモチーフに、狂気の愛とリセットの衝動が描かれている。ほぼイントロなしで飛び出す<いますぐ輪廻 今回も結ばれないね>というフレーズが心を刺し、来世での再会を誓い<すべて捨ててぽいっ>と繰り返す、ヤンデレ的な破壊衝動が強烈な印象を残す。
MVでは、ゆめかわな魔法少女ミクが凶器を振り下ろすギャップが目を引く。可愛さと凶悪さをミックスした映像が、(来世で会うために)<いますぐしんで!>という暴言を祝福のファンファーレに変え、背筋の凍るような中毒性をもたらしている。
BIRDBRAIN(重音テト)/Jamie Paige&OK GLASS
Jamie Paigeさんは近年、英語圏のボカロシーンで最も影響力を持つ作家のひとりだ。
OK GLASSさんとの合作である本楽曲は、早くも重音テトの新たなアンセムとして定着しつつある。
心中に渦巻く自己否定と焦燥を、本楽曲では「鳥頭」というメタファーへと転化し、痛快なポップスに昇華している。アコースティックギターを活かした聴き心地の良いサウンドや、鶏に扮したテトのアニメーションも秀逸だ。
<I keep on running like a chicken with its head cut off(筆者訳:首を切られた鶏のように走り続ける)>といった生々しい表現が、重音テトの声でコミカルかつ痛烈に響く。
サビのメロディは爆発的なキャッチーさで、ダンスの振り付けも真似しやすく、思考が追いつく前に身体が踊ってしまう。切実さと悪戯っぽさが同居する、このバランスこそ2020年代の重音テト曲の到達点だろう。
目撃!テト31世(雨衣、重音テト)/はろける
ハロウィンをテーマに、享楽的な曲とアニメーションMVを放つはろけるさん。
本楽曲は、アッパーなアイドルソングの要素を取り入れたエレクトロスウィング。ネットミームやVTuber文化、「東方Project」などのパロディネタが極限まで詰め込まれている。
ハロウィンの日付である31日と、重音テトの年齢「31歳」を結びつけ、イラストレーター/VTuber・しぐれういさんの声をもとにした合成音声ソフト・雨衣とのデュエットで怪盗コントへ仕立てた作品だ。
怪盗・重音テトの大見得と、探偵・雨衣のズレた回答の応酬が、疾走するビートで加速していく。重音テトの伸びやかなボーカルと、雨衣の軽い温度の話し口も効果的な対比となっている。
『ルパン三世』、ディズニー『アナと雪の女王』挿入歌「とびら開けて」を想起させる引用、小ネタが雪崩れ込むMVは宝探しのようで、見れば見るほど楽しい。
チェリーポップ(初音ミク)/DECO*27
「ラビットホール」(2023)「モニタリング」(2024)のバイラルヒットにより、近年いっそう影響力を増しているDECO*27さん。
トップボカロPとして君臨しつつも、その地位に甘んじることなく、毎回意外性のある切り口でリスナーを楽しませてくれる。
本楽曲もその一つ。外側はおもちゃ箱のように可愛らしいサウンドで彩られているが、その内側には独占欲と不安が渦巻いている。
初音ミクの<わーどきどき ねー好きすき?>という確認が、次の瞬間<あーズキズキ ちねちねちねちね>と転じ、愛情と攻撃の往復が表現される。
ゲームライクなシンセ、せわしないビート、過剰なSE(サウンドエフェクト)が感情の暴走を際立たせる。賑やかなMVは、しぐれういさんのキュートなイラストとあいまって、チェリーのような甘さと毒気を鮮やかに表現している。
Spoken For(重音テト)/FLAVOR FOLEY
Jamie Paigeさんも参加するグループ・FLAVOR FOLEYによる本楽曲は、キャッチーなメロディとホーンセクションのアレンジが光る一曲。
MVはゲーム「リズム天国」シリーズを思わせるポップなルックだが、歌詞はアイドルの名声のプレッシャーとアイデンティティの喪失を描くダークなもの。
<EVERYTHING THAT I CAN SAY IS SPOKEN FOR ME(筆者訳:自分が言えることは、全部誰かに決められている)>という恐怖、主体性の不在、血塗れの幻覚/摂食障害の苦痛が吐露されている。
そのテーマは、一見ハッピーなように見える映像表現でも補強されている。リズムゲームというモチーフを「正誤判定」に見立て、アイドルという偶像として“正しく”振る舞うことが強いられる日常のメタファーとして取り入れているのが見事だ。
前のめりに駆けるトラックと重音テトの感情豊かなボーカルの噛み合いも抜群。孤独と自己喪失をポップスの形でぶつけてくる秀作に仕上がっている。
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