PPPP(初音ミク、重音テト)/TAK
韓国出身のプロデューサーとして、日本のボカロシーンでも急速に影響力を増しつつあるTAKさん。
日本での人気の背景には、非日本語ネイティブならではの独特のイントネーションや言葉選びの面白さもあるかもしれない。
本楽曲は、初音ミクと重音テトのデュエットで繰り広げる「魅力度バトル」がテーマになっている。初音ミクのあざとさと重音テトのパワフルさが全力でぶつかり合うのが聴きどころだ。
バイレファンキ(=Baile Funk、ブラジル発の音楽ジャンル)の跳ねるビートにK-POP風コールが絡むBメロや、サビの<オーラビーム(ぴょんぴょんぴょんぴょん)>も癖になる。民謡的なメロディに彩りを添えるチェンバロ(ハープシコード)も趣深い。
自己愛をテーマにしたポジティブな歌詞も快い。ボカロの新時代を象徴するエネルギッシュな一曲だ。
SLIP(GUMI)/いよわ
いよわさんによる本楽曲は、爽快な電子音によって浜辺でのプロポーズシーンを鮮やかに描き出すロマンチックな楽曲。
歌詞は、プロポーズを受けたヒロイン側の視点で進行。彼女が何らかの装置によって、プロポーズの瞬間にタイムスリップしたという設定が匂わされている。
ブレイクビーツの細かな跳ねは心拍を表すかのようで、早いリズムがふっと途切れる瞬間に清廉なグランドピアノが差し込み、つかの間の無垢を感じさせるのが白眉だ。
幾度も変奏されるシンセリフは、ヒロインが思い出を振り返り、同じ場面を反芻するかのように響き、<巻き戻して/再上映して>という歌詞と共鳴する。どうやら、現在時点でのふたりの関係は破綻してしまったらしい。
<「永遠の愛で添い遂げる」/口約束に馬鹿を見る/この想いの仇を討つ/なんてドラマみたいなことを>と自嘲するヒロインの自意識すら、タイムスリップ装置の再使用のループに飲み込まれ消えていく。
終盤の<少しずつね 取り戻せる?>が、微かな希望を示すのも切ない。なお、“メイキング動画”も公開されているので、こちらも併せて参照されたい。
ドゥーマー(重音テト)/東京真中
気鋭のボカロP・東京真中さんによる本楽曲は、ダウナーでチルいムードをまとうダンスチューン。
抑制の利いたダンスビートに、音楽プロデューサー/ソングライターのFred again..さんを思わせるエモーショナルなハウスの質感が滲み、夜の浮遊感を描き出す。
世界の終末を描くMVで、主人公がスマホで陰謀論や人生の意味を調べて憂鬱に浸る姿は、「ドゥームスクロール(=ネガティブなニュースやコンテンツを過剰に閲覧・視聴してしまう行為)」の寓話にもなっている。
悲観的な目線に染まりつつも、サビでは<夜の間にぷかぷかぷか>と現実からの離脱感を歌い、反復される<Lay Back and Dive>のコールを、希望が欠けた世界で最後の愉しみだけは手放さないための合言葉として響かせる。
明日を信じきれない人ほど、この軽やかさと冷たさの同居に救われるはずだ。
クローンクローン(GUMI、鏡音リン)/Atena
Atenaさんは、ファンメイドゲーム『メズマライザーがゲームだったら』の作者の1人としても知られる新鋭のボカロP。絵柄と音楽面の双方で、サツキさんのヒット曲「メズマライザー」(2024)の影響を感じさせる作家だ。
本楽曲は、ドクターのGUMIと助手の鏡音リンが「ボカロ文化発のミームの研究者」のように登場するメタ的な一曲。
「自分たちは模倣/クローンにすぎない」というボーカロイドたちの達観は、かつて主役だったGUMIと鏡音リンが、いまや初音ミク&重音テト全盛の時代に“脇役側”へ押し出されている現状とも重なって見える。
サビで<くそざこクローン><慣れないコントローラー握ってる>と自嘲する語り口は、その立場を引き受けつつ、それでも歌うことをやめきれない心情の裏返しにも聞こえる。
完璧なオリジナルではなく、誰かの後ろ姿を追いかけるクローンであってもいい──むしろクローンだからこそ共有できる熱があるのだと、ささやかに肯定しているようにも感じられる。
ボカロ文化への確かな愛と、創作への葛藤を感じさせるMVで、繰り返し聴きたくなる。
鬼ごっこ(洛天依)/春野
春野さんはボカロP出身のシンガーソングライター。ローファイ・ヒップホップ(Lo-fi HipHop)を軸に活動の幅を広げ、ボカロ以降のキャリアでも着実に実績を積んできた。
本楽曲は中国発ボーカロイドの洛天依が使用されており、合作を除けば7年ぶりのボカロ復帰作となった。
孤独と執着のメタファーを織り交ぜた歌詞が印象的。<春めき出した/夜のことでした>という叙情的な導入で儚い春の訪れを予感させながら、鬼ごっこのモチーフが緊張感と不穏な余韻を残す。
洛天依の柔和なボーカルはR&B調のメロディに自然に溶け込み、春野さんらしいチルなエレクトロニカの質感が、甘さと痛みの境界を曖昧にしていく。MVもミニマムかつ妖艶な佇まいで、楽曲の世界観と呼応している。
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